内閣府・新着情報

令和6年3月

(総論)
デジタル化の経済学~計測問題とスピルオーヴァー効果を中心として~
宮川 努(学習院大学経済学部教授)
(論文)
データの資本としての記録方法について~2025SNA(仮称)に向けた国民経済計算における試算~
河野 陽介(内閣府経済社会総合研究所政策調査員)
吉本 尚史(内閣府経済社会総合研究所研究官)
デジタル時代における組織能力とその醸成~組織プロセスの中でのデータの価値転換~
平井 祐理(立命館大学スポーツ健康科学部准教授)
立本 博文(筑波大学ビジネスサイエンス系教授)
生稲 史彦(中央大学戦略経営研究科教授)
渡部 俊也(東京大学未来ビジョン研究センター教授)
パーソナルデータの経済価値~把握の困難性と個人の認識~
高口 鉄平(静岡大学学術院情報学領域教授)
ICT投資が生産性に与える効果~ミクロデータに基づく検討~
滝澤 美帆(学習院大学経済学部経済学科教授)
宮川 大介(早稲田大学商学部教授)
マネジメントや組織がデジタル技術の利活用に与える影響
大山 睦(一橋大学イノベーション研究センター教授)
デジタル化と制度変化と政府の役割~取引費用経済学と新制度経済学からのアプローチ~
篠﨑 彰彦(九州大学大学院経済学研究院教授)
電子政府・電子自治体DXと経済効果~地方自治体におけるDXの経済効果推計試論~
野田 哲夫(島根大学法文学部教授)

(要旨)

(総論)

デジタル化の経済学
~計測問題とスピルオーヴァー効果を中心として~

学習院大学経済学部教授/宮川 努

コロナ禍を経た日本で、デジタル化の遅れを取り戻す動きが盛んになっている。しかし、統計データの制約から IT 投資とそれに伴う人材育成や組織改革を組み合わせた包括的なデジタル化に関する定量的な分析は少ない。一方で従来型の投資ではないクラウド・サービスや生成AIなどの新たな情報サービスの利用形態も現れている。そこで本稿では、統計データの制約の下で、生産に寄与する IT 資産及び IT サービスの計測に関する新たなアプローチを試みる。またデジタル化を政府が推進する背景には、スピルオーヴァー効果の存在があるが、本稿では公的部門と情報サービス産業からのスピルオーヴァー効果に焦点をあてた推計を行う。推計の結果、これらの産業からのスピルオーヴァー効果が確認されたことから、もしスピルオーヴァー効果を重視するのであれば、政府の支援は情報サービス産業を中心にした方が望ましいと考えられる。

JEL Classification Codes: O33、O38、O47

Keywords: IT革命、デジタル化、成長会計、スピルオーヴァー効果


(論文)

データの資本としての記録方法について
~2025SNA(仮称)に向けた国民経済計算における試算~

内閣府経済社会総合研究所政策調査員/河野 陽介

内閣府経済社会総合研究所研究官/吉本 尚史

2010 年代半ばから、GAFA 等が台頭しデータの経済的な価値が注目を浴びる中、国民経済計算としてもデータの価値を正しく捕捉することが求められている。

内閣府経済社会総合研究所では、データの資本化について、将来の実装を見据えて 2022年度より基礎的な研究・検討を進め、諸外国の先行研究を参考として、データ等の産出額の暫定的な試算を行い、2023年5月に公表した。

2020 年時点の名目産出額は、データが6兆 7,500 億円、データベースが1兆 1,360 億円、データ分析が5兆3,610億円となり、直近の 10 年間で増えていることが分かった。諸外国の試算結果とおおよそ比較できるように複数の試算を行ったところ、規模、GDP成長寄与度は同程度であった。

現時点で概念及び実務上の論点が多く残っており、今後公表予定である推計ハンドブック等で国際的に統一的な指針が示されることが期待される。内閣府経済社会総合研究所としても、引き続き、積極的に国際議論へ関与していく。

JEL Classification Codes: C43、D60、E22、O3

Keywords: デジタルエコノミー、SNA、データ、無形資産


デジタル時代における組織能力とその醸成
~組織プロセスの中でのデータの価値転換~

立命館大学スポーツ健康科学部准教授/平井 祐理

筑波大学ビジネスサイエンス系教授/立本 博文

中央大学戦略経営研究科教授/生稲 史彦

東京大学未来ビジョン研究センター教授/渡部 俊也

本稿では、組織におけるデータ利活用と組織能力との関係について、既往の研究を踏まえて理論的枠組みを提唱し、具体的な事例を観察することにより、データ資源は組織プロセスを経てはじめて経済的価値に変換することを示した。その過程には、異なる組織プロセスが見出されており、作業のデジタル化を図る組織プロセス(デジタイゼーション)、事業のデジタル化を図る組織プロセス(デジタライゼーション)から、さらに提供価値そのもののデジタル変革を試みる組織プロセスとしてのデジタルトランスフォーメーションの3つがあること、また後者になるにつれて企業変革の側面が強くなることを示した。加えて、そこで求められる組織能力としては、IT(information technology)リテラシーに関係するDI(digital innovation)組織力、部門間の調整や事業プロセス変革を行うための変革力、そして決定的な要因と思われる、DI組織力や変革力をサポートするリーダーシップが含まれる。

これらの枠組みをもとに、データの経済的価値と資産としての位置付けをどのように捉えれば良いのかについて考察を行った。

JEL Classification Codes: O33、L21、M15

Keywords: 組織能力、組織プロセス、データ


パーソナルデータの経済価値
~把握の困難性と個人の認識~

静岡大学学術院情報学領域教授/高口 鉄平

本稿では、パーソナルデータの経済価値について、パーソナルデータが財として捉えられるようになった状況を踏まえ、その捉え方について検討をおこなった。

パーソナルデータの経済価値は自明なものではなく、現在ではその価値を測定する方法も確立していない。既存のアプローチには限界もあり、まずは個別サービスの分析を蓄積していくことが求められる。

また、個人のパーソナルデータに対する価値認識にはいっそうの困難性が存在する。パーソナルデータの生産コスト概念は通常の財とは異なり、プライバシーという特殊な要素に関わってくる。個人が適切に自身のパーソナルデータを提供できなければ、パーソナルデータの利活用や価値の分配の在り方が望ましいものではなくなる可能性がある。

本稿では個人の価値認識に関する調査、分析をおこない、個人のパーソナルデータ提供の可能性は情報の種類によってさまざまであり、また提供の対価の形式によっても個人の反応が異なる可能性があるという示唆を得た。さらに、個人は現在の企業の情報漏えいに対する補償対応と比較してかなり大きいコストを意識していることがわかった。

JEL Classification Codes: L86、L88、L10

Keywords: パーソナルデータ、価値測定、個人の合理性、WTA


ICT投資が生産性に与える効果
~ミクロデータに基づく検討~

学習院大学経済学部経済学科教授/滝澤 美帆

早稲田大学商学部教授/宮川 大介

本稿では、情報通信技術(ICT)投資が企業の雇用と生産性に与える因果効果について、過去の研究の動向を概観した上で実証的に検討する。実証分析に当たっては、税制がICT投資に与えた影響を計測した企業向けアンケート調査結果を利用した識別戦略によって、税制の変更に起因する外生的なICT投資の増加が、企業レベルの総従業員数、IT人材の割合、社内と外部からのIT人材の雇用数、労働生産性に与えた影響を推定する。情報処理実態調査及び企業活動基本調査の個票データを用いた推定結果によれば、税制ショックに反応したICT投資の結果、社内の非ICT人材がICT資本と補完的なICT人材として再配置されたものの、労働生産性の改善は確認されなかった。これらの結果は、ICT投資が生産性を改善するためには、補完的な生産要素である労働の質(例:ICTリテラシー)を高めるための追加的な投資が必要となることを示唆している。

JEL Classification Codes: J23、J24、M42、C53、C14

Keywords: ICT投資、税制、ICT人材、人的資本投資


マネジメントや組織がデジタル技術の利活用に与える影響

一橋大学イノベーション研究センター教授/大山 睦

本稿では、2020 年度と 2021 年度に実施した JP MOPS のデータを利用して、マネジメントの在り方や組織の特徴がデジタル技術(IoT、AI、3D CAD/CAM)の利活用にどのように影響を与えるかを考察する。先行研究において、ICT 利用とマネジメント/組織との補完的な関係が指摘されており、本稿の実証分析もその流れを汲む研究である。本稿の主な分析結果は、以下の通りである。効率的にマネジメントしている事業所では、IoT、AI、3D CAD/CAM のデジタル技術を利活用する傾向が高い。本社と事業所間での権限の所在はデジタル技術の利活用に影響を与えないと考えられる一方で、組織が水平的な広がりを持ち、水平的に柔軟に対応する組織であると、デジタル技術を利活用する傾向が高い。デジタル技術の利活用の程度が高い事業所では、イノベーション改善活動が活発に行われている。マネジメントの在り方や組織の特徴がデジタル技術の利活用の重要な決定要因であり、デジタル技術の利活用はイノベーション改善活動を促すことを示唆している。

JEL Classification Codes: M11、M12、M15、O30

Keywords: デジタル技術、マネジメントや組織の在り方、イノベーション


デジタル化と制度変化と政府の役割
~取引費用経済学と新制度経済学からのアプローチ~

九州大学大学院経済学研究院教授/篠﨑 彰彦

本稿では、情報通信技術の導入がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を促すメカニズムを取引費用経済学と新制度経済学の枠組みに基づいて論考し、日本が直面する課題と政府の機能・役割について考察した。デジタル化は、安定していた「企業と市場の境界」に不均衡を生み出して組織運営の見直しを迫るとともに、「情報処理機構としての市場」と「制度としての市場」に非対称的な影響を及ぼすことで、様々な「制度改革」をも促す。公的部門は、自動車産業に匹敵する規模の商取引を行っており、政府のデジタル化では、組織運営の効率性を高めて行政サービスを充実させる側面にとどまらず、商取引を通じた民間部門への外部効果を視野に入れた取り組みが欠かせない。さらに、政府の重要な機能と役割として、個々の制度問題にも増して重視すべき真の課題は、技術変化に伴う制度変化への柔軟な対応力、すなわち「制度の形成能力」にあるといえる。技術変化が加速する環境下では、変化の「時間軸」がとりわけ重要であり、次々と生起する諸課題に迅速に対処し、新しい制度を練り上げていく「ソフトなインフラ」として、専門家の層を厚くする人材育成、その柔軟な移動と適切な配置、さらには専門人材を結集して叡智を活用するマネジメント能力が政府のDXでカギを握ると考えられる。

JEL Classification Codes: D23、L22、O17、O38

Keywords: 取引費用経済学、制度経済学、技術変化、政府のデジタル化


電子政府・電子自治体DXと経済効果
~地方自治体におけるDXの経済効果推計試論~

島根大学法文学部教授/野田 哲夫

地方自治体の現場においては人口減や高齢化によって地域課題が噴出する一方で、税収減によって恒常的に予算や人員削減が迫られ、従来の住民サービスの維持が喫緊の課題である。産業分野におけるDX投資は直接的には雇用の代替効果として労働生産性の上昇に結びつくが、自治体のDX投資によって当該分野の業務効率化(人員削減)が進めばその分野に従事していた人員を住民サービスの維持・向上に回すことが可能になる。そこで、日本政府・自治体におけるDXの流れを確認した上で、地方自治体(市町村)に対して実施したDX化の効果についての定量的把握を行うことを意図して行った「自治体DX効果推計のためのアンケート」の集計結果から、地方自治体におけるDX投資の経済効果を主に業務コストの削減の側面から推計を行う。

JEL Classification Codes: R

Keywords: 電子政府、電子自治体、地方自治体、DX、業務効率化


本号は、政府刊行物センター、官報販売所等別ウィンドウで開きますにて刊行しております。

全文の構成

(論文)

(総論)

デジタル化の経済学
~計測問題とスピルオーヴァー効果を中心として~(PDF形式:1.64MB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_1

  1. 3
    1.はじめに:IT革命からデジタル化へ
  2. 4
    2.デジタル化と生産性:IT革命期から今日までの変遷
  3. 7
    3.デジタル化をどのように測るのか
  4. 14
    4.デジタル化の経済効果:スピルオーヴァー効果と無形資産の補完性の観点から
  5. 20
    5.デジタル化の進展には何が必要か:分析面と制度面からの課題
  6. 23
    参考文献

(論文)

データの資本としての記録方法について
~2025SNA(仮称)に向けた国民経済計算における試算~(PDF形式:1.01MB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_26

河野 陽介、吉本 尚史

DOIDigital Object Identifier

  1. 28
    1.はじめに
  2. 28
    2.データの性質について
  3. 29
    3.本調査研究における試算方法
  4. 37
    4.試算結果・解釈
  5. 41
    5.今後の課題と対応の方向性
  6. 42
    参考文献

デジタル時代における組織能力とその醸成
~組織プロセスの中でのデータの価値転換~(PDF形式:1.26MB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_44

平井 祐理、立本 博文、生稲 史彦、渡部 俊也

DOIDigital Object Identifier

  1. 46
    1.はじめに
  2. 47
    2.DXと組織能力
  3. 50
    3.データ資源を価値に変える組織能力
  4. 57
    4.事例における考察
  5. 65
    5.まとめ
  6. 67
    参考文献

パーソナルデータの経済価値
~把握の困難性と個人の認識~(PDF形式:840KB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_70

  1. 72
    1.はじめに
  2. 73
    2.経済価値測定の試み
  3. 76
    3.個人からみた経済価値の重要性と問題
  4. 78
    4.個人の価値認識に関する調査分析
  5. 84
    5.おわりに
  6. 85
    参考文献

ICT投資が生産性に与える効果
~ミクロデータに基づく検討~(PDF形式:801KB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_87

滝澤 美帆、宮川 大介

DOIDigital Object Identifier

  1. 89
    1.はじめに
  2. 92
    2.関連する先行研究
  3. 93
    3.本研究が対象とするICT投資関連税制変更のバックグラウンド
  4. 94
    4.実証戦略
  5. 97
    5.データ
  6. 100
    6.推定結果
  7. 110
    7.まとめとディスカッション
  8. 112
    参考文献

マネジメントや組織がデジタル技術の利活用に与える影響(PDF形式:687KB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_115

  1. 117
    1.はじめに
  2. 118
    2.データ
  3. 124
    3.分析結果
  4. 130
    4.おわりに
  5. 131
    参考文献

デジタル化と制度変化と政府の役割
~取引費用経済学と新制度経済学からのアプローチ~(PDF形式:834KB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_132

  1. 134
    1.はじめに
  2. 135
    2.DXと生産性にみる技術と制度の関係
  3. 136
    3.デジタル化の市場へのインパクト
  4. 139
    4.デジタル化と「制度としての市場」
  5. 141
    5.デジタル化で求められる政府の役割と機能
  6. 144
    6.事例研究1:DXに不可欠な企業分割法制改革
  7. 147
    7.事例研究2:通信と放送の融合問題への対応
  8. 150
    8.国際環境の変化に対する制度戦略
  9. 151
    9.おわりに
  10. 152
    参考文献

電子政府・電子自治体DXと経済効果
~地方自治体におけるDXの経済効果推計試論~(PDF形式:992KB)PDFを別ウィンドウで開きます

DOIDigital Object Identifier):https://doi.org/10.60294/keizaibunseki.209.0_155

  1. 157
    1.政府・自治体DXと経済効果の推計方法について
  2. 159
    2.日本政府・自治体におけるDXの意義と流れ
  3. 162
    3.自治体DXの効果推計
  4. 175
    参考文献

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