2020年9月23日

ISO/IEC合同専門委員会(以下、JTC1)において、日本から提案した「少ないサンプル数で実現する生体認証精度評価方法」について、国際規格の審議が開始されることになりました。

この国際規格案が成立・発行されれば、生体認証機器の精度評価にかかるコストが低減されます。新しい生活・行動様式が求められる中、生体認証機器の利用機会の増加に対応するものとして、国内外での生体認証の用途拡大や普及促進への貢献が期待されます。

1.提案の目的・背景

様々な企業活動や消費者生活において、ITの利活用が浸透するにつれ、より安心・安全できめ細かなサービスを効果的に提供・利用するために、高精度な生体認証(顔、指紋、静脈、虹彩、音声、署名、歩容などによる個人認証)が利用され始めています。

生体認証の精度評価方法については、ISO/IEC19795(Biometric performance testing and reporting)シリーズで規定、推奨されており、多くの生体認証機器に適用されてきました。一方で、生体認証技術の進展・高精度化に伴い、その評価には膨大な数のサンプルが必要となりつつあり、生体認証の研究開発、サービスの性能テスト、システム・機器の認定評価等を実施するにあたって、その精度評価にかかるコストが過大となることがあります。

このような状況を受けて、一般社団法人日本自動認識システム協会では、生体認証技術に強みを持つ国内企業とともに、少ないサンプル数で実現可能な新しい生体認証精度評価方法を検討・開発してきました。その成果を基に、2019年度より経済産業省からの委託事業2を通じ、JTC1の生体認証に関する専門委員会(JTC1/SC37;バイオメトリクス)に提案したところ、この度、2020年7月の国際会議で規格作成の作業段階に進むことが承認され、2023年度の国際規格発行を目指し、2020年9月から本格的な議論が開始されることになりました。

稀な事象の発生確率を推定する手法の一つで、異常気象や保険のリスク評価にも用いられる。
戦略的国際標準化加速事業(政府戦略分野に係る国際標準開発活動:キャッシュレス取引のセキュリティ性に関わる生体認証精度評価を容易とする精度評価方法に関する国際標準化)。平成31年度~令和3年度に実施。

2.提案の内容

生体認証では顔、指紋、静脈、虹彩などの画像の特徴と登録されているテンプレート(照合元データ)とを比較することにより、照合スコア(類似度)を計算します。さらに、本人と他人とを判定するしきい値を設定して、他人受入率3を算出し、生体認証機器やシステムの性能評価を行います。

これまでの一般的な確率分布を想定しているISO/IEC19795シリーズに基づく評価方法では、高精度な生体認証技術では稀にしか発生しない他人受入の事象を観測して評価するために、膨大な数のサンプルを収集する必要があります。今回、日本から提案した国際規格案は、極値統計手法を導入することにより、少ないサンプル数でも評価可能な方法を規定するものです。

今回の提案方法により、従来方式で6,000名のサンプルにより得られる性能と同じ性能レベルまで、わずか1/6の1,000名のサンプルで近似推定できるケースも確認されています。今後、精度評価としての推定が妥当かどうかの確認方法などを追加して国際標準化を進める予定です。 

3他人を受け入れてしまう割合(誤ったサービスを提供することになる)

3.期待される効果

当該国際規格が発行された場合、生体認証機器の精度評価にかかるコストが低減され、国内外での生体認証の用途拡大や普及促進とともに、より安心・安全なサービスの実現が期待されます。また、新たな条件(例:マスクを着用した状態での顔認証)での使用を想定した性能評価を容易にすることができます。新型コロナウイルス感染に伴い、新しい生活・行動様式が求められる中、働き方改革(テレワーク)、学び改革(オンライン授業)、暮らし改革(医療、見守り、無人店舗)等、生体認証機器の利用機会の増加に対応するものです。
 

担当

産業技術環境局国際電気標準課長 柳澤
担当者:佐藤(貴)、東谷、大平

電話:03-3501-1511(内線3428)
03-3501-9287(直通)
03-3580-8631(FAX)