(令和3年1月8日(金曜日)20時43分 於:ブラジル)

冒頭発言

 今回、外務大臣就任後、出来るだけ早い機会に訪問したいと考えていた中南米地域のメキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ、ブラジルの5か国を訪問しました。中南米諸国は日系人社会を通じた絆を含め、日本と長きにわたる友好関係があり、基本的価値を共有するパートナーです。今回の訪問では各国との間で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化、二国間関係の強化及び国際場裡での連携、日本企業のビジネス環境改善、さらに日系社会との連携についてじっくり意見交換を行うことができました。

 メキシコでは、エブラル外務大臣及びクルティエル経済大臣と会談しました。会談を通じ、合意、発効で連携してきたTPP11協定など多国間枠組みにおける連携の重要性について意見交換を行うとともに、本年からメキシコが国連安保理非常任理事国となることを踏まえ、北朝鮮への対応等で連携していくことを確認しました。また、進出日系企業数が中南米最多であることを踏まえ、日系企業のビジネス環境の整備の重要性について議論しました。

 ウルグアイでは、ラカジェ・ポウ大統領を表敬し、ブスティージョ外務大臣と会談を行いました。会談では、本年迎えた外交関係樹立100周年を祝い、記念事業を通じた二国間関係の強化について一致をしました。また、今回の訪問で貿易円滑化に資する税関相互支援協定に署名しました。

 3か国目、アルゼンチンでは、フェルナンデス大統領を表敬し、ソラー外務大臣と会談を行いました。会談では、昨年発足したアルゼンチン新政権との関係強化や2018年、2019年、アルゼンチン、日本がそれぞれ議長国を務めたG20における連携強化等について議論しました。また、今年、2021年前半のメルコスール議長国でありますアルゼンチンからは、メルコスールの重要性について話がありました。

 次に、国際会議への参加以外では日本の外務大臣として初訪問となったパラグアイでは、アブド・ベニテス大統領を表敬し、ゴンザレス外務大臣と会談を行いました。会談では、法の支配等の価値を特に重視するパラグアイとの関係強化について議論を行いました。

 中南米最後の訪問国ブラジルでは、ボルソナーロ大統領を表敬し、アラウージョ外務大臣と会談を行いました。会談では、昨年11月の日米ブラジル協議枠組みの立ち上げ等、日本と米国との協調を重視しつつ新しい外交を進めるブラジルとの戦略的な連携の強化について議論をしました。また、具体的成果として、生物多様性協力覚書及びニオブ・グラフェンの活用促進に関する協力覚書に署名をいたしました。さらに、今年後半、ブラジルはメルコスール議長国となり、先方からメルコスールの重要性について話がありました。

 今年は1月20日に米国でバイデン新政権が発足するなど新たな動きが予見をされ、またポストコロナの国際秩序の在り方など、日本外交が国際社会の期待にしっかり応えていくことが必要だと考えています。そんな中、中南米諸国は日本から見れば地球の反対側に位置しますが、バイデン新政権が発足する米国と深い関係を持ち、また、北朝鮮への対応や国際秩序などについて国連、国際場裡で緊密な連携が必要な国々です。

 今回の中南米訪問を通じて、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、「包容力と力強さを兼ね備えた外交」をダイナミックにスタートすることができたと考えています。

 明日から、アフリカのセネガル及びケニアの2か国を訪問いたします。この訪問を通じ、TICAD8を見据えた連携とともに、「自由で開かれたインド太平洋」について連携を確認し、ポストコロナの国際秩序の構築において、日本がリーダーシップを発揮していくことをアピールしたいと考えています。

 なお、ナイジェリア訪問については、日本政府が6日付でナイジェリアを検疫強化の対象国に指定したことを始め、新型コロナに関する国内外の大変厳しい状況も含めて総合的に勘案し、訪問を取りやめることにいたしました。

 最後に、韓国についてでありますが、韓国における元慰安婦等による日本政府に対する損害賠償請求訴訟に関して申し上げます。今回の判決については、国際法上も、二国間関係上も、到底考えられない、異常な事態が発生したことと極めて遺憾にとらえています。我が国としては、国際法上の主権免除の原則から、日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められず、本件訴訟は却下されなければならないとの立場を累次にわたり表明、伝達をしてきたところです。さらに、慰安婦問題を含め、日韓間の財産・請求権の問題は、1965年の日韓請求権・経済協力協定で完全かつ最終的に解決済みです。また、慰安婦問題については、2015年の日韓合意において「最終的かつ不可逆的な解決」が日韓両政府の間で確認をされています。

 それにもかかわらず、国際法上の主権免除の原則を否定し、原告の訴えを認める判決が出されたことは極めて遺憾であり、日本政府として断じて受け入れることはできません。私(大臣)の指示の下、昨日(8日)、東京において秋葉次官がナム・グァンピョ駐日韓国大使を直ちに召致し、また、たった今でありますが、私(大臣)から康京和(カン・ギョンファ)韓国外交部長官に直接電話をし、強く抗議するとともに、韓国が国家として国際法違反を是正するために適切な措置を早急に講じることを強く求めたところであります。私(大臣)からは以上です。

質疑応答

【記者】今お話ありました、慰安婦問題について伺いますが、康京和外相と電話されたということですけども、大臣からの抗議に対して康京和さんはどのような返答をされたのかということと、今後の対応方針として昨日、加藤官房長官は控訴はしないということをおっしゃっていたんですけれども、今後、国際司法裁判所への提訴などは検討されていくことになるのでしょうか。今後の対応方針も合わせてお願いいたします。

【茂木外務大臣】今回の事案につきましてですね、極めて遺憾である旨、そしてまたですね、韓国が国家として国際法違反を是正するために適切な措置を早急に講じることを強く私(大臣)から康京和長官に対して求めたところであります。それに対して康京和長官は韓国の立場を説明され、また、冷静な対応が必要だ、このような返答でありましたが、いずれにしても私から改めてですね、日本として韓国政府が国際法違反を是正する適切な措置を早急に講じてほしい、このようなお話をさせていただいたところであります。控訴につきましては、我が国としては国際法上の主権免除の原則から日本国政府が韓国の裁判権に服することは認められないとの立場でありますから、日本政府が控訴する考えはありません。その上で今後、どうしていくかというわけでありますが、日本政府としてはあらゆる選択肢を視野に入れて毅然として対応していきたいと思っております。

【記者】外遊についてお伺いいたします。中南米諸国にとって、中国の存在も貿易などを通じて高まっていると思いますが、今回の訪問でですね、中国の関心の高さなど、大臣が感じたところがあればお願いします。

【茂木外務大臣】今回訪問しました中南米の各国は、自由、人権、民主主義及び法の支配という基本的価値を共有するパートナーであります。各国との間で、アジア情勢、中南米を含みます地域情勢についてもじっくり時間をかけて意見交換を行ったところでありまして、地域と国際社会の平和と繁栄に貢献すべく、連携していくことでも一致をいたしました。具体的な内容については、外交上のやりとりなので差し控えたいと思いますが、東シナ海の問題、南シナ海の問題含め、私(大臣)の方から状況、そして日本の考え方、更には日本だけではなくて、私(大臣)がこれまでですね、訪問してきました東南アジア諸国、さらには、アフリカも含めた懸念等々についても説明をして、向こうは非常に真摯に耳を傾けてくれました。中南米5カ国においてですね、これは国際社会の秩序、これを維持・強化していく上で、極めて重要な問題だということについて、耳を傾け、またそのことについては、考えが一致したと思っております。

【記者】ベネズエラ情勢なのですけれども、同国ではマドゥロ派の新国会が発足しまして日本政府が支持してきたグアイド氏は非常に微妙な立場に追い込まれております。日本政府としてはですね、今後もグアイド氏率いる国会を認めてグアイド氏を暫定大統領として支持していくのかどうか、政府の立場をあればお聞かせ願えますでしょうか。

【茂木外務大臣】今回のですね訪問、中南米におきましてベネズエラ情勢についてもそれぞれの国とですね、意見交換をさせていただきました。現状について強い懸念を持つということについて意見の一致を見たところであります。今後の方針等々につきましてもですね、それぞれの国と意見交換をさせていただいたところでありますが、これは外交上のやりとりでありますので、内容については、控えさせていただきたいと思います。

【記者】EPAを含めた貿易関係強化なのですけれども、メルコスールとのですね。日系進出企業は韓国勢との競争に生き残る為に必要だと主張していますが、これについて貿易交渉に精通されている茂木大臣はですね、どういう風に考えて具体的にどういう方針で対処して行かれるのか、もし、今、現在、詳らかに出来ることがあれば教えていただきたいのですけれども。

【茂木外務大臣】日本とメルコスールの関係でありますが、各国からですね、二国間経済関係強化の重要性に加えて、日本とメルコスールの協力の重要性について説明があったところであります。私からも日本とメルコスールの経済関係強化の重要性は認識をしており、経済関係強化のあり方について、引き続き検討を行い、また、意見交換をしていきたい、こういう風に表明をしたところであります。具体的に、日メルコスールEPAについて交渉を開始するとかそういった具体的な議論は行っておりません。

【記者】外遊から話題は変わってしまうのですけれども、香港情勢についてお伺いいたします。香港警察は、6日にですね香港国家安全維持法違反の容疑で元立法会議員ら民主派53人を逮捕しました。これについて大臣の受け止め、今後の方針などをお願いいたします。

【茂木外務大臣】香港は我が国にとって、緊密な経済関係を有し、人的交流を有する極めて重要なパートナーでありまして、「一国二制度」の基にですね、自由で開かれた体制が維持をされ、民主的・安定的に発展していくことが重要であるというのが我が国の一貫した立場であります。昨年6月の法整備以降、香港情勢をめぐる一連の動向は香港の繁栄を支えてきた「一国二制度」の根幹であります言論の自由や報道の自由といった基本的価値の尊重に対する深刻な懸念を抱かせるものであります。そして、今ご質問にもありました、今回のですね53名の香港の民主派関係者が逮捕されたこと、これは我が国の立場に照らして容認できず、さらに重大な懸念を強めているところです。こうした我が国の立場と懸念については、中国側にも様々な機会で伝達をしてきており、引き続き関係国とも連携しつつ適切に対応していく考えであります。この外遊中もですね、この問題につきましては累次、各国の関係者とも、国際社会としてどういうメッセージが出せるか等々も踏まえ、相談を進めているところであります。

【記者】最初の慰安婦問題について戻るんですけれども、今回の訴訟によって、今後の日韓関係ですとか、日韓の外交に与える影響についてなんですけれども、菅総理大臣が昨日記者団に対して、まずこの訴訟が却下されるべきで、そこから始まるというふうに話されていたんですけれども、大臣も、日韓の関係改善ですとか外交の進展を図るためには、まず今回の訴訟の問題が解決されるべきだと、そういうふうにお考えでしょうか。

【茂木外務大臣】日韓の関係、これまでもですね、旧朝鮮半島出身労働者問題等々によりまして、非常に深刻な関係にあったわけでありますが、今回の判決によりまして、事態が急速に悪化している懸念が高まっている。このようなことについて、今日、康京和長官のほうにも、私(大臣)のほうから繰り返し申し上げてきたところであります。基本は、国際法に違反するような形の今までの常識で言えば考えられない判決が出されたわけでありまして、それが却下されると、これがスタートだと思っております。いずれにしても、韓国政府に対しては、国家として国際法違反を是正するための適切な措置を早急に講じることを強く求めました。これからもまた、外交当局間でこの我々の主張に基づいてやりとりを行っていきたいと思っています。