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令和6年3月28日
日本ユネスコ国内委員会

国際情勢等を踏まえたユネスコ活動等の推進についての提言

 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、1945年、「教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによつて、平和及び安全に貢献すること」を目的に創設された国際連合の専門機関である。日本は戦後1951年にユネスコに加盟し、日本ユネスコ国内委員会は翌1952年に設置された。
 戦後から現在に至るまで、我々を取り巻く環境は著しく変化しており、ユネスコの取組とそれに対する日本の関与及び国内のユネスコ活動[i]は、常にその時々の状況に応じて変化することが求められる。
 現下の国際情勢等を踏まえ、日本ユネスコ国内委員会は、ユネスコの普遍的な使命を再確認するとともに、ユネスコに対する日本政府の関与の在り方を関係府省に提言し、国内のユネスコ活動の在り方について広く一般[ii]に対して提言する。本提言については、今期ユネスコ中期戦略期間中(2022~2029年)に成果を挙げられるよう取り組むことが期待される。
 なお、必ずしもユネスコ活動と捉えられていないが、上記のユネスコの目的の達成に資する取組が数多く存在することを認識し、本提言がこれらを含む多様な取組の発展に寄与することが望ましい。
 
 

[背景]

現下の国際情勢等

 国際法に違反するロシアのウクライナ侵略や、イスラエル・パレスチナ情勢等、国際平和を脅かす深刻な事態は、国際社会の分断を加速させるとともに、人間の生存に不可欠な健康、食料、エネルギー等の問題を浮き彫りにしている。また、国際社会においては、いわゆる「グローバル・サウス」が発言力を増しているほか、「南・北」だけでは捉えきれない「南・南」協力や「南・南・北(三角)」協力[iii]の枠組みもあり、国際的な合意形成が複雑化している。
 一方、紛争、貧困及び気候変動、生物多様性等への対応や世界経済の安定等、地球規模の課題の解決のためには、国際社会が連携して取り組むことが一層必要となっている。特に、人材育成及び財政的な支援を必要としているアフリカ及び小島(しょ)開発途上国[iv][v]との協力が重要な鍵となっている。
 ユネスコにおいては、1974年に採択された教育に関する勧告[vi]の改正について、この50年の間に起きた社会の変化及び技術の進展等を踏まえ、教育を通じた永続的な平和及び持続可能な社会の構築並びにそれらに貢献する人材の育成等の観点から議論され、2023年11月のユネスコ総会において、同勧告の改正勧告として「平和、人権、国際理解、協力、基本的自由、グローバル・シチズンシップ、持続可能な開発のための教育に関する勧告」(仮訳)が採択された。
 科学分野においては、先端・新興領域における技術の規制及び活用に関する議論への注目が高まり、ユネスコにおいても、例えば、2021年に「人工知能(AI)の倫理に関する勧告」が採択されるなど、AIの様々な分野での活用についての議論が活発化している。また、2023年11月のユネスコ総会において、ニューロテクノロジーの倫理に関する勧告の作成について、2025年秋のユネスコ総会での採択を目指して議論していくことが決定された。このような状況下で、米国が国際的な規範設定への参画を重視し、2023年7月にユネスコに再加盟したことにより、ユネスコにおける合意がより実効性を持つものとなることが期待される。
 さらに、デジタル化の進展による情報の遍在と即時的な流通・普及は、瞬時の情報の取得を可能にした一方、偽情報やバイアス、情報格差等の問題も顕在化している。コロナ禍によりゆがめられた事例もあったように、科学的な根拠に基づく政策決定及び人間の尊厳を尊重した合意形成を改めて推進することが必要である。
 

ユネスコの普遍的な使命

 国際連合教育科学文化機関憲章(ユネスコ憲章)では、前文冒頭において「戦争は人の心の中で生れるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」と述べているが、世界では現在に至るまで戦争はなくなっていない。
 しかしながら、このような状況であるからこそ、無数の罪のない人々が犠牲になった先の大戦の反省を踏まえて平和及び安全に貢献するために設立された、ユネスコの憲章前文の意味を改めて理解するとともに、ユネスコの普遍的な使命を再確認することが重要である。
 ユネスコの使命とは、様々な国際情勢等の中においても、人間の尊厳及び幸福の尊重を前提として、平和の構築、貧困の撲滅、持続可能な開発及び異文化間の対話に取り組むことであり、ユネスコは、全ての人への公正かつ包摂的な質の高い教育の確保、科学・技術・イノベーションの振興、表現の自由・文化的多様性・文化遺産・自然遺産の保護促進、技術革新等に対する国際的な規範設定等のために、国際連合及び他の国際専門諸機関と協力し、加盟国と連携しながら取り組むことが必要である。
 

[提言1:ユネスコに対する日本政府の関与の在り方]
―戦略的かつ積極的な関与を通じた日本のリーダーシップの発揮― 

 現下の国際情勢等を踏まえ、恒久の平和を念願する日本は、人間の尊厳・平等・相互の尊重という民主主義の原理を遵守し、ユネスコに対して、外務省及びユネスコ日本政府代表部並びに文部科学省及び文化庁等の関係府省が緊密に連携し、以下の戦略的かつ積極的な関与を通じて、リーダーシップを発揮していくことが必要不可欠である。
 

国際情勢を受けた適切な支援の実施

 2022年2月以降続くロシアによるウクライナ侵略、2023年10月に発生したハマス等によるテロ攻撃以降のイスラエル・パレスチナ情勢、これら以外にも世界各地で頻発する紛争等、現在の国際情勢は、ユネスコ憲章が掲げる「平和」にはほど遠い現状にある。そのような状況下で、ユネスコはその所掌する分野において現地の人々に寄り添った支援を実施し、今後の支援を検討している。日本も、ウクライナについては、ユネスコと協力し、文化遺産の保護・修復をはじめ、文化・教育等の分野で支援を実施している。紛争下での支援は制約が大きいが、可能な範囲で、引き続きユネスコによる支援に貢献していくことが重要である。
 

日本人専門家等の知的貢献によるユネスコにおける議論の主導

 ユネスコにおいて、特に国際的な規範設定に関する議論が活発化する中、国際的なルール作りに日本の社会・経済・文化的価値観を適切に反映し、日本への裨益を確保するとともに、他国の立場及び価値観にも配慮しつつ国際社会に貢献し、日本のプレゼンスの大幅な向上を図っていくため、日本から新しい取組を提案するなど、ユネスコにおける議論を主導することが重要である。
 2023年6月には、政府間海洋学委員会(IOC)総会において、道田IOC分科会主査が日本人として初めてIOC議長に就任したほか、ニューロテクノロジーの倫理に関する勧告の草案作成のための会合の委員として日本からも専門家が選ばれ、その議論に参画する予定である。また、気候変動に伴う自然災害が世界規模で頻発する中で、AIやデジタル技術等を活用した新たな防災の取組や教育・文化遺産等を守るための取組の強化を我が国の知見等も活用しつつ支援してきた。
 このように、特に日本が豊富な知見や強みを有する分野において、各種政府間会合や専門家委員会への専門家の派遣等、日本人の知的貢献を強化することにより、日本がユネスコにおける議論を主導することが重要である。
 

ユネスコに対する戦略的かつ積極的な人的貢献の強化

 ユネスコ事務局に対して文部科学省及び外務省等の政府職員[vii]を戦略的に派遣するとともに、ユネスコ事務局への研修生派遣及び関係会議等へのユース[viii](若者)等の積極的な派遣を通じた人材育成を推進し、ユネスコにおける邦人幹部職員の将来的な登用も見据えながら、ユネスコに対する人的貢献を強化することが重要である。
 

ユネスコに対する戦略的支援の実施

 ユネスコの事業に対して、国内での議論や実践、ユネスコ事務局及び加盟国の実情も踏まえつつ、ユネスコ地域事務所とも連携しながら、日本の任意拠出金[ix]を通じたより戦略的な支援を実施することが必要である。なお、ユネスコ地域事務所との連携に当たっては、現在行われているユネスコ地域事務所の改革の状況も踏まえながら戦略的に取り組むことが重要である。
 
 

[提言2:国内のユネスコ活動の在り方]
―ユネスコ活動のネットワークの活性化及び広報の強化―

 日本では、全国各地で様々なユネスコ活動(ユネスコ登録事業等に関するものを含む)が行われているが、ユネスコにおいて日本のリーダーシップを発揮していくためには、国際情勢等に十分留意しながら、ユネスコの普遍的な使命の実現に向けて、国内のユネスコ活動の不断の見直しを行っていくことが必要である。このためには、ユネスコ活動のネットワークの活性化及び広報の強化を相互に戦略的に推進し、国や地方公共団体を含む国内外の多様な主体間の連携・協働・学び合いによりユネスコの理念及びこれに基づく活動を更に普及・促進していくことが重要である。
 

ユネスコ活動における多様なネットワークの活性化

 ユネスコ登録事業等と産業界及びユース(若者)を含めた多様な主体・世代間、様々なユネスコ登録事業等間、当該ユネスコ登録事業等の趣旨に即した国内外の登録地域・都市等間、各地の民間ユネスコ活動とそれらと同様の目的で活動する多様な主体間の連携等の活性化を図ることが必要である。また、研究者、専門家及び教育関係者と、各地のユネスコ活動を含む市民との連携強化も重要である。これらの多様な主体間の連携を通じて、政府間海洋学委員会(IOC)、政府間水文学計画(IHP)、人間と生物圏(MAB)計画等の科学分野のプログラムを含め、より幅広い分野間の連携を重視したユネスコ活動の展開を図り、その成功事例を日本から発信していくことが期待される。
 

ユネスコ活動の認知度向上のための効果的な発信を通じた広報の強化

 ユネスコスクールが拠点となって全教育段階で推進されている持続可能な開発のための教育(ESD)、防災及び海洋等、日本が強みを有する分野のユネスコ活動及びユネスコ登録事業等の好事例を収集し、多様なメディアとの積極的なコミュニケーションを通じて、国内におけるそれらユネスコ活動及びユネスコ登録事業等の認知度の向上を図ることが必要である。その際、持続可能な開発目標(SDGs)に関する取組の拡大及び貧困・飢餓・教育等の社会課題に対する意識が高まっている産業界や市民等の多様な主体、ユース(若者)を含む多様な世代への具体的な連携まで見据えた広報の在り方、ユネスコ事務局や各国のユネスコ国内委員会を含む海外への成果普及の在り方について検討し発信することが重要である。また、広報活動については、地域におけるユネスコ活動の一層の推進に向けて、日本各地にあるユネスコ協会等も役割を果たすことが期待される。さらに、サイエンスコミュニケーター等、それぞれの専門分野を分かりやすく社会に伝える人材と連携することも有効である。
 

ユース(若者)によるユネスコ活動の促進

 ユネスコ活動が将来にわたり世代を超えて受け継がれていくためには、特に次世代を担うユース(若者)の参画を促す仕組みが不可欠である。また、2023年4月に日本ユネスコ国内委員会運営小委員会の下に設置された次世代ユネスコ国内委員会をはじめ、ユース(若者)世代が、自らネットワークを形成・拡大しながら、斬新な発想でユネスコ活動の在り方等を積極的に検討し、継続的に実践することが重要である。このためには、日本ユネスコ国内委員会等、ユネスコに関連する活動に関わり、多様なネットワークと幅広い知見を有する様々な主体及び世代が、ユース(若者)による活動を支える取組を強化することが必要である。その際、より若い世代へのユネスコ活動の普及についても考慮すべきである。
 

ユネスコ登録事業等における実施者の主体的かつ継続的な取組

 ユネスコにおいては、条約に基づく登録制度(世界遺産(文化遺産、自然遺産)や無形文化遺産)に加え、条約に基づかない登録・加盟事業(ユネスコエコパーク、ユネスコ世界ジオパーク、ユネスコ創造都市ネットワーク、世界の記憶、ユネスコスクール、ユネスコチェア等)が幅広く実施されている。いずれの制度・事業においても、ユネスコの理念に沿った各制度・事業の目的を達成する上では、地方公共団体、学校、各種団体及び個人等による地域等に根差した主体的な取組が必要であり、登録・加盟の実現はもとより登録・加盟後においても、国内外のネットワークの活性化や広報の強化等に継続的に取り組むことが重要である。
 こうした取組を通じて、世界的な課題に関するモデルを各現場から提示し、また各主体が国内外の学び合いや多様な主体・世代間の協働の場として役割を果たしていくことが期待される。

 


[i] 「ユネスコ活動に関する法律(昭和27年6月21日法律第207号)」第二条(定義)において、ユネスコ活動とは、ユネスコの目的を実現するために行う活動と規定されている。
[ii] 「ユネスコ活動に関する法律」第一条(ユネスコ活動の目標)において、「わが国におけるユネスコ活動は(中略)教育、科学及び文化を通じ、わが国民の間に広く国際的理解を深めるとともに、わが国民と世界諸国民との間に理解と協力の関係を進め、もつて世界の平和と人類の福祉に貢献することを目標とする。」と規定されている。
[iii] 途上国同士の協力を、先進国や国際機関が支援すること。
[iv] SIDS(Small Island Developing States)
[v] ユネスコ中期戦略(2022-2029年)においてアフリカは優先課題、SIDSは優先グループとして位置付けられている。
[vi] 「国際理解、国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告」
[vii] 文部科学省は戦略計画部、教育局、コミュニケーション・情報局、世界遺産センターに計4名、外務省は戦略計画部に1名、国土交通省は自然科学局に1名を派遣。(2024年3月時点)
[viii] 「ユース」について、国連の統計上の定義は15~24歳であるが、国際的に定まった定義はなく、ユネスコにおいても明確には定義せず国や地域等により異なるものであるとしている。なお、日本ユネスコ国内委員会の次世代ユネスコ国内委員会は18~29歳、2023年ユネスコユースフォーラムは18~35歳を対象としている。
[ix] 文部科学省、外務省、国土交通省から任意拠出金を拠出。文部科学省からは、アジア太平洋地域教育協力信託基金、ユネスコ地球規模の課題の解決のための科学事業信託基金、SDGs実現のための教育プログラム戦略的支援信託基金、ユネスコ「世界の記憶」協力事業信託基金として拠出。

(概要)
国際情勢等を踏まえたユネスコ活動等の推進についての提言 概要(PDF:289KB)

 

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