令和3年9月24日(金)

 今朝の閣議において,法務省案件はございませんでした。
 続いて,私から3件報告がございます。
 1件目は,ユースフォーラムの開催についてです。
 来月9日から2日間にわたり,東京国際フォーラムで第1回法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラムを開催します。
 本年2月の京都コングレス・ユースフォーラムでは,安全・安心な社会の実現に向けた40項目の勧告が採択され,京都コングレスに提出されました。
 その勧告は,京都コングレスの議論に若者ならではの新鮮な視点を提供するものであり,各国から高い評価の声が寄せられました。
 また,京都コングレスの成果文書である「京都宣言」では,ユースフォーラムの開催などを通じた若者のエンパワーメントの重要性が指摘されました。
 そこで,法務省では,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)の協力の下,「法遵守の文化のためのグローバルユースフォーラム」を定期的に開催することとし,今回,その第1回を開催するものです。
 「法遵守の文化」とは,国民が,法やその執行が公正・公平であると信頼し,それゆえこれらを尊重する文化を意味します。
 持続可能な開発目標(SDGs)達成の基盤となる「法遵守の文化」を次世代社会の原動力である若者とともに醸成していきたいという思いを込めて,ユースフォーラムの名称に取り入れました。
 世界各国から集った若者たちが,個々のバックグラウンドの多様性だけでなく,自分の属する社会で培われてきた文化・伝統やそれに基づく法制度の違いを認識し,その多様性に対する気付きを得ることは非常に大切なことです。
 その気付きにより,若者たちが自分たちの社会や制度に対する理解を深めつつ,互いの違いを事実として受け入れ,それぞれの社会におけるオーダーメイドの「法遵守の文化」,更には今後の世界全体の在り方について議論することは,ユースフォーラムならではの意義だと考えています。
 今回のフォーラムは,新型コロナウイルス感染症の状況などを踏まえ,来場参加とオンライン参加を組み合わせたハイブリッド方式で開催され,42の国と地域から120名の若者が参加する予定です。
 オープニングアクトでは,「7本指のピアニスト」として世界で活躍され,先日行われた東京パラリンピック閉会式でも演奏をされた西川悟平さんに,夢を持ち続けることの大切さについてメッセージを届けていただきます。
 その後の全体会合や分科会では,「多様性と包摂性のある社会に向けた若者の役割」という全体テーマの下,「成年年齢に達することと社会への参画」及び「コロナ後の犯罪防止・刑事司法」を議題とする分科会に分かれ,世界各国の若者が議論を行う予定です。
 これらのテーマは,コロナ禍で社会に分断や格差がもたらされている中,SDGs達成のために極めて重要なものです。
 本フォーラムの議論の成果は「勧告」としてまとめられ,国連に提出される予定であり,世界に向けた骨太のメッセージとなることを強く期待しています。
 法務省としては,今後も京都宣言の内容を着実に実施し,若者が法や制度に対する理解を深めつつ,その声を国際社会に届けていくサポートをしてまいります。
 2件目は,国際知財司法シンポジウム(JSIP)についてです。
 本年10月20日から22日の間,国際知財司法シンポジウムが開催されます。
 本シンポジウムは2017年にスタートしたものであり,国際的な知的財産紛争や近時の知財トピックについて各国の法曹関係者や政府関係者がディスカッションを行うものとなっています。我が国の知財司法制度はもとより,海外諸国の制度に関する最新事情を提供する画期的なイベントとして,過去4回の開催にも大きな反響がありました。シンポジウムは法務省,最高裁判所,特許庁などが共催し,各種のプログラムを用意しています。
 法務省パートについては,10月21日(木曜日)に,東南アジア諸国の政府関係者等により,商標権侵害に関する民事訴訟,模倣品に対する行政上のエンフォースメントをテーマにハイブリッド形式にて開催します。
 事前に各国の参加者に配付した共通の模擬事例を基にケーススタディーを行い,各国における事例に対するアプローチや判断の仕方の違いを比較検討することで,参加者が相互に気付きが得られることを狙いとしています。
 プログラムはオンラインにて国内外に同時配信することとしておりますので,東南アジア諸国にビジネス展開される企業の皆様にとっても大変有用な情報を提供する場となることを期待しています。
 3件目は,法務省関連の新型コロナウイルス感染症の感染状況についてです。
 9月17日(金曜日)から昨日までの間,職員については11の官署・施設で計13名の感染が判明しました。詳細は既に公表されたとおりです。
 なお,被収容者の感染判明はございませんでした。

子どもによるいじめに関する質疑について

【記者】
 2月の京都コングレス・ユースフォーラムでは「安全なネット社会に向けた若者の責任」がテーマの一つとして話し合われました。
 東京都町田市の小学校で昨年11月,女子児童がいじめを受けたという内容のメモを残して自殺した問題では,いじめの一部が学校貸与のタブレット端末のチャット機能を使って行われていたことが明らかになっています。
 子どもたちを巡るネットいじめなどの問題にどのようなアプローチが必要か,大臣の考えをお聞かせください。

【大臣】
 御指摘の報道は承知しています。幼い子どもが自ら命を絶ったことに,私自身,大変衝撃を受け,心が痛む思いです。
 インターネット上の誹謗中傷も含め,いじめはあってはならないものであり,極めて重要な人権課題の一つであると認識しています。
 取り分け,SNSの急速な拡大や新型コロナウイルス感染症の感染拡大等により,子どもの抱える悩みが大きくなりがちな昨今の状況においては,日常生活の中で子どもの心理の変化を細かく汲み取り,子どもの心の健康をしっかりと守っていくことが極めて重要であると考えています。
 そのような認識の下,法務省の人権擁護機関においては,子どもによるいじめをなくすため,例えば,いじめについて考える機会を作ることによって相手への思いやりの心を学ぶための「人権教室」,協力して花を育てることを通じて生命の尊さを学ぶための「人権の花運動」など,子どもの人権意識を育むための様々な人権啓発活動を実施しています。こうした活動については,更に充実・強化をしていく必要があると考えています。
 また,インターネットリテラシーの向上に関しては,総務省やSNS事業者団体と連携して,「♯No Heart No SNS」をスローガンに,SNS利用に関する人権啓発サイトを開設したり,小・中学生等を対象として,携帯電話会社等と連携してスマホ・ケータイ安全教室を実施するなどの取組も行っています。
 また,いじめはなんと言っても早期に発見することが重要であり,子どもが相談しやすい体制をつくるために,「子どもの人権110番」,「SOSミニレター」等の相談窓口を設けており,相談を通じて人権侵害の疑いのある事案を認知した場合には,人権侵犯事件として調査を行い,必要な措置を講じることとしています。
 法務省では,文部科学省や学校等の関係機関とも連携協力して,いじめの未然防止に向けた啓発活動や,見つけにくくなっている子どもの心の中のSOSを見逃すことのないよう,相談窓口の周知などにしっかりと取り組んでまいりたいと考えています。

名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する質疑について

【記者】
 昨日,スリランカ人女性の妹さんである御遺族が,8月12日に映像を見てから心身の体調を崩しまして,スリランカに帰国の途につきました。
 どういうメッセージを上川さんに投げたいかとお聞きしましたところ,「真実をちゃんと解明してください。無駄に時間をかけないでください。ごまかさず死因を解明してください。ちゃんと事情を説明してほしい。お願いします。」と言っています。
 この言葉を受けて上川大臣の言葉を聞きたいのが1点と,前回聞いたことでお答えいただけていない点をイエスかノーかでお答えください。
 今,遺族の1名が残ることになっております。1日も早い2週間分のビデオの開示を求めていますが,現状,これまでの法務省の見解を踏まえますと,「民事訴訟等が起きて裁判所が文書提出命令等を出す前までは,法務省としては2週間の分のビデオは一切開示しません。それまでは遺族としては待ち続けてください。」というメッセージだという理解でよいでしょうか。この2点をお願いいたします。

【大臣】
 御遺族がスリランカにお帰りになられたということで,そのお言葉についてとの御質問でしたが,私としては,御遺族の具体的な発言に対するコメントは差し控えさせていただきたいと思っています。
 真相究明については,この間,問題点の検討も含め,可能な限り客観的な資料に基づき,医師,弁護士等の外部有識者の方々に御意見・御指摘をいただきながら事実を確認し,考えられる問題点,視点をしっかりと幅広く抽出して検討がなされたと考えており,調査報告書に外部有識者の方々のきちんとした評価が示されたと思っています。また,客観性・公平性を確保するという大変重要なことについても,そうした方針の中で取り組んできたところです。
 そうした検討の中で,医療的対応のための体制整備やその運用が十分でなかったこと,職員の意識の問題などが指摘されたことについては,非常に重く受け止めています。
 その上で,改善策,具体的には,組織や職員の意識の改革が非常に重要であると考え,PTを立ち上げて実際に対応しているところです。
 御指摘がありましたビデオ映像については,今回は,そもそも開示対象ではないという前提の中で,判断させていただきました。
 すなわち,今回,法律に基づいた対応をしていくという前提の中で,情報公開法等の法律に基づいて丁寧に対応してきたところですが,その中で,御遺族と面談をさせていただいた折の状況を知りたいという御遺族のお気持ちを,私自身,大変重く受け止めさせていただいたこともあり,人道上の観点から,御遺族には,収容施設を見ていただき,また,ビデオ映像も御覧いただくこととしました。

【記者】
 そういうことを聞いているのではありません。今,大臣が説明していることは散々聞きました。残された御遺族に対しては,法的な,つまり法律上の整理に基づいてやっているから,動画を見たいのであれば,民事で提訴され裁判所から文書提出命令が出て,入管庁が出すまでは待っていなさいというメッセージでいいのかどうかということです。イエスかノーか。たくさん長く話す必要はございません。どうでしょうか。

【大臣】
 御質問に民事訴訟への言及がありましたが,それ自体が仮定の話ですので,私からはお答えをしかねると思っております。
 9月10日に御遺族にビデオ映像を御覧いただこうとした際には,御遺族から,心身に大きなストレスがあるとのお話がありましたので,それに対応した上で御覧いただくことが大事ではないかと考え,そのための準備をさせていただいたところでした。その意味で,是非,ビデオ映像を御覧いただきたいと思っているところです。
 重ねて申し上げますが,民事訴訟の提訴を仮定してのコメントについては,お答えを差し控えさせていただきたいと思います。

【記者】
 今のお答えですが,以前,民事裁判になれば提出する可能性があるということを大臣自身がおっしゃっていたのですが,それに対して答えられない,仮定の話というのもおかしな話で,しかも,法令上と言いましても,弁護士立会いの下で行政文書を開示できないということは一言も書いてありません。任意の提出もできるはずです。2時間のビデオも任意の提出のはずです。それに全くお答えになっていないのですが,今のは全然説明になっていないので,任意での提出はできないのか,それから,裁判での提出というのも当然考えると思うのですが,その方向で考えていらっしゃるのか,そこを端的にお答えください。

【大臣】
 今申し上げたことは,前提として,行政が保有するあらゆる情報については,情報公開法を含め,法律・ルールに基づき,公明・公正に対応することが求められるということです。
 重ねて申し上げるところですが,今回のビデオ映像については,収容施設内や被収容者等の具体的状況の記録であるため,情報公開請求に対しても,情報公開法に基づき,基本的に不開示情報として取り扱っています。
 調査報告書が公表された現在においてもなお,保安上の問題に加え,亡くなられた方の名誉・尊厳の観点からの問題もあるため,代理人の立会いを含めて,ビデオ映像を公開することは適当でないと考えています。

【記者】
 昨日帰国されたスリランカ人女性の妹さんは,こういうことも言っています。「死因もいまだに確定せず,ビデオも全部見られない。こういう対応は,やはり入管側は責任逃れをしているんだ。」と。そういう中で,大臣もお会いになられて,謝罪の言葉を述べられていますが,それについては,「責任逃れをしたままでは,本当の謝罪ではないんだ。」とおっしゃっています。それはつまり,「ごまかそうとしている。それは,私たちの人生が馬鹿にされている。姉の人生が馬鹿にされていることなんだ。」という大変厳しい言葉をおっしゃっていました。
 先ほどもお話がありましたが,今後どのようにされるかということも曖昧にされたまま,遺族にそのような思いを抱かせたままでいられるのは一体なぜなのでしょうか。
 それは,御遺族のお言葉にあるように,先ほど職員の意識の改革が必要だとおっしゃっていましたが,やはり,大臣自身に,スリランカ人女性や遺族を見下して,軽んじているという意識が今なおあるのではないですか。どのように遺族のお言葉を受け止めているのか,どうするつもりなのかをもっと人間らしい言葉で聞かせていただけませんか。

【大臣】
 事案の究明,問題の所在の解明については,外部有識者の方々にビデオ映像の全部を御覧いただいた上で,様々な客観的な情報も分析していただき,最終的に調査報告書が取りまとめられました。
 その内容を御理解いただけるように,調査報告書をシンハラ語に翻訳しています。通訳を介して御理解いただくというのはなかなか難しいと思いますので,しっかりと翻訳して,そしてなるべく早くお手元にお届けし,御覧いただくことを考えているところです。
 医師や弁護士も含む外部有識者に御協力をいただいた調査報告書ですので,私としては,しっかりと重く受け止めさせていただきました。
 施設の中で命が失われたということについては,私も大変申し訳なく思っているところです。その意味で,この場でも,心からお詫び申し上げたいと思っております。
 今後,どのように対応していくのかについては,今回の事案を無にしないようにというお気持ちが御遺族にもあるとのことですので,こうした事案が二度と起こらないようにすることが大事であると認識し,改革をしっかりと進めていくよう,PTも設置して,意識改革も含めて対応するよう指示したところです。
 特に,調査報告書においては,医療的対応の体制が十分ではなかったこと,また,職員の意識にも問題があったのではないかとの御指摘もありましたので,真摯に受け止めて対応してまいりたいと思います。これは出入国在留管理庁職員,名古屋局だけではなく全国の職員の理解と協力を得るためにも,そうした姿勢でしっかりと対応してまいりたいと思っているところです。

東京高等裁判所における国家賠償請求訴訟判決に関する質疑について

【記者】
 9月22日に東京高等裁判所で,2014年12月に難民不認定処分への異議申立棄却決定の告知の翌日に,チャーター便で集団強制送還させられたスリランカ人男性2人が起こした国賠訴訟の控訴審判決があり,地裁判決を取り消して,控訴人が逆転勝訴するという内容でした。
 内容は,「異議申立ての棄却決定の告知を強制送還直前にまで遅らせて,告知後に事実上弁護士等の第三者に連絡することを認めずに強制送還したことは,控訴人から難民該当性に対する司法審査を受ける権利を奪った。」と評価して,裁判を受ける権利を侵害し,適正手続にも違反するという,憲法違反にも踏み込んだ判決内容でした。
 このときのチャーター便の強制送還は,ベトナム人とスリランカ人の計32人だったと思うのですが,集団送還されました。このときの大臣が上川法務大臣でした。大臣はどのような人が集団強制送還されたのか,今回の裁判のような実態を御存じだったのでしょうか,これが1点目です。
 また,先の国会で審議された入管法改正案において,難民申請者の難民停止効の例外規定を設けるということが,難民条約に違反する可能性があるということで,UNHCRなどからも厳しい意見が出されました。国際人権法上の観点からも,今回,憲法違反ではないかという認定も高裁判決で出たわけですが,その難民申請者の退去強制の在り方の現状について,大臣はどのように考えていらっしゃるのか。今回の判決を受け入れて,現行の難民申請者に対する退去強制手続の在り方を見直すような考えを持っていらっしゃるのかどうか,この2点についてお答えください。

【大臣】
 お尋ねの判決があったことは承知しています。
 本件訴訟の対応については,判決内容を十分に精査し,適切に対応することになります。
 御指摘の事案については,従来,出入国在留管理庁において送還を拒む者の集団送還を円滑に実施する中で行われていたものであると認識をしています。
 出入国在留管理庁においては,本年1月の同種送還に係る国家賠償請求訴訟についての名古屋高等裁判所の判決を踏まえ,本年6月に通達を発出し,難民審査請求に理由がない旨の裁決の通知を受けた被退去強制者について,送還計画を立てた上で当該者に送還予定時期を告知すること,また,送還予定時期は,裁決告知から2か月以上後にすることを原則とすることなど,既に運用を変更しています。
 収容及び送還を含む退去強制手続全般について,対象となる外国人の人権を尊重し,適正手続を遵守した運用の徹底に取り組んでまいりたいと考えています。
 詳細については,出入国在留管理庁にお尋ねいただきたいと考えています。

(以上)