平成31年2月26日(火)

 本日の閣議においては,法務省案件として質問主意書に対する答弁書1件がありました。

児童虐待に関する質疑について

【記者】
 自民党の若手有志議員が,千葉県野田市の小4女児死亡事件などを受け,「児童虐待罪」の創設を検討する勉強会を発足させました。先ほど設立総会が開かれ,3月中に提言をまとめて法務大臣に提出するとの発言もありました。日本には児童虐待に特化した刑罰がなく,子どもへの傷害や育児放棄は傷害罪や保護責任者遺棄致傷罪などで対応していますが,罰則が軽いとの指摘もあります。法務大臣として,こうした動きに対する所感と今後の対応について教えてください。

【大臣】
 そのような報道があることは承知していますが,個別の国会議員の方々の活動に関する事柄については,法務大臣としてコメントすることは差し控えたいと思います。
 一般論として申し上げれば,現行法の下でも,児童虐待行為については,犯罪として処罰の対象となると申し上げておきたいと思います。例えば,児童に暴行を加えた場合には暴行罪,身体を傷害した場合には傷害罪,児童に暴行を加えて死亡させた場合には,死亡が故意に基づく場合には殺人罪,あるいは傷害致死罪,幼年者を保護する責任のある者が,いわゆるネグレクトによりその生存に必要な保護をしなかった場合には保護責任者遺棄罪,その結果死亡させた場合には,保護責任者遺棄致死傷罪が成立するということで,これらの犯罪の法定刑はそれなりに重いものです。
 そして,児童虐待の防止等に関する法律においても,児童の親権を行う者は,児童虐待に係る暴行罪,傷害罪その他の犯罪について,当該児童の親権を行う者であることを理由として,その責めを免れることはないと規定されています。こうしたことから,児童虐待が正当化されないことは条文上明らかです。
 他方で,それに加えて児童虐待に関する新たな罰則を設けることについては,発生している児童虐待事案の内容やそれらに対する実際の処罰の状況等を踏まえて考える必要がありますが,先ほど申し上げたような既存の罰則で虐待行為については網羅的に対象となっており,新たな行為類型を設けることが必要かということと,体罰を有形力行使全般とすると,例えば夜徘徊する子どもを引き留めるために手をつかむ行為も有形力の行使ということになりかねないので,児童虐待として処罰すべき行為の外延をどこに設けるのかということは社会通念等に照らして慎重に検討することが必要であると考えています。
 ただ,いずれにしても先ほど申し上げたように,児童虐待に対しては,それ自体は犯罪が成立しないということではないということです。子どもたちは,この国の未来そのものであり,児童虐待を根絶するために,その予防や早期発見,被害に遭った児童の保護など,政府全体として総合的に取り組むことが必要であると考えています。
 
【記者】
 児童虐待の関連でお聞きします。先ほど,柴山文部科学大臣の会見の中で,スクールロイヤーの拡充について発言がありました。柴山大臣が山下大臣と協力して,拡充を前向きに検討していきたいという趣旨の発言をされたそうですが,具体的にはどのようなことを想定しているのでしょうか。

【大臣】
 こういった学校,あるいは教育環境をめぐる中に,法律家の第三者としての冷静な視点が,問題解決の際に互いにとって冷静な議論を促す効果もあろうかと思います。
 そういった中で弁護士がどのような協力が可能であるのか,一部の自治体の中には弁護士,弁護士会の協力を得て,学校関係の法律問題に弁護士の方々が関与して,解決の協力をしているとも聞いていますので,そういった事例も踏まえ,我々も法務省として弁護士会といかなる協力が可能なのか,また文科省がどのようなことをお考えなのかということを伺った上で,できる協力はしっかりやっていきたいと考えています。

所有者不明土地問題に関する質疑について

【記者】
 所有者不明土地問題について,大臣は法務大臣政務官のときからこの問題に熱心に取り組まれてきました。政務官時代からの問題意識,特に変則型登記の土地への問題意識について教えてください。

【大臣】
 いわゆる所有者不明土地問題については,私が法務大臣政務官になった後はもちろん,その前から自民党の「所有者不明土地等に関する特命委員会」の事務局長として取り組んでまいりましたし,一法律家としてもかねてから取り組まなければならない問題と思っていたところです。
 例えば,不動産登記簿を見ても所有者にたどり着けずに連絡がつかない所有者不明土地というのは,所有者を探す際に多大な時間と費用を要します。公共事業についても,判明している所有者は賛成していても,所有者不明の土地があることで所有者全員の同意が得られず,事業が止まってしまったり,あるいは民間による土地開発においても円滑・適正な利用の障害となるなどの深刻な影響も生じています。また,開発のみならず,例えば,隣の土地を利用したいという農家の方がおられても,所有者の一部が分からないがために,土地を買うことも長期で借りることもできないという状況がありました。
 そういったことを政府,官邸にも御協力いただきながら,所有者不明土地問題に法務省としても取り組んでいたわけですが,今般,御質問にあった変則型登記というのは,こういった所有者不明土地の中でも最も所有者の探索が困難な土地として知られているものです。典型的なものでは,不動産登記簿の表題部所有者欄に,例えば,「山下貴司外10名」とあり,外10名の所有者が分からず探しようがないわけです。
 その他住所が分からないであるとか,字(あざ)で表記されているなど変則的な登記がされており,その解消の必要性がかねてから強く指摘されていたものです。こういった問題意識の中で,今般,その解消のための法案を国会に提出するということに至ったわけです。

【記者】
 所有者不明土地問題で自治体や企業の取組に対して,どのような影響が及んでいるのか教えてください。

【大臣】
 基本的に土地に共有者がいる場合には,その土地の処分,売買には全員の同意が必要です。日本では印鑑証明なども所有者全員分を集めなければならないということになります。また,相続人を探してみると相当程度,場合によっては数十人になるということもあるわけです。その数十人が日本全国,ときには海外にもおられるということがあると,全員の同意を取るのにものすごく手間暇が掛かり,そもそもどこにお住まいなのかを調べるのも非常に時間が掛かってしまう,それなくして全員の同意はないわけですから売買もできない,そして長期の貸借もできないということがありました。
 公共事業,あるいは民間の事業は特に,時間軸でものを考えますから,結局,事業を断念してしまうことが相当程度あったと聞いています。そういったことから,所有者不明土地問題については,土地の有効活動,あるいは土地の円滑・適正な利用の障害になっており,公共事業に当たっては,自治体でも様々な手法で,所有者やその相続人の住所を探すわけですが,見つからない場合にどうするのかということが,しっかり整備されていく必要があると考えています。既存の制度はありますが,自治体にとっても事務負担が大きいため,事業が進まなかったということがありました。

【記者】
 この法案の成立に向けた意気込みと,この法案によって所有者不明土地問題が具体的にどう改善するのかを教えてください。

【大臣】
 変則型登記ということで,所有者を見つけること自体が非常に難しい土地が,歴史的な経緯によりずっとそのままであったものを一定程度解消の道筋をつけることで,変則型登記の土地についても売買などの処分や適正な利用が図られるということで,所有者不明土地問題の解消に向けた大きなステップであると考えています。
 変則型登記は歴史的な経緯で生じたもので,新たに発生するものではないので,今回の法改正を通してなくなっていくものですが,所有者不明土地問題の更なる解消に向けて,2月14日に開催された法制審議会総会において,民法・不動産登記法の改正に関する諮問を行っています。
 これについては大きく2つ,所有者不明土地の発生を予防するための仕組みを考えたいということで,1点目として相続登記の申請の義務化や土地所有権の放棄を可能とする方策について,その是非,あるいは内容について考え,2点目は,所有者不明土地であっても円滑かつ適正に利用するための仕組みとして,民法の共有制度は,例えば処分行為などについては,所有者全員の同意が要ると規定しており,財産管理制度についても,所有者不明土地だけで管理するといった仕組みもありませんでした。また相隣関係という民法の規定について抜本的な見直しがされてこなかった中で,そうしたことについて法制審議会に審議していただくよう諮問したところです。
 今後は,法制審議会に諮問させていただいた以上,その調査・審議の状況を見守ることになりますが,その調査・審議の状況を踏まえて,希望としては,2020年,来年中に必要な制度改正を実現することを目指して取り組んでまいりたいと考えています。

(以上)