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日時

2018年6月25日(月)14:00~16:50

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
鹿野座長、池本座長代理、樋口委員、山本委員
【説明者】
京都大学法学系(大学院法学研究科)教授 原田大樹氏
神戸大学大学院法学研究科教授 中川丈久氏
龍谷大学法学部教授 中田邦博氏
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 有識者ヒアリング
     京都大学法学系(大学院法学研究科)教授 原田大樹 氏
     神戸大学大学院法学研究科教授 中川丈久 氏
     龍谷大学法学部教授 中田邦博 氏
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

  • 議事次第(PDF形式:57KB)PDFを別ウィンドウで開きます
  • 【資料1】 自主規制の意義(原田大樹教授資料)(PDF形式:348KB)PDFを別ウィンドウで開きます
  • 【資料2-1】 行政規制・民事ルール・自主規制の相互関係について-デュアル・エンフォースメントと共同規制-(中川丈久教授資料)(PDF形式:407KB)PDFを別ウィンドウで開きます
  • 【資料2-2】 日本における公的規制・民事裁判・自主規制(PDF形式:217KB)PDFを別ウィンドウで開きます
    ※有斐閣より転載の許可をいただいています。
  • 【資料3】 ドイツの消費者法における不正競争防止法(UWG)と消費者団体(中田邦博教授資料)(PDF形式:258KB)PDFを別ウィンドウで開きます

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、時間になりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。

本日は皆様お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」第4回会合を開催いたします。

本日は所用によりまして高委員長が欠席との連絡をいただいています。

議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしています資料につきまして、議事次第の下部に配付資料一覧を記載しております。資料1から資料3となっております。

なお、資料2-2につきましては、関連雑誌の抜粋となっておりますけれども、あらかじめ出版社から本ワーキング・グループでの資料配付につきまして、了解を得ていることを申し添えます。

不足の資料がございましたら、事務局までお申し付けいただきますよう、よろしくお願いいたします。

それでは、鹿野座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.有識者ヒアリング≫

○鹿野座長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。

本日は、消費者法分野におけるルール形成の在り方の重要な論点のうち、「自主規制の意義」、「行政規制と民事ルールの役割分担及びその連携の在り方」、「海外の法制度」、以上の3点について御意見を伺うため、参考人として、京都大学法学系(大学院法学研究科)教授でいらっしゃいます原田大樹様、神戸大学大学院法学研究科教授の中川丈久様、龍谷大学法学部教授でいらっしゃいます中田邦博様のお三方に御出席いただいております。

会議の進行についてですが、各有識者お一人ずつ順番に御着席いただき、お話を伺った上で意見交換を行いたいと考えております。

それでは、まずは、原田教授から「自主規制の意義」についてお話しいただきたいと思います。

原田教授の御専門分野は、行政法でいらっしゃいます。原田教授は、「自主規制の公法学的研究」などの論文を発表されておりまして、自主規制の制度設計について、公法学的な視点で御研究をしていらっしゃいます。事業者や事業者団体による自主規制については、現在、消費者法分野においても重要な役割を発揮しているものと思われます。そこで、ルール形成の在り方を検討するに当たり、自主規制と行政規制とはどのような関係にあるのか、あるいは、どのような役割を自主規制が担うべきかといった、言わば自主規制の位置付けを考えることが大変重要であると考えております。

原田教授は、自主規制を幾つかのモデルに類型化し、それら類型ごとの法的問題状況や有効に機能する条件などについて御研究をされていると伺っております。本日はこうした自主規制の類型化の観点から、この消費者法分野への応用可能性についてもお話を伺えるものと期待しております。そして、こうした分析につきましては、本ワーキング・グループにおいて自主規制の役割や意義を検討する上で重要な示唆になるものと考えているところでございます。

それでは、恐縮ですが、20分程度でまずはお話しいただきますようにお願いいたします。

○原田教授 京都大学の原田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

それでは、お手元の資料に基づきまして、20分程度お話しさせていただきたいと思います。

まず、自主規制という言葉ですけれども、非常に多義的でありまして、法学的な定義も必ずしも容易ではございません。ここではレジュメにありますように、「ある私的法主体に対して外部からインパクトが与えられたことを契機に、当該法主体の任意により、公的利益の実現に適合的な行動がとられるようになること」と定義してみております。通常、自主と言った場合には、国や地方公共団体のような公的な主体が制度を運営するということではなくて、主として民間の主体が実施する活動であると言えます。そして、規制という言葉ですが、伝統的には相手方の権利あるいは自由を制限するという見方が有力ですけれども、しかし、その究極の目的は、公的な利益に適合するような行為を取らせるということですので、ここでは究極の目的のほうを重視しております。

このような自主規制は、必ずしも新しい現象ではございませんで、むしろ古くからあったということでございます。中世における座、あるいは近世における株仲間、町会所のように、近代国家が存立する前から存在しておりました。あるいは日本が近代国家として歩み始めた後も、言わば補完する形でしばしば登場してまいりました。最も著明で大規模なのは、第2次大戦前後のいわゆる「1940年体制」における自主規制の隆盛です。戦後、経済関係の統制権限が縮小されますと、中央省庁は行政指導と業界による自主規制によって生産の管理あるいは調整を行ってまいりました。例えば、鉄鋼公販制と呼ばれるものがその著明な例です。このように自主規制という言葉には古いイメージがつきまといますが、最近ではむしろ現代的な課題に対応する形の自主規制も現れております。例えば環境監査とか適合性評価、あるいは個人情報保護における認定個人情報保護団体というものは、いずれもそのようなものかと思います。

これらの多くは、事業者の意思形成プロセスあるいは製品の製造プロセスなどに注目して、一定の要求水準を定めた上で、それが満たされているかを自ら、あるいは第三者の評価機関によって評価してもらうという性格を持っております。

このような自主規制をどうグループ化するかということですが、自主規制をそもそも動かしている力が団体に由来するのか、それとも市場の選択圧力に依存するのかという要素が恐らくは重要であろうと思われます。自主規制を行う団体が出てくるタイプでは、国家活動とは全く独立して自らの行動計画を決定し、実現する団体自律モデルとここでは呼んでいるものと、国家の政策の実現、規範定立あるいは執行のいずれかを担うということですが、いずれにしても国家による政策のある種のツールとして使われる団体参画モデルの2つが含まれるだろうと思います。

また、市場における選択圧力が自主規制を動かすというタイプとして、個別の事業者が公的利益適合行為を決定するような監査認証モデルとここで呼んでいるものがあります。消費者法で以前から知られている例としては、例えば業界団体による標準約款の策定あるいは業界団体によるADR、さらにはSGマーク制度というものがありますし、もともと経済法に属していたものとしては公正競争規約がございます。公正競争規約については、この後の中川教授のお話にも出てくるかと思いますが、これらのものを分類してみますと、標準約款の策定やADRあるいは公正競争規約は団体自律モデルに近く、SGマークは監査認証モデルに近いということかと思います。

そこで、もうレジュメの2ページ目に入ってしまっておりますが、自主規制の類型といたしまして、今、御紹介したものがあるわけですけれども、これらが機能するのはどんな場面かということをある程度一般的に提示しますと、恐らく次のようになるだろうと思います。

まず、業界側にある程度条件が整うことで自主規制が有効に働きやすくなるということがあろうかと思います。国家からの規制圧力が働いていて、これを回避するために自主規制が効果的だと思われる場合です。典型例は、放送分野における自主規制です。次に、団体自律あるいは団体参画モデルについては、団体が出てまいりますので、団体の組織率が比較的高く、アウトサイダーが少ないような業界で自主規制が有効に機能すると思われます。もちろんこれが強制加入団体であれば実効性としては更に高まります。これもある種の自主規制ですので、先ほど紹介しませんでしたが、誘導モデルと呼ぶことができますが、強制加入になりますと任意に公的利益適合行為を取っているとは言い難いので、ここでは検討から外しております。また、監査認証モデルについては、自主規制の実施の事実が市場において競争上有利に働くというような場面で自主規制が有効に機能すると思われます。

次に、規制する国家側の事情として、自主規制を選択したほうがよいと思われるような場面が幾つか存在します。第1は、対象事業者の捕捉あるいは規制執行に多大なコストがかかるという場面です。消費者法では一般に事業者の数が多いので、規制執行に多大なコストがかかりますから、このようなコストを抑制するという観点から自主規制が望ましい場面が想定できます。2つ目は、規制対象が状況に応じて流動的で、規制基準をあらかじめ定めることが難しい場面です。消費者法の中でも、例えば先端的な財やサービス、最近ではAIを利用した商品などが考えられますけれども、こういったものの提供については技術革新が非常に早くて、規制基準をアップデートするのが国家側ではなかなか難しいということで、このような事情が当てはまるかと思います。3つ目には、規制内容に高度の専門性が必要でございまして、行政側がそのような知識を獲得することが難しいということです。消費者法の場面では余りないかもしれませんが、先ほどのAIのようなケースはそれかもしれません。

国家による規制と異なりまして、自主規制の場合には、仲間内の閉鎖空間で規制が行われますので、憲法あるいは行政法の観点から野放しにするということはできません。そこで、自主規制を適切に実施するためには幾つかの観点が重要であろうと思います。まず、自主規制が一部の業界なり事業者によって行われることから、公平性あるいは公正性という観点から、自主規制を積極的に使っていくということにはある程度ブレーキをかけておくべきではないかと思われます。国家としては、安易に自主規制に依存するのではなくて、国家による直接的な規制が難しくて、自主規制によることが望ましいという理由をきちんと説明できるような場合に自主規制に委ねるということを考えるべきだろうと思います。次に、自主規制が目指す公的利益適合行為というものの中身の大枠は、国家における民主的な統治過程、政治過程の中で決定されるべきであろうと思われます。閉鎖的な空間の中で勝手に決まった自主規制の中身がアウトサイダーあるいは一般の消費者に対して不利に働くことを防ぐ必要があるためです。さらに、自主規制を機能させるという観点からは、私人の行動原理と整合的な方向で自主規制が設定されるということも重要かと思います。

以上、かなり抽象的に申し上げましたが、これを前提といたしまして、消費者法分野で自主規制を用いてどのような制度設計をするかということを簡単に考えてみたいと思います。

まず、監査認証モデルですけれども、現在でも既に消費生活用製品安全法で採用されておりますが、製品の安全やサービスの適正性を確保する責任を事業者側に課した上で、その具体的な義務履行方法について法令で特定せずに、業界団体あるいは民間規格団体が策定した基準に適合していることを自ら宣言する自己適合宣言か、第三者的な認証機関に認証してもらう第三者認証という方法をもっと広く採用するということが考えられます。

その際には、評価を実施している認証機関あるいは認証機関を認定する認定機関に苦情解決機能を持たせて、認証システムに関する運用情報の把握と事業者に対する適時の是正の要求を実現することも考えられます。

次に、団体を用いるタイプです。制度設計に団体を組み込むといたしますと、法律が作っているシステムの中に自主規制を取り込むことになりますので、団体参画モデルに基づく制度化を考えることになろうかと思います。現在の実定法の中で参考になりそうなモデルが2つほどあります。1つはレジュメの3ページ目ですが、認可法人による自主規制とアウトサイダーに対する行政監督を組み合わせるというやり方で、貸金業法あるいは金融商品取引法に実例があります。例えば、貸金業法24条の6の12では、貸金業協会の定款あるいは業務規程を考慮して、貸金業協会に入っていない事業者に対する行政監督の権限を与えるということになっておりますし、あるいは金融商品取引法29条の4第1項4号ニは、自主規制団体の定款あるいは規則に準じる内容の社内規則を整備していない場合には登録を拒否できることにしております。この仕組みは、もともとアメリカ法の証券取引所法をモデルにしたもので、それが貸金業法にも広がっております。

もう一つのモデルは、認定団体による自主規制と行政監督の裁量権の行使の際の考慮というものを組み合わせる方法で、資金決済法の認定資金決済事業者協会、これは資金決済法の87条以下に規定されておりますが、これがその例かと思います。具体的には、事業者を登録する際に取り扱う仮想通貨の適切性について、認定資金決済事業者協会の意見を踏まえて判断する、あるいは財産の分別管理について協会の自主規制規則を踏まえて判断する、さらに利用者に関する情報管理体制について、協会の研修を受けていることを考慮するといったことが、これはいずれも金融庁の事務ガイドラインの中に書き込まれております。ただ、この仮想通貨に関する自主規制団体の認定がまだされておりませんので、仕組みが具体的に動き出しているわけではありません。これら2つの仕組みは、強制加入の業界団体を作って事業の許認可を委ねるという仕組みよりもマイルドに業界での自主規制を実現するもので、特に認定資金決済事業者協会のモデルは、消費者法でも幅広く応用可能なのではないかと思われます。

レジュメの最後の4ページ目ですけれども、自主規制は業界という閉鎖空間で展開されることが多いので、自主規制の名の下に業界の利益だけを追求し、あるいはアウトサイダーに対する経済的な圧迫を加えるおそれもあります。そこで、自主規制団体の役員に例えば消費者の代表を加えるとか、自主規制のルールの策定に消費者の意見を反映させる手続を設けるといったような工夫が考えられるところです。つまり、個々の自主規制の仕組みの中に、消費者側にも開放的な仕組みを設けておくということです。

それと同時に検討すべきなのは、もう少しマクロのレベルで事業者と消費者のパワーバランスを確保するというやり方です。例えば、行政側が執行のリソース不足を理由に自主規制を法律に組み込むという場合には、消費者利害の反映の機会とのバランスを取るという観点から、規制施行を促進するための消費者団体訴訟というものを併せて立法化すべきではないかと思います。これは次の中川教授がお話しになることかと思いますが、消費者法は規制執行がなかなか難しいですので、多様な執行ツールを組み合わせて使っていくという発想が求められているだろうと思います。自主規制はそのツールのうちの一つですけれども、使い方を誤ると消費者の利益を侵害する可能性もありますので、使う上では慎重な制度設計をする必要があろうかと思います。

報告は以上です。

○鹿野座長 ありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえて御質問、御意見等のある方は御発言をお願いします。いかがでしょうか。

それでは、池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 池本でございます。

非常に興味深い分野について、分かりやすく御説明をありがとうございました。

2ページから3ページの自主規制のモデルとして、特に団体参画モデルというところで、どういうところが条件付けとして必要かというところ。貸金業の団体、あるいは金融商品取引法もそうですし、資金決済法もそうだという御説明をいただきました。私も別に取り組んでいるところで、クレジット契約に関する割賦販売法、日本クレジット協会もセキュリティー対策とかその辺りは自主規制と法規制をうまくリンクさせてやろうとしている一つかなと思います。お伺いしたいのは、例えば通信販売とか訪問販売といっても、これは営業活動の手法であって、それが一つのくくりとしての団体にはなり得ないのではないか。更に細かく同種の業界の中で自主規制団体を作らないと的確なルールが作りにくい、あるいは相互監視もしにくいということがあるのではないかと思うのですが、そのくくりとしては、ここで挙げられているのはいずれも登録制とか認可制、一つの業種としてくくられるところになろうかと思うのですが、その辺りの幅というか単位はどう考えたらいいのか。あるいはもっと横断的に広いものでも成り立ち得るのかという点。

それから、関連するのですが、行政的なコントロールとセットされる、要するに登録拒否事由のような形で行政的に監視することによって自主ルールの一定の水準が確保されるという関係があるのではないかと推測するのですが、登録制などがない事業分野で自主規制というものが成り立ち得るのか。その場合、何か別の条件付けがあるのかどうかということについて、お伺いできればと思います。

○鹿野座長 それでは、お願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

いずれも難しいのですが、第1の業種をどの程度に限るかという点ですが、自主規制の場合には、業界固有のルールというものが重要ですし、それをエンフォースメントするときのピアプレッシャーというものも重要ですので、余り広い業界を考えますと、そういった専門的なルール形成やピアプレッシャーが効きにくくなってしまいますので、原則としてはやはり1業界なのではないかと思います。そうすると、確かに通信販売や訪問販売でグループ化するのはちょっと難しくて、その中の業種ということに恐らくはなろうかと思います。

第2の行政コントロールとセットだという点は、正におっしゃるとおりで、登録なり、少なくとも届出制ぐらいの枠を設定しているということが、恐らくこのような団体、参画モデルという形で制度を設計するときには必要なのだろうと思います。ですので、最低、届出制にしておいて、後続で何か、例えば改善命令とか、不利益処分を予定しているシステムの中で詳しい規制は自主規制に委ねるということはあり得るだろうと思います。それも全くない状態で構成することももちろん可能ですが、そうなると行政規制とは全く別枠で行う団体自律モデル側になりますので、そうするとそれぞれの業界の中でルールを設けて、業界の中でエンフォースメントを完結させる必要が出てまいりますので、エンフォースメントの仕組みとして、例えば業界ADRを使うとか、あるいは業界の中で認証のような制度を設けて、そのマークを持っている業者が望ましい業者であることを市場にアピールするということが一応考えられます。ただ、消費者業界の場合には、業界団体を仮に作ったとしても、組織率が高いということは余り想定しづらいので、そういった方法で本当に実効性があるかと言われると、ちょっと微妙かなという気がいたします。

以上です。

○鹿野座長 よろしいですか。関連して何か。

他の点ですか。では、お願いします。

○池本座長代理 池本です。

もう一点、ちょっと違うところで、4ページ目の最後のところなのですが、自主規制を機能させるためというか、その消費者利益と業界の自主規制ルールとの関係で、規制執行を促進するための消費者団体訴訟を併せて立法化すべきと御指摘をいただいています。これは、現在、特定商取引法、景品表示法、消費者契約法という大ぐくりの法の中では一定の、例えば虚偽誇大広告の禁止とか幾つかのものについては消費者団体訴訟制度で差止請求ができるものがありますし、今度、まだ十分機能していませんが、集団的被害回復制度も一応作られて、認定を受ける団体も二、三出てきたところです。そういった今ある制度が機能を発揮するということなのか、もう一歩踏み込んだ何か制度化すべきものが想定できるという趣旨なのか、この点について教えていただければ幸いです。

○鹿野座長 それでは、原田教授、お願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

差止めとか不法行為のように現在存在している団体訴訟とは異なるものでありまして、例えば、特定商取引法上の規制権限を行使していないという場合に、消費者団体がその規制権限を行使してほしい。例えば是正命令を出してほしいとか、あるいは営業停止処分を出してほしいというような団体訴訟をここでは想定しておりまして、解釈論上できるのではないかという議論もないわけではありません。それは注13で私も書いたのですが、ただ、実際本当に解釈論上できるのかどうかよく分からないところがありますので、それを明確な形で、消費者団体にそのような訴訟を認めるような制度化を図るということを、ここでは想定しております。

以上です。

○鹿野座長 今の点を確認させていただいてよろしいですか。今のお話は、例えば特商法の規制権限を行政が十分に行使していないというときに、適格消費者団体等が行政の規制権限行使を求めるという制度を作るということ、今は明文の規定がないから解釈論でどこまでできるか明確ではないところがあるけれども、それを明文化するというような方向性が考えられるのではないか。そのような趣旨と理解してよろしいでしょうか。

○原田教授 そのようなつもりで発言いたしましたけれども、現在でも、もちろん直接型義務付け訴訟という形で、団体ではなくて個人が同じことをすることは一応できるのですけれども、そうではなくて適格消費者団体にやっていただく。その代わりに、例えば現在要求されている訴訟要件の一部を緩和するとか、そういった工夫によって適格消費者団体が行政過程の活性化のトリガーを引くような仕組みを考えるべきであるという趣旨です。

以上です。

○鹿野座長 ありがとうございます。

他にいかがでしょうか。

それでは、樋口委員、お願いします。

○樋口委員 今のお話は非常に重要だと思います。私自身、適格消費者団体の関係でいろいろ取組をしているのですが、実際に今の行政と適格消費者団体の関係を考えますと、行政経由で適格消費者団体の立ち上げについては助成金が出たり、いろいろ実際のトラブルの案件についても行政と連携する方向で取り組んで来ているような気がするのです。今の適格消費者団体そのものがうまく行政の執行の活性化につながるかというところは、実態面としてはやや議論がある気もするのですが、お話としては非常に重要な点かと思いますので、全体の仕組みを再構築するような考え方で見直していけば、そういうこともあるのではないかと私も感じました。これは感想です。

1つお伺いしたい点なのですけれども、池本座長代理からもお話がありましたが、団体参画モデルということで、実際には訪問販売法とか通信販売法に基づいて訪問販売協会とか通信販売協会があって、行政と一体となっていろいろ、金融関係と同じような形での業界の自主ルールを実施してきているという実績があるのではないかと思います。ただ、それがアウトサイダーに対して有効でない。訪問販売協会に入っていないところがいろいろトラブルを引き起こしている例も多いとか、通信販売協会なども、やはり通信販売協会に加入していないところでトラブルが多いということは実態上おっしゃるとおりで、登録とか届出等の行政の一定のコントロールが及ばない訪問販売や通信販売全体について、効果が十分上がらないという点は御指摘のとおりだと思います。そうなると、これらの分野の自主ルールは、監査認証モデルになっていくのかなという気がします。

実際に通信販売で例を挙げますと、電子商取引の安全マークを作ったことがあったのですが、これは通信販売協会が商工会議所とタイアップして、一定の取組をしているところにマークを出す、ネット上でSTマークというような仕組みを作ったのですが、これもおっしゃるように、基本的に範囲が広くなり過ぎてしまっているので効果が上がらなかったのかもしれない。ですから、おっしゃるような考え方で言うと、例えば通信販売の場合でも、監査認証のシステムを導入する場合には、もう少し小さな単位で、登録、届出までいかないにしても、一定の行政との同質な関係が存在するようなところでマーク制度などもやったほうがいいということになるのかなと感じました。

まだ頭が十分ついて行けていませんが、そういう考え方でよろしいのでしょうか。例えばネット上の安全マークのようなものについて、今までアメリカでも日本でもどちらかというと広い意味で、何となく安全マークを出していれば、どういう分野であってもこれは安全なのだというふわっとした信頼関係のようなことで、それを何となく国に代わって自主ルール、自主的な取組でやるという範囲にとどまってきたように思うのですが、もう少し細かい単位で、実効の上がるものについて、例えばそういうマーク制度をきめ細かく作ったほうがいいというようなことになるのかどうかという点。質問になっていないかもしれませんが、その辺について、もし何かあれば教えていただければと思います。

○鹿野座長 原田教授、お願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

最初におっしゃっていただいた、適格消費者団体が現状、行政と協力的だということなのですが、私もそれを変えろと申し上げているのではなくて、行政過程の中で現在のところは余り設定されていませんが、特定商取引法の規制権限の執行の際に、例えば適格消費者団体の意見を聞くとか、そういった行政手続上の一定の地位を与えた上で、それをちゃんとやっていないことを理由に訴訟に持ち込むということであれば、訴訟に本来持ち込まれないはずで、協力関係でいけるはずなのですけれども、行政が何らかの理由で動けなかったり、あるいは動かなかった場合の手段として団体訴訟を位置付けるというやり方があり得るかと思います。

第2の監査認証モデルでマーク制度のようなものをどれぐらいの業界の単位で考えればよいかということなのですけれども、恐らく監査認証モデルの場合には、消費者側としては、そのマークがあるかないかによって、信頼する、しないということを決めるわけですので、実際にどんな具体的なルールがあるかということは余り気にしていないと思われます。そういう場合には業界をそれほど区切らなくても、ある程度の枠の中でやっておれば、その限りでは問題は少ないのだろうと思います。

ただ、マーク制度と同時に、例えばADRをくっつけたりするというように、もう少し規制のプログラムについて詳細に定めた上で、その実効性確保も含むようなものを後続措置として付けるということであれば、もう少し限定した業界の中でやったほうが実効性としては高まるのではないかと思われます。

以上です。

○樋口委員 ありがとうございました。よく分かりました。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

山本委員、お願いします。

○山本委員 どうもありがとうございました。

私からは、基本的なことを若干お伺いしたいと思いますが、2ページの中ほどにある国家による公的利益の内容決定について、正統性・透明性の確保というお話がありました。自主規制を活用していく場合にも透明性を一定程度確保していく必要があるというお話だったかと思いますし、それから、今の正統性にも少し関わっているのですが、4ページの3のところで、消費者側の声をどのように取り入れていくかというお話がございました。恐らく監査認証モデル、規格の策定とかいったモデルにおいては、これが現にかなり実現されているところがあるのではないかと思うのですが、ここで言われる団体参画モデルに関して、これをどのように確保していったらいいのかという点については、まだいろいろ議論する余地があるのではないかと思います。

お伺いしたいのは、とりわけいわゆる団体参画モデル等々をとったときに、自主規制を取り入れる際の透明性とか、あるいは利益の均衡といったことをどのように担保していったらいいのかということです。国の行政側がそれを取り入れる場合には、それを取り入れるタイミングで国の側がそういう制度を作ってしまうということが一つあろうかと思うのですが、他に何か考えられるのか、あるいは諸外国等でこういった点について工夫をしている例があるのかという点について、お伺いしたいと思います。

○鹿野座長 お願いします。

○原田教授 大変難しい御質問なのですが、団体については、恐らくは2つの方法でやることが考えられるだろうと思います。1つは、団体の組織の中に、例えば消費者代表を何人入れなさいという形でガバナンスのルールとして規律を設けておくというやり方です。先ほど申し上げたものもそれに近くて、自主規制の場合には、内容面で国家がコントロールをかけるのは、本来、自主規制をやってもらう趣旨からすると余りよろしくないので、むしろガバナンスのところで一定の利益の均衡をとるという方法が一つあり得るかと思います。

もう一つは、先ほど山本委員がおっしゃったように、国家がある程度タイミングを選ぶと言いますか、団体が作った内容について国家が一定程度オーソライズをかけるような仕組みを設けておく、例えば、自主規制のルールを設けたら国家が認証なり登録なり何なりをするということで、国家がそれを一回審査するという方法です。そうしますと、業界の利益のみに偏った内容にはもちろんなりにくくなりますが、国家がそこで一回オーソライズをかけますと、自主という意味がその分損なわれる可能性もないわけではないので、例えば、自主規制に違反した場合のサンクションのほうが非常に厳しいものであるというようなケースでは、国家が一旦その内容を個別にチェックするような仕組みを設けることも十分にあり得るかと思います。全ての例を見たわけではありませんが、ドイツとかアメリカで現に行われている自主規制のものも、おおむね今申し上げた2つのタイプのいずれかでコントロールしていると言えるのではないかと思います。

以上です。

○鹿野座長 よろしいですか。

では、池本座長代理。

○池本座長代理 池本です。

今、おっしゃったところに関連して1つと、その前の話題と、2つ御質問させてください。

最後におっしゃったところの自主性としてルール化されたものを国が審査あるいは認証を与えるというのは、先ほどの登録制などがあって、登録拒否事由のハードルの中で組み込むというイメージかと思うのですが、そうではなくて、何か違反があったときの制裁ルールをきちんとしておくことで自主ルールとの関係を位置付けるというところ。その御指摘は、例えば我が国で言うと、特定商取引法とか景品表示法。景表法だと公正取引協議会の話になりますが、特定商取引法にも一定の行為規制があり、違反に対する行政処分があるので、そういう中へ、例えば自主的な法令遵守の体制を作る義務付けだとか、何か義務付けを加えておくことによって、許認可制のようなものはないし、登録制のような入口の審査はないけれども、何か問題があったときにチェックをして、それも制裁の対象に間接的にしておくという形で、自主ルールを作る動機付けあるいは内容の適正さを確保する余地があるのか、そういう仕組みも他の例であるのかどうか、お分かりであれば教えていただきたいという点が1つです。

もう一つは、既に先ほどから議論が幾つか出ている適格団体が行政とどう連携するかというところで、以前から、これは一体どちらの方向にすればいいのかが私自身もよく分からないのですが、例えば景品表示法では課徴金制度というのが行政にはあるけれども、適格団体にはもちろんありません。そういうときに不当表示の問題を適格消費者団体として差止請求などをするとともに、それについての課徴金の賦課については行政に求めるのか。訴訟を起こして義務付け訴訟までいくのか、あるいは措置の申出をするようなルールでいいのか分かりませんが、そういうものか。もう一つ切実な問題として、景品表示法には不当表示をやめた場合でも措置命令が下せるというのがあるのですが、適格団体は、差止めの必要性が消えたら棄却される。やはり要件付けが違うところは、適格団体の権限をもっと拡大する方向を考えるのか。課徴金を適格団体が直接取るわけにもいかないでしょうが、権限を広げるところへ持っていくのか、権限の違うところを行政に向けて働きかける方向をとるのかという議論があり得ると思うのですが、現在の法制度の中で使えそうな場面という、何かヒントをいただけるとありがたいのですが。

○鹿野座長 それでは、2点、原田教授、お願いします。

○原田教授 ありがとうございます。

最初の点ですけれども、国が自主規制の内容をオーソライズするような仕組みは、もちろん登録制とか許認可制があるほうが効果的に働くのですが、おっしゃるとおり、景表法の公正競争規約はそうではない仕組みで、登録制とかではないのですけれども、あちらのほうは独禁法の適用除外というのがあめとして付いているので、それはそれで成り立っているということかと思います。ですので、何か別の法令の規制の適用除外のようなものが準備できるのであれば、必ずしも訪問販売の中だけで登録制なり届出制を作らなくても、自主規制という枠を設定することは可能ですし、その場合に国がオーソライズする仕組みを設けることも可能であろうと思います。直ちに具体例が思い浮かばないのですが、理論的にはあり得るだろうと思います。

それから、適格消費者団体と行政規制との役割分担のような問題なのですが、おっしゃるとおり、課徴金に関する義務付け訴訟というのは一つ考えられるかもしれないと思います。課徴金はこれまでの行政執行実務を見ていると、どちらかというとかなり規制を執行していくような行政活動の類型ですので、それを入れたからといって何か変わるかというと、もしかするとそれほど変わらないのかもしれません。他方で、景表法上の差止請求権と行政規制の中身がイコールではないというのはおっしゃるとおりで、逆にイコールではないからこそ、行政権限の行使を求める訴訟を別途考える余地もあるのではないかと思います。

差し当たり、以上です。

○鹿野座長 ありがとうございます。

今の課徴金というのは、言わば典型的に、民間の適格消費者団体には権限がないけれども、行政にはあるということで、義務付けの訴訟ということの一つの候補として考えられる例ではないかというお話でした。ただ、課徴金とまでいかなくとも、例えば、池本座長代理が先ほど挙げられた例とも関わるかもしれませんが、不実証広告についてはいかがでしょうか。景表法に、行政については優良誤認について言わば立証責任を転換するような規定が置かれているところ、適格消費者団体についてはそのような立証責任転換の規定は現在のところはないという違いがあります。そこで、適格消費者団体の目から見て、これは不適切な表示広告なのではないかと思われるものがあっても、それが優良誤認に当たることを積極的に立証することがなかなか難しいというような場面もあろうかと思うのです。そういうものについても、先ほどの義務付け訴訟というところにつなげていくことが考えられるのでしょうか。

○原田教授 ありがとうございます。

差止めの請求権と行政規制の要件を必ずしもイコールにしておく必要はないと個人的には考えておりまして、行政側は自ら事実を認定して、自らそれを規範に当てはめて執行するということが法律上明確に負託されているわけです。そういう規制執行を容易にするために立法者がわざわざ立証責任を転換する規定を置いたということですから、それはそれとして意味があることだと思うのです。

それを適格消費者団体が訴訟という場面で行うことになると、それは一応、民民の関係になっているわけですから、そこで適格消費者団体側に有利な立証責任の転換を持ち込むというのは、理屈がなかなか立ちにくいのではないかと思われます。ですので、適格消費者団体が自分自身で訴訟を通じてエンフォースメントをかけるということではなくて、行政によるエンフォースメントを背後から支援するなり、援護射撃するなり、あるいはプッシュするというような形で制度設計を図る、要するに、今ある行政規制のルートと差止請求権のルートの中間的なものとしてもう一つ置くというような発想があってもいいのではないかと思います。

以上です。

○鹿野座長 ありがとうございました。

他に御質問等はございませんでしょうか。

それでは、ほぼ時間にもなりましたので、原田教授からのヒアリングはこの辺りにさせていただきたいと思います。原田教授におかれましては、お忙しい中、御説明を賜りまして、質問にも応答していただきまして、どうもありがとうございました。

○原田教授 ありがとうございました。

(京都大学法学系(大学院法学研究科)教授原田大樹氏退席)

○鹿野座長 それでは、続きまして、中川教授に御説明をお願いしたいと思います。席の交代がありますので、しばらくお待ちください。

(神戸大学大学院法学研究科教授中川丈久氏着席)

○鹿野座長 それでは、中川教授から「行政規制と民事ルールの役割分担及びその連携の在り方」の検討に関連して、「行政規制・民事ルール・自主規制の相互の関係について-デュアル・エンフォースメントと共同規制-」というタイトルでお話しいただきたいと思います。

中川教授の御専門分野は行政法でありまして、消費者行政などについても御研究されています。昨年に神戸大学で行われた、日本とヨーロッパにおける消費者被害救済の比較に関するシンポジウムの中で「日本における公的規制・民事裁判・自主規制」に関する御報告をなされるなど、本分野にも非常に造詣が深い方でいらっしゃいます。

消費者法においては、民事ルールと行政規制の双方が用いられているという特徴がありますが、このような消費者法のルールの在り様が、行政法や民事ルールなどにおける既存の考え方に影響を与え得るのかということについても御研究をなさっていると伺っているところでございます。また、本日は、デュアル・エンフォースメントや共同規制についてもお話しいただけるものと思います。先ほどの原田教授のお話の中でも行政の規制と自主規制との関係ということについて話題になりましたが、ここで改めて共同規制の問題についてもお話しいただきたいと思います。こうした観点は、本ワーキング・グループの議論の参考になるものと期待しておるところでございます。

それでは、20分程度でお話しいただきますよう、よろしくお願いします。

○中川教授 神戸大学の中川でございます。よろしくお願いします。

私のほうは、先ほどのお話のちょうどいい続きになるのかなと思いますけれども、まずレジュメの1ページ目に「何が問題か」ということで、今日私がお話しすることがこのワーキングの課題として挙げられている部分のどこに該当するのかを書いておきました。ワーキングの課題は1と2に分かれておりまして、1が消費者分野におけるルール形成の在り方、2がルールの実効性確保に資する公正な市場を実現するための方策ということでございます。1と2それぞれの下に書いてございます○と黒ポツがございますが、○に書かれている課題が、今日私がある程度言及するところです。

すなわち、1の最初の○として行政規制と民事ルールの役割分担、それから、ネット取引市場への対応です。また、事業者による自主規制と規制の関係ということもお話ししたいと思います。続いて2の最初の○でありますが、行政による法執行と事業者の取組の関係性、特に法令遵守コストをどのように抑えていくか。それから、適格消費者団体の位置付け・役割。さらに、事業者に体制整備を促す制度設計。これは最初の法令遵守コストの在り方とよく似ている問題かと思います。これらについてお話をしたいと思います。

伺うところでは、専門調査会等における意見、つまりこのワーキングが開かれることになったきっかけとして、法規制が事業活動を萎縮させることがあってはならないという問題意識。それから、民事ルールも行政規制のように明確であるべきではないかという御意見があったということで、これについてどう考えるかということもお話をしたいと思います。

レジュメの「(2)本日お話しすること」が、要旨でございます。民事ルールと行政規制は、簡単に言ってしまうとそれぞれ別個の理屈で動いている建前になるのですけれども、実際にはそうではないこと、また、自主規制を絡めた違う新たなルール形成の仕方という2つのことをお話したい。たまたまですが、足し算で表現できそうです。まず、民事ルールと行政規制は建前としては相互に関係がないと言いましたが、実際はそれを足し併せたような関係がある。その最もはっきりした現れが、これは私の言葉でありますが、デュアル・エンフォースメントです。同じルールが民事ルールでもあり、行政ルールでもあるという共通ルールになっていて、行政手法と民事手法を両方使う。どちらでもできるというようなエンフォースメントの仕方が、消費者法や競争法などで現われつつある。そういうルール形成にも着目すべきではないかということが1点です。それは事業者にとっても消費者にとっても非常に効率的なエンフォースメント、あるいはそれによるルールの形成の仕方であろうと思います。

もう一つは、「自主規制+行政規制=共同規制」ということで、先ほど話題になりました自主規制を、行政規制と正面からカップリングする。それによる新たなルールの形成も考えられようということでございます。ルールを法律上は包括的抽象的にしておくのだけれども、事業者に予測可能性と法遵守が期待できるように自主規制をさせて、それを規制の中身にしてしまうというのが共同規制です。

以上が、先ほど申し上げたワーキングの課題ないしはそのきっかけとなった意見に関する一つの制度の在り方として答えになるかと思います。

この2つは、簡単に言いますと、ルールの形成とか執行を法律及び行政だけでやるのではなくて、行政法の言葉で言うところの「私人」の行動原理を用いようというわけです。デュアル・エンフォースメントは消費者、共同規制は事業者の手を借りてルール形成し、あるいは法執行していく。そのようなイメージかと思います。

まずは、レジュメの2ページ、デュアル・エンフォースメント、民事ルールと行政ルールないしは行政規制の関係をどのように考えるかということでございます。

「(1)法の三原色」というのは、私が最近使う言葉でございますが、全ての法律は、民事法、刑事法、行政法のいずれかの手法を使っている。その3つのどれか1つ以上を使って政策目的を実現するということです。租税法とか消費者法とか環境法とかいろいろな分野がそのような構造です。民事、刑事、行政というそれぞれの手法はルールの内容、誰と誰の間のどんな法律関係か、また、それを誰がどのような方法を用いて実現するかという違いによる区別です。

レジュメではその下に囲みでイメージを書いてございますが、「政策目的」は、例えば消費者法であれば消費者被害の防止と回復ということです。そしてその達成のために「施策」を作る。例えば、ある行為を制限あるいは禁止する。そして、その「施策」すなわち禁止や制限に違反した者に対してどのように対処して、施策の「実効性確保」をするかが問題となり、そこに、行政、民事、刑事の3つの手法がある。正確に言いますと、「実効性確保」は、ひとつには、違反に対する対決というエンフォースメント、要するにお仕置きをするという場面。もうひとつは、今日はお話しいたしませんので「(略)」と書いてございますが、遵守促進のためのインセンティブ付与の場面です。エンフォースメントとインセンティブは、全く反対方向の両方があるのですが、今日はエンフォースメントだけをお話しします。違反者に対してどうお仕置きをするかで、そのエンフォースメントの手法が、行政、民事、刑事、3種類あるのです。

そして、「施策」、「実効性確保」に続いて「情報収集」ということで、先ほどちょうど立証責任のお話がございましたが、どのように証拠を調べることができるかという調査権限であり、立証責任の問題でございますが、そういった制度もそれぞれ行政、民事、刑事の3手法がある。現在の法律は全てこういう構造でできているわけでございます。

次に、「(2)各手法の相互関係」です。原則的には、各手法はお互いに独立独歩で存在しているということでございます。もちろん、行政法規違反が民法ルール上の意味を持つこともございますけれども、それは、偶然そうなったと理解されております。レジュメでは公序良俗違反の例を書いてございますが、このほか、例えば国家賠償です。国家賠償法は不法行為法でございますので、民法のルールです。その権利侵害ないし違法という民事ルール上の概念と、行政法規違反という違法がどういう関係にあるのかというのも、これはいろいろ議論がございますが、一緒のこともあるし、そうでもないこともある。不法行為ですので、それぞれ不法行為の発想で考えていき、たまたま行政法違反が民法ルールの理屈にかちっと当てはまると、そこは連動するというのが原則的な考え方であろうと思います。これが最初に申し上げました、お互いに原則無関係ということでございます。

しかしながらでございますが、法律によっては、この民事ルールと行政規制というものが意図的にリンクさせられていることがある。そういうルールの作り方がある。何らかの行為を制限する、禁止するという同じ条文について、それに違反したことを理由に差止請求等の民事訴訟ができる、あるいは民事上の意思表示の取消権が書いてある。同時に、行政上の措置命令もかかってくる。あるいはさらには、直罰で刑罰までかかってくる。ここまでいくとデュアルではなくてトリプルなのですけれども、そういうことがある。イメージとしては、レジュメに書きましたように、3つの円が重なったような感じですね。この円丸は一つ一つが民事手法、刑事手法、行政手法なのですけれども、トリプル・エンフォースメント、つまり一番真ん中の円の重なった部分は、全ての手法で執行される実体法ルールであるということでございます。

具体例といたしまして、独占禁止法に規定のあるよく知られたものがございます。独禁法で不公正な取引方法が禁止されています。8条5号及び19条でございますが、その違反に対して当然これは公取委の排除措置命令や課徴金納付命令の権限がございまして、これは行政手法で実現していくわけであります。それだけでなく、独禁法24条で、その利益を侵害されたものあるいは侵害されるおそれがあるものは、事業者等を被告として、その侵害の停止又は予防を請求することができる。これはちょうど、適格消費者団体による差止請求と非常によく似た条文です。ただし、独禁法の場合は、原告は利益を侵害された被害者です。これの被害者は事業者又は消費者ということであります。原告に多少の違いはありますが、それ以外は同じ構造の条文です。これなどはデュアル・エンフォースメントの典型例で、1つの条文を2つ手法でデュアルに執行できるようにしてあるのです。

独禁法はこれだけでなく、排除措置命令と、今損害賠償というデュアル・エンフォースメントも規定しています。不当な取引制限、不公正な取引方法の禁止に違反したとして、排除措置命令が確定した後は無過失の損害賠償責任ができるという規定もあります。損害は無過失で返してもらう訴訟ができるという民民の訴訟でございます。

では、消費者法の分野ではどうかということですが、景表法5条の優良誤認・有利誤認の禁止については、もちろん措置命令をかけられるわけですけれども、消費者団体による差止請求の方法もあります。両者の間でやや要件が違うところがございますが、基本的には優良誤認と有利誤認の禁止に対して、民事手法と行政手法によるデュアルなエンフォースメントがされるということであります。

特商法はトリプルです。レジュメでは訪問販売の章からだけ例を挙げております。特商法6条1項から3項の禁止行為がございます。これの違反に対しては、行政手法である措置命令、是正措置等の命令、それから民事手法である適格消費者団体による差止請求や、被害者である消費者個人に意思表示の取消権がある。そして、刑事手法として直罰規定があるというように、同条の禁止行為はトリプルに執行されています。被害者個人と適格消費者団体のいずれかがイニシアチブをとるものであれ、どちらも民事手法であります。

行政措置ができる実体的ルール違反に対して民訴もできるということなのですけれども、これは、行政規制における実体的ルールについて、私法上の権利も発生させて、民事訴訟できるようにしてやるということでございます。後者を「私訴」と呼んでおりまして、独禁法ではよくこういう言葉が使われております。これは民事訴訟であるけれども、行政が措置するのと同じように、公益目的の訴訟という性質を併せ持つところがあります。民事上の権利行使ひいては訴訟を提起するのが、たまたま被害者であるか、適格消費者団体であるか、後者の場合は被害者である必要はございませんけれども、そうした民の力を利用して法律違反の行為を是正させる。そういう側面からみると、行政命令と同じような効果をもたらすために民事手法が使われているのだと理解されます。少なくとも独禁法ではそのように理解しております。

消費者法の場合は独禁法と違って、「私訴」と言われる中のうち、消費者団体によるものと、被害者である消費者が起こすものと両方あります。まず、消費者団体による提訴について、行政による法執行の補完と見るべきなのかという問いがWGの課題としてあったと思います。これについては、補完の意味をどう捉えるか次第ではあると思うのですが、適格消費者団体の差止請求権はあくまで公益保護、つまり多くのものに対してそのような違反行為があることが条件である。それから、適格認定ということもありまして、公益実現のために訴権を使うという限定がかかっておりますから、そういった意味では行政とよく似ており、公益目的の訴えであるとも言えようかと思います。他方で、消費者団体自身は行政の意を受けて動くものではございません。助成金はあるかもしれませんが、制度的には行政とは別行動であり、あくまで消費者団体であるというのが本来の位置付けであろうと思います。そういう意味で、両者併せると、公益のために行動する消費者が適格消費者団体ということになります。そんな消費者は個人としてはなかなかいないということで、私は「スーパー消費者」と呼んでいますけれども、スーパーウーマン、スーパーマンのような公益のために行動する、しかし消費者として行動するのであるという意味です。適格消費者団体は、消費者庁と違う法解釈ないし考え方を持って行動することもあり得るということであります。そのようなものによる法執行を民事訴訟として組むことによって、行政庁がする執行と併せて、全体として法の過少執行を防ぐわけです。法執行を行政庁だけでやるのではない、私人すなわち消費者が気付く違反も止めていくということでございます。

適格消費者団体の請求権は、実は、特商法と景表法でやや性格が違うかなという気もいたします。特商法の場合は、消費者に民事上の権利が発生する場合に限って、適格消費者団体に提訴権を与えているという立法をされているようです。それに対して景表法の消費者団体の場合は、そもそも景表法には民事上の権利がありませんので、そういう意味では行政的と言いますか、公益実現のための民事訴訟であるという性格が、景表法のほうがより強くなっているのかと思いまして、これはより、「私訴」らしいといいますか、行政のやらないところを私人である消費者あるいは消費者団体がやっていくという性格が強いと思います。

レジュメ4ページの一番下にあるのは、独禁法の「私訴」です。これは個々の被害者が訴えるのですが、これを行政措置の補完と見るかどうかについて、独禁法ではそう見られております。特商法でもそう見る余地はあるだろうと思います。適格消費者団体が提訴するのですから、行政措置と同じようなものであると思われます。先ほどのヒアリングで、消費者団体が行政に対して義務付け訴訟ができるかが話題になっておりましたが、この民事差止請求は、義務付け訴訟などしないで、つまり行政を飛ばして直接に、違反事業者に対して差止請求をするものでございます。そういった意味で、行政措置だけでルール形成していくのではなくて、民訴を使った形でもルール形成していくということであるわけです。

このメリットとして、1つは、先ほど申しましたように法の過少執行を防ぐということです。ルール違反を消費者庁と消費者団体が見張りますので、監視する目が複数になる。リソースが多くなるのです。それ以外に、レジュメには書いてございませんが、メンタリティーの違いということがあるかもしれない。消費者庁の言わばお役所の発想と、消費者団体の弁護士の発想という違いが行動の違いを生むかもしれません。法令違反であるのか微妙な事案の場合、もちろん、人によりますが、適格団体としてはあえて提訴するべきだというリスクテーキングをするのではないかなと。それに対して消費者庁は、慎重にということがあるかもしれません。いやいやそんな単純ではないということもしれませんが、メンタリティーの違いにより、法執行の積極性があるいは期待できるかなと思います。

監視する目が増えてリソースを分担することができることは、かなりのメリットであると思われます。規制ターゲット(被規制者)を極悪、中間、従順と三つの層に分けてみます。非常に悪い悪徳業者の層、そして中間層、非常に従順な層まで分けます。この詳細は、レジュメに付けております拙論のコピー(資料2-2)を御覧いただければと思いますが、やはり何といっても世の中には中間層が圧倒的に多いわけでございますので、中間層について行政と消費者団体がリソース分担してやっていくというメリットがあります。例えば、被害者が全国にいるオンラインビジネスのような場合、また立証が困難であるような場合は、調査権限がありますので、行政が担うしかない。それに対して、被害の広がりが地域限定的である、あるいは立証も比較的容易であるのに座視されているような特商法違反あるいは景表法違反がある場合には、消費者団体が対応していくという形でうまくバランスをとっていければいいのではないかと思います。

域外適用のことも書いてございますけれども、それは飛ばします。

もう一つのメリット、これはメリットというかデメリットとも考えられるところなのですが、法解釈についての予見可能性の確保です(事業者にとってのメリット)。民事提訴と行政処分の両方で法執行される場合、民事の場合は司法解釈、消費者庁は消費者庁の解釈で、これはもしかしたら両者に齟齬が生じるかもしれません。そういう可能性はございますので、それをデメリットといえばデメリットになります。しかし、他方で、行政処分すれば取消訴訟になりまして、取消訴訟になれば、またこれは地裁、高裁、最高裁で全部解釈が違うということは起き得ます。法律というのはそういうものだという側面は否定できません。

法律とはそのように解釈が異なり得るものだということを前提にするならば、むしろデュアル・エンフォースメントは予測可能性の点でもメリットがあると考える余地があります。事例がそれだけ増えるということは、リーガルリスクもそれだけ計算しやすくなるからです。全く先例がないよりは、やはり幾つかあったほうが、解釈の幅がどこまであり得るのかがよりはっきりしますので、ここまで気を付けようということが言えるわけです。手がかりが多くあるという意味では、むしろ法律家的にはリスクが低くなると考えるべきではないかと思われます。このようなものを、ルール形成という形で一つ視野に入れるべきではないかと思われます。

レジュメの5ページの末尾は、先ほどちょうどこの話になりまして、景表法の差止めの場合は、行政の措置命令の場合と異なって、課徴金が伴わないという話がございました。それだけではなくて、差止請求と行政の措置命令とが役割分担しているのだという感じで考えますと、他にも不都合と言いますか、両者で救済上の差異が生じています。例えば、営業禁止という行政処分の類型が、が特商法の改正で導入されています。要するに違反した人はビジネスをやっては駄目だということです。このようなことの差止めまで、適格消費者団体による民事差止請求で求められるのかどうか。また、差止判決の違反に対しては、間接執行ができるのですけれども、措置命令に対して行政上の強制執行はできない。実は行政処分よりも、民事裁判のほうが強烈に強制執行できるという落差も生じています。これを不都合と読むかどうかは留保させていただき、デュアル・エンフォースメントではあるけれども救済上の差が多々あるということは指摘をしておきたいと思います。

今度は2番目の問題、共同規制でございます。共同規制とは余り耳慣れない言葉かと思います。ヨーロッパ及びEU、オーストラリア、カナダなどで使われている言葉で、特にインターネット関連の規制で使われております。何らかの「施策」(行為規制)の全部又は一部を、当局の承認のもとに被規制者(個別事業者)や被規制者の団体が自ら決める余地を認める。言わば公認の自主規制であり、かつ、公認された自主規制違反を法令違反とみなして、当局が法執行するというものです。自主規制をしないもの、ないし承認を受けていない者に対しては、普通に法令を適用する。

制度のイメージは次のとおりです。法令上は、抽象的なルールを決めておきます。その上で、被規制者には、自主規制コードとして、自分はどのように法令を守るのか、あるいはここまでは法令違反ではない、ここからは法令違反であるというような感じでルールを作成する余地を認めまして、しかし当局の承認が必要であると。そして自主規制コードを作成しないものには当局が法令をそのまま適用する。あるいはこういう基準で守れという細則を委任立法で定めて、それを守らせるという従来からの方法による。

レジュメには、電気通信事業法でございますが、オーストラリアの例を書いてございます。

共同規制が可能な条件はレジュメに書いてございますが、1つ重要だと思うのは、ルールの細部の複線化です。複数のルールがあってもよいという分野でないとこれは働かない。消費者法の場合は、正にビジネスモデルは様々でありますので、ルールの複数化。抽象的なルールは一緒なのですけれども、具体的にどこまでが法令違反なのかというのは業界ごとに変わっていいでしょうし、業界が同じであっても事業形態が違うと、オンラインか対面かというのでまた違ってくることもあると思いますので、そういうルールの複線化は消費者保護で許容できる分野ではないかと思われます。

共同規制のメリットでございますが、法律上の禁止の規定は、包括的抽象的にできる。すなわち、新しい事態に直ちに対応できる。一々立法しなくてよろしいというメリットがあります。また、自主規制をする限りは事業者には予測可能性を確保できるという大きなメリットがあります。このように、行政側にも事業者側にもメリットがあろうと思います。特にオンラインビジネスのように、とにかく事業モデルがどんどん変わっていくところには行政も追いつかないということで、共同規制という方法がよろしいかと思います。

レジュメでは、行政規制のルールを抽象化しても別に憲法違反ではないということを書いてございます。原子力規制法の例も出しておりますけれども、幾らでもそのような抽象的ルールの規定例はあります。

さらに、自主規制を取り込むので法遵守が期待されやすいというメリットもあります。

それから、先ほど申しました極悪、中間、従順の三層の中の中間層です。数も多いし、様々な人がおりますので、特にこの中間層が一番厄介なのですが、共同規制は、中間層に属する事業者を法遵守に向かわせるのに有効ではないかとも想像されます。予測可能性があるというメリットがありますので、ビジネスを始めるにはこういう自主規制コードを作るものだというカルチャーのようなものが醸成されてくると、ビジネスモデルがどんどん変わっていって、本当にモデルがどんどん変わるので法的な側面に対応する人も手当ができないということなのですけれども、新たなビジネスに入るときには自主規制ルールも作るのだというような感覚があれば、法的にビジネスが止められるという懸念も防げるのではないかと思います。

イノベーションとの関係では、事業者団体だけではなくて、個別の事業者でもルールを作ることにすれば、これは創意工夫を妨げないようなルール形成が期待されます。むろん、我が事業にはこのような自主規制コードがよいのだということを説明してもらわなければいけません。行政が納得できなければいけないのですが、そういった意味でイノベーションとの関係も、それは行政が考えるのではなくて、自主規制することによって自ら道を開いてほしいという形でやっていけるのではないかと思われます。

自主規制単独との比較は、先のヒアリングでもお話がございましたので飛ばしまして、レジュメ7ページの一番下に移ります。共同規制の具体例ということで、実際に景表法にございます公正競争規約の認定を例にして考えてみたいと思います。

レジュメ8ページでございますが、現行法はこのようなものです。これをどういう自主規制の類型と見るのか非常に難しいのですけれども、基本的には過当競争をしたくない商品を扱う事業者が集まって、この商品はこのように表示することにしようといって、それ以上競争しない。そのように表示することで、表示面での過当競争をしないことがお互いにハッピーだというのが恐らく公正競争規約の利用のされ方で、それについて独禁法違反ではないと認定しているということが、公正競争規約制度の一番の中心なのだと思います。

公正競争規約には、実態としては、そのコードをきちんと守らせるようにするための執行機関も書き込まれております。それがなければ認定できないとは法律には書いていないのですが、実態としては、法令違反を見張るという行政代行的な側面も期待されているのかなという気がいたします。やや複合的でありますが、恐らく基本は、過当競争を避けようとするための自主規制であり、標示競争を避けたい商品を取り扱う事業者たちだけが加入している。それに対して独禁法違反ではないというお墨付きを与えているということだろうと思います。

ただ、行政が規約を認定している限り、規約を守っている限りは景表法違反とならないのだろうという期待があることも確かで、その意味では、事実上、共同規制に近いところはないではありません。そのように留保した上で、公正競争規約制度を共同規制としてきちんと制度化するとどうなるかを想像してみました。

まず、認定された規約に従う行為は措置命令の対象としないという趣旨の規定を置くこと。現在、明文はございませんが、それを明文に置くということでございます。これが共同規制ということだと思います。そうしますと、逆に、規約に違反する行為は景表法違反であるということで措置命令の対象になる。規約がない場合には景表法をそのまま適用するので、いきなり景表法違反と言われるか分からない状況になる。

景表法の定めを各業界・各事業者の状況に合わせて具体化したものを事業者が自らの創意工夫でコード化するというところに、共同規制の事業者側のメリットがある。特に景表法違反がありそうなところについては、あらかじめこのような行動規範(コード)でやるから承認してくれと申し出るわけです。承認したが、それでやはり駄目だということが分かれば、消費者庁も承認を取り消すというか、見直すことにするという条件を必ず付けると思いますので、条件付きの認定ということになるでしょう。認定に期間制限があるという工夫もあろうかと思います。

特に法的な予想可能性があるということは、日本企業にとって非常に重要なものであると思われます。法的にやっていいかどうか分からないものは、やらないというところが、日本企業のメンタリティーでありますので、その慎重さゆえにイノベーションを阻むことがないよう、事業者が自分で行為規範(コード)を明確にするという意味では、産業活性化のためにも共同規制はいいのではないかと思います。

事業者単独でも行為規範(コード)の設定可能とすると、いわゆる一匹オオカミや事業者団体に入ってこない事業者も、そのようなメリットを感じて入ってくる可能性がある。行政としてはそれだけ法執行をやりやすくなることも考えられますし、そのようになると、我先にと、私が先に作ったものが業界ルールになるという感じで、より積極的になってくるとうれしいと思いますけれども、それなりに需要はあるのではないかと思われます。

もちろん、自主規制コードの認定審査に当たっては、利害関係者、他社、消費者、これらが入ってくる必要があろうかと思います。

ということで、共同規制というのは、景表法の公正競争規約認定制度は、事実上それに近いところもないわけではないが、やはり違うところも多いと思われます。しかも、本当にごく一部の商品にしか、いまだに公正競争規約はございません。もう少し全般的に自主規制をやってもらうためには、共同規制という形でメリットを明確にするのがいいのではないかと思われます。共同規制によるルールの形成という新たな方法も視野に入れるべきではないかと思われます。

ちなみに、共同規制であっても、「私訴」を組み合わせることは可能で、自主規制違反について適格消費者団体が差止請求ということになるのだろうと思います。

以上でございます。どうも長くなって申し訳ございません。

○鹿野座長 中川教授、ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見等のある方は御発言をお願いします。いかがでしょうか。

それでは、池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 いろいろお伺いしたいところがあるのですが、ポイントを絞っていきたいと思います。

お話の中でも幾つか出てきた公正競争規約を策定する公正取引協議会、調べましたら、今、13分野80の団体があるという一覧表になっていました。これも特定商取引法の訪問販売とか通信販売の分野はそれぞれ法律上1団体が位置付けられているだけで、しかも、訪問販売で言うと賛助会員を含めて140社という数字でしかない。通信販売も647社という、業界全体何万社かある中で言えば本当に一握りでしかないと思うのです。

まず、これまでの歴史的なところでもしお分かりであれば、80に及ぶ団体というのは、先ほどあった独禁法の適用除外になるという仕掛けがあることで、自然発生的に各団体が作り上げていくインセンティブになっていったのか、それとも何らかの、以前であれば公取委からの働きかけなりによって作られていったのか。その辺りの歴史的な経緯がお分かりであれば教えていただきたい。

と申しますのは、後半でもちょっとお話がありましたが、自主規制の団体を作り、自主規制を作ることに向けたインセンティブを、どういう仕掛けを作っていけばいいのか。特にインターネットの分野とか新しい分野で言うと、許認可、登録という行政的な規制とリンクさせるのはなかなか難しいので、それに代わるものとしてどういう仕掛けにして、どういう働きかけをすればいいのかというところが分からないので、何かヒントをいただければと思います。

○中川教授 私は余り古いことを知らないのですけれども、1960年代に公正取引委員会が作ったのが公正競争規約ですね。たまたま、その当時の思い出文というのを読んだことがあるのですが、それを読んでいると、どうも公取委のほうは規約締結をした事業者らに法執行を手伝わせるという感覚は持っていたようです。行政代行型の自主規制を夢見ていたというか、そうなったらいいなという感覚をもっていたのではないかと感じました。ただ、公取委は業界を持っているわけではございません。業界を許認可で縛っているわけではございません。公取委の職員が、あちこちの業界に出ていって、公正競争規約というのをやったらいいですよというお勧めをしていたようです。

業界のほうは、やはり熾烈な表示合戦といいますか、泥仕合がどんどんエスカレートしていって、結局お互いに疲弊する。それが嫌だというので、過当競争から自分たちが逃げたいと思う商品を扱う人たちが集まって、では、標示はこうしましょうと決めてしまうことに大きな動機といいますかインセンティブがあったようです。それが景表法違反になるかどうかというのは余り当時の話には出てきておらず、よく出てくるのは、むしろ過当競争表示合戦泥仕合から抜け出したいというのが業界側の発想で、それが非常にインセンティブになったようです。

公取委のほうは、そういう規約を結ぶ人達がいると、やはり当然ながらそこが自ら相互に規約破りを監視するインセンティブも働くので、公取委は他の法令違反に目を向けることができる。自分たちの代行というような意識もあったのではないかと思います。つまり、公取委と事業者はお互いに違う発想を持って、公取委はもちろん景表法を守らせるためなのですけれども、事業者のほうは景表法違反を避けるために自主規制しますという発想ではなくて、もっと切実な過当競争から抜け出したいという発想で自主規制に賛同したようです。逆に言うと、泥仕合を何とも思っていないような業界は競争規約には入ってこない。以上は当時の思い出文からの私の推測でございます。

○鹿野座長 今の点に関連して、よろしいですか。

○池本座長代理 今の点は結構です。非常に参考になりました。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

○池本座長代理 もう一点、よろしいですか。

○鹿野座長 それでは、池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 レジュメの5ページの中ほど15行以下のところで、被害者が全国にいるオンラインなどについてという言葉と、立証が困難なものは行政が担い、地域限定的で立証も比較的容易なものは消費者団体が担うというようにという言葉がありました。適格団体には立入検査、報告徴収という権限がありませんし、法的に与えられても立入検査を実施する体制などはありませんので、現実的には情報が手に入る広告表示とか契約条項というものをやり、行政は勧誘の事案とか内部の資料を手に入れてやるというすみ分けがあるかと思うのです。

ただ、地域限定かどうかということで言いますと、むしろ逆の状況があるのではないかと思っているのです。それは、インターネットのトラブルは正に全国津々浦々で平均的に人口比で起きていくために、消費者庁あるいは経産局の場合はいいのですが、都道府県はほとんど執行できていないのです。なぜなら、全国で平均的に起きているのをなぜうちの自治体が体制を組んでやる必要があるのかという説明付けが難しいのと、何よりも、例えば業務停止命令とか改善の指示、処分というのは、都道府県のエリアの中でやめなさい、改善しなさいであって、全国に効力が及ぶわけではないという制度的な限界があって、現実に特商法の執行を見ていても、都道府県はインターネットあるいは通信販売についても数えるほどしかないのです。ですから、ここはむしろ適格団体が全国に広がりがある案件がもっとできるように、むしろ立証について、例えば先ほど座長からもお話があった合理的根拠資料の提出、これは行政処分のようにみなし規定にはなかなかつながりにくいとすれば、立証責任の転換になるのか。そういった手当によって、現実に今、担えていないところを制度改善によって防いでいく必要があるのではないかということをつらつら考えているので、その辺りのバランスをどう見ればよいのかということを教えていただければと思います。

○中川教授 念のために申し上げますと、ここは、公取委と適格消費者団体とがこういうふうに役割分担するべきであるという趣旨では全然ございません。事実上そういう分担が生じるかもしれないという程度の趣旨です。現実には、消費者庁も、小さな市の域内だけでローカルにしか営業しないような事業者であっても、景表法違反ではないかという情報が届くと、調査することがある。私は、消費者庁がこんなローカルなものもやるのかとびっくりした記憶があるのです。今後、消費者庁と適格消費者団体それぞれがリソースを有効利用するにはどうすればよいかを考えるときに、先ほど述べたことはあくまで一例でございまして、別に適格消費者団体が全国に係るものをやってはいけないとか、そんな杓子定規の意味では全然ございません。

そのうえでお尋ねのことですが、適格消費者団体の提訴に当たり、立証が困難なことがあることにどうするかです。差止請求訴訟における立証上の手当は常にあったほうがいいと思います。立証責任の転換かもう少し別の形かはともかく立法上の手当をすること、は適切だと思います。その理由は、先ほど言いましたように、デュアル・エンフォースメントにおける行政処分と「私訴」というのは、たまたま行政から違反者に対してかかってくるか、私人からかかってくるかという方向の違いだけであって、目的は同じである。あるルールの違反者に対して行政的手法ないしは民事的手法を使ってルール違反を是正させるという意味では全くイコールなものでございますので、できるだけ相似する権限があったほうがいいだろうと思います。常にそうでなければならないわけではありませんが、あることは全然差し支えないと思います。

○鹿野座長 ありがとうございます。

他にいかがでしょうか。

それでは、先ほど池本座長代理から出された質問にも関連するのですけれども、私からも1つお伺いします。先ほども御指摘がありましたように、自主規制の団体がある場合、そこに入ってくる事業者については、そこで一定のルールを遵守しようという方向に働くわけですけれども、加入率がそれほど高くない業界も随分ありまして、それに入ることについてどういうインセンティブを与えるのかということが非常に大きい課題だと思うのです。中川教授は、8ページ辺りでいろいろとインセンティブを高めることについてもお話をされたのですが、今でも、一定のメリットは先ほどもお話しになったようにあるとは思うのですが、それでも入らないという場合、そこについて改善をもたらす何か抜本的なアイデアはないのでしょうか。

○中川教授 業界団体に入らせる方法ということでございましょうか。自主規制ですか。

○鹿野座長 団体ではなくても、中川教授御指摘のように、例えば事業者単独でも自主規制というかルールを設定可能ということであれば、そのルールを設定して、それを守らせるという方向も一つあると思うのです。いずれにしても、自分たちのルールで公正なものをまず作って、それを守らせるということを促進したいのだけれども、そもそもそのようなところに入ろうとしない事業者について、どのようなインセンティブを与えるかということが非常に大きな課題だと認識しておりまして、更に御意見等をいただければと思います。

○中川教授 事業者にとって自主規制することの誘引となるといいますか、インセンティブになることは、やはり法的な予測可能性があることと、それから自分たちのビジネスの邪魔をしないルール作りができるということだと思うのです。自分たちが自主規制すれば、それによって自分たちのビジネスが思う存分できるということと法的予測可能性ですね。それを実現するには共同規制だろうと思って、今日、その話を選んで持ってきたのです。今の自主規制の方法だと、例えば今ある景表法の公正競争規約の場合は、もしかすると法律を超えたオーバースペックなものをやっているかもしれないのですね。オーバースペックの規約を作っているから、そんなところに私は入らないよという他の事業者もいるかもしれない。他方、泥仕合が気にならない商品やサービスだと、一向に公正競争規約が作られない。

仮にそうであれば、これはやはり今の公正競争規約の認定という制度に余り魅力がないのではないか。先ほど言ったように、過当競争が嫌だと思う人だけが入ってきているというのは、結局これに入ることによるメリットが過当競争を防ぐことしかないからなのです。競争が苦しいと思わない事業者は全然入ってこないわけです。

そこで、自分たちが作るルールが景表法のルールになるのだとするとどうなるかです。共同規制というのは、そういう意味では本当に大きな発想の転換でございまして、ルールを私人が作るということなのです。あるいは法令の解釈の仕方を私人が作ると言い換えてもよいかもしれません。ただし、もちろんこれは行政が承認するということが重要です。そうしないと私人による立法ですから、憲法違反になってしまいます。そこは認可があるということで歯止めをかけなければいけないのですけれども、しかし、詳細な行為規範をどう作るべきかは結局、行政には分からない。事業者しか本当のところは分からないので、景表法違反とは何が違反かを、事業者の側からまずは提案してくださいと。それで行政とやり合う中で、全部は認められないにしても、かなりの部分が認められるということになりますと、事業者にもメリットが大きいと思われます。彼らのビジネスにとっていいルールができる余地があるということが最大のインセンティブになるのだろうと思います。共同規制が消費者法でも導入されるならば、これは大きな転換になると期待されるのではないかと考えた次第です。

○鹿野座長 ありがとうございます。

はい。

○池本座長代理 今のインセンティブに関連して補足して質問させてください。

8ページのところで、どういうことが事業者に対して自主規制に向かうインセンティブになるか。これはインセンティブというよりは、直接的な法的義務付け的な発想の余地がないかという意味で申し上げたいのですが、大企業だと内部統制の構築義務というのが会社法にあって、それがきちんとできてないと、その場合は取締役の責任だとか、何か事があったときには厳しい責任が問われることがあって、内部統制の構築を各企業がやっていくという一つの流れが出ているやに聞いております。

例えば、訪問販売とか通信販売というトラブルが起きがちな一つの業界。ただ、これはいろいろな分野に広がっているので一つにはできない。その中をまたうまく業種・業態でくくっていかなければいけないのでしょうけれども、トラブルが起きがちな分野だからこそ、一定の内部統制の体制構築とか、あるいは自主規制の基準をルール化していくような義務を加えて、何か違反があったときに、その違反だけの問題ではない、内部統制構築義務も満たしていないということで一段厳しくなるというか、そのような制度設計の仕方は余地があるのか、あるいは何かそういう例が他にもあるのかどうか。

○中川教授 先ほどちょうど原田教授のお話に出てきました考慮要素にするということですね。その手はあると思います。自分たちで守ろうとしていたのだけれども、結局守り切れなかった。しかし、守ろうと努力していたと。景表法の課徴金でしたか、主観的要素が入ったというものですね。そのような選択肢はあると思います。

ただ、そのために自主規制を作るというのだと、余り意味のない差し障りのないものを作って、みんなと同じものを全部コピーしてしまうことに終わらないかという懸念があります。やはり事業者にとって本当のインセンティブとなるものは、ビジネスに直結するものだというのが私の常々感じるところです。自主規制ルールを作ることであなたはもっといいビジネスができるのだというふうにしないと、景表法違反に帯するお仕置きを避けたいというだけではインセンティブとして足りないと思います。

今、お仕置きということに触れましたので、追加させていただきたいのですけれども、インセンティブとして、先ほど言ったようにビジネスに直結しているということが重要ですが、本当はもう一つ、今日お話ししませんでした参考資料2-2で一番強調したことがあります。それは、景表法の法執行を真の意味で厳しくする、本当に厳しいお仕置きにするということも必要です。あれが本当に厳しいと、それはもう、共同規制などがあったら飛びついてくると思います。自主規制でも何でもして守っておかないと法的リスクが大き過ぎてビジネスに響き兼ねないということになるのですけれども、お仕置きが弱いと、そもそも自主規制なんかする気にならない。お金と時間の無駄に過ぎないとなるわけです。根本は、日本では公的規制違反に対する制裁が弱いということにあると思うのです。景表法の課徴金の計算方法も、私は非常によろしくないと思っておりますが、これは執行の話ですので、今日は出さなかったですけれども、そこが問題の本丸だと思います。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

山本委員、お願いします。

○山本委員 今日はどうもありがとうございました。

1つは、共同規制についてお伺いしたいのですけれども、私は、ヨーロッパの共同規制についてはそれほど深く勉強しているわけではなく、むしろ少し勉強したことがあるのは規格の策定です。つまり、安全規制等を行う場合に、ヨーロッパの規格団体が規格を作って、それを守っていれば原則としては法的な安全規制等にも適合していると見るというやり方で、それまでEUが作っていた安全基準等が細か過ぎる。作るのに非常に手間がかかって、全部それを作り切れないというので、任せたという背景があったようなのですけれども、それと比べてみたときに、規格の場合には民間の規格団体でしっかりしたところがあるという前提があるので、したがって、それを一々更に審査してということは必要がないのです。

ただ、共同規制の場合には必ずしもそうはいかないと思うのです。そうすると、一つは、承認をするというステップがここでも書かれているのですけれども、それがあって、さらにもう一つは、作られたルールをどれだけかたいものと見るか。およそ形式的に守っていれば適法で、守っていなければ違法ということにするのか、あるいは先ほどの規格のように、原則としてはセーフと。しかし、場合によっては介入する余地があるというように、少しルールの拘束度を弱めるというか柔軟に考えるというところで調整するという、2つのやり方があり得るのかと思うのです。

お伺いしたいのは、この場合に承認をする段階でどれだけ厳しくチェックをするというか、どのような手続で、どの程度の深さで審査することが想定されているのか。これはやり過ぎると、かえって全部それを国が審議会等で作ったほうが簡単ではないかということにもなりかねないのですが、ただ、余りにもゆるゆるだと、それで大丈夫なのかと。原則として適法だということにするとしても、原則として適法と言って大丈夫なのかということもあると思いますので、その辺のさじ加減としてどのぐらいのものを考えることが適切なのかということを一つお伺いしたい。

もう一つは、どれだけ自主規制によって作られたルールをかたいものと見るかということなのですけれども、ここで想定をされているのは、政省令のようなものとお考えなのか、あるいは裁量基準ぐらいのものだと。つまり、場合によってはそのルールから離れて適法、違法の判断をすることもあり得るという程度のものだとお考えなのか、その辺りをお伺いしたいのです。

○中川教授 実際の共同規制の例として見たことがあるのは、自主規制の内容をグループ1とグループ2に分けて、グループ1はこれに反すると法令違反とみなす、グループ2はそうするかどうか分からない。つまり、オーバースペックで守っているものかもしれないですし、余りにもぼんやりとしているので、これに違反したからといって何が悪いのかよく分からないといような努力目標みたいな感じで書いてあるというふうに、ルールの中も2種類に分けているものがあります。承認対象として重要なのはルール1のほうです。その意味では、グループ1のほうは承認されることによって、当該事業者にのみ適用される政省令的な機能をもつわけです。法令を具体的に当該事業活動に当てはめたらこういうふうな細則になりますねということが書いてあるわけです。グループ1の場合、そこに書いていないことは書いていないので法令に基づいて執行するということになります。グループ1には、こういう表示はしないとか、個人情報で言えばこのような目的外利用はするとかしないとか、あるいはここまでの利用はいいのだと書くような形で出してもらうことになろうかと思います。

共同規制はインターネットで始めていますけれども、自主規制とはいえ、やはり作るのが大変なので、一事業者ではなく、事業者団体が作るのが一般的です。ただ、今は事業者団体に入っていないようなプラットフォーム事業者は巨大ですので、彼らがどう作ってくれるかというところは非常に大きなところで、それに対して行政がそれを承認することができるかが本丸になるのだろうと思います。

共同規制は、先ほどおっしゃった安全基準とよく似ている側面があります。きっかけは行政が詳細な規制基準を作ることはもうできないところに発するのでその点は同じです。もう大変だということで、事業者の側で作ってくれとなる。違いは、安全基準の場合は専門機関があるので、そこが作ってくれれば、すぱっと制度化できるのですけれども、共同規制の場合は、事業の行為規制を専門的に定めるような組織はない。だから、能力のある事業者や事業者団体の自発性に任せて作ってもらう。全事業者に作ってもらう必要はなくて、ちょっとずつ自主規制をしてくれる人が増えてくればいいなというところであって、全体の20%、30%ぐらいがこういう仕組みに入ってくれると非常によいと思います。事業者団体に入ってこない大きい事業者が、自分で作るとまた少し違う行為規制が出来上がる。私はそういうイメージなのです。業界団体のものと、それに入ってこない大きな事業者が各業界で一、二あるというぐらいが、共同規制に参加してくるかなと思っています。

○鹿野座長 ありがとうございました。

ほぼ時間が参りましたが、よろしいでしょうか。

それでは、中川教授へのヒアリングはこの辺りにさせていただきたいと思います。今日は貴重なお話をいただきまして、どうもありがとうございました。

今日はあとお一方、中田教授からのヒアリングも予定しているのですが、かなり長時間になりましたので、ここで約10分、4時まで休憩を取りまして、4時から中田教授へのヒアリングをさせていただきたいと思います。

(休憩)

○鹿野座長 それでは、時間が参りましたので、議事を再開させていただきたいと思います。

今日の3番目として、中田教授からのお話を伺いたいと思います。中田教授からは「行政規制と民事ルールの役割分担」の検討に関連して、「ドイツの消費者法における不正競争防止法と消費者団体」についてお話しいただきます。

中田教授の御専門分野は民法及び消費者法で、ヨーロッパにおける不正競争防止法や広告規制法などについても造詣が深く、それらについて比較法的な観点からも御研究をなさっているところです。本日は、ドイツの消費者法及び消費者団体の役割を中心にお話しいただけるものと伺っております。ドイツでは、不正競争防止法、UWGと言われる法律ですが、それが広告規制などにおいて中心的な機能を果たしているように認識しております。そうしたドイツ法の考え方や、ドイツにおける消費者団体や事業者団体の役割についてお伺いするということは、我が国の消費者法分野におけるルール形成を考える上で参考になるのではないかと期待しているところでございます。

それでは、まずは20分程度でお話しいただきますよう、よろしくお願いします。

○中田教授 御紹介ありがとうございました。龍谷大学の中田です。今日はお招きいただきまして、ありがとうございます。

レジュメに沿ってお話をさせていただきたいと思います。また、内容については、準備が十分間に合っていないところがあるかもしれませんが、調べた限りで御報告をさせていただきます。

まず、どのような形で民事的なエンフォースメントを実現していくのかを考えるきっかけとして、クロレラチラシ事件を取り上げたいと思います。クロレラチラシ事件というのは、健康食品の広告に関して、消費者契約法、景品表示法における適格消費者団体における差止請求の可否が問題となった事件です。これが注目されたのは、消費者団体が初めて景表法違反に基づく差止請求を行ったところにあります。最高裁では消費者契約法にとって重要となる要件、「勧誘」要件に関する初めての判断が示され、更に注目を浴びたわけです。何が問題になったのかにメンションして、現在の消費者団体による差止請求の意義と実務上の問題点を明らかにしておきたいと思います。ただ、皆さんにとって、このクロレラチラシ事件は周知のことかと存じますので、深くお話をすることは避けることにします。

この事件は、第一審では、まずは景表法で優良誤認であると認められて、さらにそこでの差止めの必要性も認められ、画期的であると評価されています。ただ、そのときには消費者契約法の適用は問題にならなかったわけです。控訴審で、景表法の優良誤認は認められたのですが、差止めの必要性がないと判示されたわけです。問題は、被告事業者がそういったチラシ等を配布しないことを口頭弁論のところで明らかにし、そのことによって、もはやそれは繰り返さないという判断をして、裁判所は差止めの必要性がないとしたわけです。つまり、違法行為があったにもかかわらず、差止請求としては根拠付けられないとされ、消費者団体が敗訴する、負けるというショッキングな、ショッキングというのは言い方として適切でないかもしれませんが、事業者の法違反行為があるのに消費者団体が負けるとはなぜなのかという疑問が直ちに出てきたわけです。そして、被告事業者が訴訟で争っているにもかかわらず、なぜそうなのかという疑問が湧き出るわけです。

さらに、控訴審では消契法の適用も認めなかった。そこでは、「勧誘」概念を狭く解していて、広告はそれに当たらないという解釈をしたので、その点について上告が受理され最高裁まで行ったわけです。最高裁は、合理的な判断をして、不特定多数に向けての広告であっても、個別の消費者の購入決定に影響を与えるような場合には、この場合の「勧誘」に当たるのだという解釈を示したのです。ただ、残念ながら、やはり差止めの必要性を認めずに、繰り返しの危険がないということで、消費者団体が敗訴する形となるわけです。

学説上は、この判決に関して、最高裁によって「勧誘」概念の解釈が広げられたところに非常に大きな意義を認めるという見解もあると思います。ただ、私からすると、敗訴でよいのか、相手が争っているにもかかわらず、消費者団体が負けるとはどういうことなのだという疑問を持ったわけです。

特にこれとの比較で、後で触れますが、ドイツでは消費者団体の警告手続というのがありまして、これも実際には相手方、被告事業者が明確な形で、違反行為を再度しないという約束ないし表示をするものです。そうした約束に違反した場合には違約罰が付いていることになり、それにより抑止効果が担保されることになります。あるいはそれと同等の真摯な態度によって繰り返さないということを明らかにすることが必要です。そこには、かなり厳しい要件がついているのです。そこでの前提は、こうです。事業者は1度やったことは繰り返す可能性があるという前提で、です。事業者は当該行為を営業行為としてやっているわけですから、それは営業行為としての何らかの合理性がある行為なわけです。それをしないというふうにするには、事業者が、かなり厳しい証拠を提示しなければいけないということで、それがなければ、裁判所で差止めの必要性が認められるという構造になっているわけです。

そういった手続の内容が形成されてきたのは、今から御紹介するドイツ不正競争防止法、UWGの適用の実務において、です。消費者の団体訴権というものがUWGに導入されて、差止請求が認められたことをきっかけにしているわけです。翻って、日本も消費者団体が事業者の不当な行為に対して差止請求権を行使するのは、2006年の消費者契約法の改正によって認められたものですが、これはそんなに昔の話ではないわけです。これに比べてドイツの消費者団体訴訟は50年を超える歴史を持っています。その歴史的な流れというのは私たちの法制度を見る上で参考になるのではないかと思います。さらに、消費者契約法で認められた差止請求権は、特定商取引法、景表法に導入され、2013年には食品表示法にまで拡張して導入されています。恐らくそこでは消費者法分野での法の実効性確保のために消費者団体の訴権が役に立つ、あるいはそれが必要だということで導入されてきたのだろうと思います。しかし、立法者が意図した権限、そして権限行使の目的が本当に達成されているのかどうかという点については疑義があるところです。

ドイツ法のところに入っていきたいと思います。時間が限られていますので、簡単にしか紹介できないのですが、ドイツ不正競争防止法は、競争事業者間の公正な競争の利益を守ることを目的とした法律です。つまり、不公正な取引をある事業者が行うことで、それをしない他の事業者は不利益を受けるので、それを阻止する権限を与えるという発想で運用されてきたものです。その後、消費者団体訴権が入ることによって、消費者の保護も不正競争防止法の主たる目的の一つとなりました。つまり、公正な取引を行わせることで、市場に参加しているプレーヤーたちの利益を保護していこうというのが基本的な発想です。

では、それをどのようにして実現するか。ルールを事業者に守らせていくために幾つかの手段を用意するわけです。1つは、競争事業者に与えられている権限です。競争事業者には、差止め、侵害除去、損害賠償請求、こういった権能が与えられています。

もう一つのパターンとしては団体です。営業上又は職業上の団体、適格消費者団体、商工会議所、手工業会議所は、差止め、侵害除去、利益剥奪請求が付与されています。日本でも金銭的な賠償が認められていますが、そのモデルになったような請求権、利益剥奪請求権もすでに与えられています。

もう一つ大きな転換は、2004年のEU不公正取引方法指令の国内法化です。その際、取引行為というのは競争目的を持っていることが必要だったのですが、それを要件から外して、概念が広げられたことをあげておきたいと思います。これは、自己又は他の事業者のために行う、商品もしくは役務の販売もしくは購入の促進又は商品もしくは役務に関する契約の締結もしくは履行と客観的に関連のある取引の締結前の、あるいは締結の際の、又は締結後のあらゆる行為を言うという形で、締結前の行為、いわゆる販売促進型の行為とかも含まれることになりました。さらに約款自体もこの対象として理解されることになりました。例えば、取引行為として、差止訴訟で無効となった約款条項をその後も利用することが不公正な取引に当たるということが言われています。

こういう形で、不公正な取引行為の概念が約款の効力にも関わり、さらに、例えば無効な約款によって支払われた余分な金銭を消費者に返還させることまでに及ぶわけです。それは、理論的には、除去請求、いわゆる妨害排除請求の内容として実現されるということになります。最近の判例の動向にはこうしたものがあります。

そういったことを可能にする実体法の内容はどういうものかということで、UWGの基本構造をお話しさせていただきます。

ざっとレジュメ2ページのところを見ていただければ、UWGがしっかりと体系化されて作られていることが分かります。特に興味深いのは、一般条項を3条に置いていることです。3条は、不正、ドイツ語で言うとということで、英語で言うとunfairと同義となりますが、この不正判断についての一般条項を置いた上で、その一般条項に違反する行為については、先ほど言った差止請求、侵害除去請求、損害賠償請求の規定が置かれています。この3条は後続の条文を受けた上で、請求権の基礎となるものとして置かれているわけです(8条参照)。

この規定は2つの関係を処理しています。それは事業者間の関係、それと事業者と消費者との関係です。これの2つの場面を統括する一般条項となるわけです。これはEU法の規定の明確化という要請の中で、消費者と事業者との関係を規律する規定を明確に法律に置くというEU法の国内法化の観点から要請されたものです。事業者と消費者の関係の規律については、ブラックリストが設けられていて、EU法の規定を転換する細かな規定が置かれていることが注目されます。

そして、3a条は法違反という形で、消費者法に関係するものです。これがここに規定されて、大きな意味を持っています。約款規制法もこの法規定の中に当然入ってくることになり、それが先ほど説明したような重要な意味を持つわけです。

UWGの攻撃的取引方法は、2年前に別の専門調査会で紹介したことがあり、省略いたします。5条及び5a条は、誤認惹起広告の規制に関係する一般規定です。

レジュメの9は「相手に受忍を期待できない迷惑行為」です。ここにも非常に細かく具体的な規定が置かれているところは差止めの対象行為として参考になるのではないかと思います。

次に、不正競争防止法の実効性確保がどのように行われているのかという点についてお話ししておきたいと思います。先ほども簡単に紹介しましたが、差止請求と除去請求があります。差止請求の中に妨害排除請求は当然に含まれているとの理解が一般的です。これはドイツの物権法の規定(1004条)の解釈からも導かれています。若干争いのあるところがありますが、それはここでは触れないことにします。

事業者には損害賠償も認められています。9条がこれを規定しています。ただ、ここでは消費者は損害賠償請求の主体にならないとされています。たしかに議論はあるのですが、消費者がわざわざ損害賠償請求することは余り考えられないということも、この規定を消費者に広げないで、そのままにしている理由となっています。

そして、10条1項が不法収益剥奪請求権、あるいは利益剥奪請求権と呼ばれているものであります。ただ、これは十分に利用されているかどうかという点には問題があることが指摘されています。1つの問題は、回収するというか、吐き出させた不法な収益、利益は、消費者団体ではなく、国庫に入ることになってしまって、消費者団体の訴訟追行へのインセンティブがほとんど与えられていない状況です。この利益剥奪請求権は、当初に期待されたほどの役割は果たしていないのではないかと言われています。

警告手続については、先ほども触れました。警告手続(Abmahnung)といいますが、こういうものが規定として、UWGには明文で用意されていることは重要です。日本法のところでも、消費者契約法の団体訴権のところを見ると、何となくこういうものを匂わせているような条文があるのですが、差止めの必要性を否定する要件として、明確な違約罰付きの不作為約束を要求するようなことはなされていませんので、こういった点を明確にするためは、消費者契約法でもこうした手続を明文化することが必要であると思います。特に重要な点として指摘しておきたいのは、ドイツでも、最初はそういった規定がなかったのですが、団体訴訟を展開する中で、裁判官の法創造という形で、警告手続の実務が発達して、明文化されたという歴史をしっかりと見ておくことが大事ではないかと思います。

刑事的な規制については、残念ながらということではないのですが、余り活用されていないようです。むしろ民事的なサンクションによって問題を解決していくという立場が取られています。刑事系の部局を新たに作るのは、更にまた費用がかかるという点からいっても、また市場を監視させるという点でも、余り効率的ではないという判断があったのだと思います。

行政規制については、例えば公衆衛生、健康、食品表示とか、そういったものについてはもちろんあると聞いております。ですが、基本的には不正競争防止法のような形での民事規制が重視されているわけです。そこで、その民事規制を支える主体について、つまりドイツの消費者団体についてお話しします。ドイツにおける消費者団体の役割ということで少しサンプルとして幾つかの団体の資料を調べました。一つは、これはよく知られていると思いますが、ドイツ消費者センター総連盟です。総同盟という訳もあるかもしれません。訳はいろいろあるかもしれませんが、意味は、全体の総括団体というか統轄団体です。まとめ役というか、上部組織です。50の消費者組織で16の各種の消費者センターがあって、他にも支える団体があるということで、予算規模を見ますと40億円ほどあります。そこで働いている従事者は180人ぐらいいて、訪問したときには、一つの立派な建物に入っていました。そこでは、役割が分担されており、それぞれのポジションが与えられています。私も、立法担当あるいは消費者の権利実現、法執行の部門の人たちと、彼らは10年以上担当をされていて、消費者保護の流れをつぶさに見ておられる方々とお会いしました。専門化した消費者保護政策についての継続性もこうした人的な組織によっても確保されているわけです。

予算規模を見ますと、やはり国家的な補助、資金がここで与えられています。34%もあります。このプロジェクトについての費用も、またいろいろな形での公的資金もこれだけあるわけです。いろいろなプロジェクトに資金が提供されています。消費者教育プロジェクトもあると思います。

州のレベルで、ドイツの中で一番大きな州のノルトライン・ヴェストファーレンを例として挙げています。ここも61億円ぐらいあり、内訳はレジュメのとおりです。

ハンブルクは独立の州で、180万人ぐらいの人口の都市ですが、ここでも5億6,000万円ぐらいの予算です。人口1人当たり35セントとされていて、日本円では、50円ぐらいですかね。そのような感じで財政的な問題もこういう形で処理されています。

この間、京都の消費者団体に関与している人とちょっとお話をしたのですが、これに比べると、もし消費者団体としてこれを捉えるのであれば、全く財政的な状況が違うと思われるところです。

ほかに、事業者団体も不正競争防止法の違反事例に対処しています。競争センターと呼ばれているものです。レジュメの8ページのところです。

最後に、簡単に、消費者団体訴訟の意義と問題点ということで整理します。歴史的には、消費者団体訴訟がドイツの消費者法の内容をしっかりと実現してきたという歴史を確認できるのではないかと思います。近時は、集合訴訟形態が問題となりました。個々の消費者の権利が侵害された場合、例えば、欠陥商品であった場合に、その損害を賠償してもらえるか、損害賠償として幾ら請求できるか、余分に払ったお金を返してもらえるかを問題とする形態です。被害が少額の場合は、消費者は恐らく合理的な無視をすることになります。権利放棄をするという形態が普通ではないかという状況があることです。こうなれば、つまり、絵に描いた餅です。権利実現には消費者は関わらないことになり、また関わろうとしない、権利のための闘争をしないわけです。消費者としては非常に合理的な行動であるだけに、やはりそこに問題があるのではないかという指摘がされています。

つまり、個人の権利保護のパラダイム、個人の権利実現は非常に大事な点でありますし、それは権利実現システムの根本になければいけないのですが、それによるだけだと限界がある。10人が訴えるだけで、他の3万人が泣き寝入りしている状況があるのであれば、法を実現したことになりません。それを放置していては、企業が適正な行動をする(違法な行為をやめる)ことにはならないということが指摘されています。

近時の展開を紹介します。フォルクスワーゲンのスキャンダルが例となりまして、ムスタ確認訴訟法の制定の必要性が議論されて、ごく最近、成立しました。この法律は、モデルケース訴訟法と説明した方が分かりやすいかもしれません。先ほどちょっとお話しした10人の原告が訴えるという場合を例にして説明します。原告は消費者団体が集めなければいけないのですが、消費者団体がイニシアチブをとって事業者をまず訴えることによって当該の事実関係を明らかにし、時効を停止するという効力を生じさせます。ドイツの時効は3年ですので、比較的短いので、それを停止し、その後、個々の消費者が訴訟に登録することによって訴訟に参加し、その後で、消費者個人に対して賠償金として得た金銭を分配していく形になっています。消費者団体のほうでは、この新たな訴訟形態が認められたことは大きな転換点になると言っていますが、今後どうなるかはまだ分かりません。この形はオプトイン型なので、それではまだ十分ではないという指摘もあります。

私から見ると、オプトイン型ではなくて、つまり登録という手続を入れるのではなくて、こうしたケースでは、オプトアウト型を有効に使うことが必要ではないかと思われます。そのことによって消費者団体による損害回復機能、また、事業者に対する法違反行為に対する抑止機能が強化されることになるのではないかと思います。

日本においてどのような形で集団的権利保護への道を開くかを問題としたいのですが、現状では、法律によってがんじがらめになっている消費者団体が、非常にぜい弱な財政的基盤しかないのに、リスクの高い訴訟をするのだろうと感心しているところです。私はドイツと比較しながらいつも見ているのですが、法律は、恐らく乱訴の危険の回避ということで消費者団体の手足を厳しく縛ってしまっているのではないかと感じます。法の具体的な執行という観点では、最も市民に近い、消費者に近い消費者団体がそういった法違反行為を発見し、それを是正していく役割を担うことが適切であろうと思います。日本は、せっかく消費者団体訴訟という制度を作ったわけですから、それをいかしていく、そういった方向での法の改正が必要とされているのではないかと思います。

ちょっと予定より長くなりました。申し訳ありません。以上です。

○鹿野座長 中田教授、ありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえて、御質問、御意見のある方はお願いします。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 御報告ありがとうございました。

最初のクロレラチラシ事件の判決のことについて、まず先に1つお伺いしたいと思います。もう既に御指摘がございましたが、違法行為、不当表示性を一方で争っていながら、とりあえず中止したことで請求が棄却されるという非常に不可解なところなのですが、違法行為を現に行い、又は行うおそれがあるという言葉の意味を解釈としてもう少し広げるという話なのか、あるいはそもそも差止請求の性質に関わる問題になるのか。

景品表示法の行政的な措置命令のところは、不当表示を中止しても措置命令が出せるという条文をわざわざ入れたのですが、これはどういうことで、特にその性質を全く違うものとして位置付けたということなのか、それとも市場における違法行為の防止という意味で言うと、こういうものが不当表示であるということを明確にする、それを排除することによって市場全体で防止するという意味もあるのかなと思ってみたり、これはどのレベルでの議論や法改正も含めて必要なのか、解釈論だけの問題なのかという辺りについて、お考えをお伺いできればと思います。

○中田教授 両者がきちんとリンクしているものとして説明できるかはよく分かりませんが、一つは、まず解釈論としても十分に考えることは可能です。事業者が訴訟で争っている以上、当該広告の差止請求をすることは当然ではないかと思います。ある一定の行為、不当表示をしているときに、その中止をさせることと、もう一つの可能性として、例えばチラシをまいた結果として、チラシが家庭で持っている人がいるわけです。そうしますと、そのチラシの内容は間違っていますよ、あるいは虚偽でしたから訂正しますという形で、きちんと該当する消費者に情報提供することが必要です。つまり、誤認状況が存在している場合、それを除去することまで、広義での差止めの範囲として考えるということです。そうすれば、非常に大きな意味があります。単にやめているだけではなくて、除去ができているかどうかという観点が加わり、差止請求の可能性が広がると思います。これが一つです。さらに、中止しているということの意味をきちんと確定しなければいけないと思います。つまり、私はやりません、配っていませんという事実だけでは、当該の事業者が二度とやらないということにはならないことを理解すべきです。しかも、それを訴訟で争っているとなると、事業者が次にやる可能性があると推定するのが当然ではないかと考えるべきでしょう。ドイツの実務は、実際に、そういう発想に立って差止めの制度を運用しています。

景品表示法だけが、他の競争法の解釈の場合と異なる解釈をなぜとるのかというのは非常に不可解です。私は、その点については、司法の在り方そのものが問題ではないかと思っています。司法は行政と違うのだという考え方があるのかもしれませんが、また司法の中立性という観点が重視されているのかどうか分からないですが、司法の在り方は、そうではなくて、法の目的を実現するために助力しなければいけないということに力点を置くべきです。裁判官は法の目的を実現するような解釈をきちんとやっていく必要があるのではないかと思います。そういう意味では私のような立場は、解釈論としても十分に成り立つと思います。

行政命令というのは、やはりその前提事実があったことを確定する意味もあるのではないでしょうか。時期が遅れたとしても、それはやってはいけないことだったと確定し、明示するという観点から、時期が遅れても、それは決定ですから、出すことの意味は失われないのではないかと思います。

○鹿野座長 よろしいでしょうか。

他にいかがでしょうか。

樋口委員、お願いします。

○樋口委員 少し違う観点の質問で恐縮なのですが、ドイツの消費者団体のことを資料の中で7ページ、8ページ辺りで御紹介いただいているのですけれども、財政基盤等々がかなりいろいろなパターンがあると思うのですが、日本との比較をしたときに消費者団体訴訟ということになったときに、例えば国公的な支援がかなり大きいような場合と、自己資金でやっておられたり、相談業務でお金を取っておられるところもあるようなので、そこの影響といいますか、そこについての考え方の整理は何かあるのでしょうか。

○中田教授 恐らく国も消費者団体に対して、市民が市民的な合意の中でこういった予算あるいは支援をするということが、州の予算の中で合意されているだろうと思われます。しかも、こうした法の執行を、行政に委ねるのではなくて、消費者団体に委ねることによって、どういう形でそれがきちんと成立したかというのはもうちょっと調べなければいけないのですが、正にそういう市民的な監視が国家的にも必要とされているという判断ではないかと思います。かつ、法執行という観点では、消費者団体という存在が最も法執行の実現に寄与するということではないでしょうか。真剣に市民の声を聞いて法を実現し、市場を守っていくという観点が尊重されているのではないかと思っています。消費者団体の組織を見ると、そういう形です。

ただ、それでも団体訴訟をする場合のリスクが大きいと、先ほど言った利益剥奪請求権の場合には、余り訴訟の制度が利用されないことになります。それは、消費者団体も私的な団体として存在していますので、財政的なことも考えなければいけないわけです。訴額が大きくなればなるほど訴訟費用がかかり、訴訟リスクが高くなるという場面が出てきます。そこに問題点があるのではないか。ドイツでも、例えば、国庫にお金を入れるという形ではなくて、訴訟をするための財源として特別財産を形成して、目的を縛った形で基金を形成し、財政基盤を強化するような提案もされているようです。

○樋口委員 ありがとうございます。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

それでは、山本委員、お願いします。

○山本委員 ありがとうございました。

今の利益剥奪についてですけれども、ドイツの場合、一般的に、過料の中で利益剥奪の分も取れるということになっていますよね。先ほどのお話ですと、刑事法規制の中に過料の話が入っていて、これも余り使われていないということなのでしょうか。もし、それが余り使われていないとすると、それはどういう理由によるのかということです。確かに民事のほうでいろいろな手段があるということはあるかと思いますけれども、ただ、違法収益の剥奪というところまでは完全にそれではカバーできないですね。それは余りそういうことで問題になる事例がないから少ないということなのか、あるいは他に何か構造的な理由があるのかという辺りをお伺いしたいと思います。

もう一つは消費者団体の話です。先ほどのお話ですと、1つ大きな上部団体があって、さらに各州の消費者センター等がメンバーになっているということなのですが、そうすると、ドイツの消費者団体は他にあるのでしょうか。つまり、日本の場合にはかなり各地にばらばらに団体が存在するのですけれども、ドイツの場合は基本的におおむね統一されていて上部団体があって、その支部といいますかメンバーの団体という形で統合されているのか、あるいは更に他の団体もあって、訴訟等の提起もしているのかという、その辺りの消費者団体の実態についてお伺いしたいと思います。

○中田教授 訴訟提起については一定の資格が要求されており、制限があります。日本の適格団体と同じような形になります。ここで挙げたのは大きな消費者センターという形で登録されているものです。特定消費者団体のような形のものと、あと助成団体という形です。実はまだしっかりとその組織については調べていないところがあります。ただ、事業者団体が存在しており、法執行の点で役割を果たしています。かなり商工会議所等が事業者を把握していて、割と横断的に組織されているところがありますので、その点はちょっと日本と違うところではないかと思います。

独禁法上の制裁で、課徴金とかもドイツではあるのですけれども、ちょっと私は十分そこの実効性については調べていないので、お答えは差し控えさせていただきますが、刑事罰でやっていくほどのことはないとされているようです。経済犯罪のところをどうするかというのがありますが、不正競争防止法では、聞いたところによると、ほとんど使われないようです。それだと検察を使っていかなければいけないというところもあって、そういった部局を作っていって、人員を投入していくというのは、避けられているようです。フォルクスワーゲンはちょっと別ですが、民事的な場面で処理することになっていると聞いています。

もう一つは、利益剥奪請求権自体も非常に産業界からの反対があったようです。これはやはり内国の産業に対する配慮があると言われています。ヨーロッパのところで考えられているクラスアクションは、懲罰的な賠償という形で額が上がっていくことは望ましくないという観点からの反論がみられます。ドイツでは、損害を転補するだけという損害賠償自体の考え方も根強く存在していますが、今回、ドイツで、新たな展開として出てきたモデルケース訴訟の場合にも、例えば、個人の損害額が基礎に置かれていることから、全体としての賠償額が大きくならないという形で説明がされています。つまり、個人が被った損害の総和の賠償なのだという限りで、限定が付されているのです。つまり、個人の権利を容易に実現するための集団訴訟という観点からまだ逃れられていないのです。こうしたパラダイムが転換されていないところに問題があるのではないかと思います。

そうしますと、拡散型の少額の損害が発生したときに、そういった収益が企業のところに残ってしまう構造はそのまま変わらないということになるので、そういう意味では余り意味がないことになってしまうのではないかと思います。十分なお答えになっていないかもしれませんが、以上のように考えています。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

それでは、私から1つ、極めて一般的な質問ですが、伺いたいと思います。ドイツでは、足りないところはあるとしても、公法的な規制というよりは民事的な手法によるところのエンフォースメントがかなり機能してきたものと伺いました。同じヨーロッパといっても、例えばイギリスなどは、刑事罰を初めとする公法的な規制によって消費者法分野を進めてきたところ、近年になって民事的な規定が拡充されてきたと伺っております。またフランスにおいては、公法と民事的な効果を持つ規定を言わばセットにした規律が、全てというわけではもちろんありませんけれども、かなり出てきているというお話をここでも伺ったところです

ドイツでそのように歴史的に民事的な手法が中心であったことの根拠というか、歴史的な背景は、どういうところにあるのでしょうか。今日の御報告を伺っている限りでいうと、やはり財政的な支援といいましょうか、資金面がかなりそれにも関わっているのではないかとも想像されます。ただ、この機能と資金とはどちらが先で、どちらが後なのかというのはよく存じませんし、あるいは財政支援ということだけではなくて、もしかしたら民事訴訟を提起するときの訴訟にかかる費用などにも関わるのかもしれません。今は想像の限りで挙げさせていただいたのですけれども、もし歴史的な背景なり根拠がお分かりであれば、教えてください。

○中田教授 UWGの規定違反についての法執行の在り方については当時も考えられていたと思うのです。行政的、または刑事的な規制を実効化するには、ある程度そういったことを行う部局を作らなければいけないので、それには財政的な支出が別途必要となるので、それを避けるという考慮もあったのだろうと思います。1つのエポックは、1965年、レジュメの8ページのUWGへの消費者団体訴権の導入です。これによって法執行の在り方がうまく変化し、機能するという確信が生まれたのではないかと推測しています。つまり、事業者間に委ねているだけでは仲間内ですから市場の秩序を守らないケースがあり、実効性に欠けることになる。そうではなくて、やはり消費者という観点からの規制を導入することで、別の観点からの法執行が入ったわけです。第三者が、ゲームのルールをちゃんと守りなさいという形で、消費者団体の利益を含めて市場を監視するということが公共の観点から始まったというわけです。

それの実績を見た上で、1977年に約款規制法のところにそれが導入された。この団体訴訟の在り方、差止請求が基本だったのですが、それはやはりヨーロッパの中でも成功した例だと見られています。そうした中、EU消費者法を通じて、ヨーロッパにもこうした約款規制の広がりが見られます。民事規制で広がりがみられるのは、恐らくドイツでの経験と成功を見た上でのことではないかと考えています。

御質問について、つまり具体的にそういった考慮がどの辺りにあったのかというのは、もう少し勉強してみないとはっきりしたことは言えないのですが、最近の特徴的なものとして、ヨーロッパの中でも、少しドイツの動きを乗り越えるような形で、いわゆる集合訴訟の動きがみられます。オプトイン型であれ、オプトアウト型であれ、EUが主導しながら、独禁法の改正もその中にあると思うのですが、金銭的な賠償をさせることによって事業者の行動を制御していくというパターンの訴訟が導入され、広がっているという傾向があります。さらにまた、今年になって、新たな実効化策を取るようにという指令提案も出ていますから、それを実現していくプロセスにおいて、より民事的なエンフォースメントが広がるのではないかと、今のところ見ているわけです。

こうしたエンフォースメントがどれだけ実効性があるか、という問題があります。違法行為を放置している状況が多く見られますが、これらが抑止されることによって市場がどう変わるのかというのはまだ分からないところがあります。刑事的な制裁というのは、誰かが刑事告発をしていかなければいけないし、それを執行していかなければいけないわけです。そういったときに市民との連携の中で、市民社会での秩序というものを市民が自らの手で、司法という場を使いながら形成していくことが必要とされているように思われます。そういった側面が、比較法的な観点で見ていると、ドイツではかなり進んでいるのではないかと見ています。それが民事的なエンフォースメントの意味ではないかと思います。ルールというものは当事者間で作るだけではなくて、やはり社会的な承認が必要であって、それを公の場で議論できるのは法廷であって、裁判官が法形成を促進していくという役割を果たすわけです。ドイツでは、そういった構造的な在り方が見られるのではないかと感じます。日本では、裁判官が消費者保護のためにやるべきことがもっとあるのではないかと感じています。それが民事的なエンフォースメントの意味ではないかと思います。私の説明では、鹿野座長の質問に直接的に答えているということにならないかもしれませんが、以上です

○鹿野座長 ありがとうございました。裁判所の役割についても少し違うところがあるということで理解しました。

他にいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、ほぼ時間も参りましたので、この辺りで本日のヒアリングを終了したいと思います。

中田教授におかれましては、お忙しい中、貴重なお話をいただきまして、どうもありがとうございました。

○中田教授 ありがとうございました。


≪3.閉会≫

○鹿野座長 本日の議事は以上です。

最後に、事務局から事務連絡をお願いします。

○丸山参事官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。

次回の日程につきましては、改めて御連絡をさせていただきます。

○鹿野座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところをお集まりいただきまして、どうもありがとうございました。

(以上)