令和3年9月14日(火)

 今朝の閣議において,法務省案件はございませんでした。
 続きまして,私から2件報告がございます。
 1件目は,インターネット上の誹謗中傷対策についてです。
 近時,インターネット上の誹謗中傷が社会問題化していることを契機として,誹謗中傷に対する非難が高まるとともに,こうした行為を抑止すべきとの国民の意識も高まっています。
 こうしたことに鑑みると,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であることを示し,抑止することが必要であると考えられます。
 そこで,早急に侮辱罪の法定刑を改正する必要があると思われることから,9月16日に開催予定の法制審議会に諮問することとしました。
 その内容は,「拘留又は科料」とされている法定刑を「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とすることについて御意見を承りたいというものです。
 法制審議会において,充実した議論が行われることを期待しています。
 また,法務省の人権擁護機関では,インターネット上の誹謗中傷に関する相談を全国の法務局の窓口や電話,インターネット等で受け付けています。この相談においては,相談者の意向に応じ,違法性を判断した上で,プロバイダ事業者等に対して投稿の削除を要請しています。
 これとともに,削除要請の実効性を更に高めるため,総務省とも連携し,プロバイダ事業者等との意見交換を通じて,削除要請に対する理解を求めるなどの取組も進めているところです。
 法務省としては,今後とも,インターネット上の誹謗中傷の対策に,様々な手段を通じ,しっかり取り組んでまいります。
 2件目は,「在外一筆書きキャラバンASEAN諸国編」の実施についてです。
 先週金曜日(本月10日),「在外一筆書きキャラバンASEAN諸国編」を実施しました。
 「一筆書きキャラバン」は,全ての法務省職員が気持ちを一つにし,ワンチームとなって職務に取り組むため,私,田所副大臣,小野田政務官の政務三役が,法務省の官署等を訪問するなどして職員と対話をする取組です。
 「在外一筆書きキャラバン」は,その海外版として,海外政府や国際機関と直接接している職員の問題意識等を法務省としてくみ取り,今後の法務行政に活かしていくために行うものです。
 今回は,ASEAN諸国,具体的にはタイ,インドネシア,ベトナムに所在する国際機関や在外公館等に法務省から派遣されている職員5名との間で,「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」実現に向けた法務行政の在り方などについて意見交換を行いました。
 法務省は,20年以上にわたり法制度整備支援を実施するなど,ASEAN地域との関係を深めてまいりました。今回の対話では,複数の参加者から,日本の法制度整備支援に対する各国からの高い評価について報告があり,法制度整備支援が着実に根付き,日本の司法への高い信頼に結びついていることをうれしく感じた次第です。
 また,今後,更に重要となる日ASEAN関係を強化するために法務省として何ができるのかという点について,幅広い論点から示唆に富んだ意見の交換ができました。「司法外交」を担う国際法務人材の育成の重要性を改めて実感したところです。
 今後も,現場でしか収集できない情報や最前線で働く職員の問題意識を法務省としてきちんと吸い上げ,施策に活かしてまいりたいと考えています。
 2023年は,日ASEAN友好協力50周年です。これまでの取組を総括し,更に深化させるべく,日ASEAN特別法務大臣会合を実施したいと考えています。
 今回の一筆書きキャラバンに参加した職員にも活躍してもらい,今後,日ASEANの法務行政における協力関係をますます発展させてまいりたいと考えています。

侮辱罪の法定刑の引上げに関する質疑について

【記者】
 侮辱罪の法定刑引上げについて,インターネット上の誹謗中傷を抑える効果が期待されます。一方で,発信者の特定が困難であることや,厳罰化が言論の萎縮につながるのではないかなどの課題や懸念も指摘されています。こうした課題にどう対処されるか,大臣のお考えを聞かせてください。

【大臣】
 インターネット上の誹謗中傷の書き込みは,同様の書き込みを次々と誘発し,取り返しのつかない重大な人権侵害にもつながるものであって,決してあってはならないと考えています。
 こうしたインターネット上の誹謗中傷について,発信者の特定が困難であるとの御指摘に関し,法務省としては,新たな発信者情報開示制度手続の創設を内容とする改正プロバイダ責任制限法の円滑な施行に向け,引き続き,関係省庁等への協力などを進めてまいりたいと考えています。
 今般の法制審議会への諮問は,近時の侮辱の罪の実情等に鑑み,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であるという法的評価を示し,これを抑止するため,その法定刑を名誉毀損罪に準じたものに引き上げ,「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」とすることについて,御意見を承りたいというものです。
 法制審議会においては,御指摘の法定刑引上げの効果や懸念も含めて,専門的な見地から,侮辱罪の法定刑の在り方について,スピード感を持って充実した議論が行われることを期待しています。

刑事手続における犯罪被害者の氏名等の秘匿措置に関する質疑について

【記者】
 法制審の関連でお伺いします。刑事手続で犯罪被害者の氏名等を秘匿できるようにする刑事訴訟法の改正について,先月24日の法制審の部会で要綱案が決定され,16日に総会で採決される見通しとなっています。
 性犯罪等の被害者が加害者に特定されないように,逮捕から判決までの刑事手続で,被害者情報が保護される法整備となっていますが,これまでの議論で出た意見の中には,刑事弁護の立場から,「被告人の防御に支障が生じ,えん罪を生みかねない。」などとする反対意見がありました。
 また,今回の法整備により,捜査機関による事件広報においても,被害者に関する情報提供がこれまでより行われなくなり,取材や報道の制約につながるのではないかとの懸念が示されていました。
 こうした指摘について,大臣のお考えをお聞かせください。

【大臣】
 8月24日の法制審議会刑事法(犯罪被害者氏名等の情報保護関係)部会において,起訴状謄本の送達を始め,捜査段階も含めた刑事手続全体において,被害者の氏名等を被疑者・被告人に知られないようにする措置をとることができることを内容とする要綱(骨子)が,部会として採択されたものと承知しています。
 部会においては,御指摘のあった御意見,御懸念も踏まえて議論が尽くされ,要綱の取りまとめに至ったものと承知しています。
 防御権との関係について,被害者の氏名・住居を秘匿する措置がとられることで,えん罪につながる可能性があるという趣旨の御意見が述べられましたが,これについては,要綱(骨子)において,弁護人には被害者の氏名等が記載された起訴状の謄本を送達することが原則とされているほか,被疑者・被告人の「防御に実質的な不利益を生じるおそれがある」ことを理由とした不服申立ての機会を保障するなど,防御権に十分配慮した規律を設けているものと承知しています。
 また,報道機関への情報提供について,捜査機関における報道発表において,被害者に関する情報提供が減少し,取材・報道活動の制約につながるのではないかという趣旨の御意見が述べられましたが,これについては,検察官や警察の委員から,報道機関等に対する事件広報に当たっては,個別の事案ごとに,公益上の必要性,関係者の名誉・プライバシーへの影響,捜査・公判への影響等を総合的に考慮して,公表の適否等を慎重に判断し,適切な事件広報が行われるように努めており,今回の諮問に係る法整備によって事件広報の在り方が変わるものではない旨の発言がなされたものと承知しています。
 今後,法制審議会総会において,更に調査審議が行われることとなりますが,スピード感を持って充実した議論がなされることを期待しています。

名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する質疑について

【記者】
 先週の金曜日,スリランカ人女性の遺族の立会いに弁護人が認められないということで,遺族の視聴拒否ということになりました。
 その場に入管庁の佐々木長官が来まして,弁護士に対して,残りのビデオを見て,シンハラ語に訳された調査報告書が出たら,故郷に帰り母親に報告した方がいいのではと何度か説得に当たったそうです。遺族は,事実の全てを見られる2週間の動画を視聴することを強く求めていまして,このビデオが見られない限りは,帰ることは絶対できないと言っています。
 佐々木長官の話が法務省の見解だとすると,もうこれ以上ビデオを出すことはなく,後は民事の裁判が始まるまで,いたいなら日本にいなさいと,こういうメッセージなのでしょうか。御見解をお願いします。

【大臣】
 出入国在留管理庁では,御遺族の方にビデオ映像を御覧いただく2回目の機会ということで,9月10日,御遺族に用意した全てのビデオ映像を御覧いただけるよう,できる限りの準備をしていたと承知しています。
 佐々木長官の発言について言及がありましたが,佐々木長官は,代理人弁護士から立会いを求められたことに対し,代理人の閲覧には応じられないことについて説明したものと聞いています。
 御遺族や代理人弁護士と出入国在留管理庁との間のやり取りについては,出入国在留管理庁にお問い合わせいただきたいと思います。

【記者】
 引き続き9月10日のビデオの開示のことで伺いたいのですけれども,このとき,今大臣がおっしゃったように代理人弁護士の立会いが認められなかったわけですが,その場にいた入管庁の部付検事から,直接遺族に対して,これは弁護士を通り越してということだったようなのですけれども,「行政機関として非開示情報だが,人道上の特別の配慮として開示します。しかし,第三者が見ることは考えていない。」とか,「行政機関が開示できる情報は法律で決められていて,それ以外の情報は開示できない。」とか,あたかも代理人弁護士を否定し,情報公開制度をねじ曲げるような説明が遺族に対してあったようです。
 それを弁護士も阻止しようとしたわけですけれども,基本的人権を守るために代理人弁護士が立ち会ったり,特に情報公開でも,人権・生命を守るための行政情報というのは,行政機関の裁量で任意に開示することができると思うのですが,弁護士法でも情報公開法でも認められた権利を否定するような入管庁の部付検事の発言に対して,大臣はどのように考えていらっしゃるのかということが1点。
 それからもう1点。大臣の任期があと2か月足らずで終わるということになると思うのですけれども,この2か月の間に,遺族に対して何ができるのか,先ほどの佐々木長官の発言があったように,これで幕引きだというふうに考えていらっしゃるのか,大臣の御見解をお願いします。

【大臣】
 ビデオ映像を御遺族に御覧いただくことについてですが,これまでにも御説明しているとおり,収容施設内や被収容者等の具体的状況の記録であるため,情報公開請求に対しても,基本的に不開示情報として取り扱っています。
 調査報告書が公表された現在においてもなお,保安上の問題に加え,亡くなられた方の名誉・尊厳の観点からの問題もあるため,代理人弁護士の方を含めて,ビデオ映像を公開することは,適当ではないと考えています。
 御遺族に対しては,私もこの場でも何度も御質問にお答えしてきましたが,お姉様がお亡くなりになったお部屋も御覧になったり,情報にも触れていただいてきたわけですが,やはり映像を御覧になりたいだろうと考え,人道上の対応として,保安上の支障をマスキング等により軽減させる処置をした上で,通訳を介した説明を行いながら,時間をかけて御覧いただいてきたところです。
 日常の様子や調査報告書で不十分・不適切な対応等があったと指摘されている場面,亡くなられた方の体調に外観上顕著な変化が生じた状況を含め御遺族に御覧いただくべきと国会で御指摘のあった3月4日以降の様子などを幅広に御覧いただくこととしていたところです。
 これらにより,亡くなられた方の御様子や状況の推移を,時を追って御確認いただけるものと考えていたところです。
 1回目の閲覧の際には非常に大きな心理的負担があったとのことでしたので,心理的負担に配慮して対応するため,事前に臨床心理士の助言を受けたのに加えて,別室に臨床心理士及び看護師に待機してもらい,機動的かつ的確に対応できるよう,体制を整えて臨むこととしていました。
 今回の調査は,外部有識者からしっかりと御意見をいただくため,全てのビデオ映像を御覧いただいた上で,その他の客観的な資料等に基づき,客観的・公正な立場から御意見・御指摘をいただきながら,問題点を広く抽出して検討を行ったものです。
 ビデオの閲覧については,御遺族の心理的負担にしっかりと配慮しながら,適切に対応してまいりたいと思っております。

【記者】
 引き続きスリランカ人女性のビデオの件ですけれども,代理人の立会いを認めなかったということですが,今もお話がありましたけれども,遺族への開示というもの自体が人道的な配慮だということで,裁量でやっているわけですよね。その意味では,遺族が望んでいる代理人の同席,この代理人が同席しないと見ることができないと言っているわけですから,その思いに対しても,裁量の範囲で応えることができるのではないかと思います。
 それをしないのは,結局,今もお話がありましたけれども,遺族へ思いを寄せているということも全然なく,あるいはスリランカ人女性の死に対しての責任もさほど感じていないから,そこの配慮,裁量を広げて見せるということ,代理人の立会いを認めるということをしないということなのではないかと感じられます。いかがでしょうか。
 大臣の中では,最終報告書を第三者の専門家には見せることはできて,遺族の代理人弁護士には見せられないという線引きがあるようですけれども,代理人弁護士に見せることで,どうして保安上の問題や尊厳の問題というのが生じるのかということの理由を併せてお聞かせください。

【大臣】
 繰り返しになりますが,先ほどもお答えしたとおり,御遺族にビデオを御覧いただくことについては,保安上の問題に加え,亡くなられた方の名誉・尊厳の観点からの問題が残る中で,異国の地で御家族を亡くされた御遺族の気持ちに応えるという人道上の配慮から行うものです。
 前回御覧いただいた際に心理的負担について御指摘がありましたので,それも含めてしっかりと対応して臨むようにと指示し,10日を迎えたところです。
 今申し上げたことから,先ほどもお答えしましたが,ビデオについては,御遺族の方に御覧いただきたいと思っております。
 心理的な負担についての御指摘がありましたので,その部分については十分対応するということで,今回,準備をしてきたところです。

日本に退避したアフガニスタン人への在留支援に関する質疑について

【記者】
 アフガニスタン人のJICA(国際協力機構)職員とその家族の計10人が13日までに日本に到着しました。加藤勝信官房長官は同日の記者会見で,「日本に在留を希望する場合には,在留支援の在り方を検討する。」と述べています。
 出入国在留管理庁として就労の許可を含め,在留支援にどのように取り組んでいくのかをお伺いします。

【大臣】
 アフガニスタンの情勢が厳しい中にあって,今回,退避されてきた方々が本邦に安全に到着したところです。
 今後については,まずは御本人の御意向を十分に確認していくことが重要と考えています。
 御本人が本邦での在留や就労を希望される場合には,法務省,出入国在留管理庁においては,その希望を踏まえ,在留資格について適切に対応していくとともに,関係機関としっかりと連携し,きめ細やかな在留支援を行ってまいりたいと考えています。

(以上)