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特別講座終了後にいただいたご質問への回答を掲載しています

量子力学についてもっと教えて!

量子コンピュータについてもっと教えて!

量子コンピュータが完成したら?

量子の研究はどこでできるの?文系でも勉強しないといけないの?

量子力学はなぜ量子力学というの?(小学生)

量子力学の「量子(りょうし)」は何かの”量”の最小単位という意味を持っています。量子力学は、その最小単位の粒子の振る舞いを研究する学問です。

アインシュタインの提唱した「一般相対性理論」は宇宙の膨張やブラックホールといった主に大きなスケールの現象を説明するのに用いられますが、「量子力学」は、私たちの体の100億分の1くらいの大きさで起こる小さなスケールの現象を説明するのに主に用いられます。この相対性理論と量子力学が、現在の物理学を支える2本の柱のような理論と考えられています。 

量子力学の「粒であり波である」ということのイメージができません。どういうイメージでしょうか?(高校生)
量子がトンネル効果ですり抜けた可能性は、いつまで可能性として存在するの?(中学生)

電子が粒であり波であるイメージについて、講義の中の二重スリット実験を思い出してみてください。スリットを通った電子は、スクリーン上では「点(=粒子)」として観測されます。一方で、電子をたくさん観測すると、スクリーン上には「干渉(=波)」を示す縞々模様が現れました。(アーカイブの14:20頃を参照)

このように、電子はスクリーンに到達し観測されるまでは、波のように広がりを持った存在として別の電子の波と干渉するのに対し、観測すると粒のようにスクリーン上の1点に場所が決まります。これを粒と波の二重性と考えているわけです。

トンネル効果では、「壁を透過した状態」と「壁に当たって反射した状態」の重ね合わせ状態が生じます。粒子を観測した時に初めて、トンネル効果で透過したかどうか状態が確定すると考えられます。

相異なる2つの性質を併せ持つ電子のような物質は、他にありますか?(高校生)
量子って一種類しかないんですか?(中学生)
電子は二重性を持っているけど光は波で確定しているんですか?(中学生)
量子の波の性質を用いたものを紹介してくださったと思いますが、粒の性質を用いたものはありますか?(高校生)

量子力学は、現在の物理学では、全ての物理現象を支配する法則と広く信じられています。このため、電子だけではなく「あらゆる物質」が二重性を持っていると言えるでしょう。驚くべきことに、私たち人間は固体(粒)ですが、波の性質を持っているわけです。しかし、人間の持つ波長はあまりにも小さいので、普段の生活では波の性質が見えていません。

光も波と粒子の性質を併せ持ちます。光の粒の性質の代表的な例は「光電効果」というものです。光電効果は、光を金属の表面に当てると電子が飛び出す現象のことです。光の粒(光子(こうし)と言います)が、金属中の電子に金属から飛び出すためのエネルギーを与えることで起こる現象です。光電効果を応用した例としては、光のエネルギーを電気のエネルギーに変換する太陽光発電などが考えられます。

量子力学で解明されていないことはどのくらいありますか?(中学生)
量子力学の終点はどこまでですか?(高校生)

解明されていないことはとてもたくさんあります。講義で大森先生がお話しした「宇宙の起源・宇宙の果てがどうなっているのか」「生命はどのようにして生まれ、私たちの意識はどうやって生まれるのか」「物質の根源は何なのか」…。これらの謎は量子力学とも密接にかかわっていて、今も世界中で研究が盛んに行われています。もしかしたら、その謎を解明するのは未来を生きる皆さんかもしれません。

量子力学の発展のためには何が必要ですか?(中学生)

様々な手法があると思います。例えば、特別講座を担当した分子科学研究所の研究チームでは、原子を使った量子コンピュータ・量子シミュレータを開発することで、物質の粒と波の性質の“境界”を調べ、「量子力学100年の謎」を解明することを目指して研究を進めています。多くの人が色々な手法で謎にチャレンジすることが必要だと考えています。

電子機器に量子力学が活かされているとのお話がありましたが、どこで活かされているのですか?(中学生)
量子力学の応用製品として、例えばどんなものがありますか?(高校生)

私たちの身の回りの電子機器では、「トランジスタ」と呼ばれる電気信号のON/OFFの切り替えを担う部品を集積した回路を用いて情報処理を行っています。量子力学によって、トランジスタの中を流れる電子の動きが解明されたことで、パソコンやスマートフォンなどの電子機器が実現されました。講義でも取り上げたとおり、一説によると米国のGDPの30%が量子力学の応用製品によると言われています。

近年では、量子力学を現象の解明のみに活用するのではなく、人間が量子力学の性質を積極的に制御することで、これまでにない新たな製品や夢の技術を生み出すための研究が行われており、その1つが講義で紹介した量子コンピュータと呼ばれるものです。
 

初めて量子を見つけて、量子コンピュータを作った人は誰ですか?(中学生)

1900年にドイツの物理学者マックス・プランクが量子に関する仮説を初めて提唱したとされています。量子力学の誕生・発展の歴史はとても興味深く、多くの物理学者の貢献がありました。多くの本が出版されていますので、興味があればぜひ調べてみてください。

量子コンピュータについては、1982年にアメリカの物理学者リチャード・ファインマンが「自然をシミュレーションしたければ、量子力学の原理でコンピュータを作らなくてはならない」と述べたことに端を発するとされています。

量子コンピュータは世界中の研究室で開発されていますが、汎用的な計算が可能な量子コンピュータを開発し、初めてインターネットを通じて外部に公開したのは、米国のIBM社です。それが2016年のことです。日本でも2023年3月27日に、理化学研究所によって開発された国産量子コンピュータ初号機が公開されました。

一方で、大規模で実用的な計算が可能な“究極の”量子コンピュータは未だに誰も実現できていません。今後10~20年の開発が必要とも言われています。IBM社や理化学研究所は超伝導回路を用いた方式の量子コンピュータを開発していますが、特別講座を担当した分子科学研究所では、原子1つ1つを用いた原子方式の量子コンピュータの研究開発を行っています。
 

量子がどうやって電卓などの計算機器になるのですか?(中学生)
量子のスピンをどう応用することで計算ができるのですか?(高校生)
量子の状態を表したグラフを見て、古典コンピュータの0か1かの離散的なものとは違い、連続的なものだなと感じました。連続した情報といえば「アナログ情報」というイメージを持っているのですが、何か関係はあるのでしょうか。それとも、「アナログ情報」でも「デジタル情報」でもない何かがあるのですか?(中学生)

どれもとても鋭い質問です。量子コンピュータは、0と1を「重ね合わせ」状態にした連続的な(アナログ)情報を複数個作り出し、量子力学に従って連続的に変化させることで計算を実行しています。このアナログ情報の記憶を担うのが1つ1つの原子などであり、「量子ビット」と呼ばれるものです。0と1だけでなく、より複雑な情報を扱えるため、化合物の複雑な状態や、何千・何億もの膨大な数のパターンを、量子コンピュータ上で一度に扱うことが可能になります。これが量子コンピュータの特徴であり、高速計算の根源となっています。

講義で登場した「二重スリット実験」では、電子をスクリーンで観測すると、1つの点に位置が確定しました。量子コンピュータも同様で、計算した後に量子ビットを観測すると、重ね合わせ状態が壊れ、量子ビットのアナログ情報が0と1のデジタルな情報に確定し、計算結果が得られる仕組みになっています。

つまり、量子コンピュータはアナログ情報を使って計算し、結果をデジタル情報として読み出す、とてもユニークな計算機と言えるでしょう。

量子の状態は永遠にあるのでしょうか?(中学生)

量子の重ね合わせ状態はノイズに非常に弱くすぐに壊れてしまいます。分子科学研究所が取り組んでいる原子方式の量子コンピュータでは、他の方式に比べて重ね合わせ状態の持続時間が長いことが利点の1つですが、それでも1秒~数秒で壊れてしまいます。量子コンピュータの計算では、量子の重ね合わせ状態を利用しているため、重ね合わせ状態がノイズの影響を受けて壊れる前に高速な演算操作を行う必要があります。分子科学研究所では、2022年8月に世界最速の演算操作を成功させるなど、原子方式で世界をリードする研究開発を実施しています。
 

今のスーパーコンピュータと量子コンピュータが計算勝負をしたらどっちのほうが早いですか?(高校生)
現在も様々なコンピュータがありますが、量子コンピュータは、それらに比べてどの程度早いのでしょうか?(高校生)

米国Google社が2019年に行った「量子超越」の実験では、スーパーコンピュータでは1万年程度を要するとされる問題を、量子コンピュータが200秒(3分20秒)程度で実行したと発表され、話題になりました。しかし、その後、スーパーコンピュータ側の計算手法の改善により、量子コンピュータと同様の時間で計算できるようになりました。また、この時に解いた問題は量子コンピュータに非常に有利な設定でした。

このように、現在、量子コンピュータが得意とする問題で、両者の実力が拮抗している段階にあります。今後、量子コンピュータの開発が進めば、スーパーコンピュータに対する優位性が示されるのではないかと予想されています。

また、量子コンピュータとスーパーコンピュータには、それぞれ得意な計算問題があり、一概に比較することはできません。このため、量子コンピュータが完成しても、今のスーパーコンピュータがなくなるとは考えられておらず、お互いが得意とする分野を補い合って、発展していくと予想されています。
 

原子という目に見えないものをどうやって研究できたのでしょうか?(中学生)
なぜ、原子が光を発しているのでしょうか?(高校生)

原子に特定の波長の光(共鳴光)を当てると、原子の中の電子が光からエネルギーを受け取ります。光からエネルギーを得た電子は、その後、元の状態に戻ろうとしますが、その時に、光を放出することが知られています。この光を観測することで、原子がそこにあるかどうかや、原子がどのような状態にあったのかを測定することができます。
 

量子コンピュータで可能になると考えられている「複雑な計算」とは、どのような計算ですか?(中学生)
実験が成功したら何ができるようになるのでしょうか? (中学生)
量子コンピュータが完成したらどういうことをしたいですか?(中学生)
これからの未来、量子力学で何ができるようになりますか?(高校生)

現段階で有望視されている量子コンピュータの応用先として、材料開発や分子の設計(創薬・触媒開発)、人工知能の高度化、交通渋滞の解消などが挙げられます。

例えば、材料開発について、量子コンピュータ開発は、1982年にアメリカの物理学者リチャード・ファインマンが「自然をシミュレーションしたければ、量子力学の原理でコンピュータを作らなくてはならない」という言葉に端を発していますが、材料の機能を調べるには、量子力学に従って動く物質内の多数の電子の運動を解明する必要があります。

超伝導物質は、電流を流す時の電気抵抗が0になるため、一度電流を流したら永久に電流が流れ続ける物質ですが、利用するにはマイナス260度以下に冷やす必要があり、大きなコストがかかります。また、植物が行っている光合成では、光のエネルギーと二酸化炭素を酸素と栄養に変換していますが、その変換効率を上げるのには、量子力学の効果が働いているとされています。

量子コンピュータによって、室温で超伝導になる材料を発見できたり、光合成を起こすことができる材料の特性を理解できれば、電力の効率的な利用や人工光合成が実現し、世界のエネルギー問題や気候変動問題を解決できるかもしれません。

以上は、量子コンピュータの応用のほんの一例です。応用先の探索も重要な研究活動の1つです。もしかしたら、皆さんの身の回りにも量子コンピュータを使って解決できる課題があるかもしれません。
 

量子コンピュータが実用化されたとき、家庭でも使える大きさや価格になるのでしょうか?(中学生)
量子コンピュータがパソコンのCPUのように使えるようになるときが来たとして、何円くらいになりますか?(中学生)
値段によって性能が違う量子コンピュータの機種の制作は計画されていますか?(高校生)
講座で紹介されていた機械が、コンピュータになると言われていましたが、そのコンピュータはどのくらいの大きさになるのですか。(高校生)

これは残念ながら、分からないというのが正直なお答えになります。というのも、今の量子コンピュータ段階をパソコンの歴史で例えると、1946年のENIACが登場した段階くらいではないかと考えます。ENIACは巨大な計算機でしたが、何十年も経って、それが手のひらに収まるスマートフォンになるとは、誰も予想だにしなかったのではないかと思います。

量子コンピュータについても、今後、数々の技術が開発され、今の姿からは想像もできない変化を遂げるかもしれません。
 

どうすれば量子の研究ができますか?(中学生)
量子の研究はどのようなところでできますか?(中学生)
量子力学は、大学で文系に行ってもやらないといけないのでしょうか?(中学生)

研究をするのに要件はありません。社会に役立つ技術を発明したい、自然現象を深く理解したい、不思議な現象の謎を解明したい…そのような志があれば、いつでも、誰でも研究に参加することができるでしょう!

サイエンスを発展させるのは、研究者・技術者かもしれません。ただ、社会の中で解決すべき課題を見出し、卓越した技術を社会に届けるためには、経営者、弁理士(知的財産の専門家)、デザイナーなど、研究者・技術者以外の人材も重要な役割を果たします。講義の最後に、「究極のサイエンスと究極の応用が直結しているのが量子分野の最大の特徴」とお伝えしたとおり、研究者・技術者が社会と技術をつなぐ人材と手を取り合うことで、量子分野が発展していくものと考えます。ぜひ、文系・理系の枠組みにとらわれず、量子の世界に飛び込んでみてください。

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