内閣府・新着情報
(要旨)
(論文)
世帯構造の変化と家族による共助の弱体化 ~非婚化・晩婚化・同類婚と所得格差拡大~
日本では、世帯構造の変化によって、等価所得格差は拡大している。年代別に所得格差変化とその要因を見ると、高齢者世帯では、三世代同居の激減と長寿化が相まって単身世帯が増加し、等価所得は減少し、等価所得格差は広がっている。一方、働く世代においても、晩婚化、特に低所得男性で顕著な非婚化、それに伴う単身世帯比率の上昇に加え、パワーカップル/ウィークカップルに代表される同類婚の増加によって所得格差は拡大している。その結果、かつては平等化装置として機能していた結婚が、現在では逆に格差拡大の機能を持つようになってきたことが明らかになった。このように、単身世帯や同類婚増加のため、働く世代でも、高齢世帯でも、家族による共助を期待できなくなっている。
JEL Classification Codes: I24, J11, J12
Keywords: 所得格差、同類婚、結婚行動
世帯類型の違いが消費構造に与える影響の計量分析 ~公的統計ミクロデータを用いて~
本稿では、消費費目の支出の構成に対する個別世帯員の影響の検証に関する先行研究を参考にした上で、全国消費実態調査と賃金構造基本統計調査の個票データを用いて、世帯主と配偶者の働き方の差が消費の費目に与える影響を実証的に明らかにした。配偶者の働き方については、配偶者の就業状況を考慮して、より細分化した上で検証を行った。さらに、本研究では、世帯主と配偶者の勤め先収入、さらには勤め先収入の実現値と期待値の差が、どの費目に対して消費の変化をもたらすかを追究している。
本分析から、配偶者の働き方の差が食料費や教育費等の支出に影響を与えることが観察された。食料費については、配偶者が正規就業の場合には、末子の年齢といった世帯属性や家計資産をコントロールしても、配偶者の勤め先収入が高いほど、消費支出に対する食料費の比率が有意に低下することが明らかになった。
さらに本分析においては、賃金の実現値と期待値の差分が消費支出に及ぼす影響については、配偶者の就業形態によってその影響は異なるものの、賃金の実現値が期待値を上回った場合には、食料費や教養娯楽費といった費目で家計の消費支出が増大する傾向にあることが確認された。
JEL Classification Codes: D12, D13, E21
Keywords: 世帯類型、就業形態、消費構造
社会の変化と家計消費の変容 ~現物給付や生活時間も視野に入れた家計の姿の変遷~
本稿では、SNAの概念を用いてマクロ経済と整合性を確保しつつ、属性別に家計行動を包括的に捉えることを試みた。具体的には、総務省「全国消費実態調査」、「社会生活基本調査」の個票を用い、世帯主年齢階級別、世帯類型別に「全消費」、すなわち「消費支出+現物給付+無償労働」を求めて、1994年から2014年のデータを分析した。この結果、消費支出から現物給付や無償労働へという需要のシフトは概ねどの属性においても確認された。しかし、属性によっては最終消費支出と全消費の動きは大きく乖離し、最終消費支出で世帯の暮らし向きの動きを判断するのは注意を要する。また、介護や保育などの給付増大に伴い、関連する家庭内生産の増加がみられるなど、代替関係は確認されなかった。
JEL Classification Codes: D13, E21, J22
Keywords: 家計消費、現物給付、無償労働
地方自治体の歳出配分における「シルバー民主主義」の検証
本稿では、高齢化の進行に伴う有権者中位年齢の上昇を受けて、地方自治体が高齢者関連支出を優遇しているとするいわゆる「シルバー民主主義」について、都市における単独事業を対象として検証する。有権者中位年齢ならびに投票率に着目し、財政支出に一般的に影響を与えると考えられる要因をコントロールした上で、これらが地方自治体による歳出配分に対して影響を与えているかについて検討する。なお分析には、複数の支出項目について相互関係を考慮するDeaton and Muellbauer (1980) によって提唱されたAIDS (Almost Ideal Demand System) を用いる。
推定結果によると、財政支出に一般的に影響を与えると考えられる変数を加えた上でも、有権者中位年齢にかかるパラメータは、老人福祉費に関してプラスで最も大きく、児童福祉費および教育費ではマイナスとなった。また投票率を説明変数に加えたモデルでは、投票率にかかるパラメータが児童福祉費や教育費ではプラス、老人福祉費ではマイナスとなった。これらの結果は、都市レベルの単独事業において、高齢者向け政策を優遇する歳出配分、すなわちシルバー民主主義の存在を示唆するものである。
JEL Classification Codes: H72, H75, R50
Keywords: シルバー民主主義、歳出配分、QUAIDS
2010年代の日本における家計の所得変動と政府の所得調節
本論は「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」を用いて、所得税および社会保険料負担、更には児童手当や生活保護などの公的給付を考慮したパネルデータの分析を行った。まず、前年の所得を聞いている日本家計パネル調査の2010年から2020年調査を用い、前年所得を含めて10年間連続して所得や属性に関する回答を行っている1465世帯の個票について、2010年から2019年の所得の税制及び社会保険制度を適用し、租税及び社会保険料負担額をそれぞれ再計算、さらに公的給付額を加えて世帯別の等価総所得を求めて、家計と政府の間の資金移動に関する評価をした。
世帯属性別の所得変動から、低所得世帯と高所得世帯の両端、自営業世帯の所得変動については、他の世帯に比べて大きな所得変動を経験する傾向にあることを確認した。公的負担のあり方について2010年と2019年の制度を比較するマイクロ・シミュレーションを実施したところ、2019年の制度はすべての所得階級で負担増となっており、一方で増加の負担率で低所得世帯ほど負担率が高まっていることを確認した。変動係数で見た公的な所得調節が持つ所得変動緩和効果は、その緩和効果も縮小していることがわかり、公的所得調節による世帯のビルトイン・スタビライザー効果が縮小傾向になっていることがわかった。
JEL Classification Codes: H24, D31, C23
Keywords: 所得再分配、世帯所得変動、マイクロ・シミュレーション
世代会計の再検討 ~生涯消費からみた世代間格差~
本稿は、後の世代の家計ほど社会保障の純受益が大きくマイナスになり、世代間の公平が損なわれているという世代会計の結果を再検討する。1950, 1980, 2010年という生年の異なる3つの世代について、一定の経済状況の仮定の下で、最終消費支出及び、教育・医療・介護などの現物給付を加えた現実最終消費の生涯にわたる割引現在価値を試算し、これらを比較した。
その結果によれば、世代会計による結果とは大きく異なり、1950 年生まれの世代より、後の二世代の方が豊かな消費水準を享受できると期待できる。後の二世代のどちらの消費水準が高いかは、様々な前提の置き方、特に将来のマクロ経済環境に大きく依存するが、総じて結果は大きく変わらない。以上の結果は、世代間格差の考え方に再考を迫るものである。
JEL Classification Codes: D63, E21, J11
Keywords: 世代間格差、世代会計、現実最終消費
正規雇用者の副業の保有と転職、賃金の関係 ~パネルデータを用いた実証分析~
日本では、政策的に副業・兼業を普及促進させようとする動きが見られるが、副業を持つことの効果に関する実証研究はあまり蓄積されていない。本稿は、「日本家計パネル調査」を用いて、正規雇用者に着目して、副業の保有とその後の転職、本業の賃金との関係について分析を行った。分析では、パネルデータの特徴を活かし、パネル固定効果モデルを用いた。個人の異質性に配慮するため、全サンプルを用いた推計の他、副業が許可されている企業に勤める「副業可」の個人や、転職を希望する個人、副業を希望する個人、現職の継続を希望する個人のそれぞれのサンプルを用いた推計も行った。
本稿の分析の結果、転職を希望する男性の正規雇用者においては、副業経験は転職確率を高める効果を持つことが明らかとなった。この結果は、副業・兼業が、労働市場の流動性や仕事と労働者のマッチングの質を高める効果を持つことを示唆する。さらに本稿では、副業経験は転職経由で、男女正規雇用者の本業のその後の賃金を高める効果があることも確認された。これは、副業が人的資本の蓄積と生産性の向上につながる可能性を示唆するものと考えられる。
JEL Classification Codes: J24, J63, J31
Keywords: 副業、転職、賃金
本号は、政府刊行物センター、官報販売所等にて刊行しております。
全文の構成
(序文)
特集号「生涯を通じた生活保障」イントロダクションと概観(PDF形式:347KB)
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1河越 正明
(論文)
世帯構造の変化と家族による共助の弱体化 ~非婚化・晩婚化・同類婚と所得格差拡大~(PDF形式:1.32MB)
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71.はじめに
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82.世帯構造の変化に関する現状及び先行研究
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113.理論的・社会的背景
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134.分析結果
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255.ディスカッション
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26参考文献
世帯類型の違いが消費構造に与える影響の計量分析 ~公的統計ミクロデータを用いて~(PDF形式:931KB)
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311.はじめに
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312.理論モデルと先行研究
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343.使用するデータ
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354.世帯類型、働き方の差を考慮した消費構造に関する計量モデル
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365.推定に用いるモデルと手法
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406.推定結果
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477.解釈と議論
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488.結論
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49参考文献
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50付表
社会の変化と家計消費の変容 ~現物給付や生活時間も視野に入れた家計の姿の変遷~(PDF形式:1.34MB)
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731.はじめに
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742.家計を包括的に理解する枠組み
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763.属性別勘定の作成
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774.全消費とその内訳の動向
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805.まとめと今後の課題
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92参考文献
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94付論
地方自治体の歳出配分における「シルバー民主主義」の検証(PDF形式:2.10MB)
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741.はじめに
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752.分析に用いるモデル:QUAIDS
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773.分析に用いるデータ
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824.推定結果と考察
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855.むすび
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86参考文献
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87付論
2010年代の日本における家計の所得変動と政府の所得調節(PDF形式:921KB)
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921.はじめに
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932.データと推計方法
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963.個票データの基本属性
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974.単年所得変動と世帯属性
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1015.10年間を通じた所得変動と世帯属性
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1026.ライフイベントと所得変動
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1037.可処分所得と世帯属性
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1048.租税・社会保険料負担と公的給付の比率
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1079.制度比較のマイクロ・シミュレーション
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10910.結論
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110参考文献
世代会計の再検討 ~生涯消費からみた世代間格差~(PDF形式:727KB)
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1141.経済成長と社会保障の充実、高齢化の進展
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1152.世代間の公平の基準再考
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1173.データと設定
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1194.試算結果
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1225.むすび
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124補論
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131参考文献
(投稿論文)
正規雇用者の副業の保有と転職、賃金の関係 ~パネルデータを用いた実証分析~(PDF形式:1.02MB)
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1351.はじめに
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1372.先行研究
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1393.利用するデータ
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1414.実証分析
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1875.結論
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197参考文献