2019年3月18日

スマートフォンなどの最新電子機器の高機能化を促進するためには、部品として使用される樹脂部材の高性能化、小型化及び軽量化が必要であり、それを組み立てるための硬化樹脂等(接着剤)には高い寸法安定性が求められます。このため、硬化樹脂の寸法安定性を評価する手法として、硬化樹脂の硬化収縮過程を連続的に測定できる方法を、「新市場創造型標準化制度」を活用して、JIS K 6941(紫外線硬化樹脂及び熱硬化樹脂の収縮率連続測定方法)として制定しました。本JISの制定によって、今までは、樹脂の硬化状況を連続的に測定する手法が無かったので、製造のバラツキは仕方がないとの判断で製造されていましたが、今後は、製造の精度が向上し製品品質が一層向上し一定以上の品質が担保されることになります。携帯電話、パソコン、自動車部品等においてこの測定方法が活用されることにより、精密電子機器のさらなる高機能化に寄与することが期待されます。

1.JIS制定の目的

スマートフォンをはじめとする最新の電子機器に使用される樹脂部材には、高性能化、小型化及び軽量化が求められており、それらを組み立てるための接着剤(硬化樹脂等)にも、これまで以上の高い寸法安定性(収縮率が低いこと)が要求されています。例えば、スマートフォンを例にとるとカメラレンズは、ほんの一滴程度の微量の紫外線硬化樹脂により固定されています。これが少しでもずれて接着してしまうと微妙にレンズの位置が変わり、その結果、画像のゆがみ等につながり、良い写真がとれなくなってしまいます。樹脂が固まるときに、どのような収縮の過程を経て最終的に固まるのかという道筋を確認しておく必要があります。また固め方の違いによっても収縮の仕方が変わります。安定的な良い硬め方の条件を見つけ出す必要があります。しかし、これまでの収縮率の測定手法(比重法等)では、測定精度が低く、また実際の使用状態より大きなサンプルを必要とし、かつ測定に長い時間がかかっていました。また固まる過程の収縮率を連続して見る方法は世の中にありませんでした。新しいJISの方法では実際に使われる樹脂の量に近いほんの微量で測定ができ尚且つ連続して樹脂が収縮するのを計測できるようになりました。
本JISの試験方法を活用することにより、硬化樹脂の変化を高精度に簡便、かつ迅速に測定できるようになり、また電子機器のさらなる高機能化に寄与することが期待されます。


熱硬化樹脂の硬化収縮率連続測定装置

2.JIS制定の主なポイント

本JISは、紫外線硬化樹脂や熱硬化樹脂の硬化の過程を連続的に測定し,硬化による収縮率を求める方法について規定しました。
本測定方法の特徴は、以下の通りです。

a) 測定時間の短縮化

本測定では、1試料の測定に対する硬化前後の測定を同一容器内で一連の工程として行うため、測定に要する時間を大幅に短縮できる。そのため、開発段階での材料調合による差異の解析、又は多種類の材料からの選定が効率的に行える。

b) 少量のサンプルでの測定可能化

従来のJIS K7112(非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法)では数cm角程度の試料が必要であるが、本提案による方法では前記方法の百分の一以下の少量の材料でも測定ができるため、高価な材料や開発段階の少量の試料でも容易に測定が行える。

c) 任意の硬化条件(紫外線照射及び/又は加熱)での測定可能化

これまでは測定が硬化前と硬化後の比較測定に限定されていたものが、硬化途中でのリアルタイム測定が可能となり、従来規格にない紫外線照射を含めた任意の硬化条件で測定することができるため、生産におけるシミュレーション等が容易になる。

d) 硬化における収縮率の継時的硬化過程の測定可能化

硬化前後での硬化収縮率だけでなく、反応途中の挙動も測定ができるため、反応熱、加熱冷却による熱膨張の影響や、任意の硬化条件における反応速度も含めて測定ができるとともに、実使用条件での周囲の部材への負荷又は挙動の推測が可能となる。また、硬化前から硬化途中、硬化後の体積変化をリアルタイムに測定が出来るため刻々と変化する材料の挙動をはっきりと観測できる。

3.期待される効果

携帯電話、パソコン、自動車部品等において、本JISで規定した測定方法が活用されることにより、精密電子機器のさらなる高機能化に寄与することが期待されます。また、高性能な硬化樹脂の開発促進、低価格で高性能な硬化収縮率測定装置の開発など、新規産業の創出につながることが期待できます。

日本工業標準調査会(JISC)のHP外部リンクから、JIS K 6941でJIS検索すると本文を閲覧できます。

担当

産業技術環境局 国際標準課長 黒田
担当者: 汗部
電話:03-3501-1511(内線 3423~5)
03-3501-9277(直通)