2021年2月22日

工場・プラント施設のエネルギーマネジメントシステム(FEMS)1に関する国際標準の開発を日本が国際電気標準会議(IEC)へ提案し、この度、その国際標準化に向けた議論が開始されることになりました。
将来、生産プロセスとエネルギー(熱、電気)/ユーティリティ(冷温水、圧縮空気等)の供給とを連携することで、工場・プラント内で最適なエネルギー管理が行われることが可能となるだけでなく、その周辺の地域レベルでのエネルギーの最適化も促進されることが期待されます。

1.提案の目的・背景

工場・プラント施設のエネルギー/ユーティリティは、通常、生産プロセスの最大需要に合わせて余裕を持たせたエネルギーを供給していることから、構造的にエネルギーの無駄が発生しています。この無駄を削減するための方策の一つとして、生産プロセスとエネルギー/ユーティリティ供給量を連携させて制御することが挙げられます。生産品目や生産量のダイナミックな変動に合わせたエネルギー供給を行うことによって、エネルギー効率の最適化を図ることが可能となります。

工場・プラント等のエネルギー管理は、従来、人が測定と管理を行っていましたが、FEMSにより、人が行っていた作業のデジタル化・自動化が進んでいます。FEMSとしては、例えば、工場内のエネルギー使用量などの情報を「見える化」するもの、これらの情報を基にエネルギー使用量の予測を行うもの、エネルギー需要量に合わせエネルギー供給設備を最適化するものなど、様々な機能を有するものが実用化されています。これらに加え、最近では工場・プラント内で生成したエネルギーだけでなく、外部のエネルギーグリッド(供給網)からのエネルギー調達量を工場の稼働状況に応じて柔軟に調整するなど、機能の高度化及び複数の組織間での情報交換を行えるものも登場しています。

しかし、国内でのFEMSの導入・普及の状況に目を向けると、必ずしも十分に進んでいるとは言えません2。その要因の一つとして、FEMSとしての機能要件やそこで扱われる情報、さらに工場に実装されたFEMSと生産プロセスなどのシステムとが連携するための情報の定義がないことなどが挙げられています。今後、生産プロセスと連携するFEMSを効率的に構築し、運用する取組を普及させるためには、FEMSの機能要件や扱われる情報の定義などの標準化を進めることが不可欠となっています。

このような状況を受け、日本で開発された生産プロセスシステムとエネルギー/ユーティリティシステムの連携制御技術を基に、日本からIECに対して、FEMSに関する新業務項目についての国際標準化提案3を行ったところ、本年1月に同提案が承認され、国際標準の開発が開始されることになりました4

下図に今回提案するFEMS規格がカバーするシステムの概要を示します。工場内の生産プロセスのシステムと、同じ工場内のエネルギー/ユーティリティを管理するシステムとを連携させて制御することで、エネルギー消費や需要の予測を行ったうえで効率よくエネルギーを使用できるようになります。また、同提案では、将来的に工場外部のエネルギーグリッドなどの外部システムと連携するために必要となる情報などについても規定しています。

1.Facility Energy Management System(産業施設エネルギーマネジメントシステム)
2.「2020 エネルギーマネジメントシステム関連市場実態総調査p.107」(株)富士経済)によると、日本国内でのFEMSの市場規模(2019年)は約25億円。
3.規格名:産業施設エネルギー管理システム 機能と情報の流れ(INDUSTRIAL FACILITY ENERGY MANAGEMENT SYSTEM (FEMS) – Functions and Information Flows)。
4.IEC/TC 65(工業用プロセス計測制御)に提案。

2.提案の内容

今回の国際標準案は、国内外で調査した実際のFEMS導入の事例に基づき、FEMSに求められる要件として、以下のような技術基準を定めることを提案しています。

1.FEMSの機能の要件

  • データ収集機能、データ処理機能、最適化計算機能、表示機能など

2.FEMS内で扱われる情報

  • エネルギー使用情報、生産情報、設備管理情報、エネルギーコスト情報など

3.FEMSの機能および自動化のレベルに基づいたクラス分類

  • 見える化システム、最適化システムなど

4.FEMSと製造実行システムや生産管理システムなど他システムと交換する情報

  • 製造の状況や生産管理情報など

3.期待される効果

本国際標準案が成立・発行すれば、より高度な省エネを実現するためにFEMSに求められる機能や、自動化レベル5が明確になります。これにより、合理的なFEMSの導入計画の立案や、既存のFEMSの機能改造の検討を行いやすくなるため、工場におけるFEMSの導入が進み、省エネ化やエネルギー利用の最適化が一層進むことが期待されます。

また、FEMSと他の関連システムとの相互接続性が向上することが期待されるため、需給バランス調整などのためにエネルギー情報を交換することが可能なFEMSの導入が進み、広域でのエネルギー利用の最適化が進むことが見込まれます。

5.自動化のレベルのイメージとしては、①見える化(定量化、デジタル化)から始まり、②デジタル化されたデータを用いて最適化、そして、③最適化された値への反映を人が行っていたのをシステムとして自動で入力・反映できるようにしていくこと(自動化)といった進化の度合いを想定。

担当

産業技術環境局国際電気標準課長 柳澤
担当者: 佐藤(貴)、佐藤(芳)

電話:03-3501-1511(内線 3428)
03-3501-9287(直通)
03-3580-8631(FAX)