2020年10月15日

10月9日(金曜日)、経済産業省は、気候変動問題に関する企業の情報開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言について先進的に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーを集めた「TCFDサミット2020」を開催しました。また、サミットでの議論の要旨をサミット総括として取りまとめました。

1.開催の背景

「環境と成長の好循環」の実現に向けて、引き続きTCFD開示に対する企業のコミットメントを促し、賛同機関数を増やすとともに、投資家の投融資判断に資するよう、企業は開示の質の向上を図り、ビジネスチャンスの発見や開拓につなげることが重要です。

2019年10月、東京に各国の産業界・金融界のリーダーが集まり、世界初となる「TCFDサミット」を開催しました。気候変動対策に関して、「エンゲージメントの重要性」、「オポチュニティ評価の重要性」などの基本コンセプトに合意しました。昨年のTCFDサミット開催時には、世界で863機関、日本で198機関が賛同していましたが、サミットをひとつの契機として、2020年9月25日時点で、世界1,433機関(+570)、日本306(+108)機関まで拡大しています。

第2回となる今回のTCFDサミットでは、産業界・金融界のリーダーに更なるTCFD提言の活用に向けて議論いただき、TCFD提言を実務に定着、発展させていくことを目的に、実務家によるセッションも開催しました。本サミットを通じて、気候関連財務情報開示の認識と知見を共有し、日本から世界に対して、TCFD賛同拡大に向けた取組を発信しました。

2.TCFDサミット2020の概要

日時:2020年10月9日(金曜日)

開催方法:オンライン

主催:経済産業省

共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム

視聴登録者数:約3200人

プログラム:別紙のとおり

3.議論の内容

(1)Welcome Message 総理大臣挨拶

菅内閣総理大臣より、世界の企業、投資家がサステナビリティを核とするビジネスに転換していることへの言及がありました。さらに、日本は累積のCO2量を減少に転じさせる「ビヨンド・ゼロ」を実現するイノベーションを生み出し、「環境と成長の好循環」の絵姿を示すことで世界の脱炭素化に貢献していくことや、日本政府として、気候変動問題の解決に取り組む企業を金融の力で支える取組であるTCFDを支援していくとの表明がなされました。

(2)Welcome Message 経産大臣挨拶

梶山経済産業大臣より、脱炭素化・低炭素化に向けたトランジションと、CO2の大幅削減に向けた革新的イノベーションについて、これを「機会」ととらえてTCFDを活用して開示していくことの重要性が提言され、来年以降もサミットを通じて、継続的にTCFD開示の取組が推進することへの期待が示されました。また、脱炭素化社会の実現に向けて、イノベーションの取組に果敢に挑戦する企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」と位置づけ、第一弾として、320社の企業リストを発表しました。

(3)Opening Remarks

ヴァルディス・ドンブロウスキス氏(欧州委員会副委員長)のメッセージ

ドンブロウスキス氏より、TCFD提言は気候関連情報開示の方法について確かな指針を示しており、その重要性に鑑みて欧州委員会も引き続き強く支持していくことが表明されました。

マーク・カーニー氏(Finance Adviser to the Prime Minister for COP26 UN Special Envoy for Climate Action and Finance)のメッセージ

カーニー氏より、2021年11月のCOP26に向けて、気候情報開示については、様々な国・地域に応じたTCFD開示の義務化を模索していく中で、法令、証券開示基準、あるいは会計面での情報公開といった多様な方法の可能性に言及がありました。また、すべての金融判断において、金利、信用リスク、将来キャッシュフローと同じように気候変動が考慮されるべきであり、その土台となるのがTCFD開示であることや、静的な情報の開示だけでなく、気候リスクをどう管理し、どこにチャンスがあると考えているか、より良い世界を築くために戦略をどう実施しているかを開示できることが重要であるとの示唆がありました。

 
 

メアリー・L・シャピロ氏(Head Of The TCFD Secretariat)のメッセージ

シャピロ氏は、世界最大数のTCFD賛同者が集まるコンソーシアムの役割は大きく、透明性の向上に向けて金融機関と非金融機関がいかに協力できるかを示す良いモデルであるとして、その努力に敬意を表しました。また、長期的視点がなければ市場で競争優位に立てないが、未来を見据えて炭素ネットゼロを掲げる企業は将来成長し、成功できるとの示唆がありました。

(4)Opening Session「TCFDサミットへの期待」

第1回TCFDサミット以降、TCFD提言を取り巻く状況がどのように変化してきているか、TCFD提言の実施を促進するために投資家や産業界がどのような取組を行っているか等について、共催者、投資家、事業会社を代表するスピーカーの方々からメッセージをいただきました。コロナ禍でTCFD提言に沿った開示の機運がさらに高まり、TCFD開示が質・量ともに改善しつつある中で、財務影響分析等のTCFD開示の実践や、イノベーションやトランジションへのTCFD開示の活用について議論することへの期待が語られました。

伊藤邦雄氏(TCFDコンソーシアム会長、一橋大学員特任教授)からは、世界最大のTCFD賛同機関が集まるTCFDコンソーシアムでは民と官の協力体制のもと、TCFDガイダンス2.0の改訂とベストプラクティスの収集、投資家向けの手引き書である「グリーン投資ガイダンス」を活用し、投資家がエンゲージメント等を行うGIG Supportersの取組等の紹介があり、サステナブルな社会の実現のために、気候変動への取組を中長期での企業経営の移行の機会とすることが必要との示唆がなされました。

ピーター・バッカー氏(WBCSD会長兼CEO)からは、気候とサステナビリティに関する情報が投資家に活用されることが重要で、資本コストに比して、サステナブルな社会への移行に資するビジネスにより多くの財務資本を配分する資本市場を創出しなければならないとの提言がありました。

(4)スペシャルディスカッション(ウィズ・コロナ/ アフター・コロナ時代のESG投資とTCFD開示の意義)

事業会社と投資家を代表する登壇者の方々から、この1年間のTCFD開示への取組みを振り返り、新型コロナウィルス・パンデミックによる影響と対応の方向性についてもご発言いただきました。投資家からは、パンデミック状況下においてESGを考慮している企業のパフォーマンスに性の相関関係が示されていること、バリューチェーン全体でのネットゼロに向けた働きかけなどが紹介されました。事業会社からは、パンデミックによって事業環境がグローバルに急速に変化する中で、対応の加速化の必要性、経済価値と社会的価値の両立に向けたイノベーション投資への重要性などが紹介されました。

投資の意思決定に役立つ情報が必要とされる中、ESG投資においてTCFDは現状で利用可能な最良の開示枠組みであり、他の基準との調和を進めてギャップを埋めることや、特にシナリオ分析を活用して長期的なリスク管理やビジネス機会を評価し、開示して対話することの重要性が議論されました。また、セクター自体の変革が必要な場合もあり、社外のプレーヤーを取り込んでイノベーションをもたらそうとする企業を評価するためにも、投資家側にもTCFDへの一層の取組みが必要とされました。
 

(5)パネルディスカッション1「業種別のマテリアリティを踏まえた評価の重要性」

気候変動は幅広い業種にとって重要な課題ですが、業種が異なればリスクや機会の性質が異なるため、TCFDに準拠した開示や評価は画一的に行うのではなく、業種固有のマテリアリティを理解した上で、評価することが重要です。本セッションでは、各社が固有の気候関連リスク・機会を経営戦略に統合し、効果的に管理する方法や、業種別マテリアリティを踏まえた建設的な対話やエンゲージメントのあり方等について議論が行われました。

議論を通じて、投資家は長期的視点をもって、業種別のマテリアリティを投資決定に組み込むこと、企業は潜在的な気候リスク・機会を把握して経営レベルで議論するためのメカニズムを構築することが重要との認識が共有されました。また、開示は初めから完璧を目指すのではなくステップバイステップの取組であること、マテリアリティを同じくするセクター内での危機感の共有が有効である一方、マテリアリティを管理する戦略においては企業の独自性が求められるとの指摘がありました。

(6)パネルディスカッション2「シナリオ分析の実践と事例紹介」

TCFD提言におけるシナリオ分析は、TCFD提言実施における大きな課題の1つですが、シナリオ分析を実施し、分析結果を経営戦略に統合して実行することはビジネスチャンスにもつながります。本セッションでは、シナリオ分析を中心に、企業によるTCFD提言の実践や、投資家・金融機関による企業のTCFD開示を活用した評価について経験を共有するとともに、それらから得られる学び等について議論が行われました。

議論を通じて、シナリオ分析をまず開始し、継続的に実施することの重要性、経営層や担当以外の部署がシナリオ分析に参画する重要性、シナリオ分析の実施が経営層の意識を変えるといった一連の経営層との意識の共有プロセスがマネジメントに良い影響を与えていることもTCFDの成果のひとつである等の認識が共有されました。

(7)Keynote Speech

経済産業省山下隆一産業技術環境局長より、「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020」の紹介を行いました。

(8)パネルディスカッション3「トランジション・革新的環境イノベーションへの資金供給の促進とTCFD開示の活用」

世界全体でのCO2削減には、トランジション、グリーン、イノベーションに対するファイナンスが不可欠です。Keynote Speechを受け、本セッションではトランジションや革新的環境イノベーションへの資金供給の重要性や、TCFD情報開示を通じて、金融機関や投資家がトランジションやイノベーションに取り組む企業を評価するための方法等について議論が行われました。

議論を通じて、トランジションや革新的環境イノベーションへのファイナンスを促進するには、企業側はTCFDを通じて創意工夫を活かした柔軟な情報開示を行い、投資家側はこれを積極的に評価するループを作り出すこと、その一歩として「ゼロエミ・チャレンジ」への取組がある等の議論が行われました。

さらに、効果的な情報開示の推進には、比較可能性のみの追求ではなく、企業が置かれた状況に即した、現実的でパリ協定と整合した取組が必要です。日本では自主性と柔軟性を確保しつつ、コーポレートガバナンス・コードなどのソフトローで画一的でない開示の制度的基盤が整えられていることを出発点に、さらに自主的取組を後押しつつ、産業界とも協働しながら、制度的な対応に取り組んでいくという日本の姿勢も確認されました。

(9)Closing Remarks

TCFDサミットアンバサダーの水野経済産業省参与より、Closing Remarksとして以下を含むいくつかの示唆がありました。

気候変動は我々にとって最大の脅威ですが、最大の機会にもなり得ます。すべてのイノベーションはサステナブルな経済へのトランジションを支えるものであり、適切な分析と投資が必要です。TCFDの枠組みは、脱炭素化に取り組む企業を公平に評価する分析プロセスでもあります。グローバルな排出削減には、トランジション、グリーン、イノベーションへのファイナンスが重要であり、その判断に必要な情報がTCFD開示で表現されます。これらの情報をどのように開示枠組みに入れ込んでいくかは、日本がリーダーシップをとって議論を進めているところです。グローバルな支援も得つつ、さらに議論を深化させていきます。

開示の義務化に至るには、様々な地域や国、経済環境を考慮する必要がありますが、それを実施しないことの言い訳に使ってはなりません。他方、義務化には厳格な規制要件以外にも様々な方法があり得ることから、事実上の義務化など、よりクリエイティブなアプローチも検討すべきです。自主的な枠組みの上に、よりアグレッシブな開示に挑戦する企業を尊重するためにも、自主性と義務化のバランスを考慮する必要があります。

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担当

産業技術環境局環境経済室長 梶川
担当者:小川、西浦、武田

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