2020年12月1日

同時発表:外務省

世界貿易機関(WTO)は、本日、我が国の申立てに基づき、WTOで審理されてきた韓国による日本製ステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング課税延長措置について、紛争処理小委員会(パネル)報告書を公表しました。同報告書は我が国の主張を認め、韓国のアンチ・ダンピング課税延長措置は、アンチ・ダンピング課税撤廃による損害再発の可能性があるとする認定や手続の透明性に問題があり、アンチ・ダンピング協定に整合しないと判断し、韓国に対し措置の是正を勧告しました。

1.概要

韓国は、平成16年7月30日から、日本製ステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング課税(以下、「本アンチ・ダンピング課税措置」といいます。)を開始し、2回の課税延長を経て、平成28年6月から平成29年6月にかけて行われた3回目のサンセット・レビューで、3年間の課税延長を決定しました(以下、「本アンチ・ダンピング課税延長措置」といいます。)。

我が国は、韓国による本アンチ・ダンピング課税延長措置について、平成30年6月18日にWTO協定に基づく日韓二国間協議を要請し、同年9月13日に、WTOに対し、WTO協定に基づく紛争処理小委員会(パネル)設置要請を行い、同年10月29日にパネルが設置されました。

我が国は、韓国による本アンチ・ダンピング課税延長措置について、アンチ・ダンピング課税の撤廃が国内産業の損害の再発をもたらす可能性がある旨の認定の瑕疵や、調査手続の瑕疵により、アンチ・ダンピング協定(1994年の関税及び貿易に関する一般協定第6条の実施に関する協定)に違反すると主張していました。

その後、令和元年9月及び12月にパネル会合(口頭弁論)が開催され、この度、WTOはパネル報告書を公表しました。同パネル報告書は、韓国による本アンチ・ダンピング課税延長措置は、損害再発の可能性があるとする認定や手続の透明性に問題があり、アンチ・ダンピング協定に整合しないと判断し、韓国に対し措置の是正を勧告しました。

2.パネル報告書の判断内容

同パネル報告書は、以下のように判断し、韓国による本アンチ・ダンピング課税延長措置はアンチ・ダンピング協定に違反すると認定し、韓国に対して措置をアンチ・ダンピング協定に適合させるよう勧告しました。

(1)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、①日本産輸入品が韓国産品より相当程度高価であることや②中国等からの低価格輸入が大量に存在していることが適切に考慮されていないため、日本産輸入品に対するアンチ・ダンピング課税の撤廃により、韓国国内産業への損害が再発する可能性があるとする認定に瑕疵があり、アンチ・ダンピング協定第11.3条に整合しない。

(2)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、日本生産者の生産能力を認定する際、日本生産者の提出情報を合理的理由なく拒否した点で、アンチ・ダンピング協定第6.8条に整合しない。

(3)本アンチ・ダンピング課税延長措置は、秘密情報の取扱いに不備があり、アンチ・ダンピング協定第6.5条に整合しない。

3.今後の予定

当事国は、公表から60日以内にWTO上級委員会に対して上訴することが可能です。上訴がない場合には、パネル報告書の内容でWTOとしての判断が確定することとなります。

我が国としては、本件がWTOのルールに従って適切に解決されるよう、今後の手続を進めていく予定であり、韓国が同パネル報告書採択に同意し、同パネル報告書の判断や勧告に従って、本アンチ・ダンピング課税延長措置を速やかに撤廃することを期待します。

4.本件に係る過去のニュースリリース

5.参考

(参考1)WTO協定に基づくパネル設置要請、パネル手続等

  • WTO協定は、問題となっている措置についてパネルに付託するのに先立ち、当事者国で協議を行うよう義務付けていますが、二国間協議要請から60日を経過しても紛争が解決されない場合、申立国は、紛争解決機関(DSB)にパネル設置を要請することができます。
  • パネル設置要請後は、パネル(第1審)という準司法的な第三者機関が、WTO加盟国の要請により、問題となっている措置のWTO協定整合性について審理・判断し、違反が認められる場合にはその是正を勧告します。パネルに不服のある当事国は、上級委員会(第2審)に審理を要請することができます。

(参考2)上級委員会の機能停止について

WTOの上級委員会は、「小委員会が取り扱う問題についての申立てを審理する」紛争解決機関に設置された常設機関であり、「7人の者で構成するものとし、そのうちの3名が一の問題の委員を務める」とされています(紛争解決に係る規則及び手続に関する了解(DSU)第17条1項)。しかし、平成29年6月以降、任期終了の委員に代わる新たな委員が選任されず、令和元年12月以降、新規の上訴について審理できない状態となっています。

上訴されて上級委員会に係属した事案は、上級委員会の機能が回復するまでの間、手続が進行しません。

(参考3)ステンレス棒鋼とは

耐食性、耐酸化性、耐熱性に優れた棒鋼であり、主に、ボルト・ナット、工作機械や産業機械のバルブ、タービンブレード、自動車用バルブ、シャフト等に加工、利用されます。

(参考4)アンチ・ダンピング課税とは

ある商品の輸出向け販売価格が国内向け販売価格よりも安く、その輸出によって輸入国内における産業が損害を被っていることが正式な調査により明らかになった場合に、その商品に対して国内向け販売価格と輸出向け販売価格の差を上限とする関税を賦課することをいいます。

(参考5)サンセット・レビューとは

アンチ・ダンピング措置の終了時に行われる調査をいいます。アンチ・ダンピング措置は、原則として発動から5年以内に終了しなければなりませんが、例外的に、サンセット・レビューにより、アンチ・ダンピング措置を終了するとダンピング及び損害が存続し又は再発するおそれがあると認められる場合は、措置を継続することができます。

(参考6)本アンチ・ダンピング課税措置及び課税延長措置の経緯・概要

  • 韓国は、平成15年7月5日に、日本製ステンレス棒鋼に対するアンチ・ダンピング課税調査を開始し、平成16年7月30日に、日本製ステンレス棒鋼のダンピングによって韓国の国内産業が実質的な損害を受けている旨の最終決定を行い、同日から課税を開始しました。
  • その後、2回の課税延長を経て、3回目のサンセット・レビュー(平成28年6月から平成29年6月)に基づいて、さらに3年間の課税延長を決定しました。
    ※ なお、現在4回目のサンセット・レビュー(令和2年1月調査開始)が継続しているため、本アンチ・ダンピング課税延長措置は、今後4回目のサンセット・レビューに基づく課税延長の可否が決定されるまで延長されます。
  • 上記課税措置(延長措置を含む)の結果、平成16年7月30日から16年間、我が国から韓国へ輸出するステンレス棒鋼について、日本企業に対し15.39%のアンチ・ダンピング税が賦課されています。平成29年6月までの課税総額は約56.6億円に上り、3回目のサンセット・レビューに基づく3年間の延長により令和元年末までで12.5億円が課税されたと推計されます。
  • 我が国は、本アンチ・ダンピング課税延長措置について、平成30年6月18日にWTO協定に基づく日韓二国間協議を要請し、同年8月13日に二国間協議を実施し、その後、同年9月13日にDSBにパネル設置を要請しました。同年10月29日パネル設置、平成31年1月21日パネル構成、令和元年9月及び12月にパネル会合(口頭弁論)実施のうえ、本日11月30日パネル報告書が公表されました。

(参考7)本件対象製品の対韓国輸出量について

我が国から韓国へのステンレス棒鋼の輸出量は、本件課税措置発動前(平成14年)と比較して約6割減少(平成14年:9269トン→令和元年:3791トン)しました。

担当

WTO紛争処理全般について

通商政策局 通商機構部
国際経済紛争対策室長 福山
担当者:通商交渉調整官 清水、長田

電話:03-3501-1511(内線3056)
03-3580-6596(直通)
03-3501-1450(FAX)

ステンレス棒鋼産業について

製造産業局 金属課長 蓮井
担当者:小野

電話:03-3501-1511(内線3661)
03-3501-1926(直通)
03-3501-0195(FAX)

日韓経済関係について

通商政策局 韓国室長 出雲

電話:03-3501-1511(内線3021~2)
03-3501-1566(直通)
03-3501-6024(FAX)