2019年10月10日

10月8日(火曜日)、経済産業省は、気候変動問題に関する企業の情報開示の枠組みであるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言について先進的に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーを集めた「TCFDサミット」を世界で初めて開催しました。

1.背景

TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures; 気候関連財務情報開示タスクフォース)による提言の趣旨に対する賛同数は、世界中で864機関に増え、そのうち日本における賛同数は199機関と世界第1位となっています(令和元年10月10日時点)。

TCFDへの賛同数が増加している今、TCFDを実務に定着させ、「環境と成長の好循環」をリードしていくためには、2019年G20議長国である日本がリーダーシップを取り、産業界と金融界の建設的な対話に基づく資金循環の活性化を促すとともに、TCFDをめぐる今後の課題や進むべき方向性等について議論を行っていくことが必要です。

そのため、TCFD提言について先進的に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーが一堂に会する「TCFDサミット」を世界で初めて日本で開催致しました。

2.TCFDサミットの概要

日時:2019年10月8日(火曜日)
場所:ザ・キャピトルホテル東急「鳳凰」
主催:経済産業省
共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム
参加人数:約350名

プログラム
Welcome Message 菅原 一秀 経済産業大臣
Opening Remark マーク・カーニー イングランド銀行総裁
Opening Session
(TCFDサミットへの期待)
伊藤 邦雄 TCFDコンソーシアム会長、一橋大学大学院特任教授
ピーター・バッカー WBCSDプレジデント兼CEO
メアリー・L・シャピロ TCFD Secretariat アドバイザー
水野 弘道 国連責任投資原則協会理事、年金積立金管理運用独立行政法人理事兼CIO
進藤 孝生 日本製鉄株式会社 代表取締役会長、経団連副会長
チャールズ・O・ホリデイ ロイヤル・ダッチ・シェル 会長
Panel Discussion 1
(エンゲージメントの重要性)
モデレーター
水野 弘道 国連責任投資原則協会理事、年金積立金管理運用独立行政法人理事兼CIO
 
パネリスト
マーティン・スカンケ 国連責任投資原則協会 議長
ゴードンJ・ファイフ British Columbia Investment Management Corporation CEO兼CIO
ユ・ベン・メン カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)最高投資責任者
パク・ユギョン APGアセットマネジメント 責任投資・ガバナンスチーム アジア太平洋担当代表
マーク・ルイス BNPパリバ・アセットマネジメント サステナビリティ・リサーチ・グローバル・ヘッド
ヘレ・クリストファーセン トタル戦略イノベーション担当プレジデント、同社執行委員会メンバー
Video message ヴァルディス・ドンブロウスキス 欧州委員会副委員長
Panel Discussion 2
(オポチュニティ評価の重要性)
モデレーター
マルディ・マクブライアン 気候変動開示基準委員会(CDSB)マネジングディレクター
 
パネリスト
十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役会長
ピエール・ブレバー シェブロン 副社長兼最高財務責任者
ニコラス・エイキンズ アメリカン・エレクトリック・パワー社長、会長兼CEO
ワカス・サマド FTSE Russell LSEG情報サービス事業部門グループディレクター、FTSEラッセルCEO
ベア・ペティット MSCI Inc. プレジデント
スタニスラス・ポティエ アムンディ 最高責任投資責任者
マデレイン・アントンチッチ 持続可能性会計基準審議会(SASB)CEO
Panel Discussion 3
(アジアにおける開示の課題と今後の展望)
モデレーター
レベッカ・ミクラライト 気候変動に関するアジア投資家グループ(AIGCC)ディレクター
 
パネリスト
池田 賢志 金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー
エミリー・チュー マニュライフ・インベストメント・マネジメント ESG グローバル・ヘッド
リチャード・パン ChinaAMC マネジングディレクター兼QFII投資国際事業担当ヘッド
ゲオルク・ケル アラベスク 会長
マシュー・アーノルド JPモルガン サステナブル・ファイナンス担当グローバルヘッド
Closing Remark ピーター・バッカー WBCSDプレジデント兼CEO
  • 会場の様子の画像会場の様子
  • 登壇者によるフォトセッションの画像登壇者によるフォトセッション

3.議論の内容

(1)経産大臣挨拶

菅原大臣より、TCFDに関する我が国のこれまでの取組や情報開示の重要性について説明があり、イノベーションに向けた投資や気候変動対応をコストではなく競争力の源泉と捉えることの重要性についての認識が共有されました。

  • 菅原大臣の画像

(2)マーク・カーニー イングランド銀行総裁からのメッセージ

TCFD提言が策定された当時の金融安定理事会(FSB)議長である、英国イングランド銀行のマーク・カーニー総裁から、包括的な気候関連情報の開示の重要性や、ネットゼロ社会の実現に向けた投資を主流化することの必要性等について述べられました。

  • マーク・カーニー イングランド銀行総裁の画像マーク・カーニー イングランド銀行総裁

(3)オープニングセッション(TCFDサミットへの期待)

なぜTCFDが世界で注目されるのか、「環境と成長の好循環」を実現するために企業や産業界はどのような取組を行っているか、こうした取組を評価するにあたってTCFDはどのような側面での貢献が期待されるか等について、共催者、TCFD、投資家、事業会社を代表する登壇者の方々からそれぞれ順番にご発言いただきました。

また、TCFDコンソーシアム会長である一橋大学大学院 伊藤邦雄特任教授からは、TCFDコンソーシアムが同日付で策定・公表した「グリーン投資の促進に向けた気候関連情報活用ガイダンス(グリーン投資ガイダンス)」について発表があり、他の登壇者の方々からも同ガイダンスを通じた気候関連情報に基づく投融資の促進に向けた期待が語られました。

  • 伊藤 邦雄 TCFDコンソーシアム会長、一橋大学大学院特任教授の画像伊藤 邦雄 TCFDコンソーシアム会長、一橋大学大学院特任教授

(4)パネルディスカッション1(エンゲージメントの重要性)

「環境と成長の好循環」の実現に向け、気候変動対応に積極的な企業に資金が流れるためには、気候変動リスクの高い業種から資金を引き揚げるアプローチ(ダイベストメント)ではなく、エンゲージメントを通じて企業価値を向上し、その結果が投資リターンに還元されていくポジティブフローを生み出していくことが重要です。本セッションでは、「環境と成長の好循環」に向けたエンゲージメントの意義は何か、気候関連開示で投資家が見ている点は何か、事業会社に対してどのような開示・エンゲージメントを求めるか、今後必要なアクションは何か等について議論が行われました。

議論を通じて、ダイベストメントは排出する場所が変わるのみであり、投資家はエンゲージメントを通じて企業の変化を後押しすることが重要との認識が共有されました。また、エンゲージメントにはESGアナリストだけでなくポートフォリオマネージャーが参加することで実効性を高めるとともに、エンゲージメントの取組について投資家が透明性を高めていくことも重要であることが述べられました。

  • パネルディスカッション1の様子の画像パネルディスカッション1の様子

(5)ヴァルディス・ドンブロウスキス 欧州委員会副委員長からのビデオメッセージ

欧州委員会のヴァルディス・ドンブロウスキス副委員長より、2℃目標の達成に向けて公的資金だけでなく民間資金を動員し、グリーン投資の規模を拡大していくことが必要であることについて述べられました。

  • ヴァルディス・ドンブロウスキス 欧州委員会副委員長の画像ヴァルディス・ドンブロウスキス 欧州委員会副委員長

(6)パネルディスカッション2(オポチュニティ評価の重要性)

気候変動を巡る投資・金融に関しては、従来、気候変動リスクへの対応に重点が置かれてきましたが、非連続なイノベーションに向けた取組等にリスクマネーを供給するためには、オポチュニティ(事業機会)の評価等、アップサイドに目を向けていくことが必要です。こうした観点から、本セッションでは、ESG格付・指数会社や投資運用会社は事業会社をどのように評価しているのか、また事業会社側はオポチュニティをどのように捉えて取り組んでいるのか、格付会社・投資家からどのように見て欲しいのか等について、議論が行われました。

  • パネルディスカッション2の様子の画像パネルディスカッション2の様子

(7)パネルディスカッション3(アジアにおける開示の課題と今後の展望)

世界最大の排出量を占めるアジア地域において、企業が気候変動を踏まえた対応を行い、それを開示していくことが重要です。本セッションでは、今後急激な成長と莫大なグリーン投資需要が想定されるアジアにおける気候関連開示の動き、TCFD提言に沿った情報開示を進める上での課題等について、議論が行われました。

  • パネルディスカッション3の様子の画像パネルディスカッション3の様子

(8)クロージングセッション

TCFDサミット共催者であるWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のピーター・バッカー プレジデント兼CEOより、本サミットの総括として、以下の諸点が述べられました。

  • 「グリーン投資ガイダンス」は企業と投資家の対話を促進する有用なツールとなる。
  • 気候変動リスクとその評価だけではなく、事業機会についての理解を深めるべき。
  • ダイベストメントには手法として限界があり、建設的なエンゲージメントの方がより強力なツールである
  • アジアにおける移行に貢献しうる低炭素技術群を提示することが重要。
  • 世界の幅広い関係者にTCFDの支持を呼びかけていく。
  • 来年、東京でまたこのサミットを開催する
  • TCFDの営みが継続されることが極めて重要
  • TCFDコンソーシアムには、ベストプラクティスの普及等を期待。

※詳細は、関連リンクの「TCFDサミット総括」をご覧ください。

  • ピーター・バッカー WBCSDプレジデント兼CEOの画像ピーター・バッカー WBCSDプレジデント兼CEO

※TCFDサミット議事概要は後日掲載いたします。

関連資料

関連リンク

担当

産業技術環境局 環境経済室長 梶川
担当者:斉藤、林、岩城

電話:03-3501-1511(内線3453)
03-3501-1770(直通)
03-3501-7697(FAX)