2020年8月28日

昨今、企業経営を取り巻く環境変化の不確実性が一段と高まり、サステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(強靱性)への要請が高まる中、企業と投資家が実質的な対話をいかにして実現し、企業の持続的な価値向上につなげていくかは、重要な課題です。
経済産業省では、昨年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を立ち上げ、その後発生した新型コロナウイルスの感染拡大による状況変化も踏まえながら、企業側と投資家側で、8回にわたり、中長期の企業価値向上に向けての企業と投資家との実質的な対話の課題とその解決の方向性について、議論を深めてきました。本日、検討会での議論の中間取りまとめを行いましたので、お知らせします。
本中間取りまとめにおいて、企業の稼ぐ力とESG(環境・社会・ガバナンス)の両立を図るサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を提言し、加えて、企業と投資家が中長期での企業価値創造に資するための対話を行う上で必要となる 「実質的な対話の要素」を抽出しました。今後、このサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の提言や「実質的な対話の要素」を普及するため、これらを実際のアクションに落とし込むための具体的な経営の在り方、対話の在り方について、さらに検討を深めていく予定です。

1.背景

経済産業省は、「伊藤レポート(※1)」以来、企業と投資家の対話やコーポレートガバナンス改革を推進してきました。これまでの取組については、ROE(自己資本利益率)の改善をはじめ一定の成果がみられるものの、より実質的な対話を実現し、企業の持続的な価値創造につなげていくべきとの指摘は引き続き存在します。

対話の実質化を目指すに当たっては、「伊藤レポート」以降に、より明確に認識されるようになった対話をめぐる様々な環境変化を踏まえる必要があると考えられます。特に昨今、新型コロナウイルスの感染拡大など、企業経営を取り巻く環境変化の不確実性は一段と高まっており、サステナビリティ(持続可能性)やレジリエンス(強靭性)への要請が高まる中、中長期的な企業価値向上を実現していくための経営の在り方、対話の在り方は、重要な課題です。

2.サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会

経済産業省では、昨年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を立ち上げ、企業と投資家が対話を通じて価値を協創していくに当たっての課題や対応策を、8回にわたり検討してきました。

本検討会においては、「伊藤レポート」や「伊藤レポート2.0」(※2)、「価値協創ガイダンス」(※3)などのこれまでの取組や議論の成果のみならず、本検討の最中に発生した新型コロナウイルスの感染拡大など、企業や投資家が直面している様々な環境変化も踏まえながら、多岐にわたり、かつ、掘り下げた議論を行ってきました。

3.本中間取りまとめの概要

本中間取りまとめは、本検討会における企業と投資家の議論をもとに、対話の一層の実質化を図るための課題を整理し、その解決の方向性を示すものです。

第一章 伊藤レポート公表後の現状認識

「伊藤レポート」公表後の企業経営や資本市場、企業経営を取り巻く環境に関する現状・変化について整理し、日本企業のROEは向上しているものの、無形資産投資は低水準に留まっており、企業と投資家の対話を通した企業価値の協創は道半ばとの認識を示しています。また、企業経営を取り巻く環境として、不確実性の高まりと社会のサステナビリティに対する要請が強まっていることを記載しています。

第二章 中長期の持続的な企業価値向上に対する問題の所在

本検討会で特に議論がなされた課題である、対話の内容に関する企業と投資家の認識のギャップと、対話の手法や対話そのものに対する認識に関する企業間の差異の広がりなどについて提示しました。対話の内容に関して企業と投資家の間でギャップが存在していると考えられる具体的なテーマとして、事業ポートフォリオ・マネジメントや新規事業創出、ESG/SDGs(※4)への取組を挙げており、それらのテーマに対する企業と投資家の目線の違いや認識のギャップ、そして、そこに共通する課題を示しています。

第三章 問題解決の方向性

第二章で示した企業と投資家の認識のギャップを解消するために、企業と投資家の間で、対話における長期の時間軸を共有することの必要性を提示しました。特に昨今、新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動の影響等、企業経営を取り巻く環境の不確実性が一段と増す中では、対話において前提としている時間軸を長期に引き延ばした上で、「企業のサステナビリティ」(企業の稼ぐ力の持続性)と「社会のサステナビリティ」(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる経営や対話、エンゲージメントを行っていくことが重要であるとし、こうした経営の在り方や対話の在り方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」と呼ぶこととしました。

また、実質的な対話の在り方として、近年の対話を巡る変化を踏まえて対話の意義を再検討した上で、実質的な対話の要素を「対話の原則」、「対話の内容」、「対話の手法」、「対話後のアクション」の観点から整理するとともに、対話のプラクティスを共有する「場」の設置の必要性を述べています。加えて、対話の実質化と中長期での企業価値向上に向けた個別の環境整備が必要な要素について、本検討会で議論があった点についても整理しています。

今後、本中間取りまとめで示したサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)と「実質的な対話の要素」を実際のアクションに落とし込むための具体的な経営の在り方、対話の在り方(企業が自社の置かれた状況に応じて実質的な対話の要素を弾力的に取り入れていく手法や、それを示す指標・KPI等)について、さらに検討を深めていく予定です。

※1 伊藤レポート:「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年8月経済産業省策定)
※2 伊藤レポート2.0:持続的成長に向けた長期投資(ESG・無形資産投資)研究会報告書(2017年10月経済産業省策定)
※3 価値協創ガイダンス:価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス-ESG・非財務情報と無形資産投資(2017年5月経済産業省策定)
※4 SDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals):持続可能な世界を実現するための国際目標

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担当

経済産業政策局 産業資金課長 呉村
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