令和2年2月21日(金)

 今朝の閣議において,法務省案件として,主意書に対する答弁が1件ございました。続いて私から2件報告がございます。まずは法制審議会への諮問についてです。
 本日,保釈中の被告人や刑が確定した者の逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保するための刑事法の整備について,法制審議会に諮問いたします。昨年来,保釈中の被告人や刑が確定した者などが逃亡する事案が相次いで発生しており,昨年末には,外国人の被告人が保釈中に国外へ逃亡する事案も発生しました。このような逃亡を防止し,公判期日への出頭や刑の執行を確保することは,安全・安心な社会を実現していく上で,重要だと考えています。
 次に,民事裁判手続のIT化に関する諮問についてです。オンラインでの訴え提起など,民事裁判手続のIT化を実現するための民事訴訟制度の見直しについても諮問いたします。我が国における民事裁判手続では,未だオンラインでの訴え提起や関係者の出頭を要しないウェブ会議による手続などが認められていないなど,必ずしもIT化が進んでいない現状にあります。私も同期の弁護士などから,これを早く解決してほしいと言われています。外国ではIT化,AI化まで進んでおりますので,そういったところまで目標に置いて,近年の情報通信技術の飛躍的な進展や諸外国における裁判のIT化の普及状況などを踏まえて,我が国の民事裁判手続をしっかりと国際レベルまでもっていってほしいと思います。そうしないと国をまたいだ訴訟などで,我が国の様々な企業を始めとする権利関係を守れないということにもなりかねません。いずれの諮問についても,法制審議会において,専門的な見地から活発な御議論・御検討が行われることを期待しております。
 2件目は,京都コングレスの記念切手の発行についてです。京都コングレスの開催まで約2か月となり,法務省では開催に向けた準備を着実に進めているところ,一昨日,日本郵便から,京都コングレスの開催を記念した特殊切手の発行が発表されました。デザインは,京都コングレスやユースフォーラムのロゴマーク,開催地京都の風景等となっております。コングレスの記念切手は,50年前に京都で開催された際にも発行していただいております。法務省としては,こうした特殊切手等を通じて,国民の皆様に京都コングレスへの関心を更に高めていただき,京都コングレスの成功につなげてまいります。

検察官の勤務延長に関する質疑について

【記者】
 黒川弘務東京高検検事長の勤務延長をめぐり,森法務大臣は17日,1981年に人事院が適用不可能とした国家公務員法の特例の解釈を1月末に変更したと説明しました。ただ,それより前の12日に人事院は適用不可能との解釈を「引き継いでいる」と説明し,その後政府に足並みを合わせる形で修正しました。なぜこのような矛盾が生じたのか。特例の解釈変更は実際にはどのようなプロセスで行われたのか,決裁文書の有無も併せてお願いします。

【大臣】
 国家公務員法に勤務延長制度が導入された昭和56年当時,検察官については,国家公務員法の勤務延長制度は検察庁法により適用除外されていると理解されていたものと認識しています。他方,検察官も一般職の国家公務員ですから,検察庁法に定められている特例以外については,一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にございます。
 したがって,国家公務員法と検察庁法の適用関係は,検察庁法に定められている特例の解釈に関わることであり,その解釈については検察庁法を所管する法務省において整理されるべきものでございます。国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として,検察官についても定年の検討を進める過程で,法務省において国家公務員法と検察庁法との関係を検討したところ,検察庁法が定める検察官の定年による退職の特例は,定年年齢と退職時期の2点であること,特定の職員に定年後も引き続きその職務を担当させることが公務遂行上必要な場合に,定年制度の趣旨を損なわない範囲で定年を超えて勤務の延長を認めるという勤務延長制度の趣旨は,検察官にも等しく及ぶというべきであること,この2点から,一般職の国家公務員である検察官の勤務延長については,一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたものでございます。
 その上で,法務省において,勤務延長制度の検察官への適用についての考え方をまとめた文書を作成し,省内で必要な決裁を経た上で,関係省庁に示し,具体的には,内閣法制局との間では,本年1月17日から同月21日にかけて,人事院との間では,本年1月22日から同月24日にかけて,文書を示して協議を行い,異論はない旨の回答を得て,最終的に結論を得たものです。
 なお,法令の解釈は,当該法令の規定の文言,趣旨等に即しつつ,立案者の意図や立案の背景となる社会情勢等を考慮するなどして,論理的に確定されるべきものであり,検討を行った結果,従前の解釈を変更することが至当であるとの結論が得られた場合には,これを変更することがおよそ許されないというものではないと承知しております。
 この点,社会経済情勢の多様化・複雑化に伴い,犯罪の性質も複雑困難化する状況下において,国家公務員一般の定年の引上げに関する検討の一環として,検察官についても改めて検討したところ,検察官の勤務延長について,一般法である国家公務員法の規定が適用されると解釈でき,問題はないものと考えます。今後とも,国会審議等を通じて,御理解をいただいてまいりたいと思います。

【記者】
 関連してお伺いします。今回の解釈変更については,政治からの独立が求められる司法の人事への介入ではないかという指摘もありますが,それについて大臣はどのようにお考えでしょうか。

【大臣】
 検察官は,司法権の行使と密接不可分にあります。そういう意味で準司法官とも称されるわけですが,一方で行政官でもあり,一般職の国家公務員でもございます。その二つの意味を持ち合わせている点に,検察官の特殊性があると思います。その中で検察官の準司法官,つまり司法の独立に密接不可分であるというその立場を害しないということは,非常に大事なことであり,私も重要だと認識しております。この点,検察官の準司法官としての地位は,例えば指揮権について,一般指揮権だけを法務大臣が持ち,具体的指揮権については検事総長だけを指揮する,またその指揮権も抑制的に運用するということがなされておりますし,また特殊な身分保障がされているという中で,準司法官としての立場は守られていると考えております。今回,検察官は,一般職の国家公務員として,行政官の一員として勤務延長をできると解釈したものですが,この複雑化した情勢の中で,犯罪と常に相対している検察官についても,もともと一般職の国家公務員に適用される勤務延長の趣旨からして,勤務延長できると解した,というものでございます。

【記者】
 人事院の松尾給与局長が「つい言い間違えた」と国会で答弁しました。国会での答弁は極めて重要なものと思いますが,これへの受け止めをお願いします。

【大臣】
 他の行政機関の方の答弁について私がコメントすることは差し控えさせていただきたいと思います。なお,一般的には国会の答弁は非常に重要なものでございますので,私としては常に真摯に対応しているところでございます。

【記者】
 昨日,人事院の,勤務延長の検察官への適用に関する資料が衆議院予算委員会の理事会に提出されましたが,野党から日付がないとして批判されています。大臣がおっしゃられるように,1月24日に解釈変更したという認識でよろしいのかどうか,お教えください。

【大臣】
 1月24日に政府としての統一見解を経て,解釈変更がなされたと認識しております。

民事訴訟手続のIT化に関する質疑について

【記者】
 今日諮問される民事訴訟のIT化について,諸外国ではIT化やAI化が進んでいるということを先ほどおっしゃられましたが,今回の諮問でAIの活用というところも視野にお考えなのかどうか,お願いします。

【大臣】
 先ほど言ったとおり,国際的な裁判実務のIT化,AI化というところをしっかりと見据えて検討していただきたいと思っております。私は大臣になる前に,自民党のIT戦略特命委員会で,フィンランドとバルト三国に視察に行きました。エストニアやフィンランドにおいて,国民へのサービスの一環として,裁判手続や行政手続のIT化の面で進展した状況,少子高齢化,又は社会の複雑化に伴ってITや人工知能を駆使して活用されている様を目にしまして,これを進めていきたいという思いを強く持ちました。
 今回の諮問事項には具体的には入っていないかもしれませんが,私としては,そのような期待を持っているところでございます。

(以上)