平成30年9月28日(金)

 今朝の閣議では,法務省案件はありませんでした。
 続いて,本年4月に立ち上げた「公文書管理・電子決裁推進に関するプロジェクトチーム」において,適正かつ確実な公文書管理や電子決裁推進のための方策のほか,刑事参考記録を含む刑事裁判記録の保管の在り方等について,検討を進めてきましたので,その検討状況について報告します。
 まず,適正かつ確実な公文書管理については,本年7月,行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議において,政府全体の方針として,「公文書管理の適正の確保のための取組について」が決定されたことも踏まえ,法務省行政文書取扱規則等の規程を改正し,決裁終了後の文書の修正を原則禁止し,修正を行う場合のルールを明文化しました。
 また,今後,全ての文書管理者,幹部職員を対象とする対面研修を実施するとともに,新設の公文書監理官(仮称)の下における,適正かつ確実な公文書管理体制について,政府の方針を踏まえつつ,引き続き,検討することとしています。
 さらに,電子決裁の推進については,本年7月,デジタル・ガバメント閣僚会議において決定された「電子決裁移行加速化方針」を踏まえつつ,法務省における電子決裁移行加速化方針を策定し,電子決裁とすることが困難な類型を除き,電子決裁とすることとし,電子決裁の更なる推進を図ることとしました。
 刑事参考記録を含む刑事裁判記録の保管の在り方等については,刑事参考記録の国立公文書館への移管の適否等を中心に検討を行いました。
 その結果,刑事参考記録の指定を解除する場合は,移管の要否について国立公文書館等と協議し,歴史資料として重要と認められる場合には移管すること,具体的な事件記録を用いたプロジェクトとして,例えば,明治期前半の治罪法時代の刑事参考記録を対象として,まずは1件ないし数件の刑事参考記録について,関係機関と協議・調整を行い,国立公文書館への移管を試行することとしました。
 刑事裁判記録は,事件関係者の個人情報を多数含むので,その取扱いに当たっては,名誉やプライバシー等の保護に十分配慮する必要があります。
 そのため,具体的な事件記録を用いたプロジェクトを通じて,事件関係者の名誉・プライバシー等を害するおそれなどの移管に伴う問題点の洗い出しを行うとともに,それに対処するための利用制限の在り方等についての国立公文書館等との協議を行い,その上で,刑事参考記録の移管の在り方について,更に検討を進めることとしたものです。
 また,併せて,事件関係者のプライバシー等を損なうことのない事件の特定の在り方を検討した上で,刑事参考記録のリストを作成し,開示することとしました。
 今後,本日御説明した方針の下で,法務省として,より一層適正な公文書管理の在り方についての検討を行ってまいりたいと思っています。

大臣就任期間を振り返った所感に関する質疑について

【記者】
 来月2日に内閣改造が行われることになりましたが,大臣在任期間を振り返っての所感と,特に印象に残った仕事があればお聞かせください。

【大臣】
 昨年8月3日に2度目の法務大臣職を拝命し,早いもので,約1年2か月が経ちました。
 前回は,突然の拝命で,それまで法務行政の分野について私自身経験もなかったこともあり,法務行政の現場を徹底的に訪問し,また,職員の皆さんの声を聞く中で,いわば手探りで走り抜けたというのが実感です。
 その後,自民党の司法制度調査会長として,前回大臣の時の経験を生かしながら,「司法外交」の新機軸に関する最終提言をまとめるなど,法務省の応援団のような気持ちで法務行政に関する様々な提言を行ってきました。
 そのような中で,奇しくも第99代目の法務大臣を拝命し,昨年11月には,節目となる第100代目の法務大臣に再任され,党の立場で自分が投げたボールを,今度は,法務行政のトップの立場でこれを受けて実行するという役目を仰せつかったところです。
 私は,昨年8月3日の就任時記者会見において,「もう一度新しい気持ちに立ち返って,しっかりと曇らぬ目で,まっすぐに現場の皆さんの御意見や,国民の皆様の目線を大切にしながら取り組んでまいりたい。」と抱負を述べたところです。2015年9月には,国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)において謳われている「誰一人取り残さない」社会を実現するため,私が8月3日に法務大臣を拝命してからの法務省としての大きな方針として掲げている,故大平正芳元総理が好まれた「着々寸進洋々万里」という言葉を心に刻んで一歩一歩着実に職務を遂行してまいったところです。
 法務省の仕事ですが,SDGsのゴール16にも掲げられているように,国民の皆様お一人お一人が生涯生き生きと活躍できる基盤として,安全・安心を法の支配を貫徹することによって実現していくという重要な役割を担っています。
 先般の松山刑務所大井造船作業場における受刑者の逃走事件を受けて,作業場のある今治市や受刑者が逃走した尾道市向島の住民の皆様とお会いして,皆様からのお話をお聞かせいただく中で,作業場の存続を望むという大変ありがたい励ましの言葉を頂きました。国民の皆様の安全・安心を守ることは,国民の皆様の御理解,そして御協力の上に成り立っているということを改めて実感しました。
 国民の皆様に法務行政の取組を身近に感じていただき,安全・安心の実現に御協力いただくためには,法務省の取組を国民の皆様に広く理解していただくことが重要です。法務省というと,国民の皆様からは「遠い存在」というようなイメージで受け止められてきたわけですが,法務行政を皆様に知っていただき,御理解と御協力をいただくということを積極的に果たしていくためには,こちらから積極的に広報していくことが重要ではないかと考え,葉梨副大臣と山下大臣政務官とともに,政務三役でキャラバン隊を構成して,機会を見つけては全国各地の法務行政の現場に直接足を運び,現場の率直な声を忌憚なくお聞かせいただくなど様々な活動をしてきました。また,できる限り外部の会合にも出席させていただき,実際その方達が実践している取組や声を聴かせていただくことについても,積極的に推進してきたところです。
 こうした活動を通して私自身考えたところは,法務行政の諸課題,そしてその背景にある社会の実相にしっかりと肉薄してこそ初めて,問題を解決することができるのではないかということです。この問題意識,考え方を法務省の職員の皆さんと共有し,できるだけ多くの職員の皆さんと様々な問題を考え,また,その問題の対策を考える過程を共有し,徹底した議論を通して,オール法務省で共に施策を作り上げ,実行するという姿勢で,葉梨副大臣,山下法務大臣政務官の助けを得ながら,法務行政の様々な課題に全力で取り組んできました。
 特に,私自身今回の大臣職においては,「国民の命や生活に向き合う」ということを大事に考えてきました。
 そのような中で,今年の7月には,法務大臣としての大きな判断もしましたし,日本の未来を担う子どもたちが明るく希望をもって活躍できるようにしていかなくてはならないと考え,幼い命のSOSをしっかりと受け止め,児童虐待の問題や無戸籍者の問題にも力を入れて取り組んできました。
 また,私が政治家としてのライフワークとして取り組んできた犯罪被害者の問題についても,昨年成立した「刑法の一部を改正する法律」の附則第9条に基づく施行後3年を目途として実施する性犯罪に関する総合的な施策検討に資するよう,直ちに省内に「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」を設置し,3年後を見据えた検討に着手したところです。
 その他,現在「再犯防止推進計画元年」として取り組んでいる再犯防止に関する取組,そして現在法案提出に向けて鋭意準備している新たな外国人の受入れ・共生の問題等,いずれの課題も我が国で暮らす全ての人たちの安全・安心に直結する重要な問題であり,その施策の実現については,国民の皆様の意見に耳を傾け,多様性を包摂し,そして支え合う共生社会の実現を図るということで,誰もが我が国で生活をするお互いの人権を大切にするという考え方を皆様で共有し合いながら,より良い社会を作っていくための努力を惜しまずしていくという考えで施策を推進してきました。
 いずれの課題についてもまだまだこれからというところで,私の取組の成果については,国民の皆さんに御判断をいただくべきものですが,私としては,「誰一人取り残さない」社会の実現に向けて,国民目線で,法務行政が抱える様々な課題に取り組み,少しずつでも前進することができたのではないかと考えているところです。
 法務省の職員の皆さんには,このような私のメッセージを汲み取っていただき,引き続き,オール法務省で様々な課題に積極的に取り組んでいただきたいと思っています。

公文書管理の在り方に関する質疑について

【記者】
 公文書の関連でお伺いします。大臣は公文書管理担当大臣を務めておられましたが,改めて公文書を適切に保管していくことの意義について御所見をお聞かせください。また,刑事裁判記録を将来に残すことの重要性についても併せてお伺いします。

【大臣】
 公文書管理法の理念として,行政文書は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として,主権者である国民が主体的に利用し得るものです。
 そして,行政機関においては,行政文書の適切な作成,整理,保存,そして利活用という一連のプロセスを通じて,行政が適切かつ効率的に運営されるようにするとともに,国の諸活動を現在及び将来の国民に説明していく責務があるものと承知しています。
 そのため,各省庁ごとの特性を踏まえ,絶えず点検を実施し,公文書管理の在り方について不断の見直しをするなど,行政文書の管理を適正に行うことは非常に重要であると考えています。絶えず行政文書を作成していますので,その文書をいつの時点でどのように利活用するのかと先を見据えながら,文書の重要性を一人一人の行政担当者が,しっかりとその意義を考えて,そして法務省全体としても,法務省の仕事の特性を生かした形で,法務省における行政文書,公文書の在り方について絶えず勉強しながら見直していく必要があると考えているところです。
 また,刑事裁判記録の中にも歴史資料として重要な「歴史公文書等」に該当し得るものもあります。そうしたものについては,確実に保存し,そして将来の世代に受け継いでいくことが必要であると考えています。
 もっとも,刑事裁判記録については,事件関係者の個人情報を多数含んでおり,その取扱いに当たっては,名誉やプライバシー等の保護に十分に配慮する必要があるということは言うまでもありません。その上でこうした歴史資料として重要なものについてはしっかりと保存,保管していくということは,極めて大事なことであると考えています。
 

刑事参考記録のリストの開示に関する質疑について

【記者】
 これまで公表してこなかった刑事参考記録のリストを作成し,開示することにした理由と意義について,お聞かせください。

【大臣】
 学術研究のために刑事参考記録の閲覧の申出をする際の便宜などから,刑事参考記録のリストを開示すべきであるという御指摘があり,学術研究のための閲覧に資するためのリストを作成し,開示するということを決めたところです。
 リストを公にすることについては,事件関係者のプライバシー保護等の観点から,慎重な配慮も必要ですので,今後,事件関係者のプライバシー等を損なうことのない事件の特定の在り方について検討をしていきたいと思います。しっかりと検討した上で,出来得る限り早い段階で実現できるようにしていきたいと思っています。

刑務所に対する現状の認識と今後の方向性に関する質疑について

【記者】
 大井造船作業場における逃走事件後,全国各地の開放的施設やPFI施設を視察等されたと思います。刑務所に対する現状の認識と今後の方向性について,教えてください。

【大臣】
 先ほど申し上げた大井造船作業場における逃走事件は,本年4月8日に発生し,地域住民等の皆様に多大な御不安と御迷惑をお掛けしました。
 逃走事件を受け再発防止等の観点から,その後,開放的な処遇の実情を把握するために,全国4か所の開放的施設に加え,開放的処遇を行っている鹿児島刑務所農場区や,全国4か所のPFI施設(社会復帰促進センター)も訪問・調査しました。
 一連の訪問・調査により,いずれの施設についても,地域の御理解と御協力を得ながら,開放的な環境の下で,それぞれの特徴を生かした形で,実践的な作業を実施するなど様々な工夫をしながら運用されてきたということを強く意識したところです。
 特に,逃走事件があった松山刑務所大井造船作業場と広島刑務所尾道刑務支所有井作業場ですが,受刑者が民間企業の従業員と一緒に作業を行うという現場であり,一般社会にできるだけ近い形での作業を通して処遇を進めているということを強く実感したところです。
 先ほど地域の理解がなければ成り立たないと申し上げましたが,これは4か所の開放的施設のみならず,開放的処遇を実施している刑務所の中でも同様のことが言えるわけです。地域との関わりの在り方についても,施設ごとに特色があったり,また,地域の中での位置付けがあるといったことが,これからの刑務所の在り方を考える上で多くのヒントとなりました。
 例えば,大井造船作業場や有井作業場については,地域の皆様と直接接するという形で開放的処遇が行われているわけですが,網走刑務所二見ヶ岡農場,また,鹿児島刑務所農場区のように,受刑者が栽培した農作物が地域の皆様の食卓にのぼるという形で地域と結びつく関わり方もあります。
 また,PFI施設については,開庁以来,約10年が経過し,官民協働による地域連携の取組がしっかりと浸透してきている,と感じました。そして官民の工夫の下で実践している改善指導が効果を上げていますが,それにとどまらず,受刑者が地域の清掃活動などの様々な社会貢献的な活動を通じて,地域の抱えている問題そのものを解決することに役立っていると受刑者が実感する,地域で社会貢献活動を行うことで地域において自分が役割を果たすということを直接感じることができる,このことが再犯防止の観点からも非常に重要でないかと思ったところです。
 現在,これらの開放的施設等で行われている取組については,施設ごとの特徴を生かしたものですが,他の刑事施設においても,そのような作業やその他の工夫を積極的に取り入れるということができるのではないかと考えており,こうしたことについて検討をしているところです。一般社会にできるだけ近い環境の下で処遇することにより,受刑者の改善更生と同時に円滑な社会復帰を図るという目的に合致したものとなるように,開放的な施設,また,開放的な処遇の在り方について,今後も検討する必要があると考えています。
 また,法務省においては,本年を「再犯防止推進計画元年」と位置付けて,全省的に取り組んでいるところですので,開放的施設等で行われている取組から得られた知見については,刑事司法手続に関わる機関全てに共有するということを通して,再犯防止,更には安全・安心な社会の実現のために,刑事施設が果たすことができる役割は何かということについても更に磨いていくことが必要であると考えています。

「司法外交」の成果に関する質疑について

【記者】
 大臣は「司法外交」に力を入れていたということでしたが,大臣在任期間中の「司法外交」の成果を教えてください。

【大臣】
 私は,前回の法務大臣当時に,それまで私自身知らなかったことを学ばせていただきました。そのひとつは,これまでに延べ138の国と地域から研修生が参加し,刑事司法分野における人材育成を行ってきた国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)が,国際研修に56年の実績をもって取り組んでこられたということです。その卒業生の中には,各国で法務大臣や最高裁の長官など,様々な立場で御活躍している方々がいて,そういった方たちと現場でお会いする場面もあり,大変大きな蓄積をしてきたと,感動に近い思いを持ったところです。
 また,もうひとつの取組としては,ベトナムを皮切りに,民商事法分野を中心にアジアにおいて10か国以上の国の法制度整備支援を行ってきた法務総合研究所国際協力部(ICD)の取組です。こちらの方はベトナムをスタートとして24年の実績を有するということです。
 法務省が法の支配を世界に均てんし,「世界一安全安心な国,日本を支える上で重要な仕事を担っていることを身をもって感じたところでして,そこで日本が国際社会の中でリーダーシップを発揮していく上では,それぞれの国に寄り添い,同時に人材の研修をしていき,この両輪の中で法律を作って支援する,しかも,それを現地の国々の皆さんと寄り添って,一緒になって作っていく日本型司法制度の強みを重要なソフトパワーと位置付け,それを世界的に知っていただくために,積極的に発信をしていく,それを「司法外交」の展開という形でまとめあげて,提言しました。
 その当時も,法務外交という形で位置付けてきたわけですが,その後,自民党の司法制度調査会長になり,更にこれを「司法外交」という形で,より全体感を持った戦略作りをしていく必要があるのではないかということで,この司法制度調査会長としてのメインのターゲットとして,「司法外交」をいかに国の施策に位置付けていくことができるかということについて議論をした上で,最終的に5つの方針と8つの戦略を盛り込んだ「司法外交の新機軸」というタイトルでの最終提言をまとめ,政府に提案しました。
 このような中において,昨年8月3日に法務大臣に再任をされました。私の所信に掲げた7つの柱の中にも,法の支配を貫徹することにより,SDGsのゴール16に掲げられている多様性,そして包摂性に富んだ安全・安心で持続可能な社会の実現を目指すべき姿として,「法の支配と司法外交」を法務省として取り組むべき重要な課題として打ち出したところです。
 この点に関しては,今年の政府の「経済財政運営と改革の基本方針」,いわゆる「骨太の方針2018」にも「司法外交」という4文字が初めて明記され,国の基本方針としてこれを明確に位置付けることができたところです。
 私は,司法外交に関する具体的な施策として,UNAFEIとICDが行ってきた法制度整備支援等の実績を日本の強みとして積極的に推進すること,ASEAN諸国を中心とした諸外国及び国際機関との戦略的連携を図ること,また,国連への積極的な参画を図ること等が重要であると考えました。また,日本の企業が海外に積極的に進出していくことは,アジア諸国の中ではその国の経済発展の大変有力な力として期待をされており,このような活動が安定して行われていくため,そして,紛争があったとき,しっかりと解決していくためには,国際仲裁という新しいタイプの紛争解決の手段というものを活性化していく必要があるのではないかと考え,このことも打ち出し,さらに国際予防司法ということで,そうした問題についての強化ということを5つの柱として打ち出し,本年4月,法務省における国際的課題についてオール法務省で,これを横串に対応していくための司令塔機能として果たすべき組織として,大臣官房に国際課を新設し,これまでに法務省の関係部局がそれぞれ地道に進めてきたこれらの個々の取組を体系化をして,戦略的に推進・展開することとしたところです。
 それぞれの支援については,これまでも展開してきたところですが,法制度整備支援については,地道な取組が高い評価をいただいてきましたし,また,引き続きの取組ということで,第一段,第二段と,ステージが国づくりの中でどんどん変わっていきながら,その過程の中でも日本に対する期待が大きいということも言っていただいています。
 また,2点目の諸外国との戦略的な連携ということですが,私もASEANを中心として諸外国及び国際機関との連携について力を尽くしてきたところですが,特に,インドネシア,マレーシア,シンガポール,タイ,こうした国々を訪問するなどして,直接,関係強化を図るための意思を明確にしていく,つまり,トップセールスをしていくということですが,そうした試みを重ね,また,国内においても,在外公館,あるいは,国際機関といったところとも連携し,国内で司法外交を展開しながら,人材をこちら側からそれぞれの国や機関に派遣をしていくという形を通して,その積極化を進めていく,戦略的連携を図っていくといったことも進めてきたところです。
 また,3点目の国連との関係の強化ということですが,国連の犯罪防止刑事司法の分野での最大級の会議,国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)が2年後の4月に開催されるということで準備を加速している状況です。東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される年である2020年4月という世界の皆様から注目される,関心の高くなる時期であり,法の支配や基本的人権の尊重という普遍的価値を,日本が各国と共に,浸透させていくというリーダーシップを世界に向けて発信できる非常に大きな機会となるのではないかと思っています。2020年を「司法外交の元年」と位置付け,日本のソフトパワーである司法制度や法の支配と法遵守の文化を国際社会に対してもしっかりと発信し,そして持続可能な日本らしいモデルを世界に打ち出していくことができるように,今着実に準備を進めているところです。
 国際仲裁については,国際取引をめぐる紛争の解決について,当事者が選任した仲裁人の判断に委ねる紛争解決の制度であり,国際紛争解決のグローバル・スタンダードになっているところです。先ほど申し上げたとおり,海外に日本企業が進出するのを後押しする,ある意味では経済政策としてのバックアップ機能を果たし得る取組の一つと位置付けることができるのではないかということで,法務省においては,内閣官房に設けられた「国際仲裁の活性化に向けた関係府省連絡会議」の事務局として,後塵を拝していると言わざるを得ない国際仲裁の分野において,日本が一気にフロントラインに躍り出るための取組を鋭意進めているところです。
 また,最後に国際予防司法については,平成28年9月に訟務局の中に国際裁判支援対策室を設置し,国際紛争力と強化し,また,紛争の未然防止の観点から,関係省庁等と連携した紛争対応体制を構築するなどの国際的な法的支援の強化も進めてきたところです。昨年以降,このような取組を更に強化し,国際業務に長けた検事・弁護士等の人材を結集・育成するとともに,学者の皆様をはじめとして専門家との連携を強化し,アドバイザーとして積極的に御活躍いただくなどして,今後の展開としても,国際的な法的紛争の未然防止と紛争解決について法的側面から支援をしていくことに努めるとともに,国,自治体,企業等の海外展開に関する法的支援を強化する役割を推進していくことしているところです。
 この司法外交は本当に色々な軸があり,そのベースになるものは法務省が長年の法整備支援や人的研修という形で半世紀にわたって積み上げてきたものです。ここでしっかりとこれを体系化し,戦略的に取り組んで,国民の皆様,また,様々な事業活動においても,このようなことを通してそれぞれの国づくりの中において役立てると同時に,その恩恵は必ず,その国で活躍している日本企業や日本の国民の皆さん,さらには世界的にもあると思います。国際的な大きな変化が起きている時代の中でしっかりとその役割を果たしていくということを目標に様々な角度から総合的に展開していくという趣旨でこれからも全力で推進していきたいと思っています。

(以上)