2019年7月18日

経済産業省は、グローバルに活躍するバイオベンチャーの創出を通じて、いち早く世界中の患者の皆様に治療法を届けることを目的とし、2017年11月に「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」(以下、研究会と呼ぶ。)を立ち上げ、2018年4月に伊藤レポート2.0「バイオメディカル産業版」(以下、報告書と呼ぶ。)をまとめました。この度、引き続き開催された研究会での検討内容を踏まえ、報告書を改訂しました。

1.背景・趣旨

創薬型ベンチャーが医薬品を上市し成功するためには研究開発を支える資金調達が重要です。成功例が次々と創出される米国の創薬型ベンチャーの資金調達環境をみると、上場後も1社平均10年間の赤字期間が継続しているにもかかわらず、1社平均350億円程度を株式市場(機関投資家が中心)から調達し成長しています。一方で日本に目を転じると、新興市場に上場後の創薬型ベンチャーの時価総額は、欧米のみならず、中国・韓国よりも小さい状況です。上場後も研究開発投資が先行し、売上や利益が早期に計上されない中で、機関投資家による評価が困難であることを1つの要因として、柔軟かつ機動的な資金調達ができない状況にあります。
創薬型ベンチャーの目的は上場ではなく、いち早く医薬品を上市し、患者の皆様に適切な治療法を届けることです。報告書では、①創薬型ベンチャーと投資家の対話を促進する共通言語の策定、②新興市場の現状と課題の提示の2点を通じて、上場後も含めた資金調達環境の改善に向けた方向性を示しました。

2.創薬型ベンチャーと投資家の価値協創ガイダンス(概要)

本ガイダンスは、経済産業省が2017年5月に公表した「価値協創のための総合的開示・対話ガイダンス」を、バイオメディカル産業の特性を考慮して再構築したものです。①創薬型ベンチャーが、機関投資家等の理解を得るために示すべきポイントを明確にすること、②機関投資家等に、創薬型ベンチャーの産業特性を踏まえ、企業が示すポイントの評価軸を提供すること、を目的として策定しました。
今回の改訂版では、日米間で対話項目に違いのある情報開示のあり方について追記いたしました。(第Ⅰ部7章4項 投資家に向けた情報発信のあり方)

3.新興市場の現状と課題(概要)

上場後の資金調達環境改善のためには、企業と機関投資家等の対話促進と同時に、企業が新興市場で健全に成長し、機関投資家等にとって魅力的な投資対象となる必要があります。一方、日本の新興市場では、財務指標を基準とする上場制度や、パッシブ運用の拡大、TOPIXと連動した機関投資家の資産運用の下、創薬型ベンチャーは短期的な売上高や利益の確保に奔走し、製薬企業への早期ライセンスアウト等により中長期的な企業価値を毀損してしまうといった側面もあります。こうした点も踏まえ、本報告書では、新興市場の現状、課題と今後の方向性を示しました。
今回の改訂版では、香港の市場改革や東京証券取引所における市場構造改革のあり方等の検討に関する動きを踏まえ修正・追記し、本研究会としての意見を示しております(第Ⅱ部 1章、2章、5章)。また、EIR型VCやクロスオーバー投資家など創薬型ベンチャーの中長期的な成長を支える投資家の重要性や、インデックスに関する議論の進捗、非上場創薬型ベンチャーの情報発信のあり方等についても追記いたしました(第Ⅱ部3章、4章)。

<新興市場の現状を示す3つの事実>

  1. 国内創薬型ベンチャーの時価総額は、米欧のみならず、中国・韓国よりも小さい
  2. 新興市場の上場廃止基準により、米国創薬型ベンチャーの多くが上場廃止(※)
    (※)ジャスダック(利益基準)で約8割、マザーズ(売上高基準)で約35%が廃止に

  3. 国内創薬型ベンチャーは個人投資家比率が高く、国内外の機関投資家は敬遠

<新興市場の3つの課題と提言>

  1. 創薬等の先行投資型企業の健全な成長に資する上場制度の設計
    -上場基準、上場廃止基準等の制度設計を早急に実行すべき

  2. 新興企業を支える国内外の機関投資家との対話の促進/呼び込み
    -バイオベンチャーの情報開示のあり方の検討や、EIR型VC/クロスオーバーファンドといった投資機能の強化に向けた検討を早急に実施すべき

  3. 新興企業と国内外の機関投資家をつなぐ機能の強化
    -バイオインデックスの創設やアナリストの評価のあり方に関する検討の促進を実施すべき

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