2019年7月23日

機能回復を行うためのロボットは世界各国で開発され、利用され始めています。しかしながら、患者と一体となって運動するロボット機器という特殊性があること、また、既存の複数の要求事項の解釈に幅があることから、世界各国の承認審査基準は整合していませんでした。今般、これを解決すべく、日本の提案により、機能回復ロボットの安全性に関する国際標準が発行されました。これにより、日本の先端医療技術の国際市場への導入促進が期待されます。

1.背景

運動機能等の機能回復を意図したロボット医療機器(以下、機能回復ロボット)は世界各国で開発されており、そのうちのいくつかは既に承認され、実用化されています。機能回復ロボットには、

  • 患者の運動機能の低下に関連した運動機能改善を行うもの
  • 患者の運動機能を定量的、又は、定性的に評価するもの
  • 患者の運動機能を補助することで、低下した運動機能を補償するもの
  • 患者の運動機能の低下によって生じる二次的な症状を緩和するもの

があり、機能回復ロボットを利用する目的として、

  • 理学療法士及び作業療法士の負荷軽減、又は、同時に診療できる患者数の増加
  • 機能回復ロボットを利用することによって初めてもたらされる治療効果
  • 定量的な効果測定による科学的根拠ある治療計画の策定と進捗確保
  • 機能回復ロボットにしかできないような運動機能の補助及び補償、又は、それによる症状の緩和

が知られています。

機能回復ロボットの画像

機能回復ロボットを実用化するために必要となる安全性の審査は各国の法規に基づいて行われています。これまで、その審査基準には、「医用電気機器の基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項IEC 60601-1 (JIS T 0601-1)」及びその副通則が用いられていました。しかしながら、患者と一体となって運動するという機能回復ロボットの特殊性のために、通則及び副通則の解釈に幅が生じてしまい、世界各国の審査基準は整合していませんでした。そのため、機能回復ロボットの安全性に関する国際的な基準の開発が必要となりました。

機能回復ロボットの図1機能回復ロボットの図2

図:「機能回復ロボット」の例(IEC 80601-2-78より)

2.規格発行までの経緯と本規格の概要

機能回復ロボットの安全性に関する規格には、生活支援ロボット(特に、身体アシストロボット)の安全性に関する知見と、医療機器の安全性に関する知見の双方が必要と考えられたことから、これらの両者の専門家が集まるISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)の合同ワーキンググループが日本を含む7か国により提案、設置されました。

その後、機能回復ロボットの安全性に関する規格の議論を2015年7月より開始しました。日本からはサービスロボット及びロボット医療機器の製造業者らが継続的に議論に参画し、カナダ、中国、フランス、ドイツ、韓国、英国、米国、スペイン、スイスなどの専門家との調整を行ってきた結果、国際標準が発行されました。この成果により、日本は、当該合同ワーキンググループの主査の地位を獲得しています。サービスロボット及びロボット医療機器に関する国際標準化の場で、日本が主査となるのは初めてのことです。

今回、発行された国際標準(IEC 80601-2-78:2019 Medical electrical equipment — Part 2-78: Particular requirements for basic safety and essential performance of medical robots for rehabilitation, assessment, compensation or alleviation)の主なポイントは、以下のとおりです。

  1. 駆動装着部(Actuated applied part)という概念を導入したことで、外骨格装着型、ロボットアーム型、杖型などの形態によらず適用可能となった。
  2. 生活支援ロボットの安全規格ISO 13482、及び、低出力身体装着型アシストロボットの安全規格JIS B 8446-2を参考に、安全要求事項を設けた。例えば、
    • 通則9.2.3.1の「意図しない運動(unintended movement)」を細分化し、より具体的なものにした。
    • 患者とロボット(と操作者)の間の共有制御(shared control)に起因する意図しない運動への安全要求事項を明記した。
    • 患者ごとに他動運動や外力に対するリスクが違うことを、出力制限のプリセットに対する要求事項を設けることで対応した。
    • 「患者の解放(release of patient)」に関する安全要求事項をより具体的なものにした。
    • 「保護停止(protective stop)」の概念を採用した。
    • 駆動装着部と患者の位置合わせの誤りに対するリスクマネジメントを採用した。
  3. 駆動装着部と患者の力学的な相互作用を考慮した、ロボットの各部における総荷重の見積もり方法、及び、ロボットの各部が通則9.8の支持機構に該当するかどうかの基準を明確にした。
  4. 床面とロボットの一部が繰り返し接触して移動するものに対して、新たに「歩行形(walking)」という分類を設定し、歩行形に特有の安全要求事項を新設した。
  5. 「状況認識(situation awareness)の喪失」に対するリスクマネジメントを採用した。これは、以下のような使用方法を許容するためである。
    • 操作者が患者及びロボットの傍に居ないタイミングがあること
    • 患者が特定の操作に関する操作者になること

3.期待される効果

EU、米国はじめ多くの国・地域で本規格を自国の基準として取り込む意向が示されています。これにより、日本発の革新的な技術に基づく医療機器が他国でスムーズに評価、承認されることが期待されます。今後、本規格に則って設計・生産された日本の医療機器が、安全・安心な機器として世界の医療現場へ普及し、医療機器産業の競争力強化につながることが期待されます。

経済産業省は、今後も、日本発の先端的医療を世界に届けやすくするため、国際標準を始めとしたルール形成の活動を支援していきます。なお、機能回復ロボットに加え、手術ロボットの安全性に関する国際標準IEC80601-2-77も同日付で発行されています。

手術ロボットの安全性に関する国際標準が発行されました(2019年7月16日)

※今回発行された国際標準は、「戦略的国際標準化加速事業:政府戦略分野に係る国際標準開発活動(サービスロボットのタイプ別安全規格に関する国際標準化)」の成果の一部によるものです。

担当

産業技術環境局 国際標準課長 黒田
担当者:堀坂、岡本

電話:03-3501-1511(内線3423~5)
03-3501-9277(直通)
03-3501-8625(FAX)