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第57回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
鈴木財務大臣総務演説
2024年5月5日(日)

1.はじめに

 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 初めに、今次総会の開催国であるジョージア政府の温かい歓迎に心より感謝申し上げます。今回の総会が、ジョージアと日本を含む全ての加盟国の二国間関係を一層発展させる機会となることを期待します。

2.ADBへの期待

 アジア・太平洋地域は、その力強い経済成長により、2023年には世界全体の成長率の約60%に寄与したとされる一方、新型コロナウイルス感染症の影響により深刻化した慢性的な貧困や格差の拡大、気候変動への対応等の多様な課題に直面しています。日本は、ADBが、開発途上加盟国(DMCs)との緊密な対話や、加盟国との連携の下、これらの課題に、機敏かつ高い専門性をもって対処することを期待します。これらの課題はアジア・太平洋地域に特有のものではなく、世界中で共通の課題であることを踏まえ、MDB改革の文脈で、ADBがMDBsのロールモデルとしての役割を果たすことを期待します。

(1)戦略2030、組織成果枠組み

 アジア・太平洋地域を取り巻く開発課題は急速に変化するとともに、一層複雑で分野横断的なものとなってきています。また、SDGsの実現に向けて、包摂的で持続可能な開発投資を促進する必要があります。このような背景から、ADBは、地域の繁栄に明確に焦点を当てつつ、迅速で果敢かつ大胆な対応を採らなければなりません。また、ADBによる対応には、革新的なアイデアや先進的な技術に加え、DMCsの支援ニーズの正確な評価が必要です。こうした観点から、「戦略2030」の中間レビューは非常に重要です。その見直しにおいては、新型コロナウイルス感染症の大流行が地域の人々の生活や経済に与えた深刻な影響を踏まえ、パンデミック対応や人的資本の強化に一層焦点を当てるべきです。さらに、気候変動への対応や自然資本の保全といった国際公共財への対応には、近隣諸国が連携して取り組むことがより大きな成果をもたらすことから、戦略2030の見直しにおいては、引き続き地域連結性を優先分野として位置づけることを期待します。

 戦略2030の見直しをより大きな開発効果につなげるためには、効果的なモニタリングと評価の確立が重要です。日本は、今後予定されている組織成果枠組みの見直しにおいて、開発の成果と影響を中心に据えたアプローチの導入を期待します。

(2)自己資本の十分性に関する枠組み及び譲許的資金

 アジア・太平洋地域において、気候変動をはじめとする地球規模課題への対応のための開発ニーズが増大する中、ADBの融資能力を十分に確保することは不可欠です。この観点から、G20の「国際開発金融機関の自己資本の十分性に関する枠組みの独立レビュー」の提言に沿ったリスク指標の見直しにより、ADBが10年間で合計1,000億ドルの融資余力を創出し、MDBsの中で最も大きな成果を出したことを評価します。日本は、ADBがMDBs間の連携のモデルとして、この成功の知見を他のMDBsに積極的に共有するとともに、拡大した融資余力を活用しつつ地球規模課題への対応を進めることを期待します。

 さらに、地球規模課題への対応を強化するにあたっては、途上国の財務負担を軽減し政策対応を支援するため、一定の財政的インセンティブを量と価格の両面から提供することの検討も必要です。その際、限られた譲許的資金の活用に当たっては、受益国の適格性を十分に調整する必要があり、真に支援を必要とする低所得国や、気候変動の影響が大きい島嶼国といった脆弱国、及び所得水準が低く市場アクセスの限られる低中所得国に対象を絞って支援していく必要があります。日本は、ADBが地球規模課題への対応のための譲許性の議論をリードしていくことを期待します。

3.日本の開発プライオリティ

 アジア・太平洋地域の持続可能な成長と一層の発展に向けて、ADBによる更なる積極的な役割を期待する政策分野として、(1)気候変動対応、(2)財政の持続可能性、(3)質の高いインフラの3点について申し上げます。

(1)気候変動対応

 アジア・太平洋地域は世界の温室効果ガスの約半分を排出しており、この地域でのADBの脱炭素化に向けた活動は、世界的な気候変動の動向を左右する、非常に重要な役割を果たします。この地域はまた、海面上昇、台風、長期的な干ばつなど、気候変動の影響を最も受けやすい地域の一つです。これらの課題に対処するためには、緩和策と適応策のバランスの取れたアプローチが求められますが、それには膨大な資金が必要です。

 この観点から、日本は、ドナー貢献をレバレッジとして気候ファイナンスを拡大する革新的なメカニズムであるIF-CAP(Innovative Finance Facility for Climate in Asia and the Pacific)の保証枠に対して、6億ドルの信用補完を行い、ADBの気候変動向け融資余力の拡大を後押しします。既に貢献を表明しているグラント枠への25百万ドルの貢献に加え、今回の貢献を通じ、ADBの約30億ドルの融資余力の拡大に貢献します。アジア・太平洋地域における気候変動の対応は喫緊の課題であり、日本はIF-CAPの早期運用開始を求めます。

 加えて、石炭火力発電所の早期退役とその代替となる再生可能エネルギーの導入を促す革新的な取組であるエネルギー・トランジション・メカニズム(ETM)が果たす役割も重要です。

 IF-CAPやETMが早期に具体的な成果を示し、これらの革新的な資金メカニズムが他のMDBsでも導入されることを期待します。

 さらに、気候変動にかかる膨大な資金需要に対応する上では、公的資金のみならず民間資金の動員も欠かせません。この観点から、ADBが、デジタルESG債やトランジション・ファイナンスなどの取組や、知見の共有を通じて積極的な役割を果たすことを期待します。日本は、これらの分野において、ADBと積極的に連携し、先進的な技術の活用や新しい取組を推進します。また、ADBが気候変動ファイナンスにおいて引き続き重要な役割を果たすことを期待します。

(2)財政の持続可能性

 途上国の持続的かつ自律的な成長を実現するためには、DMCsが自ら国内資金動員の能力を強化し、適切な開発資金の確保にオーナーシップを持つことが重要です。この点において、ADBが、技術支援や能力強化支援を通じて、税収基盤の拡大や税務執行能力の強化に向け、途上国の改革を後押ししていることを評価します。また、アジア・太平洋諸国において2つの柱を含む国際課税における取組の着実な実施を進める観点からも、日本は、ADBの戦略的なアプローチに期待し、アジア太平洋税務ハブや国内資金動員信託基金に貢献していきます。

 また、国内債券市場の発展により、アジア地域の貯蓄を国内の生産的な投資に結びつけることも欠かせません。この観点から、日本は、ADBが、アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の各種取組を通じ、アジアの現地通貨建債券市場の育成に一層貢献していくことを期待します。

 債務の脆弱性が、低所得国だけでなく一部の中所得国でも引き続き深刻です。途上国の債務持続可能性の回復に向けては、債権国による債務措置に加え、MDBsが、公的二国間債権者や民間セクターが開発資金を供与できない脆弱な国の開発資金ニーズに応えるという独自の役割を果たし続けることも不可欠です。ADBが他のMDBsと連携しながら適切な役割を果たし、債務持続可能性の確保と債務管理能力の強化に関する政策提言や技術協力を通じ、加盟国の経済安定と発展を支援することを期待します。

(3)質の高いインフラの推進

 アジア・太平洋地域には、依然として膨大なインフラギャップが存在します。このギャップを定量的に埋める必要がある一方で、持続可能な成長はこうした定量的な評価では達成できないことから、インフラの質に改めて焦点を当てる必要があります。この観点から、日本は、質の高いインフラ投資に必要となる調達手続きの重要性を強調しています。とりわけ島嶼国は、調達規模が小さく地理的な遠隔性を抱え、入札の競争性が低くなりがちであることから、ADBが地域単位の調達を実施・推進することを期待します。

 また、質の高いインフラの実現のためには民間資金の動員が不可欠であり、この観点から、日本は、アジア・太平洋プロジェクト組成ファシリティ(AP3F)に新たに1,000万ドルの貢献を表明します。この拠出を通じて、DMC政府が官民連携(PPP)インフラプロジェクトを組成・実施する能力を強化し、制度改革を支援することを目指します。

 日本はまた、2016年以来、ADBとJICAの協調枠組みであるアジアインフラパートナーシップ信託基金(LEAP)を通じ、質の高いインフラへの民間資金の動員を促進してきました。昨年12月には、日本とADBは、その後継枠組みとして、対象分野の追加などの改善を行い、JICAによる最大15億ドルの投融資を活用するLEAP2を立ち上げました。

 こうした取組を通じ、ADBがアジア太平洋地域におけるインフラ投資において質と量の両面の向上のために重要な役割を果たすことを期待します。

4.アジア開発基金(ADF)増資

 この総会の開催に先駆けて、ADF14の増資が成功裡に終了し、ADBの純益移転を最大限活用することで、2017年のADF・通常資本財源の統合以来、過去最大の増資規模となる約50億ドルの譲許的資金が確保されたことを歓迎します。

 ADFは、低所得国及び脆弱国が直面する開発課題、特に貧困、経済及びジェンダーにおける格差、気候変動及び自然災害への対応に取り組むために不可欠な基金です。この観点から、日本は、ADF14増資の一連の議論をリードし、引き続き最大の資金貢献国として、ドナー貢献額の35%に相当する約1,620億円の拠出の用意があることを表明しました。

 また、ADFの支援対象国の中でも、とりわけ太平洋島嶼国は、小規模な国内市場や国際市場からの地理的な遠隔性に加え、自然災害のような気候変動の影響に直面しており、支援の重点がおかれるべき地域です。日本は、今回の増資を通じた、ADF による島嶼国支援の拡大を強く歓迎します。ADFを通じて、同地域の気候変動に対する強靱化や地域協力・統合の促進といった取組が進展することを確信しています。

5.結びに

 ADBは近々創設60年を迎えようとしています。この間に、アジア・太平洋地域は目覚ましい成長を遂げましたが、依然として様々な開発課題に直面しています。ADBは、浅川総裁のリーダーシップのもと、地域のホームドクターとして、また、最も信頼できる開発パートナーとして、他のRDBsの模範となるような存在であり続けなければなりません。ADBの重要性は、今後10年、そしてそれ以降も一層高まっていくでしょう。

 このような背景のもと、日本は、2027年の第60回ADB総会を日本に誘致したいと考えております。この提案に対し、各国総務をはじめ関係者の皆様方のご理解とご支援を賜りたいと存じます。日本は引き続きADBと密接に協力し、地域の更なる発展に貢献してまいります。

(以上)

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