財務省・新着情報

  1. はじめに

    ロシアによるウクライナ侵略は、力による一方的な現状変更の試みであり、国際秩序の根幹を揺るがす明白な国際法違反です。先月末のロシアによるウクライナの一部地域における「編入」と称する行為は、ウクライナの主権と領土一体性を侵害し、国際法に違反する行為であり、決して認めることはできません。また、民間人に対する残虐な行為は国際人道法違反であり、戦争犯罪です。途上国の開発援助を含む国際的な経済・社会協力に当たって平和の維持は不可欠であり、これに反するロシアの行為は断じて許容できず、厳しく非難します。

    演説に先立ち、安倍元総理の逝去に対する弔意のメッセージや、先日開催された国葬儀への御参列など、多くの国々からお寄せいただいた心遣いに御礼申し上げます。

    世界経済は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響からの回復に向けて前進していましたが、ロシアによるウクライナ侵略の長期化や、世界的なインフレ率上昇に伴う金融の引締めなどにより、状況は一層深刻化・複雑化しています。

    これらは、特に途上国において大きな影響をもたらしており、複合的な危機に直面する中で、世界銀行グループ(WBG)をはじめとする国際金融機関(IFIs)の重要性はより増しています。開発支援は個別に行われるよりも連携を通じてより高い効果が見込まれますが、WBGは各主体と連携し中核的役割を果たせる重要なプラットフォームです。世界各国及びWBGが一丸となって、知見や経験を共有し、課題解決に取り組んでいくことが必要です。

    先月、多くの国の参加を得て、国際開発協会第20次増資(IDA20)のローンチイベントをWBGと共に東京で開催し、国際保健、債務問題等の重要な開発課題について、有意義な議論を行うことができました。WBGがIDA20における合意を着実に実行に移すことを期待します。

  2. ウクライナへの支援

    ロシアのウクライナ侵略により、ウクライナは甚大な被害を受けています。

    今後、ウクライナの復旧・復興支援に当たり、国際社会が一丸となって支援するために、WBGが中心となり、各国が効果的・効率的に支援できる枠組みを作ることが必要です。

    この点、WBGが緊急支援のみならず、中長期的な復興も視野に入れてニーズアセスメントを実施し、また、ウクライナ復旧・復興支援基金(URTF)を設立したことを歓迎しており、日本としても早期にURTFに拠出していきます。また、復興段階では、更なる膨大な資金需要が見込まれるため、各国の国内制度も踏まえつつ、国際復興開発銀行(IBRD)による更なる融資支援を可能にする資金動員の枠組みの策定に取り組むことを期待します。

    膨大な資金需要を充足するには、ドナー資金のみならず、民間資金の動員も不可欠です。その観点から、ウクライナの復興に当たり国際金融公社(IFC)や多数国間投資保証機関(MIGA)の役割も重要です。日本は、MIGAの信託基金を通じたウクライナ支援の取組を支持しており、信託基金が設立された際には、日本としても拠出を検討します。

  3. 地球規模の課題への対応

    COVID-19により、保健システム強化の必要性が改めて浮き彫りになり、社会的にも学習機会が失われるなど、今までの開発の成果が後退する厳しい状況となりました。加えて、ロシアのウクライナ侵略により、食料・エネルギー価格が高騰し、世界中の人々の生活に影響を与えているほか、気候変動や債務問題といった従来の危機も、より一層深刻になっています。いずれも、個別国のみで適切に解決できる問題ではなく、WBGをはじめとするIFIsが中心となり、各国と共に立ち向かう必要があります。この複合的な危機に対処するため、日本が特に重視する観点と、WBGに期待する点は以下のとおりです。

    (1)国際保健

    COVID-19パンデミックは、最後の保健危機ではありません。次なる危機の影響を最小限に抑えるため、平時からの備えも含め、WBGが国際保健分野においてリーダーシップをとることを期待します。

    将来のパンデミックへの予防、備え、対応の強化に向けた、より強靱で持続可能な国際保健システムの構築には、資金ギャップへの対処、財務・保健関係者間の一層の連携強化、保健危機が発生した際の対応、の3点が重要です。

    まず、9月に設立した新たな資金メカニズムである「パンデミックに対する予防、備え及び対応のための金融仲介基金(PPR FIF)」におけるWBGのリーダーシップを高く評価します。今後、PPR FIFがより幅広いドナーの支援を得て、IDA等の既存の取組との相乗効果を発揮しつつ、国際保健システムにおけるギャップに効果的に対処することを期待します。日本は、PPR FIFの重要性に鑑み、表明済みの10百万ドルを含めて、計50百万ドルの貢献を行うことを表明します。

    次に、財務・保健当局者間の更なる連携強化に向けて、日本は、G20で議論されている「財務・保健調整フォーラム」の設立を支持します。WBGには、本フォーラムにおいても、財務・開発分野の豊富な知見を活かし、中核的な役割を期待します。

    こうした平時からの取組に加えて、保健危機が実際に発生した際に、迅速に資金を供給できるサージ・ファイナンスの構築が重要です。G7やG20 を含めた様々なフォーラムにおいて、引き続きWBGとも議論していく所存です。

    これらの取組を通じて、日本がかねてより重要性を主張してきたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進を始め、保健システムの強化がなされることを期待します。日本は「保健危機への備えと対応に係るマルチドナー基金(HEPRTF)」や「日本開発政策・人材育成基金(PHRD)UHCウィンドウ」を通じて以前から貢献してきましたが、途上国のUHCを更に推進するため、同ウィンドウに10百万ドルを追加拠出することに加え、HEPRTFへも更なる拠出を行っていきます。

    (2)教育

    教育は保健と並ぶ人間開発、人的資本育成の礎です。COVID-19の感染拡大で加速した学習機会の喪失が、途上国の長期的な傷痕として残らないよう、適時かつ個別国の事情に応じた対応が必要です。

    また、学習機会の喪失は、雇用やジェンダー不平等といった様々な開発課題に悪影響を及ぼしており、これらの問題の解決には、教育のみならず、多面的なアプローチが必要です。複雑に絡み合う問題であるからこそ、様々な開発課題に知見と経験を有するWBGの役割に期待します。

    特に、教育分野におけるデジタル技術の活用は、大きな可能性を持つと考えます。WBGには、積極的にモデルケースに取り組む等、同分野におけるリーダーシップを発揮することを期待します。

    (3)エネルギー・食料問題

    COVID-19により貧困層が拡大する中、ロシアのウクライナ侵略とそれを受けたサプライチェーンの分断によるエネルギーや肥料、食料の価格の高騰は、特に社会的脆弱層に深刻な影響を与えています。これは、WBGの掲げる「極度の貧困の撲滅」に向けた今までの取組を後退させるものであり、WBGが迅速に対応を行うとともに、今回の開発委員会において、短期的な対応のみならず、中長期的な開発効果も重視する提案を行ったことを高く評価します。

    中長期的な開発効果を実現する観点から、日本はIFCを含むWBGに対し、合計20百万ドルを拠出し、中長期的な途上国の食料生産能力の向上、サプライチェーン強化に貢献します。

    (4)気候変動問題

    気候変動問題への対応においては、開発との両立を図りつつ、クリーンエネルギーへの移行時に必要となる天然ガスの活用も含め、各国においてそれぞれの事情を踏まえた野心的かつ現実的な移行の道筋を構築することが必要です。その際にWBGの国別気候・開発報告書(CCDR)が中核的役割を果たすことを期待しており、今後4年間で全WBG支援国のCCDRを策定するというWBGの方針を支持します。さらに中所得国を含めた排出削減を支援することが重要であり、各国がそれぞれの道筋に沿って、緩和と適応の取組を進められるよう、WBGが包括的な支援を行うことを期待します。

     特に、気候変動により自然災害が激甚化する中、最も被害を受けるのは脆弱層や貧困層であり、適応の文脈における防災や自然災害への強靭化は、喫緊に対応すべき課題です。日本は、引き続き「日本-世界銀行防災共同プログラム」や「防災グローバルファシリティ(GFDRR)」を通じて、防災の観点を主流化していきます。更に、強靭性強化の観点からは、日本がかねてより推進している質の高いインフラも重要であり、日本は、「質の高いインフラパートナーシップ基金(QIIP)」、「東南アジア災害リスク保険(SEADRIF)」等を通じて、引き続き支援していきます。

    (5)債務問題

    世界経済が大きく混乱する中、途上国の債務状況が持続不可能となるリスクは一層高まっています。債務への脆弱性が従来懸念されていた低所得国に加え、一部の中所得国も、深刻な債務問題に直面しています。

    低所得国については、「共通枠組」の下、債権者委員会が迅速に債務措置を実施し、予見可能性を与えることが必要です。脆弱な中所得国については、当該国自身による改革努力を前提に、民間を含む全ての債権者とドナーが債務持続可能性の回復に向けて協調して取り組むことが必要であり、マルパス総裁のリーダーシップに期待します。

    また、債務危機を未然に防ぐには、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組が不可欠であり、これにかかるWBGの取組を高く評価します。この分野で高い専門性を持つWBGが、債務透明性に係る分析や債務国に対する能力構築支援をより一層強化することを求めます。

    WBGのこうした努力の効果を高め、途上国が効率的に債務データの透明性・正確性を確保するためには、債権国が債権データをIMF・世銀に共有することが重要です。日本は先行してこの取組を行い、データギャップの克服に貢献しています。日本のみならず、全ての債権国が同様の協力をするよう期待します。

    また、途上国の債務持続可能性の回復と、安定的な経済成長の実現には、債権国による債務措置に加えて、WBG等の国際開発金融機関(MDBs)が新たな開発資金ニーズに応えることが不可欠であり、MDBsはこうした独自の役割に注力することが重要です。日本は、MDBsの役割の重要性について、WBGと共に、関係国の理解を深めていきます。

  4. 結語

    世界が複合的な危機に直面する中、WBGは、様々な分野において財務及び知見の両面から支援することが可能な貴重な存在です。そのWBGが様々な開発課題に対応するために、「MDBsの自己資本の十分性に関する枠組の独立レビュー」の提言を参考に、長期的な財務健全性に留意しつつ、バランスシートの効率的な活用を行うことが肝要であり、今後、合意されたタイムラインに沿って理事会と共に迅速に検討し、可能なものから実行していくことを慫慂します。また、その間、増資の議論は行われるべきではないと考えます。あわせて、民間資金の動員促進も極めて重要であり、WBGがこの点でも大きな役割を果たすことを期待しています。

    マルパス総裁のリーダーシップの下、WBGが、IMFや他のMDBsと連携しつつ、最高の叡智と経験を集結させ、「極度の貧困の撲滅」・「繁栄の共有」という二大目標の下で国際的な課題解決に向けて中心的な役割を引き続き担っていくことを期待します。

    来年は、日本がG7議長国を務める年です。日本は、WBGによる取組を、資金面、政策面、そして人材面で積極的に支援していくとともに、複雑化する世界の開発課題に対処すべく、WBGをはじめとしたIFIsや世界各国との連携を更に深めていくことを、改めて表明します。

(以 上)

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