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国の債務管理の在り方に関する懇談会(第53回)議事要旨

.日時 令和2年11月4日(水)10:00~11:30

.場所 財務省 国際会議室(オンライン開催)

.内容

1.新型コロナ拡大の影響を踏まえた金融政策運営

(日本銀行 福田 英司審議役)

2.コロナ感染拡大後の国債発行・消化を巡る課題

(三菱UFJ銀行 吉藤 茂委員)

3.国債発行を取り巻く現状と課題

まず、日本銀行 福田審議役より「新型コロナ拡大の影響を踏まえた金融政策運営」 (資料1(PDF:383KB))について、続いて、三菱UFJ銀行 吉藤委員より「コロナ感染拡大後の国債発行・消化を巡る課題」 (資料2(PDF:910KB))について、説明が行われた。その後、自由に意見交換が行われた。

▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下の通り。

・吉藤委員説明資料のP18の右側のグラフを見ると、今回の発行量増加のインパクトが異例に大きいため、今後の対応は想像力を豊かにしていく必要があると考える。

・ステージ1(「危機の発生と対応」)に関して、借換リスクは、短期的には短期金利、場合によっては為替レートとリンクしてくると思う。今は、新型コロナ対応のため世界的にリフレ政策が取られている中で、何とか通貨の信頼のバランスは維持されている状況だと思うが、今後、正常化や出口の議論が出てくる際、通貨の信頼のバランスは非常に崩れやすいため、正常化や出口への備えが必要と考える。例えば、金融政策を考えた場合、金利を上げると借換コストが増加する、金利を上げないと通貨防衛ができないといったことも、最悪の事態では想定されるため、二律背反の問題が出てき得る。

・次のステージ2(「危機からの回復」)では、今回の左上への行き方(ステージ1)が大きかった分、平均償還年限の是正には長期間を要すると思うため、市場との対話も大事な一方、むしろフィッシャー方程式で言うところの財政プレミアムをどうコントロールしていくかという世界に入ってくると考えており、非常事態の後の財政規律をいかにマーケットに訴えていくかということが、いずれ重要になってくる。

・今のところ、スガノミクスは構造改革重視ということで、市場は安心している面があると思うが、今回、非常事態によって多くのコストがかかったため、これを国民全体でどうシェアしていくか、税制も含めて次のステージの議論をどこかで始める必要があると実感した。

・ここ数年間、最大の投資家が日銀であり、そういう意味では、市場との対話というのが、日銀抜きにはできない状況になっている。そのため、日銀・市場・発行当局の3者の調和が非常に重要になっていると改めて感じた。

・今回、当初比の発行で100兆円程度増えているわけであり、緊急避難的に短期債を中心に増発したのはやむを得ない対応だったと思う一方、どのように平均償還年限を長期化していくかという点が、今後の持続的な対応の中ではやはり重要になってくるのではないか。

・ただ、今回、コロナ禍で急に発行総額が増えたため短期化した部分がある一方、実際問題として、マイナス金利が導入された2016年頃からはフローベースの平均償還年限がほとんど伸びていない状況にある。

・私は水没という言い方をしているが、金利が水没するような状況の中にもかかわらず、平均償還年限が伸びていない状況にあるということに鑑みると、コロナの問題を抜きにしても、少なくともここ数年間はもう少し長期化を図るべき状況にあったのではないかとも思っている。そういう意味では、この平均償還年限の長期化にどう取り組むかは重要なテーマではないか。

・マイナス金利下における20年債は、従来の10年債と同様、ロールとキャリーの状況になっており、そういう面では運用の中心が20年債にだんだんシフトしてきていると考えられる。

・10年以下のゾーンは、日銀買入により、ほとんどが水没しており、市場機能が働かない状況になっている。このため、投資家が対応するゾーンは10年以上ということになり、そういう意味では、20年債のところをベンチマークとして考えていくということも示唆できるような状況ではないか。もちろん、国債先物市場がなかなか機能していない中での難しさもあるが、もう少し20年のところをベンチマーク化するような動きがあってもいいのではないか。

・こういう状況の中で、超長期ゾーンをもう少し育成していくのが重要ではないかと思っている。生保について言えば、2025年導入予定の経済価値ベースのソルベンシー規制への対応もあり、超長期債へのニーズも一定程度存在する状況。現在、国債は40年債までであるが、民間の社債では既に50年債も出ており、また、財投機関債として、50年債も今年は発行されていることを考えると、例えば50年債の発行をどう考えていくかということも1つ議論の対象になってくるのではないか。債券市場全体の育成、もしくはベンチマーク、もしくはリスクフリーレートの中でのイールドカーブ形成ということを考えると、これだけ低金利になった状況、しかも、この状況が長期化する状況の中では、超長期ゾーンの育成は重要でもあり、また、そこの部分が一定の市場機能が残った唯一のフロンティアであるということを考えた場合にも、50年債の発行は考えられるのではないか。なお、その場合、入札方式だけではなく、私募方式といったあらゆる選択肢を考えていくのが重要ではないか。

・国債が各国で大量に発行されており、国債の世界の中での生き残り競争ということで、私はよくソブリンワールドカップという言い方をしているが、どこの国の国債が生き残れるかの非常に重要な条件として、経常収支及び財政規律が維持されているという2つが車の両輪ではないかと思っている。そういう意味では、国の競争力としての経常収支、それに財政規律という意識を官民ともに持つことが重要だと思う。また、そうした存在により、今後の追加的な対応余地を持ち得ると思うため、財政規律も含めたメッセージを市場からも発出していくことが重要。

・今回の状況は、当然、発行量の規模もさることながら、投資家需要が、超短期ゾーンの担保・アービトラージ需要、そして中短期ゾーンが抜けた状態、超長期ゾーンでの本質的な需要と、かなり両極端化しているという点で、これまでになかったものだ。こうした中で、この先何年か平均償還年限を長期化していかなければいけないというフェーズに入っていくというのは、かなり特殊な状況ではないか。

・超長期がベンチマーク化していっている中では、ここでの発行増を通じて平均償還年限の長期化を行わざるを得ないと考えられる一方、これが中長期的に本当に望ましいか否か、考えていくべき。その理由は、超長期ゾーンは金利リスクが非常に高いことにある。日本のマーケットだけが海外マーケットから切り離されて、何十年も超長期ゾーンの金利が安定的に推移すると想像するのは、中々困難だ。日銀の金融政策にも関係するが、中長期ゾーンの投資家ニーズが蒸発している状況の下で、国債発行の重点が超長期ゾーンに移っていくことが、本当にマーケットの安定や先々の日銀の金融政策の運営も含めて望ましいのか、考えていく必要があるのではないか。

・超長期ゾーンに対する考え方は、財務省がコスト・アット・リスクなど様々な分析の中で判断されるものと考えるが、投資家の立場としては、現状の円金利のイールドカーブ構造において、超長期ゾーンへの投資ニーズはあるため、投資機会が増加することはありがたい。一方、発行量と金利リスク量が短期間で急激に増え、投資家のリスク許容力を超えると、(金利上昇を招き)リスク管理上また財務上の影響も想定されるため、超長期ゾーンの増発を行う場合は、時間をかけて丁寧に実施する必要がある。

・民間の超党派のシンクタンク(CRFB)によると、アメリカのトランプ大統領が再選した場合も、バイデン氏が勝利した場合も、いずれもアメリカの財政収支は10年間で約5兆ドル悪化すると見込まれている。加えて、民主党が仮に大統領・上院・下院を全てを制した場合、2、3兆ドルもの新型コロナ対策が来年にかけて遂行される可能性があり、それを単純に足すと10年間で8兆ドルとアメリカの財政収支が悪化する計算になる。そうすると、アメリカのGDP対比の債務残高も相当な高水準となり、戦後最大を更新するのは間違いない。

・国債増発がかつてない規模で拡大しており、当初は短期債を中心に増発したことにより、円滑な国債消化が実現できたと思うが、コスト・アット・リスク分析によるとリスクが拡大してきていて、長期的なリスクコントロールの視点からは、短期債から長期債や超長期債へのシフトが必要になってきていると感じている。

・コスト面で考えると、イールドカーブ・コントロールを前提とした場合は、やはりゼロ金利近傍で長期債が発行できているため、10年債の発行が非常に有力となってくると思うが、超長期の目線で日本経済がどうなるかというリスクも考えた場合、10年超の借換えリスクもあるため、超長期債での発行も一定程度、有力だと考えている。

・生保は、経済価値ベースのソルベンシー規制導入を見据えて、超長期債への投資を拡大している。また、地域金融機関は、ロールダウンによるキャピタル・ゲインを目的に超長期債を運用しており、この期待リターンが、20年債で1%弱に達するまで来ている状況。そうしたことを考えると、ある程度、超長期債への需要は今後も拡大していくのではないか。また、地域金融機関は地方創生の要であり、地域への融資拡大など大変な努力をされているが、依然として、収益状況としては厳しい状況が続いている。その間、預貸ギャップとしては預金超過が拡大していっている中、有価証券運用は1つの収益の柱になってくると感じている。そのためにも、一定程度、超長期債への投資によって収益を確保していかなければならない。前提として、イールドカーブ・コントロール導入後4年経過しているが、これが将来に向けてある程度見通せることが重要となってくる。また、超長期ゾーンに関しては、イールドカーブ・コントロールの対象となっていないが、こういった市場機能が働くような市場の形成が大切だと思う。

・また、ドイツなどではグリーンボンドが発行されているが、これは将来、日本の財政支出の在り方や競争力という意味での経常収支黒字を確保していく意味で、1つ鍵になってくる発行方式ではないか。ドイツでは、グリーンボンド原則に基づき、資金使途を気候環境問題に関する知識やイノベーション支援、再生可能エネルギー中心の経済への移行加速、あるいは、農家では有機的で環境に優しい農業の実践方法の開発などとしている。日本としても、長期的な成長性・競争力を考えた上で、官民共々投資を拡大していくような分野と思われるため、そうしたことも考えていく必要があると感じている。

・ 人生100年時代の中で、60代あたりが投資先に困っており、30年程度の資産運用ニーズが非常に高いと感じているが、例えば、個人向け国債においても、年金支払いタイプでアモチ償還の付いた超長期債の発行なども、国債の安定発行という観点から一定の妙味があるのではないか。

・米国の金融政策が2023年から正常化に向かっていくと思われているが、その条件はインフレ率と考える。当面はある程度のインフレ率を許容すると米連銀が言っているが、これからの議論の中で、果たしてインフレ率が上がるか否かという論点は重要だと感じる。特に、貿易摩擦・技術摩擦が続く中、ここ30年間、物価を抑えている1つの大きな要因がなくなるため、これは1つのリスク要因として考えられる。

・これから温暖化対策や地方再生などによって投資需要がかなり増えるのではないか。例えば、日本がガソリン車を止めて電気自動車に切り替えた場合、どれだけの電力が必要かということを簡単に計算すると、少なくとも原発22基を100%稼働させた場合に相当する電力が必要で、これは相当大きな投資。あるいは、海運のためのディーゼルに代わる水素なども大きな投資となる。菅政権の環境目標が出されたが、こういう民間の投資需要がかなり増える可能性もある。しかし、その分、財政赤字が減らない場合は、やはり金利に影響が出てくると思う。

・発行年限のバランスについて、コストだけではなく、いざという場合に何が起こるかも考えるべきではないか。例えば、長期金利が上がった場合、資本不足に陥ってしまう金融機関もあり得る。その時に誰が助けなければならないかというと、もちろん国であり、そのコストもある。そのため、発行年限をバランスの取れた形で考えてもよいのではないか。

・日銀のイールドカーブ・コントロールの対象は、短期ゾーンから中期ゾーンのところだけであり、市場の方々の需要は10年以上に存在しているということだが、今後の日銀の金融政策を考えた場合、全ゾーンにおいて少しずつ買入を行い、短期ゾーンだけでなく全体のイールドカーブを下げるという政策もあり得るのではないかと思う。この場合、短期・中期・長期、それぞれゾーンである程度ポジティブな金利の市場となるのではないか。

・グリーンボンド原則がヨーロッパで出されているが、これが少しはっきりしないところがある。「90%グリーン10%グレー」「80%グリーン20%グレー」のグリーンボンドが発行されているのが現状。これを改善するためには、グリーンボンド市場で、グリーンボンド格付けというものをしっかり行う必要がある。100%近いグリーンボンドは、グリーンボンドのトリプルA、80%程度のグリーンボンドはダブルAといった形で格付けを行うことにより、グリーンボンドはとてもよいものになると思う。現状のグリーンボンドの定義はそうなっていないという問題がある。

・今、発行がうまく回っているのは、日銀の金融政策に依る部分が非常に大きいと思う。ただし、これが短い期間で終わるわけではないが一生続くわけでもないため、グリーンボンドや超長期債といったものによって発行の多様化を図るということを大きな意味で考えていかなければならない。

・長い国債、今だと100年債なども他の国では出始めている。先ほどのように、グリーンボンドなどはフランス、オランダ、最近ではドイツも発行していて、来年になるとEUも出すという話になっており、アメリカでも、バイデン氏が勝った場合、多分グリーンボンドの話というのは盛り上がってくるような環境になっていると思う。今は60年償還ルールがあるため難しいかもしれないが、永久債や外貨建て国債も検討しながら、発行の多様化は将来的に向けて、この場でも話し合っていかないといけない。そうした国債の中で、検討の優先順位としてグリーンボンドは一番先頭の方にあると考える。

・超長期債へのニーズはあると考えており、また、生保は長い負債を持っていることから超長期債へのニーズがあるため、そういったニーズにも応えていくということは非常に重要なことだと思っている。一方、長期的に見て、例えば地域金融機関のバランスシートの構造を考えると、多額の超長期債が発行されていくということについては、プルーデンスの視点からも考えていく必要がある。

・グリーンボンドについては、重要な検討事項だと思っている。普通国債との関係で、どういう金利の状況になっているのか等、そういったデータも踏まえて検討していく必要があると考えている。

・米大統領選後の金利動向については、基本的には、もしベアスティープ圧力が米国で発生すれば、その影響は日本にも及ぶと思う。ただし、日銀のイールドカーブ・コントロールの効果により、その影響はある程度緩和されるだろうと考える。また、新型コロナ感染拡大やその他の経済状況次第だが、米国で金利上昇を抑制する政策が必要になる可能性もあり、極端な金利上昇が続くことはないだろうと想定している。

・米国でのインフレ見通しについては、日本のようなデフレに向かうのか、あるいは今までのようにインフレ期待に沿ってイールドカーブが立ってくるのかは、見方が分かれるところであるが、その長期的な影響を注視する必要があると考えている。

・外国人投資家のニーズに関しては、円建て、外貨建てのいずれにおいても、相対的な魅力の問題であり、また、それぞれの金利水準には、その投資手法が影響を与える。例えば、自国通貨が元手の場合はドル円ベーシス、レポ市場を利用する場合はレポ市場の充実度、また格付け状況など、多様な要素に依存する。

・イールドカーブ・コントロールに関しては、イールドカーブ全体が低下すると、銀行の立場としては超長期ゾーンの運用をしづらくなる面はある。一方、イールドカーブ、金利が急上昇すると、財務上の負担が大きくなる金融機関が出るなど悪影響も想定されるため、そのコストを勘案する必要がある。

・発行の多様化については、最近は発行量が少ない変動利付国債なども、今後の金利見通しによってニーズが高まる可能性もあり、多様化の推進は必要と考える。

続いて、理財局より「国債発行を取り巻く現状と課題」 (資料3(PDF:3770KB))について、説明が行われた。その後、自由に意見交換が行われた。

▶ 当局からの説明概要は以下の通り。

(新型コロナ対応後の国債発行を取り巻く現状)

・1次・2次補正で約100兆円の増発をしたことで、発行総額は約253兆円と過去最大規模になっている。その調達に当たっては、短期債を中心に増発を行ったところ。留意すべきこととしては、短期債は来年度に償還が到来するため、借換える必要がある。

・イールドカーブは、コロナ前と比べると若干、ベアスティープしている形になっている。

・QUICK月次調査によると、コロナ前と比べて、コロナ後の変化として、債券価格の変動要因として、債券の需給に注目しているという回答がかなり大きくなっている。そして、コロナ前は債券需給が金利低下に寄与すると見ている方が多かったが、コロナ後はそれが反転して、金利上昇要因として見ている方が増えており、これは大きな変化と考える。

・本年9月に開催したPD会合においても、参加者の方から、市場のボラティリティを高める今後の要因として、今後のコロナウイルスの感染状況、内外の様々な政治情勢の変化、今後の3次補正による発行計画の変更などの意見をいただいている。

(今後の国債管理政策における課題)

・私どもの基本的目標である「確実かつ円滑な発行」と「中長期的な調達コストの抑制」は、当然今後も変わらずに維持する。

・内閣府の中長期試算に基づいて国債発行額の将来推計を行っているが、令和3年度以降も令和2年度の2次補正後発行計画の年限構成割合を維持したものとして試算すると、来年度以降も、それなりの規模で短期債の発行が続いていくこととなり、その結果、今後も借換債の金額ひいては全体の発行総額が同程度の水準で続いていくという見込みになっている。

・したがって、今後、様々な経済状況などを見ながらではあるが、コロナが落ち着いて、発行総額を減少させていけるようなフェーズになった場合においては、今回、増発した短期債の減額を通じて、借換債発行額の抑制に努めながら、市場のニーズを踏まえた発行年限割合等を考えていく必要があると考えている。

・コスト・アット・リスク分析を行って、コロナ前とコロナ後の発行計画でコストとリスクにどのような変化があったかを見たところ、今回、100兆円規模の大増発をしたことにより、結果的にコストとリスクがともに増加するという結果になっている。ただ、短期債を中心に発行したことで、コストの平均値は思ったほど増えていない一方、借換えに伴う今後の金利変動リスクの方は大きく増えている、という格好になっている。

・基本的にはコストとリスクはトレードオフの関係にあるが、今回は両方とも増えている。これは、発行総額自体が大きく増えたことによるものであり、今後、増大したコストとリスクを両方とも縮小していくという観点からは、まずは国債発行総額全体を抑制していくことが大前提になる。その中で、市場ニーズを踏まえた発行年限を考えていくことが重要。

・前倒債の活用については、これまでリーマンショックや東日本大震災等、様々なショックがあったときには、短期的に国債を増発しなければならないことがあるわけだが、発行総額が急激に変化する状況においても、前倒債を活用することによって、カレンダーベース市中発行総額は急激な変化にならないよう運営してきているところ。今後もこうした前倒債の機能を踏まえて考えていく必要があると思っているところ。

・長期金利をフィッシャー方程式の考え方に基づき、潜在成長率と期待インフレ率とリスクプレミアムに要因分解したところ、リスクプレミアムの部分が、2013年の日銀の量的・質的金融緩和の導入決定以前はプラスであったが、導入後はマイナスに転じており、それが常態化している。残差としてリスクプレミアムを計算しているため、様々な要因がここに凝縮されていると思うが、日銀の金融政策による影響もこの部分に表れていると考えられる。

・日銀の国債買入比率を見ると、イールドカーブ・コントロールの導入後、基本的に国債買入比率は低下傾向にあったが、足元では、特にイールドカーブ・コントロールの対象である10年以下の部分は、短期的に買入比率が増加しているのが見て取れる。他方、10年超の部分はそれほど大きな変化はなく、トレンドが維持されている。こうした日銀による金融政策、国債買入れの考え方・スタンスが国債市場や金利に与える影響にも留意する必要がある。

・銀行は、近年、国債の保有比率を減らしてきたが、足元では下げ止まってきているように見え、直近では少し反転し増加している。これは、担保需要の増加が寄与していると考えられる。

・生命保険会社については、2025年のICS(国際資本基準)導入に向けて資産と負債のデュレーション・ギャップを埋める観点から、超長期債に対するニーズが一定程度存在すると思っている。その中で、2025年に向けた買入ペースがどうなっていくのか、あるいは、2025年以前と以後で、どういうニーズの変化が出てくるのかといった点にも注視していく必要があると考えている。

・個人投資家については、最近、個人向け国債の発行額が比較的増えてきているが、償還額も高水準である状況。償還の中には、満期償還だけではなく中途換金による償還も含まれており、個人による国債長期保有のインセンティブを与えられるような手数料体系を本年10月から始めたところ。

・これまで国債の消化は家計や企業などの民間部門の貯蓄超過に支えられてきた面があるが、今後、高齢化による貯蓄率の低下や日本企業の競争力次第では、将来的に経常収支がどうなるかといったことも考えると、海外投資家に資金調達をより依存しなければならなくなる可能性も頭に置いておく必要があるのではないか。

・海外投資家の現状について、セカンダリーマーケットでの取引シェアでは、比較的高いプレゼンスがあるが、T-Billを除く利付債における保有比率は7%程度と低位で推移している。こうした点も踏まえて、今後、より長期的かつ安定的に国債を保有する海外の投資家層を増やしていく観点から、より積極的・効果的な海外IRを実施していく必要があると考えている。

・新型コロナ発生後、政府の緊急事態宣言に伴い、出勤制限やテレワーク等が行われたことや、投資家のリスク回避的な急激な動きが見られたことがあり、国債市場でも不確実な状況が見て取れた。今後も、今回のような異例な事態が起きることはあり得るということを前提にして、そうした状況下においても着実に国債の発行・消化ができるよう、それぞれの立場でBCP体制の強化を意識していく必要があるのではないかと考えている。

▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下のとおり。

・国債発行額の将来推計は財投債が除かれているが、財投債も加えた国債全体の発行額について見た方がよい。

・グリーンボンドについて、一部の民間の金融機関の方や投資家の方に聞くと、日本にグリーンボンドがないため、ESG投資をするために、世銀が発行しているグリーンボンドやアジア開発銀行が発行しているグリーンボンドなど、わざわざ海外のグリーンボンドを買っているとのこと。そういう方々のニーズを吸収するためには、国内でグリーンボンドを発行すべきではないか。

・内閣府の中長期試算における成長実現ケースでは、楽観的かもしれないが、新型コロナの影響が落ち着き、経済が通常状態に回復していけば、本年度に一時的に急増した財政支出も減少し、税収も次第に戻り、国債の新規発行額は減少していくという姿が描かれている。ベースラインケースにおいても、2026年度まで国債の新規発行額の減少が続く姿となっている。

・今年度の補正予算で急増した一時的な財政赤字の多くは、割引短期国債の増発で賄った姿になっている。なぜこうした対応をとったかについての私の理解の仕方だが、市場で慣行として定着してきた、中長期的な調達コストを抑制するための方策である「定期的かつ予見可能な発行」(regular and predictable issuance)の在り方、これを2年債から40年債について基本を適用するという形を取ったものと理解している。他方、企業金融への影響等、クレジット・イージングという観点も考慮しつつ、この点については短期国債を中心とした発行で対応したものと理解している。

・今後は、先程述べた新規国債発行の減少とregular and predictableな発行を前提にして短期国債の償還を進め、年限の長期化を進めることで終息していくのだと思う。つまり、短期国債の急増と終息のプロセスについても、国債の市中発行を守るという同じ原則で進むという考えである。

・コスト・アット・リスク分析から平均償還年限の長期化が必要というのではなく、regular and predictableを前提に、前倒債の活用をしながら、安定的で透明性の高い国債発行を行うことが必要ということ。

・リスクが増大するから平均償還年限の長期化が必要だという論法を強調すると、本日の意見の中には永久債という意見もあり、発行を意図した意見でないと信じているが、次第にヘリコプターマネーの考え方に近づき、財政規律が緩み、財政健全化がさらに遠くなる。

・日本はシングルAマイナスの国であり、ドル建てで見て明らかに米国債よりもかなり高い金利となっており、本邦企業や邦銀が高い外貨調達コストを払うような中において、どんどん平均償還年限の長期化を図っていけるという状況ではないと思う。財政の状態がよくて、国際的な信用も高いといった中において、更なる長期化を進めることができるのだと思う。財政健全化や財政規律が重要であるというメッセージをマーケットが送り続けるためにも、透明性の高い安定したマーケットである必要があり、オポチュニスティックな行動をとるのではなく、マーケットとの対話を通して、年限構成を透明性の高い方法で決定していくことが大事である。

・金利リスクプレミアムの計算において、物価上昇率の代わりとして、消費者物価指数の日銀の刈込平均値や、もう少し期待インフレ率に近い指標もあると思う。内閣府の消費動向調査の中にインフレ期待のものがあり、分布値になるが、その分布の中心がどこにあるのかを逆算して利用することもできると思う。

・経常収支について、国債市場の安定化は脱炭素社会次第という面もあるのではないか。なぜかと言うと、脱炭素社会には相当程度の投資が必要であり、それによって、経常収支が悪化することは想定されるが、2019年は日本が18兆円の化石燃料を輸入しており、脱炭素投資をすれば、こうした化石燃料の輸入が減り、逆に経常収支が黒字になっていくことも考えられるからである。

・今回、日本では新型コロナに伴う緊急事態宣言の下で市場の不確実性が非常に高まったということで、官民共にBCP体制の強化に真剣に取り組まなければならないと思っている。実際にモビリティデータ、いわゆる携帯電話のGPSデータなどを見ていくと、日本は幸いなことに緊急事態宣言の後、欧米に比べてかなり早い速度でオフィスへのモビリティが戻っており、今はほとんど正常に近いところまで戻ってきている。一方、欧米のケースを見ると、モビリティが戻っていない中で経済活動を続けているという実態になっている。もちろんチキン・アンド・エッグのところはあって、BCP体制がないがゆえに戻るのが早かったのか、戻るのが早かったからBCP体制がさほど強化されなかったのか、そして、なぜそんなに影響が短期間で済んだのかといった点ははっきりとしないところではあるが、今回、モビリティが戻れたことがたまたまの幸いであって、この先、コロナ以外にも自然災害等の可能性があることを考えていくと、菅首相の言うデジタライゼーションを官にとどまらず民間も含めてやっていく、といった働きかけを政府の側でもやった方がよいのではないか。

・今後は、これまでの短期に発行を寄せ過ぎている状況を平準化していくフェーズだと捉えているが、日本の国債需要は短期ゾーンと超長期ゾーンの両極端に偏りがある中で、平準化を進めようとすると、超長期ゾーンへの一定のニーズへの配慮が必要だということは理解できる一方、このゾーンについては金利リスク量という点で十分な配慮も必要であると考える。

・財政に関する様々な捉え方が出てくる可能性についても、若干懸念している。世界的に財政が拡大し、米国もこれから財政出動を行えば米国の長期金利が上下していく局面になる可能性もあり、不確実性が高い状況と思う。そうした中、日本はワニの口が口ではなくなった状況にあるため、日本の中長期的な財政健全化に向けたコミットメントの重要性は増している局面ではないか。

・国債発行計画としては、国内外の経済情勢を踏まえ、市場のニーズも見ながら、発行に係るコストとリスクのバランスを取っていくことが望ましいと理解しているが、同時に、発行当局として、財政規律に対する姿勢について国内外から誤解を招かないよう、丁寧なコミュニケーションを意識すべき。

・今回、年限構成について何回も議論がされてきて、年限構成は政策手段として非常に重要になってきていると考えている。特に、もともと短期金利の動向等が、長期金利やイールドカーブの動きを考える上で非常に重要だったのが、2000年代からはゼロ金利環境がずっと続いており、そうした中、年限構成が非常に重要になってきていると思う。

・年限構成を考える上で理論的に一番大事な点は、裁定取引者が直面する年限構成である。つまり、日本の場合は、財務省が発行した年限構成から日銀の保有と年金や生保の保有の一部を差し引いた後の、裁定取引者が直面する年限構成が、イールドカーブや長期金利の動向を決める上で非常に重要になってきている、と理論的にも実証的にも感じている。

・今回の新型コロナ対応で一番大きく踏み込んだのは、米連銀ではないかと思っている。十数年前の金融危機のとき、邦銀がドル調達を行うために余分な金利を支払う必要があるというジャパンプレミアムが存在した。しかし、今回の米連銀は、無制限で、日本を含む各国に対してドル供給を行った。このため、今回、邦銀は、海外における業務の持続において、余分な金利を支払わずに済んだ。結果的に、米連銀の政策は日本の国債市場にも影響を与えており、今回の大量の国債発行を円滑に行うことができたのではないか。

・本日、米国におけるインフレ率の今後の推移について議論があった。そういう意味では、米連銀の政策も、いつまでも今の状態であり続けるかどうかは分からない。日本の国債管理政策にもし問題が起きるとすれば、米国におけるインフレ率の推移が変化し、それによって米連銀の政策に変更があるかもしれない点である。そこから来るショックというのは、無視できないのではないか。

→(理財局から説明)

・国債発行額の将来推計における財投債の取扱いについては、内閣府の中長期試算において財投債の発行額が試算されていないこと、内閣府の中長期試算以外においても財投債の発行額を試算したものが見当たらないことから、財投債を除いた形で示している。財投債も含めた全体について見る必要があるのは御指摘のとおりだが、データの制約が理由ということで御理解いただきたい。

・御指摘のあったregular and predictableというのは、引き続き意識しなければならない基本的な原則だと思っており、透明性の高い方法で今後も国債発行を行っていく必要があると考えている。

・リスクプレミアムの計算に際し、期待インフレ率をどういう指標で代用するかという点に関し、簡易的な形としてCPIを使用している。なお、日銀の刈込平均値を使用しても全体としての傾向はあまり変わらないものと考えている。

・財政規律に対する姿勢を維持することは重要と認識。年限構成については、当局としては、今の未曽有の状況の中、市場へのインパクトを抑えるため、市場参加者と丁寧に対話をしながら検討を進めてまいりたい。

・一般に、社債なども含めてグリーンボンド市場が活性化していくこと自体は望ましい方向であると考えている。一方、国債としてグリーンボンドを発行することをどう考えるかという点については、例えば、特定財源のような形になることをどう考えるか、あるいは調達した資金の使途をどうするか、あるいは事後的なフォローアップをどういう仕組みでやっていくのか、といった予算の制度的な論点があると考えている。また、マーケット的には、投資家向けに他の国債とは別の銘柄で発行する必要があると考えるため、安定的に発行できるニーズがどの程度あるのか、あるいは流動性を確保できるのかといった論点などもあると考える。こうした中で、現時点では既存の国債で必要な額を調達できているため、直ちにグリーンボンドを発行することは考えていないが、今後、諸外国の動向も注視しながら、勉強をしていく必要はあると考えている。

(以上)

連絡・問合せ先:
 財務省 理財局 国債企画課 企画係
 電話 代表 03(3581)4111 内線 2565


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