1. 1 本19日(現地時間同日),パキスタン・イスラム共和国の首都イスラマバードにおいて,我が方松田邦紀駐パキスタン大使と先方フィンバー・クラン世界食糧計画パキスタン代表兼事務所長(Mr. Finbarr Curran, Representative and Country Director of WFP Pakistan)との間で,供与額3億9,600万円の無償資金協力「ハイバル・パフトゥンハー州のアフガン難民受入れ地区における栄養失調児及び妊婦・授乳婦への栄養支援計画」(WFP連携),及び,我が方松田同大使と先方イグナシオ・アルタザ国連開発計画(UNDP)パキスタン臨時事務所代表(Mr. Ignacio Artaza, Resident Representative a.i. UNDP Pakistan)との間で,供与額4億300万円の無償資金協力「ハイバル・パフトゥンハー州部族地域における包摂的な生計手段を通じた安定化計画」(UNDP連携)及び供与額4億1,100万円の無償資金協力「パキスタン沿岸地域における津波及び地震対策強化計画」(UNDP連携)に関する書簡の交換が行われました。

    2 各案件の概要は,それぞれ以下のとおりです。

    (1)「ハイバル・パフトゥンハー州のアフガン難民受入れ地区における栄養失調児及び妊婦・授乳婦への栄養支援計画」
     この計画は,世界食糧計画(WFP)を通じて,パキスタン北部のハイバル・パフトゥンハー(KP)州に居住するアフガン難民,国内避難民及び受入れコミュニティの乳幼児及び妊婦・授乳婦に対して,栄養支援(栄養補助食品配布及び栄養・保健研修の実施等)を行うものです。
     
     パキスタンには40年近く前から約190万人のアフガン難民が居住しており,そのうち,約4割にあたる約80万人がアフガン国境と接しているKP州に居住しています。また,同州には,2014年のテロ掃討作戦で発生した国内避難民約17万人が居住していることもあり,多くのアフガン難民及び国内避難民が流入したことから近年同州の生活環境・治安は悪化しており,この事態は同州の乳幼児と妊婦・授乳婦の栄養状態にも影響を及ぼしています。また,同州の受入れコミュニティの乳幼児及び妊婦・授乳婦の栄養失調も深刻な状況となっていますが,同州政府が提供する保健サービスをアフガン難民,国内避難民及び受入れコミュニティで分け合う形となっており,受入れコミュニティは本来受けられるはずの十分なサービスを受けることができず,受入れコミュニティの不満の増大も治安悪化の一因となっています。
     この協力によりアフガン難民,国内避難民及び受入れコミュニティの栄養失調と診断された乳幼児約3万人及び妊婦・授乳婦約28,000人の栄養改善,同州対象地区女性ヘルスワーカー200人以上に対するメンター研修等を通じて乳幼児及び妊婦・授乳婦の栄養改善を図り,もってパキスタンの平和と安定の確立に寄与することが期待されます。

    (2)「ハイバル・パフトゥンハー州部族地域における包摂的な生計手段を通じた安定化計画」
     この計画は,国連開発計画(UNDP)を通じて,KP州の旧連邦直轄部族地域(FATA)において,帰還した国内避難民に対し,インフラ修復支援(主要道路修復,給水設備改修等),生計改善支援(職業訓練実施及び関連機材供与)及びコミュニティの社会的結束力強化支援を行うものです。
     パキスタンでは,2014年に同国軍がアフガニスタンと国境を接する旧FATAにおいてテロ掃討作戦を実施したことにより,旧FATAの住民約150万人は国内避難民となり,当時のKP州等の近隣地域において避難生活を余儀なくされました。旧FATAの住民の多くは農業により生計を立てていましたが,避難生活中は農作業のために旧FATAに戻ることが許されずに収入を得られなかっただけでなく,テロ掃討作戦によって家屋,農地,灌漑施設や道路も破壊され,経済的に大きな被害を受けました。同国政府が国際社会の支援を得ながら取り組んだ結果,現在,避難民の9割近くが旧FATAに帰還しているとされますが,その多くは安定した生計手段が確保できず,必要最低限の住まいと質の高い基礎的サービスが受けられていない状況です。同国内の安定は国際社会の平和と安定にとって重要であり,同国の治安悪化にもつながり得る旧FATAの不安定な状況を早急に改善するために,帰還民の生計手段回復,レジリエンス強化及び収入向上のための機会拡大が喫緊の課題となっています。
     この協力により,コミュニティインフラの修復による約17,500人の帰還した国内避難民の生活環境改善,若年層への職業訓練による約6,000人の生計向上,帰還した避難民の社会的結束力強化及び経済機会の提供促進,教育や水・衛生等の基礎的サービスへのアクセス向上等を通じて,同地域における包括的発展とパキスタンの平和と安定の確立に寄与することが期待されます。

    (3)「パキスタン沿岸地域における津波及び地震対策強化計画」
     この計画は,UNDPを通じて,パキスタンの沿岸地域における津波及び地震への対策に関する行政(政策立案,早期津波警報システム改善等)及びコミュニティレベルの支援(避難所の設置,学校向けガイドライン作成,災害対応能力強化研修の実施等)を行うものです。
     パキスタン沿岸地域は,同国最大の経済都市であるカラチ(シンド州)や,パスニ等の地域経済における主要港を擁する都市(バロチスタン州)が所在し,昨今の経済成長を反映してその人口は増加しています(例えば,カラチの人口は1940年代に約10万人でしたが,現在では2,000万人以上に増加しています。)。同地域は,その経済的重要性を増す一方で,約1,150kmの海岸線を有し,地震の震源域であるマクラン沈み込み帯に隣接している等の地理的状況から,地震や津波に対する脆弱性が指摘されてきました。同国政府は,最大4,000人以上もの人的被害をもたらした1945年のマクラン地震や昨今の周辺地域での地震や津波の事例から学び,自国の防災対策を強化しています。しかしながら,コミュニティの災害対策においては改善が及んでいない点が多く,現在でも沿岸地域の約7割の地域では,適切な早期警報システムが適用されていない等,同国経済の主翼を担う地域が自然災害に非常に脆弱な状況となっており,早期の改善が必要となっています。
     この協力により,同国政府関係者への技術研修を通じた対象地域約150万人の災害対策能力の強化,避難訓練及び学校向け地震・津波対策ガイドラインの作成による対象地域約5.6万人の学校生徒の災害対策能力強化等を通じて,同国の人間の安全保障の確保と社会基盤の改善に寄与することが期待されます。

    [参考]パキスタン・イスラム共和国基礎データ
     パキスタン・イスラム共和国は,面積79.6万平方キロメートル(日本の約2倍の大きさ),人口約1,97億人(2017年,世界銀行),1人当たり国民総所得(GNI)は1,580ドル(2017年,世界銀行)。