令和2年11月23日

1 今般、国連の恣意的拘禁作業部会(以下「恣意的拘禁作業部会」)が、我が国においてカルロス・ゴーン被告人に対して採られた措置が「恣意的拘禁」に当たる旨の意見を発表した。同意見は、法的拘束力を有するものではないが、我が国として、同意見は、到底受け入れられるものではなく、11月20日、恣意的拘禁作業部会に対し、同意見に対する異議の申立てを行った。

2 我が国の刑事司法制度は、個人の基本的人権を保障しつつ、事案の真相を明らかにするために、適正な手続を定めて適正に運用されている。また、刑事施設における処遇も、未決拘禁者の人権を尊重して運用されている。この点については、恣意的拘禁作業部会からの情報提供要請に応じて、既に説明してきたところである。ゴーン被告人に対する刑事手続についても、自由権規約を含め、我が国が締結する人権諸条約に抵触するものではなく、法に定められた適正手続を厳格に履行し、ゴーン被告人の権利を十分に保障しつつ進められてきたものであり、 ゴーン被告人に対する措置は「恣意的拘禁」には当たらないことを強調する。

3 また、ゴーン被告人は、日本の裁判所から、逃げ隠れしてはならない、海外渡航をしてはならないなどの条件の下で、これを約束し、保釈されていたにもかかわらず、2019年末、国外に逃亡し、刑事裁判そのものから逃避した。いずれの国の法制度の下であっても、罪証隠滅や逃亡のおそれがある被疑者を司法官憲が発する令状により逮捕・勾留することは認められていることはもとより、保釈後に裁判所と約束した条件を守らず逃亡し、刑事裁判から逃避することは許されざる行為である。

ゴーン被告人の事案は公判開廷前であり、我が国は、訴訟関係人の権利保護の観点から、法律上、恣意的拘禁作業部会に本件の捜査・公判に関する情報を提供することが認められていない。我が国は、恣意的拘禁作業部会に対してこのような事情を説明し、違法な逃亡を図ったゴーン被告人の事案について、ゴーン被告人側からの一方的で限られた情報に基づき判断を下すことは不適切である旨を指摘した。
それにもかかわらず、ゴーン被告人の事案を恣意的拘禁作業部会が取り上げ、同被告人側からの一方的で限られた情報に基づき今般の結論に至ったことは、我が国の刑事司法制度に係る正確な理解に基づいたものではなく、大変遺憾である。

そもそも、恣意的拘禁作業部会はゴーン被告人の逃走行為そのものについて立場を表明しないとしているが、裁判所が罪証隠滅や逃亡のおそれがあるとして発した令状により逮捕・勾留され、その後、実際にそのおそれを現実化させて刑事裁判そのものから逃避したゴーン被告人に関して、「恣意的拘禁」と判断したこと自体が、今後裁判を受けるべき者に対し逃走行為を正当化しようとする考えを助長し、各国の司法制度や正義の実現を阻害するものである。

4 恣意的拘禁作業部会の意見には

  • ゴーン被告人が裁判官の面前に連れて行かれることなく、逮捕に引き続いて22日間、10日間、19日間及び21日間拘禁されたとする点
  • ゴーン被告人の拘禁について裁判所に不服を申し入れる機会を与えることを遅延したとする点

など、明らかな事実誤認があり、到底受け入れられない。
そのため、法律上可能な範囲で同作業部会に情報提供し、事実誤認を正してまいりたい。

5 以上の理由により、我が国は、今般、恣意的拘禁作業部会においてゴーン被告人について採択された意見を完全に拒絶する。我が国としては、引き続き、刑事司法制度を適正に運用していく。

 [参考]恣意的拘禁作業部会
恣意的拘禁作業部会は、国連人権理事会の決議に基づき設置された、恣意的拘禁の事例に関する調査を任務とする専門家グループ。個別事案について恣意的拘禁に該当するかの判断を行い、恣意的拘禁に該当すると判断した場合には、意見書を採択し、公表する。恣意的拘禁作業部会の見解は、国連又はその機関である人権理事会としての見解ではなく、また、我が国に対して、法的拘束力を有するものではない。