2020年1月26日
国際平和協力研究員 吉田 祐樹

 国連平和活動において、活動の円滑化を支援する要員の一つが施設部隊です。昨今の国連平和活動の活動環境に鑑みて、施設部隊の必要性はこれまで以上に高まってきているものの、要員の能力不足が深刻な課題となっています。そこで、日本政府による支援を受けつつ、2015年から国連は要員派遣国工兵(施設)部隊の能力強化を図るための国連三角パートナーシップ・プロジェクト(UN Triangular Partnership Project: TPP)を実施しています。今回は、2019年8月26日から11月15日までの間、ウガンダにあるウガンダ軍早期展開能力センター(Uganda Rapid Deployment Capabilities Center: URDCC)にて行われた、日本の陸上自衛官によるウガンダ軍工兵に対する重機操作訓練の成果をお伝えします。

工兵部隊の役割

 昨今の国連平和活動は、アクセスが困難で基礎インフラ等も未整備の遠隔地域で展開されることが多くなっています。[1] そのため、活動立ち上げ時には、移動に必要な道路や現地空港の滑走路の建設、宿営地や国連関連施設における電気、水道工事を通じたライフラインや衛生環境の整備等、今後の活動基盤を早急に確立する必要があります。これらの重要な任務を担っているのが部隊派遣国の工兵部隊です。
 上記に加え、現地政府からの要望を受けて道路の補修や整地をしたり、開発・人道援助機関等によるインフラ整備プロジェクトを支援したりもしています。国連の工兵部隊に工事を依頼する方が、民間企業から必要な重機をレンタルし、エンジニアを雇用するよりも約40~45%の予算を削減できるため経済的であるとも言われています。[2]
 日本政府も国連平和活動に陸上自衛隊の施設部隊を派遣してきており、これまでカンボジア(1992年~1993年)、東ティモール(2002年~2004年)、ハイチ(2010年~2013年)、そして、日本国民の間でも記憶に新しい南スーダン(2012年~2017年)にて国際平和協力業務として主にインフラ整備を実施してきました。[3]

日本による能力強化支援

 上述の通り、国連平和活動の現場では、工兵部隊による活動の早期立ち上げが重要である一方で、必要な重機や高い操作技術を持った要員不足という深刻な現実にも直面しています。そこで、2015年、財政支援・教官派遣国(例:日本)とプロジェクトの企画・実施を行う国連が連携し、要員派遣国のPKO要員・部隊に対して訓練を行う国連TPPが始動しました。日本はその旗振り役としてTPPを推進しています。
 TPPの下、これまで陸上自衛隊施設部隊は、ケニア・ナイロビの国際平和支援訓練センター(International Peace Support Training Centre: IPSTC)にて、試行訓練に続き7回にわたってアフリカ諸国の工兵部隊に対して、重機操作訓練や整備教育を実施してきました。 [4]訓練に参加した工兵部隊は、主にアフリカで展開されている国連平和活動へ派遣され、修得した技術を現場での作業に活かし、活動の円滑化に貢献することが期待されています。

ケニアからウガンダへ

 今回私が連絡調整要員として参加した第8回訓練は、ウガンダ南東部のジンジャ県にあるURDCCにて実施されました。陸上自衛隊によるアフリカでのTPPとしては、ケニア以外の第三国では初の実施となりました。
 ウガンダは、国連平和活動への要員提供数では上位20ヶ国にも入っておらず、アフリカ諸国に限定しても上位10か国にすら入っていません。[5] その一方で、アフリカ連合(AU)主導のアフリカ連合ソマリアミッション(African Union Mission in Somalia: AMISOM)には、2007年の同ミッション創設時から派遣しており、今日でも要員派遣国の中でも最大となる6,000名超の軍事要員を派遣し、ソマリアの首都モガディシュを擁するバナディール地方等に展開しています。[6] ソマリアの公共秩序の維持にとって、ウガンダ軍はなくてはならない存在となっています。
 今後、AUのみならず、国連平和活動に対しても更なる貢献が期待される中、ウガンダを支援対象国に選定し、更なる能力強化が急務である工兵に対する訓練を実施することは、今後の国連の即応性や有効性を高めるという観点からも有意義です。
   また、URDCCでは米国海兵隊による重機操作訓練も実施されており、[7]同訓練を通して重機操作の基礎を修得したウガンダ軍工兵部隊が、今度は自衛隊による訓練に参加することで、工兵部隊の継続した練度向上が見込まれる他、個別プロジェクト間の連携及び相乗効果がここでは図られていることも特筆すべき点です。

URDCCでの訓練内容

 今回の訓練は12週間実施され、前半6週間、後半6週間の2部制で、ウガンダ軍工兵部隊員31名に対して重機の基本操作や整備訓練を実施しました。教官団は陸上自衛隊の藤堂教官団長(2等陸佐)、幹部、操作教官、通訳要員含む22名(内女性隊員2名)と内閣府国際平和協力本部事務局の連絡調整要員1名で構成されています。
 前半、後半とも訓練内容は同じで、第1週目は学科教育、第2~5週目は実技訓練、6週目は検定試験というスケジュールです。使用機材はロードローラ、バケットローダ、ブルドーザ、グレーダ、油圧ショベルの5機種で、ローテーションにより練成をしていきます。

学科教育の様子(左)と訓練生からの質問に丁寧に答える教官と通訳要員(右)

学科教育の様子(左)と訓練生からの質問に丁寧に答える教官と通訳要員(右)

ロードローラによる転圧作業訓練

ロードローラによる転圧作業訓練

訓練生によるバケットローダからダンプトラックへの土砂の積み込み練成

訓練生によるバケットローダからダンプトラックへの土砂の積み込み練成

操作教官の指示を訓練生に伝える通訳要員

操作教官の指示を訓練生に伝える通訳要員

油圧ショベルによる溝堀り作業の練成

油圧ショベルによる溝堀り作業の練成

グレーダによる側溝堀り作業訓練

グレーダによる側溝堀り作業訓練

ドーザによる掘削・運土作業訓練

機材の整備教育の様子

機材の整備教育の様子

訓練の成果

 今回の訓練の最大の成果は、参加したウガンダ軍訓練生全員が、当初の目標であった重機操作検定試験に合格したことです。特に、実技訓練においては、まず操作教官が各種機材の操作方法や作業要領の手本を示し、通訳要員が教官の指導内容の細かいニュアンスも含めて訓練生に伝え、訓練生による機材操作を受けて、再度教官が各訓練生の素養に沿った形で的確なアドバイスを提供し、常に訓練生目線を意識しながら訓練を進めました。
 操作教官、通訳要員、訓練生の全員が熱意を持って取り組んだ結果、5週間という短い実技訓練期間ではありましたが、訓練生の技術は訓練開始時と比べて見違えるように向上し、教官団一同、手応えを感じることができました。嬉しいことに、訓練生からも、「教官の指導は丁寧且つ的確で、訓練生に対して誠実で愛情を持って接してくれた」等の感想を聞くことができました。国連の担当者からも、日本政府の同プロジェクトへのコミットメントに対して、感謝の言葉を頂きました。
 本プロジェクトを通じて、国連が目指すTPPの更なる強化に貢献できたことに加え、日本の陸上自衛隊とウガンダ軍が相互の文化を理解、尊重し、友好を深める機会となったことも、今回の訓練の大きな成果の一つです。

 

訓練終了後にお互いの健闘を称え合う教官団とウガンダ軍訓練生

訓練終了後にお互いの健闘を称え合う教官団とウガンダ軍訓練生

 

[1]  Boutellis, Arthur and Smith, Adam C. 2014. “Engineering Peace: The Critical Role of Engineers in UN Peacekeeping.” New York: International Peace Institute.

[2]  Ibid.一方で、現地の雇用を創出するという点では、インフラ事業等を民間企業に委託し、現地の住民を労働者として雇用する方が有効であるとともに、現地オーナーシップに配慮したアプローチであるという見方もあります。

[3]  内閣府 国際平和協力業務の実績

[4]  2016年に実施された第1回訓練の様子は、@PKOなう!第93回及び第95回で紹介されていますので、そちらも併せてご覧下さい。

[5]  United Nations. 2019. Troop and Police Contributors (https://peacekeeping.un.org/en/troop-and-police-contributors). Accessed 11 Oct 2019.

[6]  African Union Mission in Somalia. 2019. Uganda-UPDF (http://amisom-au.org/uganda-updf/). Accessed 11 Oct 2019.

[7]  URDCCでの米海兵隊による訓練は、アフリカでの平和活動における早期展開能力向上を図るプロジェクト(African Peacekeeping Rapid Response Partnership: APRRP)の一環で実施されています。米国政府がアフリカ諸国(エチオピア、ガーナ、ルワンダ、セネガル、タンザニア、ウガンダ)の軍隊を対象に実施しています。研修科目は施設機材操作に加え、衛生、ロジスティックス、通信、情報システム等があり、昨今の国連平和活動でギャップが指摘されている分野の能力強化に焦点が当てられています。詳細は米国務省ホームページUS Peacekeeping Capacity Building Assistance参照。(https://www.state.gov/u-s-peacekeeping-capacity-building-assistance/)