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2018年5月31日
消費者委員会

消費者委員会は、本日、公共料金等専門調査会から、本件に関する報告を受けた。本報告で示された論点を踏まえ、今後、当委員会においては、電力及びガス小売自由化についてフォローアップを行い、必要に応じて、意見表明を検討することとする。

関係機関等におかれては、本報告で示された論点を参考に、電力及びガス小売自由化に関して、消費者の利益の擁護及び増進に向けて、一層の取組を図ることを期待する。


電力・ガス小売自由化に関する現状と課題について

平成30年5月31日
消費者委員会公共料金等専門調査会

1.経緯

消費者委員会公共料金等専門調査会は、一昨年4月からの電力小売全面自由化、また昨年4月からの都市ガス小売全面自由化について、関係者からのヒアリングの結果等を踏まえ、消費者の利益の擁護及び増進の観点から、フォローアップ及び追加的に注視すべき論点を昨年5月にとりまとめたところである1

今般、公共料金等専門調査会は、電力小売全面自由化から約2年、また都市ガス小売全面自由化から約1年が経過したことから、従前より提示している論点等を踏まえ、有識者、消費者団体、事業者や行政機関等から行ったヒアリングの結果等を踏まえ、自由化後の状況をフォローアップするとともに、今後更に重点的に注視すべき論点を整理した。

2.電力小売自由化に係るフォローアップ

電力小売全面自由化後の約2年間で新電力への契約切替えを行った世帯の割合は約9.1%であり、旧一般電気事業者の自社内の切替え約5.7%と併せると、新料金プランへの切替えは計約14.8%となっている2。新電力のシェアの拡大ペースは必ずしも低調とは言えないが、大部分の世帯はいまだ新しい料金プランに積極的に切り替えるという行動には及んでいないものとみられる。

電力システム改革の目的に照らせば、消費者にとっての電力小売自由化の成果は、競争の加速化を通じた電気料金の抑制や選択肢の拡大の状況によって評価されるべきであるが、家庭用における旧一般電気事業者及び新電力の事業者全体での競争の広がりが十分でない部分がある。また、発電面では、みなし小売電気事業者(旧一般電気事業者)と旧卸電気事業者(電源開発等)が出力ベースで83%を所有しているとともに、卸段階では全発電量の大部分(93%程度)が旧一般電気事業者の内部取引によって、旧一般電気事業者(小売部門)に供給されている3。このため、旧一般電気事業者が発電面や卸取引面で圧倒的な活動比重を占めており、競争条件が整ってきているとは言い難い状況にある。従って、競争の進展状況に関しては、消費者の意見も参考にしつつ注視していく必要がある。

(「電力小売自由化について注視すべき論点」の各論点について)

1 料金プラン、事業者からの情報提供

自由化当初は事業者からの多使用量世帯をターゲットとした料金プランの提示が進められたこともあり、新電力に契約を切り替えた消費者の使用量は、規制料金契約者の1.6倍となっており、相対的に使用量の多い消費者の契約の切替えが進んでいる4。ただし、最近では、電力使用量の少ない消費者にもメリットのある料金プラン等も提示されつつある。

また、地域別には、東京・中部・関西・九州といった大都市圏にて多くの新電力の新規参入があるものの、北陸、中国、四国、沖縄地域においては、小売参入は相対的に少ないものとなっている5。また、旧一般電気事業者及びその子会社による旧区域外への供給は進んでいない6

新電力の料金のメニューのうち、ガス・通信等とのセット販売は3割弱を占めている。契約期間中に解約した場合に違約金7等を支払うこととなっている料金メニューは全体の約36%であり、そのうち約7割は契約期間が1年となっている。違約金付き料金メニューのうち、約3割は契約期間が2年あるいは3年となっている8

事業者による電源構成やCO2排出情報の開示を行っている事業者は増加しているものの、開示の割合では半数を超えた程度であり9、電力の選択のため電源構成等の開示を必要とする消費者の求めには、まだ十分に応えられているとは言えない。

一般家庭に供給中の事業者のうち約75%が提携している代理店等があるが、代理店等に関する情報を主としてHPで公表しているのは、そのうち約30%にとどまっている。また、託送供給相当金額を明示している事業者は約20%となっている10

2 「電力比較サイト」の信頼性向上

いわゆる「比較サイト」については、多くの消費者が電力会社や料金プランの切替えに際して料金シミュレーションの利用経験あるいは利用意向があり、料金の低減度合いや料金プラン等に関しての網羅的な比較に利便性を感じており、消費者の意思決定において重要な役割を果たしている11。地域別にその利用経験率を見ると、関東・関西・中部といった大都市圏が高く、その他の地域はそれと比較すると低い水準にとどまっている12

「比較サイト」利用での懸念すべき点として、「その利用が契約切替えに係る勧誘につながるのではないか」、「個人情報が適切に利用されているのか」、「料金シミュレーションと実際の料金で差異が生じないか」ということが消費者からは指摘されている13

3 円滑なスイッチング対応等

旧一般電気事業者から新電力へのスイッチング率を地域別にみると、東京電力管内が最も高く、次いで関西電力管内となる一方、中国電力管内や北陸電力管内では低調な推移となっている。また、自社内契約の切替えという観点では、中部電力管内や中国電力管内での比率が高くなっている14

電力契約の切替えに際しては、「実際に特にトラブルは生じていない」、「特に困ったことはない」と感じている消費者がほとんどであるが、契約条項が煩雑で事務手続きが面倒であるといった点や会社の説明が不十分といった点が指摘されている15

4 消費生活相談への対応、相談対応への体制整備

各地の消費生活センターに寄せられる消費生活相談は自由化開始後に一旦減少を見せたものの、昨年1月以降は月平均100件前後で推移している。寄せられている相談の特徴として、引き続き高齢者が契約当事者のものが多い。地域別には、自由化直後には関東からのものが約半数を占めていたが、昨年度には関東の比重は低下し、近畿、東海といった大都市圏からのものが多くなっている。販売形態別では、昨年度は電話勧誘販売の比重が高まり、半数以上が電話勧誘販売となっている。相談内容としては、勧誘や契約に関する相談は多いものの、一昨年度と比較して解約に対する相談の比重が増しつつある。具体的には、電気・通信のセットプランの解除や電力契約解除に係る違約金に対する相談も見られるようになってきている。また、契約先を切り替えたが電力会社が撤退することになったため連絡を早くしてほしかったといった相談例もあった16

なお、国民生活センター及び電力・ガス取引監視等委員会は、電力小売自由化に関する相談事例の紹介や消費者への注意喚起等を行う文書を連名で定期的に公表している17

5 電力小売自由化の消費者への分かりやすい周知(自由化に関する認知度の更なる向上)等

電力小売自由化に関する基本的事項の認知について、切替え済み又は切替え予定の消費者は、会社を切り替えても電力供給の安定性や電気の質そのものは変わらないことは7割が認識している一方で、訪問・電話勧誘販売のクーリングオフの条件や集合住宅の一括受電契約では別プランを選択できないこと、代理・媒介・取次ぎといった販売形態があることなどについてはあまり理解が進んでいない18

6 競争の更なる促進

低圧部門における新規参入事業者数や販売電力量での新電力シェアは増加傾向にあり、小売段階での競争は進みつつある。しかしながら、旧一般電気事業者によるベースロード電源の独占性、翻って新電力の電源へのアクセスの困難性を踏まえると、川上市場における電源調達の制約の影響を受け、小売段階での競争に一定の限界が生じている面がある。このため、現状では、旧一般電気事業者と新電力の間に非対称的な競争状況が発生していると考えられる。

なお、現時点では、2017年度から開始された旧一般電気事業者による自主的取組であるグロスビディング(自社需要向け電力の一部を、市場を介して自己売買で受け渡すこと)の影響もあり、卸市場には一定の市場の厚みが備わってきている19

7 経過措置期間終了後の料金規制の解除(経過措置に関する消費者の認知)

2020年3月までに電力に係る経過措置料金規制が原則撤廃されることとなっているが、「経過措置料金という言葉」に関する消費者の認知度は約2割、「経過措置料金が少なくとも2020年3月末まで続くこと」を知っているのは5%にとどまっている20

なお、現行の規制料金でサービスを享受している消費者が大部分にとどまる中、契約を切替え済み、又は切替え予定がある消費者でも、経過措置料金規制解除後、現在の3段階料金が選択できなくなる可能性があることにつき7割が認識していない21

3.都市ガス小売自由化等に係るフォローアップ

昨年4月の都市ガス小売全面自由化後、指定旧供給区域にて契約切替えを行った累積スイッチング割合は、都市ガス契約数の約9.7%であるが、うち、7割は自社内の規制料金から自由料金のスイッチング(経過措置対象事業者の供給区域ベース)となっており、規制料金から新規小売へのスイッチングは2.5%となっている22。都市ガスは、自由化を契機にセットメニュー等を含む新たな料金プランを提示し始めている事業者もあるものの、契約切替えを行っていない世帯が9割である現状を鑑みれば、消費者において、積極的な選択行動が行き渡っているとまでは言い難い状況にある。

代替・競合財であるLPガスにおいては、料金体系の公開を通じた透明性の向上は相当程度図られつつあるものの、消費者の利便性の観点から見れば不十分な状況となっている。

ガスシステム改革の目的においても電力同様に、競争の加速化を通じた都市ガス料金の抑制や選択肢の拡大の状況によって評価されるべきであるが、一般家庭向けへの新規参入事業者数(越境販売、予定を含む)は18社であり、大需要地である大都市圏にほぼ限定された競争にとどまっているのが現状である。このため、電力分野同様、消費者の意見も参考にしつつ注視していく必要がある。

(「都市ガス小売自由化について注視すべき論点」の各論点について)

1 小売価格及び事業者間の競争動向の監視

資源エネルギー庁においては、経過措置料金規制がかかる指定地域の競争状況を確認するため、事業者から3か月ごとに報告徴収を実施している。自由化当初は12社に経過措置料金規制が課されていたが、今年3月には指定解除基準をうち3社が満たしていることから、規制事業者は9社となった23

他方、電力・ガス取引監視等委員会においては、経過措置料金が課されてない都市ガス事業者のうち、旧供給区域等における都市ガスの利用率が50%を超える事業者を対象に、合理的でない値上げが行われないよう料金水準に関して報告徴収(「特別な事後監視」)を実施しており、3か月ごとに結果につき公表されている24。現在、合理的でない値上げを行ったおそれのある事業者が1社確認され、報告徴収を行っている旨が公表されている25

2 適正なガス取引の確保及び競争の促進

都市ガス自由化を契機に越境販売を含め、新たに一般家庭へ供給(予定を含む)している事業者は18社にとどまるとともに、全販売量における新規参入者の割合は家庭用で2.3%にとどまっている26

川上市場において、我が国のガス原料の大部分は輸入LNGによるものであるが、新規参入者にとって自らLNG基地を建設することは容易でないため、競争条件整備のためにも現行のLNG基地の第三者利用の促進が期待されているが、現状では活発に利用されているとは言い難い。電力・ガス取引監視等委員会では、ガス製造事業者から定期的に基地利用の申込状況の報告を受け把握をしているが、昨年12月の時点で利用申請が2件にとどまっている27

また、小売段階での消費機器保安責任体制の整備の必要性も競争のネックとなっている面がある。

3 都市ガス小売自由化に関する消費者への丁寧な周知

都市ガス小売自由化に関する基本的事項の認知について、都市ガスが自由化されたことにつき認知はあまり進んでおらず、認知度の地域間の差が大きなものとなっている28。また、都市ガス切替え済み又は切替え予定の消費者は、ガス漏れなどの緊急時には導管事業者が責任をもって対応することは約半数が認識しているが、元栓までは導管事業者が、それ以降のガス消費機器は小売事業者がそれぞれ点検を担当することなどはあまり理解が進んでいない29

さらに、LPガス利用者の約3分の2は、従前からLPガス事業者が自由に料金を設定できることを知らない状況にある30

4 セット販売等に係る事業者からの情報提供

ほぼ全ての都市ガス事業者は標準メニューを公表しているものの、平均的月額料金の例示は6割にとどまっている31。また、都市ガスにおいてセット販売で最も組合せが多いのは電力供給サービスとなっている32。なお、託送料金相当額の支払金額への明示は約1割の状況である33。代理店活用の事業者は全体の1.5割であり、そのうち代理店等の情報を公表済みの事業者は6.5割程度である34

また、LPガスの標準的料金メニューの事業者による公表は、都道府県ごとにみると取組に差はみられるものの、何らかの形で料金を公表している事業者が約7割強と急速に拡大している。しかしながら、そのうちほとんどの事業者が店頭での公表であり、ホームページで公表している事業者は約5%にとどまっている35

5 スイッチングを阻害する取引慣行の排除・透明化

都市ガスのスイッチング率を地域別にみると、近畿、中部・北陸、九州・沖縄、関東の順で高くなっている36。都市ガス契約の切替えに際しては、電力同様、実際に特にトラブルは生じていない、特に困ったことはないと感じている消費者がほとんどであるが、契約条項が煩雑で事務手続きが面倒であるといった点や会社の説明が不十分といった点を挙げる者もいる37

6 消費生活相談への的確な対応

各地の消費生活センターに寄せられる都市ガス自由化に係る消費生活相談は昨年4月の自由化前後で増加したものの、その後、月平均30件前後で推移している。なお、寄せられている相談の特徴としては高齢者が契約当事者のものが多く、自由化後には関東からの相談が半分以上を占めている。販売形態では、昨年度は訪問販売と電話勧誘販売でほぼ9割となっている。内容としては、勧誘に関して「契約先を変更しないように現在の契約元から言われているのか」と言われたといったものや、同じ事業者から複数回勧誘されて不快であるといった相談例もあった38

また、国民生活センターと電力・ガス取引監視等委員会は、都市ガス小売自由化に関する相談事例の紹介や消費者への注意喚起等を行う文書を連名で定期的に公表している39

他方、LPガスに係る消費生活相談については、2012年度には約4,000件であったものの、昨年度4月から12月までの9か月間は約1,500件程度となり減少傾向にある。契約当事者は50歳以下が約6割弱となっており、地域的にも関東が多い。相談内容としては、料金水準が高い、執拗な勧誘といった例がみられる40

4.今後重点的に注視すべき論点

上記のような電力・都市ガス市場等の状況を鑑みるに、消費者相談への的確な対応や「比較サイト」の公平性・中立性を確保するための周辺環境の整備など「注視すべき論点」に従前より盛り込まれている諸点につき、引き続き今後の動向を注視していくことはもちろんであるが、これに加え、自由化の一定時間経過後の「次なる段階」として特に重点的に検討・注視しなければならない論点として、以下の点につき公共料金等専門調査会として整理を行った。

1. 電力分野

1 地域格差や消費者が切替えに及ばない要因の解消

電力に関しては、参入事業者数や新電力へのスイッチング率の面で地域格差がある。特に、北陸、中国、四国、沖縄といった地域では、地域における固有の事情を含む様々な要因により、新規参入や他の電力会社にスイッチングする面で困難な点があるとも考えられる。他方、中部や中国地域では自社内でのスイッチング率が高いとの特徴もあり、これが自由化の効果の現れであるとの意見もあるものの、ひとつの事業者がほぼ地域市場を独占している状況では、「規制なき独占」の状況を許す可能性にもつながりかねない。

また、上記以外の地域においても、今後ともスイッチングが順調に拡大すればよいが、一旦スイッチングをした消費者が更に利便性を求めての複数回事業者の切替えが頻発する一方で、規制料金のサービスを受ける消費者がなかなかスイッチングしないということになれば、自由化の恩恵は一部の消費者にとどまることにもなりかねない。料金プランを維持することが当該消費者の自由化を受けて考慮した結果の選択であればよいが、スイッチングに至らない理由として、例えば「契約変更やプランの比較に手間がかかりそうだから」や、「自由化にあまり関心がないから」といったことにあるのだとすれば、スイッチングを後押しするための具体的な切替えの方法への消費者の興味・関心を引き起こすための方策を検討し、実施することが必要である。

このため、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会等は、状況を見つつ、地域格差の解消や消費者に対してスイッチングへの興味・関心を引き起こすための方策を検討し、実施すべきである。

なお、方策の候補の一つとして、消費者のスイッチングのためのツールとなっている比較サイトの利用向上が考えられる。サイト利用の促進を図りスイッチングを加速化させるためにも、サイトの公正性や中立性等を認証する公的な仕組みの必要性の検討も含め、信頼性の一層の向上を図る取組が重要と考えられる41

2 競争条件の整備

事業者間の競争が適切に行われるためには、新電力の電力調達が適正・公正に行われること、ネットワークの利用が適正・公正であることが重要である。

まず、電力の発電市場においては、現状では、前述のとおり旧一般電気事業者と新電力の間に非対称的な競争状況が発生していると考えられる。このため、経済産業省においては、ベースロード市場の創設に向けて、旧一般電気事業者を中心としたベースロード電源保有者による供出量の市場への放出の加速化や、電力・ガス取引監視等委員会による旧一般電気事業者の市場供出価格に対する規制・監視の徹底などを通じてベースロード市場の活性化を進めることが必要である。加えて、将来的には発電を全て卸市場に放出するなどを含む卸市場の活性化策を講じることにより、新電力と旧一般電気事業者の公正競争を確保することも検討の視野に含めるべきである。

また、連系線空き容量の問題から生じる接続の遅れに関する問題については、コストの安い電源順に送電することを可能とするルール(間接オークション)が導入されることとなり、公平な競争環境の下で連系線をより効率的に利用することも期待される。他方、基幹送電線への接続に係る負担金については、再生エネルギー事業者から適正性や透明性について改善すべきとの意見が寄せられており、空き容量等に関する情報公開をはじめ更なる取組が必要である。加えて、ネットワークの利用料である託送料金については不断の見直しを行い、適正化に努めるべきである。

3 経過措置料金解除に係る慎重な検討

経済産業省(資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会)においては、2020年の経過措置料金規制の原則解除に向けた議論が開始されているが、当該規制は、旧一般電気事業者による「規制なき独占」に陥ることを防ぐ安全保障手段となっている。解除のためには、公正な事業者間の競争状況が確保され、ひいては消費者がサービスを受けることができる状況が確保されることが大前提である。英国においては、料金規制撤廃後の電力料金の上昇を受け、一般向け変動料金についてプライスキャップ規制の導入を進めようとしている事例も見られるところである42。こうした例に鑑み、関係機関による議論の材料とするため、「解除前に競争が十分に行われているか」、「解除後もその競争が持続的であり、独占市場への不可逆性が確保されているか」といった点に係る客観的な指標や消費者等に関わるデータに基づく慎重な判断が必要である。また、解除に係る検証に当たっては、時間的余裕を持った検討及びより幅広い消費者の議論への参画並びに消費者からの意見聴取の機会確保が不可欠であることを資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会等は留意すべきである。

なお、ほとんどの消費者は前述のとおり、2020年3月までに法律上、原則的に経過措置料金が撤廃されことをそもそも認識していない。仮に2020年に料金規制が撤廃される地域が議論の結果明らかとなった場合には、資源エネルギー庁及び電力・ガス取引監視等委員会等は撤廃に係る消費者への広報周知のための方法を十分余裕をもって検討すべきである。

本件については、本公共料金等専門調査会においても消費者庁とともに、消費者利益の擁護の観点から、引き続き多角的なデータの蓄積を図った上で分析を行うこととしたい。あわせて消費者庁においては、こうした分析結果等について消費者へ積極的な情報提供を行うべきである。

2. 都市ガス分野等

1 都市ガス市場の適正監視

電力市場と異なり、都市ガス市場においては既に経過措置料金を解除された地域・事業者が全体の多数を占めている。これらの事業者による不合理な料金引き上げを通じた「規制なき独占」に陥らないよう、「特別な事後監視」の期間のみならず、その後も電力・ガス取引監視等委員会による適正な事後監視が重要である。特別な事後監視の結果については、電力・ガス取引監視等委員会が定期的に公表しているものの、「合理的でない値上げと認められるような事例は認められなかった」のように43、最終的な結果が示されているのみである。このような公表情報のみでは、そもそも料金の値上げがあったのか、あるいは仮に値上げがあったとして具体的な判断の根拠がどのようなものなのか、消費者は把握することができない。このため、監視結果の公表に際しては、説明責任を十分に果たし監視業務プロセスの透明性の向上を図るべく、電力・ガス取引監視等委員会は、より具体的に消費者への丁寧かつ詳細な情報提供を行うことが必要である。

他方、大需要地である東京、関西、中部等においては経過措置料金規制が課せられているが、その解除については、明確な時期が区切られておらず、消費者にとっても予測がしにくい状況である。このため、これらの解除に当たっては時間的余裕をもった手続が不可欠である。

2 競争条件の整備

現在、LNG基地の利用促進に関する方策が電力・ガス取引監視等委員会により検討されているが、電力よりも調達面で制約の多い都市ガス市場においてはその推進は極めて重要である。今後、第三者利用促進に向け、電力・ガス取引監視等委員会はLNG基地の製造設備余力(設備余力の判定方法、余力情報の開示)、基地利用料金(料金算定方法、料金情報の開示)などについて積極的に検討すべきである44

また、小売段階の競争面の課題につき、マンション一括受ガスの問題については、現状ではガス事業法上の保安規制が及ばず、保安面で後退が生じるおそれ45や、一括契約に伴い需要家選択肢に制約を生ずるおそれがあること、需要家保護の課題、託送料金負担の公平性の課題などから許容されていない。他方、電力分野では一括受電契約が一定普及しているとともに、一括受ガスが解禁されれば既存のマンション一括受電事業者等の都市ガス市場への参入が期待されるとの意見もある。したがって、保安面での懸念を踏まえ、競争促進と消費者利益の擁護の観点からバランスのとれた慎重な検討が必要である。加えて、消費機器調査等につき、適正なガス取引についての指針に基づき適正な受託が確保されているか、ひいては小売供給が適正に行われているかについて、電力・ガス取引監視等委員会及び公正取引委員会は監視を徹底すべきである。

3 隣接市場であるLP市場の適正性確保

LPガス市場の適正化については、料金透明化が相当程度進展はあるものの、道半ばの状況である。都市ガス経過措置解除の条件にもLPガス市場の動向が勘案されており、ガス体エネルギー市場全体としての公正な競争や取引適正性の確保が重要である。LPガス取引適正化ガイドラインも累次改定がなされ、消費者に対する情報の開示措置は盛り込まれつつある46が、ガイドライン実効性の確保のためにも、業界団体による事業者への周知徹底、監視当局(資源エネルギー庁、地方経済産業局及び地方自治体)による厳正な監視が必要不可欠である。

また、設備貸与を巡る賃貸集合住宅に関わる料金不透明性を解消するため、設備貸与料をガス料金に転嫁している場合、賃貸事業者は、消費者が物件を選択する際に説明を適切に行う必要がある。また、LPガス事業者は設備貸与料をリース料として料金の内訳として明示する必要がある。都市ガス料金が自由化され、事業者による料金設計においてもコジェネ等の設備貸与料が転嫁され不明瞭な料金請求がなされ、都市ガス市場にもLPガス市場での消費者にとって不利な商慣行が拡大する懸念も指摘されることから、消費者に対する適切な説明を確保することが重要である。このため、ガス事業者に対しては資源エネルギー庁が必要な措置を引き続き講じ、これを受けて国土交通省は、賃貸事業者が入居者に対して適切な説明を行うことができるよう取組を連携して進めるべきである。

5.引き続きのフォローアップの実施

電力小売全面自由化については2年強、都市ガス自由化については1年強が経過した段階であり、そのメリットを十分に消費者が享受出来ているか否かの総括的な評価を行うためには、引き続き消費者の立場から多角的な視点から見守っていくことが必要である。

このため、消費者委員会公共料金等専門調査会においては、電力及び都市ガス小売全面自由化が消費者にもたらす影響につき、今後も引き続き検証(フォローアップ)を行うとともに、特に電力経過措置料金の解除に関しては消費者利益に重大な影響を及ぼす可能性があることから、必要に応じて、意見表明等を行うこととしたい。

(以上)

  1. 「電力・ガス小売自由化に関する課題について」(平成29年5月23日消費者委員会公共料金等専門調査会)
  2. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P13より。
  3. 第3回競争的な電力・ガス市場研究会(平成29年12月26日) 卸市場に関する基礎資料集及び「卸電力市場(発電市場)に関する競争促進上の課題について」より。
  4. 第44回公共料金等専門調査会(平成30年4月20日)草薙真一教授提出資料(P10、経済産業省調べ)より。
  5. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P12より。
  6. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P16より。
  7. 例えば、東京電力エナジーパートナーによる「生活かけつけサービス」などの特典が付いている新しい料金メニューである「プレミアムプラン」においては、契約期間中の解約に際しては期間解約金が発生する一方、「スタンダードプラン」については期間解約金は発生しない。第46回公共料金等専門調査会(平成30年5月10日)より。
  8. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P18より。
  9. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P24より。なお、一般家庭への供給を開始している事業者のうち、電源構成の開示済み事業者は112社(56.3%)、CO2排出係数の開示済み事業者は109社(54.8%)となっている(平成29年9月時点)。なお、平成29年4月時点調査では、それぞれ101社(57.4%)、86社(48.9%)であった。なお、一般家庭に供給実績のある事業者について契約口数ベースで見ると、需要家のうち約9割が電源構成やCO2排出情報の開示済み、開示予定有りの事業者と契約している。
  10. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P30より。なお、託送料金単価か概算額を明記している事業者は約1割。託送供給料金相当支払金額の明記の方法は、請求書や領収書等の割合が90%以上となっている。
  11. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P26、P28より。
  12. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P27より。
  13. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P29より。
  14. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P13より。
  15. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P12より。
  16. 第41回公共料金等専門調査会(平成30年2月27日) 「電力小売自由化」「ガス小売自由化」「プロパンガス(LPガス)」に関する消費生活相談の状況(独立行政法人国民生活センター提出資料)より。
  17. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P39より。
  18. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P10より。
  19. 昨年4月以降は卸電力取引所の取引量が目立って増えており、全需要に占める取引量の割合は過去1年間で3倍程度となっている(約3%から約9%)。第44回公共料金等専門調査会(平成30年4月20日)草薙真一教授提出資料(P8、経済産業省調べ)より。
  20. 平成30年5月物価モニター調査結果(速報)(平成30年5月16日 消費者庁)より。
  21. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P14より。
  22. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P45より。
  23. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P70より。
  24. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P72より。
  25. 「ガスの特別な事後監視(第3回)結果」(平成30年5月9日 電力・ガス取引監視等委員会公表資料)
  26. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P44及びP47より。
  27. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P55より。
  28. 日本生活協同組合連合会「わが家の電気・ガス料金しらべ」報告書(平成29年8月分)(平成29年10月)によれば、「都市ガス自由化」について聞いたところ、「知っている」と回答した割合は73%であり、平成29年5月の調査時点から増えていない。また、認知度につき地域間で差が大きく、知っていると回答した割合が近畿で89%、関東で82%と高かった一方で、四国では27%、中国では45%と半数以下であった。
  29. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P20より。
  30. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P24より。
  31. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P61より。一般家庭への供給を開始している事業者のうち、標準メニューの公表済み事業者は201社(97.6%)、平均的な月額料金例公表済み事業者は127社(61.7%)となっている(平成29年5、6月時点)。
  32. 「都市ガスの情報開示と料金体系に関するアンケート」報告書(平成30 年1月25日 一般社団法人 全国消費者団体連絡会)より。回答事業者のうち33事業者(80%)が電気供給サービスとの組み合わせと回答。
  33. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P63より。
  34. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P62より。
  35. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 資源エネルギー庁石油流通課提出資料P6より。
  36. 第44回公共料金等専門調査会(平成30年4月20日) 草薙真一教授提出資料(P44、経済産業省調べ)より。
  37. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス小売自由化に関する消費者の意識について(消費者委員会提出資料)P22より。
  38. 第41回公共料金等専門調査会(平成30年2月27日) 「電力小売自由化」「ガス小売自由化」「プロパンガス(LPガス)」に関する消費生活相談の状況(独立行政法人国民生活センター提出資料)より。
  39. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P69より。
  40. 注38参照。
  41. 比較サイト事業者の中には小売電気事業者と「媒介」、「取次ぎ」又は「代理」といった形態の契約を結んでいる例がある。なお、「電力の小売営業に関する指針」(平成28年1月経済産業省)においては、「実際に小売供給を行い、電気事業法上の小売電気事業者としての義務を負うのは小売電気事業者であることから、需要家に誤解が生じないよう、媒介・取次ぎ・代理業者は、小売供給契約の締結の媒介等をしようとするときは、小売電気事業者の名称や、自己が行う行為は媒介等であること等について説明する義務が課されている」と規定されているところである。
  42. 第43回公共料金等専門調査会(平成30年3月14日) 電力中央研究所澤部主任研究員提出資料P10より。
  43. 電力・ガス取引監視等委員会発表資料(平成30年3月29日)ガスの特別な事後監視について(第2回)より
  44. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日) 電力・ガス取引監視等委員会提出資料P55より。
  45. 現在、マンションの各戸に設置されているガスメーターについては、ガス工作物としてガス事業法の適用を受けており、異常時における遮断機能を有したもの(マイコンメーター)でなければならないこととされている。一括受ガス事業者は現行法ではガス事業法上の位置づけがないためガスメーターを設置する義務はなく、仮にマンションの各戸に設置したとしても、当該ガスメーターはガス工作物ではないため、ガス事業法上の保安規制を及ぼすことができない。このため、一括受ガスを現行法のまま許容することとした場合には、現行制度下では、需要家の安全を制度的措置をもって担保することができず、また異常時の需要家の利便性が低下する。規制改革推進会議 第21回投資等ワーキング・グループ(平成30年4月13日)経済産業省説明資料P45より。
  46. 第45回公共料金等専門調査会(平成30年4月26日)  資源エネルギー庁石油流通課提出資料P4より。