厚労省・新着情報

日時

2021年(令和3年)4月20日(火) 15時00分~

場所

厚生労働省 職業安定局第1・2会議室
千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館 12階

出席者

  ・阿部 正浩
  ・安藤 至大
  ・大久保 幸夫
  ・鎌田 耕一(座長)
  ・武田洋子
  ・山川 隆一

議題

(1)有識者からのヒアリング
(2)その他

議事

議事内容
○事務局 第11回労働市場における雇用仲介の在り方に関する研究会を開催いたします。本日は中田委員が御欠席、阿部委員が少し遅れてオンラインで御出席される予定になっております。本日は有識者からのヒアリングということで、これまでの研究会で議論になった点などにつきまして、御知見をお持ちの有識者に御出席いただいております。
 はじめに、HRテクノロジーの市況や展望という観点で御出席いただいている有識者の方からのヒアリングをさせていただきたいと思います。慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本特任教授でございます。よろしくお願いいたします。本日は御多忙のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。それでは、岩本先生からの御説明を頂きたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 
○岩本特任教授 よろしくお願いします。慶應義塾大学ビジネス・スクールの岩本と申します。HRテクノロジーの現況と今後の展望ということでお話をさせていただきます。まず、「HRテクノロジーとは」ということで、〇〇テックという言葉は、今、いろいろな領域で使われていますが、HRテックは実は割と古くから使われていまして、米国では2000年前後から使われている言葉です。2000年に商標登録などもされていまして、今、米国では、「HR TECHNOLOGY」という言葉の商標は、LRPパブリケーションズという会社が登録しているのですけれども、その会社でしか使えないということになっており、「HR TECH」は商標権が放棄されていますので、普通名称ということになっています。
 もともとは人事のICTシステムのことを指していますので、そういう意味では、日本の大企業さんはほぼ全て、広い意味で言うと、HRテクノロジーを使っているということにはなるのですが、2010年代に入ってから、第四次産業革命が始まり、毛色が変わってきまして、データサイエンス、AI等々の進化によって人材、人事の領域でも、人材データを活用したアプリケーションがたくさん出てきて、2010年代に入ってからHRテクノロジーの市場が急成長しています。ビッグデータとアナリティクス、AI等の波ということと、もう1つは、システムがクラウド化することで、かなり安価になったということと、コンピューターも進化していますので、ビジネススクールでも、学生などがデータを使って分析して、修士論文などを書いているのですけれども、ノートパソコンでもビッグデータが分析できるということで、割と汎用化してきたということかと思います。
 日本では、2015年3月にgroovesという会社が「HRTech」という言葉を商標登録したのが始まりで、ちょうどその翌月の4月に、慶應義塾大学でHRテクノロジーのシンポジウムをやりまして、それを起点に日本でHRテクノロジーという言葉が広がったというような状況です。
 世界のHRテクノロジービジネスの変遷ということで、初期の頃は記録システム、給与とか勤怠管理といった記録をするシステムでした。だんだんとタレントマネジメント、これはプロスポーツの世界ではよく使われていますけれども、個人、従業員のデータをうまく活用することで最適配置をしたり、育成を効果的にしたりといったところでこのようなものが出てきました。その後、エンゲージメントシステムですけれども、「従業員エンゲージメント」という言葉がありますが、従業員と企業との相思相愛度みたいなのが高まると、企業の業績が高まると言われておりまして、そういったものを高めるシステムです。直近は生産性を高めるようなシステムまで出てきたということで、中身がかなり変わってきたというようなところです。
 大企業さんもかなり参入していますけれども、スタートアップ企業もすごく多いマーケットでして、これは2010年代に入ってから、急激にスタートアップ企業が増えてきたというマーケットです。
 HRテクノロジーには、クラウドのアプリケーションで出されるサービスが多いのですが、アプリケーションベンダーのことは、世界では「HCMアプリケーションベンダー」と言われておりまして、世界の市場調査会社とかは、皆さん「HCMアプリケーション」ということで、市場データなども出しているというところです。
 市場データですが、基本的にはほとんどの調査資料が有料で、勝手にコンテンツを公開できないということで、取りあえず一旦公開されている市場データをここに示させていただいています。Apps Run The Worldという会社が公開しているものです。全体では、30.8ビリオン米ドル、大体1ドル100円とすると、年間3兆円ぐらいのマーケットです。トップ10社で5割弱の市場シェアを持っているのですけれども、大体トップ企業1社で年間3,000億円ぐらいの売上高というイメージです。ここにある会社でも合併は進んでいまして、4位と5位が昨年合併し、ちょっと上に上がってくるというところです。ここで、3位のマイクロソフトはLinkedInを買収しましたので、採用系ですけれども、LinkedInの売上高が入っているということです。
 ただ、この調査データには、インターネットでやっている求人広告の大きなプレーヤーがたくさんいるのですが、そこが余りカバーされていなくて、実は、この3兆円というマーケットはまだ漏れがあるということです。実際にはリクルートグループのIndeedだけで4,000億円近くありますし、それ以外のインターネットのサービスも入れると5,000億円、6,000億円みたいな売上高だと思いますので、全体をカバーしたときには、恐らくリクルートがHCMアプリの世界NO.1だろうなと思っております。そういう意味では、日本の企業も健闘しているということです。
 その中で人材採用領域は、英語では、Talent Acquisitionという言葉が一般的に使われておりまして、TA領域と言われております。これがTA領域のHCMアプリの市場シェアということで、円で言うと、年間9,000億円ぐらいのマーケットです。ただ、この領域でも、求人広告周辺プレーヤーが多く抜けていますので、実際には年間1兆数千億円とか、2兆円とか、そのぐらいのマーケットなのかなと思っております。
 TA領域のHCMアプリケーションも、かなり市場セグメントが細かく分かれておりまして、それぞれの市場セグメント別の市場規模ということになります。Sourcingというのはスカウティングしにいくようなもので、LinkedInとかだと、今、インターネット上に人材のスキルデータとかがすごく出ていますので、そういったものをアナリティクスで分析をして、うちに欲しい人材はここにいるみたいなことを、プロスポーツのスカウトみたいなものなのですが、ここからSourcingしにいくというツールがあったりします。
 あと、Candidate Relationship Managementということで、これはマーケティングと言われていますけれども、人材を採用するためのマーケティング、応募者をこちらに引き付けてくるツールです。あとはRecruitingですけれども、評価をしたり、採用面接をしたりといったところです。それから、Onboardingですが、入社してからの定着化というところのツール、それからApplicant Tracking Systemsというのは、応募者に自動でメールを流したり、いついつ面接に来たとかを管理するシステムです。一番下はContingent Laborと言って、フリーランスとか、正社員ではなくて、パートタイマーとかで人を雇っていくようなそういったツールです。これも同じように求人広告周辺市場が抜けていますので、実際には、もっと大きなマーケットだということです。
 日本国内では、2015年に我々がHRテクノロジーのシンポジウムをやりましたけれども、本当にそこからものすごい勢いで増えていまして、「HR Techナビ」というメディアで出ているカオスマップを見ると、それでも450近くあって、これ以上にまた増えていると思いますので、少なくとも500、600ぐらいあるのだろうと思っております。マップの左の2つの枠が人材採用ということですが、半分近くが採用領域であるということです。人材のマッチングとかは、マーケティングやファイナンスのテクノロジーが割と転用できるというのもありまして、他業界からも、かなり参入しているということです。当然、ほぼ全ての新規、スタートアップで参加してくる企業は職業安定法のルールなどは知らずに、自由競争だと思って参入してきているということです。
 2010年代以降、インターネット等を使ったHRテクノロジーのスタートアップ企業が沢山上場してきておりまして、9ページで色を塗っているのが人材採用のスタートアップ企業です。HRテクノロジーの企業は株価がものすごく高くなっていまして、数年前から機関投資家からの講演依頼がすごく多いのですが、株式市場で最も株価が成長しているのがHRテクノロジー銘柄だということで、どういうところに投資したらいいのかみたいなことを知りたいのだと思いますけれども、そういった講演依頼がきたりしています。
 見ていただくと分かるように、年間20、30億円ぐらいの売上高の規模の会社が割と多いです。人材の業界は紙のメディアも入れて、人材メディア、人材広告のマーケットが年間1兆円ぐらい国内であると言われていて、人材紹介が年間数千億円あるということなので、年間1兆数千億円のマーケットの中で、インターネット等のテクノロジーを使って参入して、年間20億円ぐらい取れば上場できてしまいます。年間20億円ぐらい売り上げるのはそれほど難しいことではないのです。既にある紙とか人手でやっているマーケットにテクノロジーを使うとコストが下がりますので、それで参入をして、年間数十億円ちょっと売上げると上場ができて、いい株価が付くということで、実はものすごく良いマーケットになっているということですので、マーケティングとかファイナンスとかでこういったサービスをやっている会社から見ると、参入しやすく、皆さんHR分野に参入してくるということです。今、上場している会社が10社ぐらい並んでいますけれども、この裏には何百社という人材マッチングをやっているスタートアップ企業があるということです。
 今後、日本で成長が見込まれるHCMアプリケーションということで、一番上は、給与計算とか勤怠管理とか、いわゆる人手でやっている作業をクラウド化するという、これはコストが下がるという話なので、分かりやすい話です。2つ目は、タレントマネジメント、これは先ほどお見せしたように、海外では既にほとんどの会社がやっているのですが、日本はすごく遅れております。ただ、タレントマネジメントの重要性というのは最近、各社が認識し始めていますので、そういったものが伸びてくるだろうと考えております。
 あと、直近多いのは、「ピープル(組織)マネジメント」と書いていますけれども、組織を活性化するようなマネジメントの在り方みたいなところをツールでサポートするということ、あるいは従業員エンゲージメントを高めるためのツールといったものも出てきています。
 最後は、今、個人情報があらゆる業界で厳しくなってきているので、個人情報保護のためのブロックチェーンの管理技術の活用というのが結構やられていまして、これは採用領域もそうですし、ラーニング・アンド・ディベロップメントで、個々人のスキルとかをブロックチェーンで管理することで個人情報をきちんと守るといったものも、最近いろいろな大手さんが、参入してきています。慶應の社会人大学院生が立ち上げたもので、EdMuseというブロックチェーンを使ったマッチングシステムみたいなこともやっているということで、御参考までに、お示ししています。
 日本でのHRテクノロジー活用の障壁ということですけれども、これは人事のシステムだけに限らず、日本では、特に大手企業の人事システムのクラウド化とか、データ活用が進まない状況にあります。これはレガシーからの脱却ですが、オンプレミスのシステムで、縦割りで、あらゆるシステムがつながっていないというのは、人事だけはなくて、あらゆる企業向けシステムがそのようになっているというところです。海外の企業ですと、これをクラウド化にシフトしているのですけれども、日本はなかなかそこの意思決定も進まない。ですから、逆に、中小企業とかスタートアップ企業のほうは、もともとシステムを導入していませんので、最初からクラウドを導入するということで、コストも今は安いので導入しやすいということです。かなり中小企業へのHCMアプリの導入というのが、すごい勢いで今進んでいるというのが日本の状況です。
 そういったこともあって、特に大企業ですが、統合的なHCMアプリケーションというのは、人材採用だけではなくて、いろいろな領域をワンストップで提供するHCMアプリの導入が世界では進んでいるのですけれども、日本では、断片的なHCMアプリの導入でとどまっています。最近は、進んだ所ですと、HCMアプリと財務、サプライチェーンとか、マーケティング、セールス、この辺を全部ワンストップでクラウドで提供するというのも増えてきています。ただ、コロナで日本企業の経営幹部の投資意欲は高まっておりますので、ある意味、コロナをきっかけに、こういったテクノロジー活用というのは進む気配が出てきたということです。
 昨年調査したものの参考でして、日本は、特に企業をビジネス部門と間接部門に分けると、ビジネス部門のDXというのはすごく進んでいるのですが、間接部門、人事だけではなくて、総務、経理、法務とか、そういったところのテクノロジー活用は世界で最下位だということで、その辺のデータもお示ししています。ただ、投資意欲は高まっているということです。
 最後に、HRテクノロジー活用が進むことによるヒトの価値ということですが、ヒトは創造力、クリエイティビティとイマジネーションも含めた創造力を発揮する仕事により多くの時間を割いて、生産性を高め、新たな価値を創造するということです。更に、ヒトの創造力を掛け合わせることによって、個人と個人の掛け算で組織の生産性を高めるということです。あとは、個々人の潜在能力、ポテンシャルということですが、それを効果的、効率的に開発して、継続的に自己超越、自己を成長させていくということが、ヒトの価値としてこれからどんどん出てくるのではないかということです。
 テクノロジーでできることはテクノロジーでやったほうがコストも低いですし、効率的・効果的なので、テクノロジーでできることは、できるだけテクノロジーにやってもらって、ヒトの時間はクリエイティビティやイマジネーションとか、そういった付加価値の高い領域に特化していきましょうということで、それによって新たな価値を創造していくといったようなことかなと思っております。以上でございます。
 
○事務局 岩本先生、ありがとうございました。それでは委員の皆様より、今御説明いただいた内容について、御質問等がありましたらお願いできればと思います。
 
○鎌田座長 岩本先生、本当に貴重なお話をありがとうございました。今日お伺いした話で、日本は世界よりは遅れているのですが、今後HRテクノロジーの活用が進むのではないかというお話でした。とりわけ雇用仲介分野では様々な企業が新規参入をして、非常に活発に活用が進んでいるというお話だったのですが、この労働市場を利用する者は、求職者という観点からも、ルールでも結構ですし、注意点でも結構ですが、こういったテクノロジーを活用する上で、先生の目から見てどういった点が気になりますか。職業安定法などは恐らく余り御存じないというか、余り関心がないような企業も多々あるとは思うのですが、求職者が安心して様々に利用していくという観点から考える上で、先生が気になる点、こういったところに注意したほうがいいのではないかということがあれば、教えていただきたいと思います。
 
○岩本特任教授 恐らく、メディア等々が個人情報の保護の必要性をといわなければ、余り気付かないと思うのです。求職者にとってはいい仕事が入ることが重要なので、「そのためにこのデータを書いてくれ」と言ったら書くと思うのです。そういう意味で、いい会社に入れるのだったらいろいろな所に登録をして個人情報を書いて、個人情報を使うところの許諾もないままやっているような気がします。もし、これから個人情報への意識が高まってくれば、何か懸念点みたいなことを言う求職者も多く出てくるかもしれません。
 
○鎌田座長 ありがとうございます。先ほど個人情報のお話があって、ブロックチェーンを使って工夫できるのではないかということだったのですが、その辺をもう少し分かりやすく御説明いただけますか。
 
○岩本特任教授 これは海外のほうが早く動いているのですが、むしろ個人情報を安心して活用できるようにブロックチェーンを使うという研究は、割とどこのHCMベンダーもやり始めています。先ほどお出ししたEdMuseなどは、アジアの学生を日本に連れてくるような話なのですが、割と履歴に嘘が多いのです。そういったものをちゃんとした証明ということで、スキルや履歴が正しい情報で、情報もちゃんと守られる仕組みということで、ブロックチェーンが結構活用され始めているわけです。採用領域だけではなく、企業の中で使うものも、データを従業員に不利になるような使い方をすると問題になりますので、ちゃんと守っていますということを担保する意味で、企業の中でもブロックチェーンを実装したHCMアプリを使っていこうという意識は高まっているのではないかと思います。
 
○鎌田座長 ありがとうございます。
 
○大久保委員 岩本先生、ありがとうございました。大変参考になりました。HRテクノロジーですが、人事の採用のプロセスはとても労働集約的な作業なので、HRテクノロジーが貢献する部分は大変大きいため、世界的にかなり急速にHRテクノロジーが浸透しているのだと思うのです。日本の場合はまだそれに遅れているので、今後更にHRテクノロジーのサービスというのはマーケットが広がっていくと思うのです。リクルートワークス研究所でも、海外のHRテクノロジーのベンチャー企業の動向などをかなり調べているのですが、毎年、調べる度に顔ぶれが変わっているところがあって、すごく入れ替わりがはげしいというのが特徴だと思うのです。
 つまり、ある程度のシェアを取るまでに何十分の1かに会社は狭まっていくのですが、そこに至るプロセスの中でどうやって求職者を保護するかが難しいと思いますし、もちろん大きくなると逆に、ある程度大資本に買収されて、収まるべきところに収まっていくという傾向もあるとは思います。いずれにしても今まで人材サービス業をやってきたところというのは、求人情報を取り扱う求人メディア関係の会社であったり、派遣や請負業からの展開であったり、もともと地方の中小の紹介業であったりしていたので、人材サービス業を専用でやってきている所が多いですから、職業安定法についても早い段階で認知をして、大体が業界団体に加盟していくというパターンなのですが、それとは全然違う流れがあるのですよね。
 
○岩本特任教授 そうですね。
 
○大久保委員 エンジニアの集団であったり、あるいは専業がない状態で事業の1つとして人材サービス業をやっている所もあるので、今までの考え方がそのままはなかなか当てはまらないというのが大きいのです。そういうときにどういう形でルールを作っていったらいいのかという議論は、なかなか悩ましいところです。1つは、入れ替わりがはげしい状況がある中で、どのタイミングでどうやるのかという話です。もう1つは、そうなったときに最後は個人情報の保護と人権に集約するのではないかかという気持ちもあるのですが、その辺りを先生はどういうようにお考えになっておられるか、御意見を伺いたいと思うのです。
 
○岩本特任教授 おっしゃるとおり、実は私の所にも、いろいろなHRテクノロジーの会社から相談に来ます。採用系の会社から相談がきて、「職業安定法って知っているか」と聞くと、ほぼ100%知らないのです。自由にやれるものだと思っているところがあるのです。そういった意味で、そこをどうするかという話があると思います。
 米国などでは、割とルールがない中で自由にやっていますし、むしろ米国ではデータを活用することで、逆に差別をなくしていくという考えがあります。やはり人のほうがバイアスがかかりますので、「人手が入るよりもデータを使ったほうが差別がなくなります」と言って、皆さんビジネス展開をしている。それに更にブロックチェーンのようなことでちゃんと保護していくと、「個人情報を守っています」ということがうたえますので、逆にテクノロジーで差別をなくす方向にきているのです。
 そういった意味では、大久保委員がおっしゃるように、基本的に、個人情報と人権の話をちゃんと守るというのが前提です。もしルールを守っていないHRテクノロジーのベンダーがいるのであれば、更に厳しくやる必要があると思うのですが、逆に世界的には、データを使うことで差別をなくし、いろいろなブロックチェーン等々の技術を使うことで個人情報を守りますということで、むしろテクノロジーで解決する方向に動いているというようなところがあります。余りルールでガチガチにしてもテクノロジーに追い付かない気もしますから、悪さをしないような緩やかな仕組み、ルールの構築がいいのではないかと思っています。
 入れ替わりのはげしい話は、米国などではM&Aですごい金額で売却できるので、本当にM&Aがはげしいのですが、日本では、先ほど申し上げたように、売上げが年間10億円、20億円で上場できてしまって、創業者は大儲けしてしまいますので、もちろん廃業したような会社もありますけれども、意外と海外ほど入れ替わりははげしくないのではないのではないかと思います。皆さん、まだ生き残っているような感じが、海外市場とは違うところかと思っております。お答えになっているかどうかですが。
 
○大久保委員 ありがとうございました。AIやテクノロジーは、人権や個人情報を守る方向にも働きますし、逆にAIがバイアスを再生してしまったり、新たな個人情報の問題を起こしたりという形の両面がありますよね。
 
○岩本特任教授 そうですね。米国などでは、例えば年齢や性別などは絶対にデータにしないという、ある程度のそういう自主規制みたいなものをやっていたりします。
 
○大久保委員 ありがとうございました。
 
○山川委員 非常に有益なお話、大変ありがとうございました。1つの要素として、AIなどのテクノロジーの手法があるかと思います。もう1つが、ビジネスの対象領域という要素で、TAやそれ以外のHRの要素があり、もう1つの要素が恐らくビジネスの関わり方ではないかという感じを抱きました。
 この点、「アプリケーションベンダー」という表現を使われていましたけれども、アウトソーシングとして企業側に立って何かを委託されるという企業の形態と、仲介ということで、言わば中間的な立場に立つ形態と、正にアプリケーションの売買と言うのでしょうか、サービスの売買という形態のうち、どういうものが主流になっているのでしょうか。あるいは、これは対象領域によっても違ってくるのでしょうか。
 
○岩本特任教授 実は、アウトソーシングは給与の領域で、「ペイロール」と言うのですが、ペイロール領域ではものすごく多いのです。全ての企業が給与計算をしますので、アウトソーシングマーケットでも、かなりマーケットが大きいのです。先ほどお示ししたトップ10のうちの何割かはペイロールのベンダーですけれども、アウトソーシングしている部分をクラウドにシフトしていくことで、今、ペイロールのHCMアプリのマーケットが成長しています。これはまだまだ幾らでも大きくなると思います。というのは、アウトソーシングの分野がまだまだいっぱいあるということです。そういう意味ではアウトソーサーからすると、テクノロジーをやらないとアウトソーシングがシュリンク、入れ替わっていきますので、全てのペイロールをやっている会社は皆さんテクノロジーとアウトソーシングの比率を徐々に変えながらやっているところです。
 仲介も、リクルーティングだと、ダイレクトリクルーティングと言って、人手を介さないものもあります。もう1つは、逆に人手とテクノロジーのミックスですね。例えば、groovesというスタートアップ企業などは求人情報のプラットフォームを持っていて、全国2万人ぐらいいる人材紹介業の人が、その求人情報を使って人が動くという話です。BizReechなどは逆で、求職者のデータベースを持っていて、人材紹介をやっている人たちがそのデータベースにアクセスし、求職者を引っ張ってくるという、そういうミックスのようなものもあります。いずれにしろ人手を使う商売はシュリンクしていっているところです。
 広告も同じで、紙の広告がシュリンクしていっています。ただ、一気にシュリンクするわけではなくて、今徐々に小さくなっていくという感じだと思います。
 
○山川委員 ありがとうございました。
 
○安藤委員 私から1点教えていただきたい点がございます。大企業は遅れているけれども、中小企業でHRテックの採用が進んでいる、又は進み始めているというお話を頂いたかと思います。どうやって中小企業の人がHRテックにアクセスしているのかという入口のところが分からないので、教えていただきたいのです。HRテック側が営業を掛けて回るのか、それとも中小企業側がCMなど、タクシーの中でCMなどが出ていますが、ああいうものを通じてコンタクトしているのか、経営者同士の紹介なのか、どういう形なのか。ハイテクインダストリーの中小企業とかベンチャーだったら分かりますが、町の普通の中小企業でも使い始めているのですか。その辺りお願いします。
 
○岩本特任教授 最近の動きをいえば、銀行法で地方銀行の人材紹介業が解禁されましたので、地銀が人材紹介のHRテクノロジーのツールを担いで、地元の企業に紹介するというのが1つです。あとは社労士も仕事の内容が社会保険労務士法に定めてあって、いわゆる行政手続き的なものはテクノロジーで自動でできるようになったので、実は社労士の既存の仕事が減ってきていて、社会保険労務士法第2条第3号のコンサルティングの仕事にシフトしているのです。その社労士が地元で抱えているクライアントに対して、例えば「こういう人材評価のクラウドアプリを入れたほうがいいですよ」とか、「エンゲージメントのこういうアプリがありますよ」というものを紹介して、導入のコンサルをやっていたりする例があります。
 今はIT導入補助金というものが出ますから、システムの導入、クラウドのアプリの導入でも余りコストが掛からないのです。社労士の人たちはIT導入補助金を使うためのサポートなどもして、「こういうドキュメントを書いて応募すれば補助金がもらえるんですよ」というような話もあったりします。そういう補助金みたいなものは、中小企業庁がやっているかと思うのですが、全国津々浦々に認知させるような活動は、逆に政府のほうがやってくれますので、そういったところで広がっているということです。地元の商工会議所なども地元の企業にそういった宣伝をしているという話もあるかと思います。
 
〇安藤委員 ありがとうございました。
 
○武田委員 私からは3点、御質問させていただきたいと思います。
1つ目は、人事制度とHCMの広がりの関係についてです。統合型のHCMアプリが海外では急速に広がっているというお話を頂いたわけですけれども、海外の労働市場は、一般的にジョブ型の色彩が強く、一方、日本はそうした企業も増えてきてはいますけれども、まだまだメンバーシップ型の企業が多いです。今後、日本で統合型HCMアプリが広がるとするならば、ジョブ型に企業の人事制度の在り方が変わっていき、スキルやタレントマネジメントの必要性、それに基づく評価が求められる潮流が生まれてくると想像していらっしゃるでしょうか。また、そうした動きが既に出ているとすれば、個別アプリよりは統合型アプリに集約していく動きが既に見られ始めているのかどうか、ご教示頂ければと思います。
 2点目は、タレントマネジメントについてです。今の質問とも絡みますが、重要なことは、企業戦略や事業戦略と人材戦略を一体で考えることですが、そのうえで、求めるタレントやスキルを企業自身が明確にし、それに基づくと社員のスキルがどのくらい戦略にマッチしているのか、データベース化していくことで求める人材がどのくらい不足しているかといった使い方が可能なのか。ほかにもタレントマネジメントの使い方や、それに付随した新しいサービスが出てきているということがあれば、御教示いただければと思います。
 3点目は、個人情報保護、プライバシー管理の在り方です。規制やルールよりは、テクノロジーの活用をご提案いただいたのですが、1つのアイディアとして、個人情報保護等に取り組んでいる企業様に、マークや認定を付けていく方法についての御意見を伺えればと思います。
 
○岩本特任教授 1つ目は、おっしゃるとおり、ジョブ型になっていくと割と統合型の意味がすごく出てくると思っております。ただ、日本の大企業の場合、もっとプリミティブな課題があります。海外ではLinkedInに個人の情報を皆さんものすごく書かれていて、スキルもものすごく細かく書かれているのですけれども、日本の大企業の方は、そういうことに慣れていないのです。なので、タレントマネジメントを導入しても、どのようなスキルを持っていてどのような経験をしたかということが書き込めないところがあるので、そこが結構、タレントマネジメントツールが広がらない大きな課題になっています。
 最近は、そこを一気に進めるのが難しいので、個人のためになるツール、例えばラーニングシステムにデータを入れると、いろいろなAIがリコメンドしてくれて、「こういうものを学んだほうがいいですよ」ということをやってくれますが、個人が成長するためのツールのようなものだと、個人が自分の意思でデータを入れたくなるので、そういうところから始める企業が、最近ちょっと増えています。「スキルマップ」と言うのですが、全従業員のスキルデータをマップに入れてラーニングシステムと連結し、個人のためになるような活用をする。それでデータがたまると、ジョブ型と相まって、配置・配属とか、いろいろな所に使えるようになってきます。
 統合型のツールは、先進企業では何社か進んでいます。もうちょっとあるかもしれないのですけれども、日本だと数十社ぐらいが統合型を使っていると思います。しかし、これは海外市場から見るとものすごく少ない数なのです。海外のグローバルな大手からすると、日本の市場はなかなか成長しないなと。日本にいると、1社が「統合型を入れました」と言うと、ものすごいニュースになるのですが、そういうものがここ数年で何十社か出てきたという感じです。
 2つ目がタレントマネジメントで、それが先ほどの回答とも絡むのですけれども、今は割とラーニングとか、エンゲージメントを高めるためのツールから入っていくようなところが多いです。個人の従業員のデータをちゃんと整備した上で、いろいろなことができるようになってくるので、その入口としてラーニングから入っていくことはあります。タレントマネジメントのベンダーでも、統合的にやっているのですが、モジュールを分けて、ラーニングを一生懸命売っているベンダーなどもあります。割と入りやすいということですね。要は従業員のためになることから入っていくというのが、導入のしやすさとしてはあると思うのです。逆に、タレントマネジメントのベンダーも全部をやれるのですけれども、売り文句としては「これが結構いいですよ」というような話で、モジュールとして販売していくというようなことは結構やられているということです。
 3つ目は、厚生労働省の皆さんのほうが多分詳しいと思います。「認可」「認定」「認証」という言葉があるかと思いますが、多分、おっしゃっているような認証等の仕組みというのはいいなと思っています。全国求人情報協会などでもそういうものをやっていると承知していますが、先ほど言ったような採用領域のスタートアップ企業というのは、「職業安定法って何」みたいな話なので、これはむしろ厚生労働省などがリーダーシップを取る、政府が言うと全部網に引っ掛かると思うので、その上で政府の御墨付きの認証みたいなところをやっていくのがいいのかなとは思っています。これは教育の業界では結構やられています。
 米国では、プライバシーを守っているというのを宣言しないとビジネスができないようになっているのですが、そうすると、スタートアップ企業にとってはしんどく見えるのですけれども、AWSとかGoogleとかMicrosoftとかクラウドベンダーが、「うちのクラウドを使ったら、個人情報もセキュリティも守れますよ」というようなサービスも提供していますので、スタートアップ企業でも割と参入しやすい感じで認証していくことは、EdTechの世界では結構あります。同じようなことをやってもいいのではないかと思います。
 
◯武田委員 ありがとうございました。
 
○事務局 それでは時間もまいりましたので、岩本先生からのヒアリングはここまでとさせていただきたいと思います。岩本先生、本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

○岩本特任教授 ありがとうございました。
 
○事務局 それでは、次のヒアリングに移りたいと思います。次は、職業情報の共通言語化という観点で御出席いただいております、三菱総合研究所政策・経済研究センター主任研究員の山藤様でございます。本日はお忙しい中、御出席いただきまして、誠にありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 
○MRI山藤様 三菱総合研究所の山藤でございます。どうぞよろしくお願いします。本日、職のミスマッチ解消に向けた職業情報の共通言語化ということで、お話をさせていただきます。
 デジタル技術普及がもたらす労働需給の変化ということからお話しします。
 デジタル技術普及で職のミスマッチが拡大ということで、足元10年を見越した場合の潮流として、大きく人口減少が顕在化するとともに、デジタル技術、AIやIOT、ロボティクス等の技術が普及するという中で、労働需給がどう動いていくのかという辺りが非常に不透明なところかと思います。技術シナリオを細かく設定した上で、需給がどうなるのかという雇用影響を試算した結果をグラフにしておりますが、縦軸のほうの労働需給ゼロの所がバランスしているというところで、2015年起点でやっています。全体としてのバランスは、2020年前半が不足のピークと拡大が一番最大になった上で、2030年にかけて緩やかに余剰側に転換していくという辺りが予測されているというところです。
 一方で、職業別にブレークダウンした大きな特徴としては、2030年時点では、専門技術職が約170万人の不足というのに対して、事務職及び遅れて出てくる生産・輸送・建設職は100万人単位で逆に余ってくるという辺り、これが職のミスマッチが拡大する形で顕在化するというのが予測の結果です。
 足元のコロナ禍でのDX加速という辺りを踏まえて、改めて予測をやり直したグラフもお示ししています。足元、我々が持っているシナリオのうちの約30ぐらいが前倒しで普及する可能性があるという辺りの雇用影響を改めて試算した結果、この全体としての余剰に転じるのが2020年代半ば以降辺りに前倒しされる可能性があるということです。
 では、どういった能力、人材要件が今後求められてくるのかを、二軸四象限で日本の人材ポートフォリオという形でお示ししております。これはMITのオーター教授等が提唱しているタスクモデルというモデルに基づいて、この二軸でもって職の座標を決めるということをやっております。これは米国O-NETの職業特性データを利用とありますが、ややイレギュラーなことをやっておりまして、米国O-NETの職業別定量データを使って、日本の人材のポートフォリオを描いているというのがこのグラフです。
 先ほどの大きく不足してくるという専門技術職を見ていただくと、この二軸四象限の上側に集中していることがお分かりになるかと思います。これは、これらの職がノンルーティン、非定型・創造的なタスクをより多く含む職ということで、そちらのほうに不足する職が固まって出ていることを示しています。
 一方で、大きく余剰が高まってくるものについては、いずれも下側のルーティン職、これは定型的なタスクをより多く含む職ということになりますが、こういったものが下に集中していて、全体でいうと8割ぐらいがルーティン領域に存在するというのが現状だということです。ここではリスキリング等を通じて、上側のノンルーティンの領域へのシフトが必要になってくるということが言えるかと思います。
 それについて次のページです。これは、細かなワンノッチ・キャリアシフトが職のミスマッチを解消ということで、一足飛びで下から上の象限に飛べるかというと、実績データなどを眺めてみても、そこはなかなか希な現象になっているということで、今いる立ち位置から細かなリスキリングを通じて上に上がっていくようなことが求められてくるのであろうということです。これは、人材移動シミュレーションのような定量的な枠組みを持ち、どういう形で上がっていけるか、どう上がればミスマッチが解消できるかという試算をしたところ、年間500万人規模で拡大、この一歩一歩のワンノッチ・キャリアシフトが実現できれば、先ほど申し上げたようなミスマッチというものがおおむね解消できるであろうという試算結果を得ているところです。
 次にミスマッチ解消に必要な「FLAPサイクル」をお示ししています。弊社が提言しているFLAPサイクルですが、このミスマッチを具体的に解消する上で、知る・学ぶ・行動する、そして活躍するというステップが回るような形にしていくということが必要であろうということです。
 では、どういう形でミスマッチ解消をできるのかという辺りを、職業情報の観点で御説明しているのが次のパートです。
 まずは現状として、日本の労働市場における職業情報共有の状況と課題と書いておりますが、結論から申し上げると、求職者のキャリア選択に必要な情報が不足しているということです。模式図では求職者と求人企業で間に雇用仲介事業者を並べていますが、まず、求人企業のほうから求人情報に必要なスキル要件が明確に提示されないような現状があります。更に、そこで情報の媒介をする仲介業者において、それぞれのスタンダード、体系でもって、分断された形で情報を蓄積・開示しているというのが現状かと思います。結果としては、求職者と求人企業の間で情報の非対称性が発生するということで、求職者にとってよい状況とはいえないのではないかと思います。
 それでは、どういった情報が必要になるのかという辺り、先ほどのFLAPサイクルに沿った形で、こういう情報が共通言語として準備されていくべきであろうかということをお示ししております。まずは、このステップに沿った形でいうと、「知る」につきましては、まず進むべき方向を示すということ。これは、先ほどのタスクモデルでいうと、二軸四象限のこちらのほうに動いていくべきだよねと、こういうスキルが求められてくるという辺りを明示するということが必要であろうと。明示した上でスキルギャップが生まれた、このスキルギャップを埋めるための学びは何なのかというものを、タスク及びスキルに紐付けて提示するという辺りが必要になるだろうと。更には、キャリアパスを示すというところで、具体的に今いる立ち位置から求められる所へ、どういうパスでもって動けるのかという辺りを定量的にお示しするということも必要と思います。最後はキャリアシフトの成果を示すということで、こういった学びや動きをした結果、どういう成果が得られ、どういう報酬が得られるのかという辺りを明示化することで、動く者にとっても、リスクを取って動くというモチベーションが出てくるという辺りも必要になります。この辺り、大きく4つの領域の情報が流通すべきだということです。
 次のページは、具体的に最低限度の労働市場に必要な共通言語は何なのかを、これまで御紹介している米国O-NETの事例という形でお示ししています。大きく2つの分類に情報を分けております。まずは、職業にかかる標準的なタスク構成・活動内容ということで、米国O-NETの事例ですが、大体、職ごとに20ぐらいのタスクを記述していて、かつ、タスクごとに、その職との関連度合いというのを数字で示しており、かつ、ここは重要ですが、職業横断的な活動内容とタスクとの紐付けということで、各タスクが職で閉じる形ではなくて、職業横断的に、同じタスクであれば紐付けられていることが重要なポイントかと思います。
 2つ目は、職業を横並び比較できる共通尺度ということで、これは大きく仕事に関する定量情報と人材に関する定量情報との2つに分けられておりますが、それぞれが各職について複数の項目、これも横並び比較できるような形で数値化されるという辺りが必要になってくるかと思います。ちょっとイメージが湧きづらいところがあるかと思いますので、こういう共通言語でもって、どういう形で可視化ができるのかイメージを持っていただくための簡単な事例を御紹介させていただきたいと思います。
 まずは、人材の可視化ということで、先ほど冒頭に御説明した二軸四象限と同じようなものを、今回は2019年の米国の人材ポートフォリオという形で、米国の情報に基づいて可視化しております。このオレンジ、青、緑、灰色という形の色分け自体が職種分類になっていて、これは先ほどと同じです。こういったものを左側にお示ししているO-NETデータにおける職の特性テーブル、これは7つ並べておりますが、これ以外にも定量情報がある中で、今回、定量化に使ったこれらの特性テーブルから、縦軸・横軸に適した変数というものを、縦軸については16個、横軸については9つという形で、説明変数を統計的な手法でもって選んだ上でウエイト付けをして二軸に落とし込むということをやっています。こういう形で、各職の特性に応じた座標がどこなのかということが可視化できます。
 そこで一歩進めて、各職について1つではなくて、職を構成するタスクを分解するということも可能になっています。こちらは、先ほど申し上げた職種横断的なアクティビティの情報というものが目下、2,067あるということですが、2,067タスクアクティビティ別のブレークダウンという形で、同じく座標で決められると。次のページですが、こうした情報を用いて、例えば具体的にセキュリティ管理スペシャリストという職を選んだとすると、そこに係る職の座標というのが、ちょっと小さいですが、右上のほうに黒丸を打っている所、これが職に係る座標になると。それに対して当該職を構成するタスクが同じように分解がされて可視化できるということで、ここでは14のタスクにブレークダウンされる形で可視化できると。右上の象限の職であるにもかかわらず、いろいろな象限にタスク自体が分散するのだという辺りを見ていただけるかと思います。
 次のページです。例えば、具体的な人材について見た場合、右上のほうの4つぐらいのタスクについて目下、人材が備えていないということが分かりましたとなった場合に、ピンポイントに、そのタスクというのはどういうタスクであって、次のページですが、例えば赤色の部分、これはデータ解析であるとかリスクの評価、その辺りについては、社外の研修でもってリスキリングしてスキルを獲得すると。同じように、黄色やオレンジ色の部分のコミュニケーションに係るタスクについては、例えば、OJTで対応しようという形で、タスクに応じたスキルをピンポイントに学びと結び付けてリスキリングを行って、少しずつ上に上がっていくようなことができるという、これは一つのイメージの御提示ですが、こういった形、可視化することで定量化して横並び比較できるという辺りができてくるだろうと。
 例えばセキュリティマネージャーという、次にランクアップするような職のイメージを重ねて映し出しておりますが、今のセキュリティスペシャリストから、どういうタスクを獲得すればマネージャーに近いタスク職に移れるのかという辺りを、一歩一歩細かくリスキリングを通じて上っていけるイメージを持つことができるというようなイメージです。
 続いて最後のパートです。こういった職の共通言語は、どういった形で整備ができるのかという辺りの少し具体的な御提案をさせていただく部分です。ここで3層の構造という形で職の共通言語化を進めていくべきだという辺りを書いております。日本版O-NETについて、これは、国が整備するようなやや粒度の粗い職業情報フレームワークを提示するという機能を第1層に位置付けると。これらのデータをそのまま個社が使うというイメージではなくて、間に入ってくる産業・職業別職務/人材要件とありますが、間に立つ団体が、それらを各業界/産業別にブレークダウンをして、やや細かな職に落としてあげるという辺りの機能が必要であろうと我々は考えているところです。
 御提案としては、右に囲まれている2つです。まず、1つ目のほうの御説明をいたします。「職の共通言語化」を意識した取組強化とありますが、私どもとして申し上げたいのは、O-NETの根源的な価値は質の高い職業情報データベースであるということで、このサイトの使い勝手自体が非常に重要です。ただ、それ以前に、やはりデータベースとしての価値というものを高めていくべきだということで、いろいろな課題を持っているのかなというように考えております。具体的に4つ並べておりますが、例えば、職業分類の一貫性・網羅性の確保ということで、現在、O-NETは525の職業について情報を持っているということですが、厚生労働省の892の職種に対しての紐付け可能か言うと、半分ぐらいのカバレッジになっているわけなのですが、そういったものを今後どういう形で整備していくのかという点では網羅性あるいは一貫性というところが求められると思いますのでここの一貫性を持たせる形で管理をする必要があるということです。
 2番目としては、先ほどから申し上げている職業横断的な情報の整備ということで、そこの最たるものとしては、先ほどの詳細活動内容(Detailed Work Activities)、この辺りの米国O-NETに備わっているものが今の日本版O-NETにはないという状況です。先ほど御説明したような可視化というものを進めるためには、やはり横断的な情報をいかにそろえていくかという辺りが非常にクリティカルになってくると考えております。
 3つ目がデータベース更新ポリシーの開示ということで、先ほどの525の職業を今後どういう形で膨らましていくのか、どこまで細分化するのかと、あるいは中のテーブルについては、これについてこういうタイミングで整備していくといった辺りの方針のポリシーを今の時点では明確に示されていないということがあるので、その辺りも明示化するということは、データベースを使う側からすると非常に重要になってくるということだと思います。
 最後に、その他の職業と情報との連携強化とありますが、これまで、厚生労働省の調査をはじめ、「職業能力開発基準」等々、非常に有用なデータはそろえていらっしゃるのですが、それをデータとして紐付けて分析するような形になっていないという辺りがあります。この辺りはデータを使う者が使い勝手が良くなるような形、いろいろなやり方がありますが、正規化・構造化するという形で提示をするということが求められるということです。
 今御紹介したのは、ごく一例ですが、場合によっては、データ解析と職業分析等々の専門家を集めた上で、例えば、技術諮問委員会のようなものを設立して、定期的にO-NETの質を改善していくような御提案というのもあるのかなと考えております。
 次に、日本版O-NET普及を促進する民間情報の活用ということで、間に立つ団体が橋渡しをするようなところが重要だと先ほど申し上げたところですが、これは、我々が民間企業さんとも話をして、O-NETのポテンシャルは高いですよということで申し上げるのですが、どうしても実際に使う情報としては、どう使うのかということもよく分からないと、正直、なかなか利用の意欲がが高まっていないなと考えているところです。それをやるためには、やはり個別の企業に落とす前に、中間的な業界なら業界団体、あるいは職能団体というところが、その各業界特有の職務などを、やや細かくブレークダウンしてあげて、それを個社につなげるということが必要になってくるのだろうと考えております。そういうことが行われることによって、結果的に、最終的には求職者にとってのメリットにつながるのだという辺りは、是非、民間の情報をいかに活用するかということを考えて検討をしていく必要があろうというように考えております。
 最後のページは参考ですが、具体的に中間的な団体がどういう試みをしているかという事例です。JTAG財団という略称の日本サイバーセキュリティ人材キャリア支援協会、これは今年の1月に、「VisuMe」と書いてあるサービスを立ち上げて、情報セキュリティ業界における人材の可視化ということで、具体的にサービスをカットオーバーされているということです。注目されるのは、セキュリティの専門人材のみならず、例えば、総務、法務、人事等の本務を持ってらっしゃるけれども、少し情報セキュリティの知識を必要とするような、そういう人材は「プラス・セキュリティ人材」と呼ばれているらしいのですが、そういった人材も含めたアセスメントをやろうと考えてらっしゃいます。他業界、あるいは情報セキュリティの本丸でない所の人材をいかに引き入れるかみたいなことを考えていらっしゃるということですが、それをするためには、足元の日本版O-NETにつながってはいませんが、他業界からのつなぎ込みに日本版O-NETのような、より上層のデータが整備されることは非常に有用だろうというように我々は考えているところです。
 最後に、まとめです。まず、コロナ禍のDX加速に伴って職のミスマッチが前倒しで顕在化する可能性があるということで、ミスマッチ解消にはワンノッチ・キャリアシフトという細かで継続的な学び、リスキリングが必要だということ。それをするためには、FLAPサイクルを実現する、そのために「職の共通言語化」が必要になるだろうということ。具体的な提案としては2つです。1つ目が、日本版O-NETは、「職の共通言語化」を意識した取組強化、データベースとしての価値強化を図っていただきたいということ。2つ目が、日本版O-NET普及促進のために民間情報の活用をということです。
 私からの御説明は以上でございます。
 
○事務局 山藤様、ありがとうございました。それでは、ただいま頂きましたご説明に対しましての御質問等がございましたら、お願いできればと思います。
 
○鎌田座長 本日は大変貴重なお話、ありがとうございます。今のお話の中で、求職者に対してどのように必要な情報を提供するかということが非常に大切で、とりわけキャリアシフトと言いますか、キャリア展開する上でどのような情報を提供するかということが大切だと。それも職と結び付けてタスクまで細かく区分できれば良いと思いますけれども、そういった色々な情報を結び付けて説明していくことが大切だと私は伺いました。そうした場合に、具体的に企業における新卒採用と中途採用では、どちらかというと中途採用のほうが多いと思いますが、例えば会社内での研修のあり方、社外研修あるいはOJTのあり方、それから異動、採用する方のキャリア展開についての情報といったものが、今のお話だと必要になってくるのかなと思いますが、その点についてどのようにお考えかということが第1点です。
 もう1つ、職の共通言語化ということで、とりわけO-NETの活用ということを御説明いただいたと思いますが、具体的にもう1つ、ジョブカードの活用ということも厚生労働省は進めていまして、様々な形で、単に労働市場における需給マッチングだけでなく、社内での活用ということもうたっていますけれども、そのジョブカードで職業の評価ということもあって様々な工夫がなされていると思います。このジョブカードの活用、あるいはジョブカードの意義と言いますか、こういった職の共通言語化を進める上でどのように評価されているか、それをお聞きしたいと思います。
 
○MRI山藤様 ありがとうございます。まず、今日、御説明したような日本版O-NETを中心としたような職業情報の共通言語化というところ、これは様々な用途があるのかなと考えています。一番典型的なところでは外部の労働市場における共通言語化ということで、転職などを考えていらっしゃる求職者に必要な情報を提供し、彼らが持っているスキルを棚卸しして、求人企業が必要だと思っているタスクも棚卸しをしてマッチングをするというイメージが、一番典型的なところなのかなと考えています。
 ただ、一方で、そういった情報というのは外部の労働市場のみで有効かというと、それだけではないだろうということで、むしろこういった日本版O-NETが活用されるきっかけになりうるという辺りで申し上げると、例えばタレントマネジメントシステム等が、今、ジョブ型雇用みたいなところで少し動きが出てきている中で、大企業中心に採用がされ始めていますから、内部の従業員の教育研修であるとかスキルアップに紐付けて、データを活用するみたいなところにも有用なのであろうと考えています。そういう意味では、最終的、理想的なイメージで言うと、内部の労働市場、企業の中での研修、学び等につなげるというものと、場合によっては外からの人材を獲得するみたいなところ、そこを同じような目線、同じような体系でもって可視化をして、人材ポートフォリオを企業において作っていくみたいなイメージが最終的には出てくるのかなと考えています。ただ、一足飛びにそういう状況に持っていけるかというのは、多々、課題があるのかなと思いますけれども、最終イメージはそういったものを我々は考えています。
 2点目で、ジョブカード等、その他これまで生み出されてきている各種のサービス、厚生労働省の試みがあるわけです。先ほど職業能力開発基準についても若干触れさせていただきましたが、それらいずれについても情報としては非常に有用だろうと我々は考えています。ただ、そういったものを民間の事業会社とか求職者が使いやすい形で提供されてきたのかどうかという辺りが、1つポイントになるのかなと思っております。これは我々のようにデータを解析するような立場からすると、データを使いやすい形、分析しやすい形で提供されるのかに目が行ってしまうのですが、それ以外でも各業界、各職種について使いやすい形で、それらの情報がいつでも提供されるような形になっているかどうかと言うと、多々考えるべき点があるのかなと我々は考えています。そういったところでのユーザビリティを高めていくことが、まずもって必要なのかなというのを我々は評価させていただいているところです。
 
◯鎌田座長 ありがとうございます。
 
○阿部委員 先ほど鎌田座長からもありましたけれども、これまでこういった話というのは何十年も前から出てきては消え、出てきては消えというのを繰り返していたと思います。私自身も20年ぐらい前にイギリスのNVQを調べに行ったり、30年ぐらい前にはフランスの職業バカロレアとかいろいろ調べてきました。日本ではなかなかそれがうまくいかなくて今に至っていて、今日、お話いただいた日本版O-NETも活用できたらいいなとは思いますけど、実際のところなかなか難しそうだなと思います。先ほど、ユーザー側に使いやすくしたらどうかということをお話いただいたと思いますが、具体的にどのようにしたらもっと使いやすくなるのかというのを、お聞きできたらと思っています。
 今の話に関連して、求人情報を取ってくる営業マンの人たちというのは、実は企業の人事担当者から、こういう人材を募集したいんだと言われ、それを言語化するのがものすごく大変だという話をよく聞きます。多分、O-NETの情報を企業に見せたとしても、ここに当てはまります、こういう人材ですというのはなかなか至難の技ではないかと思うのですが、どういうふうにやったらうまく普及していくのかというのを、もし考えていらっしゃればお話いただきたいと思います。
 もう1点は、最初に出てきたミスマッチの話です。ミスマッチというのが、今日はどちらかというと需給のミスマッチのイメージかなと思っているのです。需給のミスマッチも問題ですけれども、一番大きい問題と思っているのは、いわゆる職場環境とのマッチングというのでしょうか、給与とか労働時間など職業構造だけでは説明できないような環境ですね、こっちのミスマッチというのも結構大きいと思います。現実に需給のミスマッチが問題なのか、それとも具体的な仕事と人のミスマッチが問題なのかというのは分けて考えないといけなくて、需給の話だと今日のストーリーというのはストンと落ちてくるのですが、職場のミスマッチとなると今日の話では解決はなかなか難しそうだと思います。職業紹介と言うと両面でやらないとうまくマッチングには至りませんので、その辺りをどのようにお考えになっているのか。あるいは、どちらのほうが比重としては大事なのかというのが質問というか、お考えになっているかということをお聞きできればと思います。
 今日のお話で出てくるのは、多分、大企業中心の職業構造のお話ではないかと思いますが、中小企業で仕事をしている人たちはざっくり言うと7割から8割ぐらいで、大企業で働いている人は2割、3割です。むしろ重要なのは7割とか8割の中小企業で働いている人たちのマッチングを、どのようにうまく効率的にやっていくかというところがあると思います。これに対してどのようにお考えなのかお聞かせいただければと思います。
 
○MRI山藤様 ありがとうございます。4つ御質問いただきました。まず、今日御提示したような定量情報は似たようなものが各国でも出てきていますし、日本でもこれまでの歴史の中でいろいろ出てきていて、これまで使われてきていなかったのが現状であろうというのは、そのとおりだろうと思っています。当然、今回のO-NETが何か劇的に違うものであって、それが急遽使われるようになるかというと、そこは望めないというのもおっしゃるとおりだと思います。そういう意味では、情報が提供されるということや、先に申し上げた職業の共通言語というのは1つの側面、1つの要素にすぎないわけであって、全体として足元に出てきているようなジョブ型雇用の流れであるとか、現行の雇用システム全体というものが違う形になっていく動きが表われて、そこで初めて情報が活用されるということかと思いますので、情報そのものが基点になるとか、それが決定的な一打になるということではないだろうというこ思います。
 そういった上で、どういった形で使い勝手がよくなるのかということですけれども、1つ申し上げられるかなと思うのは、足元、デジタル技術の革新が進んでいるということで、これまで扱えなかったようなタイプの情報も組み合わせられれば、組み合わせることによって、いろいろな分析、解析が可能になってくるところはあるだろうと思っています。20年前はできなかったことが、今はできるようになっていることが少なからずあろうということ。それを使いやすい形でデータとしてまとめ、そういうスキルを持って解析ができるような所に提供するような民間サイドのほうがサービスとして立ち上げられる情報として提供するというのは、1つあるのではないかと思います。それをやることによって使われ出す1つのきっかけになるのではないかということです。例えば非常に小さな事例で言うと、APIで接続してデータの吸い上げが簡単にできるようにするとか、そういった辺りは細かいところですけれども、比較的使い勝手を上げるという意味では意味があるかと思います。そういった細かなユーザビリティの向上の施策を積み上げることで、民間のほうでこれは使えるという気運が少し高まってくるのではないかと考えています。
 求人情報が実際の企業の中で具体的に使われるイメージが出てくるのか。ここは正直、我々のほうでも民間企業と話をして、この日本版O-NETのことを聞くと、このままではなかなか使い勝手がよくないという第一声が返ってくることが多いです。ただ、そこにつきましても、先ほど申し上げたように、このデータを生かすことができるような主体というのは、おそらく民間企業、各事業会社ではなく、間をつなぐようなサービスを提供する会社が出てくるのだろうと。そことつなげることで、企業そのものがO-NETを使うということではなく、そういったサービスを活用することでミスマッチを埋める、あるいはマッチングするのにつなげていくことになるのではないかという辺りを、我々は考えているところです。
 ミスマッチについてですが、我々は需給のミスマッチという形で語っていて、ただ、一方で需給の単純なミスマッチでは解決できないような職場に係る諸々のミスマッチ、これは職業環境であるとか勤務地であるとか給与であるとか、従来からミスマッチの源泉になっているようなことはたくさんあると思います。今回、御提示したタスク、スキルといったものでもって全てが説明できるかというと、それも全くそういうことではなく、ごく一部であろうということです。ただ、1つ申し上げたいのは、日本の労働市場においては職についての比較的ベーシックな情報について、これまでなかなか語られてきていなかった、あるいは比較可能な形で情報が提供されていなかったところはあるかと思いますので、そこをまず埋めてあげる。その上で、むしろそこがそろってくると、それ以外の定性的な情報も多々あるところを、正に各社が独自のやり方でもって取り込んでうまくマッチングさせるような、別の部分でのサービスを提供するという組合せになるのかなと考えています。
 最後に、中小企業においてどういう形で活用ができるかですが、おっしゃっていただいたとおり、今、我々のほうで考えているところの多くは大企業向けのところから始まるのかなというところはございます。ただ、例えばシニアの人材をどう活用するか。ここは大企業のみならず、外部の労働市場においてどういう形でこういう定量的な情報、要は求職者のタスクを棚卸しして、スキルを棚卸しして求人企業とつなげるかみたいなことはあるかと思います。その辺りは大企業のみならず、これは使いようというか、どう組み合わせて提供するかというところのアイディアは、ありうるのではないかと考えている次第です。以上でございます。
 
○阿部委員 ありがとうございました。
 
○大久保委員 ありがとうございました。私も阿部委員と同じように、何か雇用仲介事業がこういうフレームを持てたら、ミスマッチの解消につながるのではないかという思いもあって、いろいろ実験も含めてやってみたということがありましたが、最終的に大きな2つの壁にぶつかってしまって断念してしまったので、その2つの観点についての御意見を伺いたいと思います。
 1つは、日本の企業はジョブ型ではないので、ジョブディスクリプションを書いていませんから、実際に求人広告に出てくる職種名を見たとき、同じ職種名で語っていても実際にやっている仕事が違うのです。逆に同じ仕事を違う職種名で語っているところもあって、この全くそろっていない状態だとスタンダード化するのが難しい。これは実際の求人企業の職種名と仕事内容の分析をしたことによって、そこが壁だなというふうに思ったのが1つです。
 もう1つは、日本の標準職業分類と求人で使っている職業インデックスが全く違うのです。実際に標準職業分類の会合に呼ばれて、私もいろいろな意見を申し上げたことがあったのですが、そのときに比べてみたら営業職の領域が全く違う、エンジニアの領域が全然違う、サービスの専門職系のところが全く対応しないというのがあって、これは求人でいくと実は求人数が一番多いところなのです。そこのところが日本の標準職業分類の中分類まで遡っていっても合わせようがない。それで断念したというのがあって、それが私の感じた2つの壁で、そのところで実は諦めてしまう感じです。私はそのときに、能力開発とかスキルトレーニングには、ある程度使えるところはあるけれども、マッチングでは無理だというふうに思ったのです。そのときの2つの壁というのは今も変わらないような感じがしていて、そこについてどんなふうに御覧になっているか伺いたいと思います。
 
○MRI山藤様 ありがとうございます。我々も日々、職業関連の情報に接する中で、大久保委員が考えられていることと全く同じような壁にぶつかっているところがあり、全く同じような気持ちでございます。実際の足元で言うと、Webにあるような情報をクローリングしてきて、それらの求人情報を機械学習等で分類してみるようなことを通り一遍やってみたところで、例えばO-NETみたいな分類と紐付けられるような形できれいにソートできるかというと、そういうことはできないということです。仮にできたとしても、その裏側にある仕事の実態と紐付いているかどうかも分からないということなので、今の、現状ありきではマッチングにつなげるのは難しいというのは、おっしゃるとおりかと思います。
 ただ、ここも希望的な話も含めて、最近、例えば民間で出てきたサービスの中で求人票の書き方を評点化してあげる、点数を付けてあげるといったサービスが出始めています。こういう形で求人票をしっかりと書いたらば、求職者は自分の持っているスキルと結び付けられるような、そういった形で求人票のフォーマットを整備することはあるかと思います。これも取り組まれてきているところは多々あるかと思いますが、そういったところはジョブ型雇用でやや流れが出てきている中で、改めて書き方というものを体系化していく流れが作れれば、徐々にきれいなデータが表に出てくる形になるだろうと思います。そこの気運というのは、やや高まってきているのではないかと思っているところはございますので、言い続けることによって、その体系で皆さんが求人票を出してくれるところに少しでも持っていくことが必要かと思います。それをやった上で、初めてこういったO-NETみたいな情報が有用性を持つというところになると思います。
 2点目につきまして、営業職、エンジニア、サービス等の職業分類、これは求人票の中での分類と標準的な職業分類とで全く乖離しているというのは、そのとおりだと思います。民間での職業分類は厚生労働省の標準の分類と比べても大きく違っていて、サービス業であるとか専門技術職など、そこら辺の細分化の度合いが全然違うのです。そういった中で両者のマッチングみたいなものに非常に苦労しているわけですが、そこは要するに今の民間というか、労働市場の実態に合わせた形で分類が変わらないとどうしようもないと思っているところはございます。そこは一朝一夕でできることではないと思いますが、労働市場にいかに合わせた形で細分化して組み替えていくことができるかというのは、1つポイントなのだろうと思います。そういう意味で言うと、米国のO-NETみたいなところも職業情報が変わってきていますけれども、これもある程度の粒度でとどめている状況で、それを更に細分化するのは民間企業のほうでやっているような状況もあります。そういった形の役割分担みたいなところも可能性としては1つあるのではないか。一定程度の粒度で日本版O-NETのほうも分類はとどめる。そこから先は民間に任せたよという形で、やり取りはしつつ、接点は持ちつつ役割分担をするという辺りは一つ考えられるのかなと思っています。以上です。
 
○大久保委員 ありがとうございました。
 
○山川委員 非常に有益なお話、ありがとうございました。共通言語化の御提案を非常に興味深く伺いました。特に3層構造の図が非常に印象的だったのですが、1つは、2番目の層の所で業界団体とか仲介事業者も巻き込んだ形での共通言語化の落とし込み、あるいは吸い上げかもしれませんけれども、もともとのおっしゃった目的が、ある意味、日本の経済の活性化というか労働市場の質を高めるというところが基本であったかと思います。業界団体とか仲介事業において、それに貢献するようなインセンティブをどうやって作っていけばよろしいでしょうか。非常に志の高い仲介事業者ですと、日本の労働市場の質を高めるという使命感を持って行動されるかと思いますが、基本的にはミクロのマッチングに関心を持つ事業者が特に中小では多いかと思います。こういった中間的な団体とか仲介事業者の持っているノウハウは非常に重要だと思いますので、これを組織としてというか、2層目の位置付けをするためのインセンティブというのは何かあるのか、あるいは、どういう音頭取りをすればいいのかというのが1点です。
 2つ目ですが、企業のほうでもジョブ型のお話で少し変わってきているというお話ですけれども、現在の企業に対して何か働きかけをする必要がないか。公共的な観点からすると、より労働市場が活性化するような形で、企業特殊的な言語のあり方についてそもそも考え直してもらうように、法律で強制するということではないですが、企業側に少し変わってもらうようなことはできないのだろうか。その点、ジョブ型雇用と言うときは採用と解雇にばかり焦点が当たっているようですが、企業の実感としては、むしろ内部の人材マネジメントとしてのジョブ型、ジョブ型の組織管理のようなことのほうが有益かなという感じもしています。その辺り、企業のほうに対する何らかの働きかけも考えられるかについてお伺いできればと思います。
 
○MRI山藤様 ありがとうございます。1点目ですが、この3層における真ん中の部分、第2階層において仲介役になろうという機関について、どう仲介役になるようなインセンティブを高めていくのかというお話ですけれども、正直、なかなか難しいところがあるかと思います。各雇用仲介事業者は、基本的にミクロの所でマッチングすることで収益を得るということなので、そういう意味ではマッチングの数を稼いでなんぼというところは正直あるのかなというのはございます。ただ、これも1つの方向性で実現可能性がどこまでという話はあるかと思いますけれども、要はマッチングをした後のフォロー、そこで活躍できたのかどうか。FLAPサイクルで言うと最後のPの所までをデータで押さえていく。あるいはデータで押さえた上で、その事業者に対する評価の軸として持って来るということができれば、要はここの事業者に任せてマッチングをしたら、マッチングした後で活躍できているよということの評判につながるわけで、そういったことが仮にできれば、そこのマッチングというか、その後の活躍度合いというものを1つのKPIとして事業者が活動を始めることになるのかなというところもございます。そういう意味で、今、一旦外部の労働市場でマッチングが終わって、内部に入ってしまった時点で情報が切れるわけですが、そこを何とか結び付ける試みも必要になってくるのかなというところがございます。
 もう1点は、仲介事業者でなく、正に業界団体であるとか職能団体という辺りについては、より中立的な立場でつなぎ役として活躍する辺りのインセンティブは、端から持っているところはあるかと思います。そういったところが業界として必要なスキルが何であって、それをどういう形で学びとして提供できるのか、スキルの標準化と共にやることによって、業界として全体が発展するのが見える形であれば、業界団体もそういうことに汗をかいていただけるのではないかと思います。御紹介させていただいた情報ネットワークセキュリティのVisuMeというサービスは、そういったところを目論んだ形のサービスなのかなと考えていますので、中間的に役割を果たすのは業界団体、職能団体等も1つポイントになるのかなと考えています。
 もう1つ、企業に対する働きかけですけれども、これも御指摘いただいたとおりで、経営戦略を人材戦略と連動させる形で各企業の人材ポートフォリオをそれに沿った形で作っていく。それは絶えず技術は動くわけですから、それに沿った形で戦略も動けば人材ポートフォリオも動いていくというのを連動して考え、そうしたことをすることで人的資本を高める。人的資本を高めるための経営というのは非常に重要性が叫ばれてきているところでございます。そういったところに資するための情報、これは従来の企業特殊的なスキルでは立ち行かなくなっているので、より一般的な人的資本に係るような情報、これはスキルが必要だよねというコンセンサスも徐々に得られてきているだろうと思います。それをつなげるために、こういった日本版O-NETのような、内部、外部をつなぎうる体系が必要だということも、それもつながった結果として、重要性が高まってくるようなところはあるのかなと思っています。そういったところを地道に訴えかけていくという辺りも、一つ我々がやっていくべきことなのかなということも含めて考えているところでございます。
 
○山川委員 ありがとうございました。
 
○武田委員 皆様がおっしゃったとおり、この話は長年続いており、私も同じ思いでおります。ただ、20年前から変わってきた点として、3点ございます。
 1点目は、日本の労働市場がようやく変わりつつある点です。欧米のジョブ型には程遠く、日本の様々な慣行はこれからも続くと思いますけれども、一方で、日本企業の間でも人材管理として、職務やミッションを明確にする動きは広がってきていると思います。その背景には、日本企業も真剣に経営戦略と人材戦略をリンクさせていかないと、生き残れない時代になったことがあります。無形資産である人材戦略を経営戦略の中心に据えて考えなければ、世界において日本企業が戦っていけない時代になった、それに経営者も気付き始めたという時代の変化は大きいと思います。
 2番目はテクノロジーです。ビッグデータを扱えるようになったことは非常に大きいと思います。データをエンド・トゥ・エンドでつなげるようになっていますので、デジタルの力を使えば、より良い社会の構築を実現できるようになっています。より良い社会を実現するためにデータを使うとの共通意識を持って官民が連携できるかは大きな課題ですけれども、例えば、ブロックチェーンなどをうまく使えば、個人情報保護も可能になっています。
 3点目は環境変化のスピードです。中途人材の活用はもちろん、環境変化によって求められるスキルの変化を踏まえると、内部人材もスキルをアップデートしていかなければなりません。以前のように数10年同じ仕事を続けるならば、タレントマネジメントは要らないかもしれませんが、2年、3年のサイクルで変化が必要になりますと、人材管理という点でも、転職市場の活性化という点でも、企業が求めるスキルを定義し、共通言語化をしていくニーズは広がってきていると思います。期待を込めて申し上げましたが、この3点が20年前からの変化と考えております。
 
○事務局 ありがとうございます。よろしいでしょうか。それでは、時間がまいりましたので、山藤様からのヒアリングはここまでとさせていただきたいと思います。本日はお忙しい中、御出席いただきまして誠にありがとうございました。
 
○MRI山藤様 ありがとうございました。
 
○事務局 本日、予定しておりましたヒアリングは以上でございます。それでは、本日の議論はここまでとさせていただきまして、本日の総括を鎌田座長からお願いできればと思います。よろしくお願いいたします。
 
○鎌田座長 まず、HRテックの活用ということですけれども、これについては私にとっては本当に新しいことというか、今まで知らなかったことを知り得たという点で非常に参考になったなというふうに思っています。全体でこの雇用仲介のサービス、それから私たちの求職者保護という観点から、どのようにこのお話からインプリケーションを引き出していくのか。もう少しいろいろと考えていかなければいけないし、私自身勉強しなければいけないなという感じがしております。
 もう1つ、職業情報の共通言語化についてのお話については、各委員からもお話がありましたように、いろいろ長い苦労の連続と言いますか御苦労されてきたんだなということを、阿部委員、大久保委員からのお話から私も思っております。その中で最後に武田委員から、しかしながら、変わりつつあるんだということを非常に力強く私は受け取りました。労働市場が変わりつつあるということや、テクノロジーの活用、環境変化のスピードということから、労働市場を活性化する上で職の共通言語化ということも改めて考えていく価値があるのかなという感じがしております。
同時に、こういう労働市場全体の効率を高めるための工夫ということと、もう1つ、求職者保護、求職者目線でどのような情報を的確に求職者に伝えていくかという観点から、伝えていくものの中身を精査していく試みも必要なのだろうと思いました。
次回も今回に引き続き、今まで議論になった点について有識者の方の御知見を教示いただくとともに、業界団体からヒアリングを行うこととしたいと思います。以上です。
 
○事務局 鎌田座長、ありがとうございました。次回の御案内につきましては事務局より別途、各委員に御案内させていただきたいと思います。本日の研究会はここまでとさせていただきます。お忙しい中、ありがとうございました。

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